鳳凰の復讐 の小説カバー

鳳凰の復讐

8.2 / 10.0
北海道から夢を抱いて上京した美大生の私は、東京の不動産王・一条蓮と出会い、激しい恋に落ちた。しかし、彼が囁いた愛の言葉も、私を慈しむような仕草も、すべては計算し尽くされた残酷な罠だった。蓮の真の目的は、私の義兄が築いたIT帝国を壊滅させること。彼は私との親密な写真を「ネタ」として利用するため、自作自演の強盗事件まで仕組んで私の信頼を勝ち取っていたのだ。金色のペントハウスという名の鳥籠に監禁され、支配を強める彼の暴走は止まらない。自分が復讐劇の駒に過ぎなかったと知った時、私の中の純真な愛は氷のような怒りへと変貌した。私は無力な被害者のふりをしながら、冷静に証拠を消し去り、完璧な逃亡へと動き出す。執着心に駆られ、慈悲を乞いながら追ってくる蓮。だが、彼が最後に目撃したのは、別の男性とバージンロードを歩む私の姿だった。愛を武器に家族を傷つけようとした男に、最大の屈辱と破滅を。これは、すべてを奪われた女が、自らの手で仕掛ける鮮やかな復讐の記録である。

鳳凰の復讐 第1章

北海道から上京してきた、世間知らずの美大生だった私。東京の不動産王、一条蓮に、身も心も奪われた。

秘密の関係は、火花が散るように激しかった。彼は私のすべてをカメラに収めながら、ささやいた。「俺たちだけのものだ」と。

でも、真実が私の世界を粉々に破壊した。

蓮が、私たちの関係すべてが計算ずくの嘘だったと告白するのを、聞いてしまったのだ。

私を、そしてあの写真を、義理の兄が立ち上げたIT帝国を潰すための「ネタ」として利用する計画だった。

私の信頼を勝ち取るために、自作自演の強盗事件まで仕組んでいたなんて。

優しい仕草も、守ってくれるような素振りも、すべてが残酷な芝居だった。

彼の金色のペントハウスは、いつしか金色の鳥籠に変わっていた。

私を支配するためなら、身体的な危害を加えることさえ厭わない。彼の策略はどんどんエスカレートしていった。

私は、自分が参加していることさえ知らなかったゲームの、ただの駒だった。

どうして、こんなにも盲目だったんだろう?

屈辱が燃え盛る。でも、その炎は氷のような怒りを呼び覚ました。

あのケダモノが私の信頼を食い物にし、私の愛を、たった一人の家族に向ける武器に変えたのだ。

でも、蓮は私を甘く見ていた。

私はもう、ただの被害者じゃない。私は烈火だ。

私は冷静に、全ての証拠を消去し、完璧な逃亡計画を立てた。

彼は日本中を追いかけてきた。壊れた男が、慈悲を乞いながら。

でも、彼が見つけたのは…私だった。

バージンロードを歩く、私。

本当に私を愛してくれる男性のもとへ向かう、私を。

彼の世界が崩れ落ちるのを見届けること。彼の破滅を仕組んだのが私だと知らしめること。

それが、最高の復讐だった。

第1章

小野美咲は、東京の豪華なマンションの天井を見つめていた。シルクのシーツが肌にひんやりと心地いい。

一条蓮。年上で、圧倒的な力を持つ、北海道での生い立ちが決して教えてくれなかったタイプの男。彼はスマホの角度を調整していた。

「もう一枚だけだ、烈火」

低いハミングのような彼の声は、いつもなら私をとろけさせる。

「俺たちのために」

彼の言う「俺たち」とは、秘密の世界のこと。もう1年半も続いている。

蓮が、私の兄である大和の、宿敵ともいえるビジネスライバルだから、この関係は隠さなければならなかった。

渋谷でIT企業を経営する大和。両親が養子として迎え、実の息子同然に愛した、いつも私を守ってくれた兄。

彼はこの関係を憎むだろう。蓮を憎むだろう。

美咲はそれを知っていた。蓮も知っていた。それが、私たちの関係にスリリングで危険なスパイスを加えていた。

スマホのカメラが立てるカシャッという小さな音が、贅沢な静寂の中に響き渡る。

美咲は身じろぎした。その瞳に、不安の影がよぎる。

「蓮さん、本当にこんなにたくさん必要なの?」

私は奨学金で東京藝術大学に通う美大生だ。蓮が言うところの、私の「特別な才能」は、世界を見るその視点。彼はそれを称賛し、私自身を称賛してくれている、はずだった。

でも、いつも二人きりの時に、いつも彼の強い希望で行われるこの撮影会は、アートというよりは…何か別のものに感じられた。はっきりとは言えないけれど、胃が締め付けられるような、何か。

蓮はスマホを下ろし、カリスマ的な笑顔を浮かべた。その笑顔は、いつも私を瞬時に武装解除させる。

「俺たちの愛の証だよ、美咲。フィルターなしの、情熱的な。俺の目だけが楽しむためのものだ」

彼は身を乗り出し、私の額にキスをした。

「俺の美しくて、純粋なミューズ」

熟成されたウイスキーのように滑らかな彼の言葉は、いつもなら効果てきめんだった。彼を信じたかった。信じる必要があった。この愛、この秘密は、私が今まで経験した中で最も強烈なものだったから。

彼はよく私を「俺の烈火」と呼んだ。そのニックネームは、私を大切にされていると感じさせると同時に、少しだけ無謀な気分にさせた。

彼は高価な腕時計に目をやった。

「行かなくちゃ。あの退屈な慈善パーティーだ」

彼は素早く服を着て、恋人から不動産王、一条蓮へと姿を変えた。

「30分後に下に車を回しておくから」

彼は私の唇に軽くキスをした。

「後で電話する。週末の予定を立てよう」

彼はもうドアに半分足をかけていた。その心は明らかにビジネスに、ニューヨーク…いや、東京という街に見せる表の顔に向いていた。

美咲はしばらく、彼のコロンの香りが残る部屋で横になっていた。

ぼんやりとした頭で、体を起こす。

ナイトスタンドに置かれた、プラチナ製のカフスが目に入った。小さく、ほとんど見えない「R」のイニシャルが入っている。彼はこれを探すだろう。

衝動的に、それを届けてあげようと決めた。ささやかなジェスチャー。そうすれば、秘密の存在である自分が、ほんの一瞬でも、彼の本当の人生の一部になったように感じられるかもしれない。

彼がパーティーの前に、時々非公式なミーティングに使う、都心の会員制クラブにいることは知っていた。

「ジ・インペリアル・クラブ」は、ダークウッドと静寂に包まれた空間だった。

美大生らしい服装の美咲は場違いに感じながらも、なんとかメインラウンジをすり抜け、蓮が時々使うプライベートルームへと向かった。

少しだけ開いたドアから、声が聞こえてきた。蓮の特徴的な笑い声。

そして、蓮の側近の一人、マコトの声が聞こえた。楽しげで、ねっとりとした声。

「マジで、蓮さん。あの小野の妹、完全に手玉に取ってますね。傑作ですよ」

もう一人の取り巻き、ダイキが口を挟む。

「あの『美大生ちゃん』は金のなる木ですよ。あのネタがあれば?大和のIPOなんて目じゃない。あいつは後始末に追われて、それどころじゃなくなりますから」

美咲は凍りついた。ネタ?大和のIPO?

蓮の声が聞こえた。今度は冷たく、私が向けられたことのない、ぞっとするような満足感がにじんでいた。

「あいつは目的のための手段だ。小野大和を叩き潰すのは、極上の気分だろうな。写真、動画…見事な絵を描いてくれるさ。完璧なタイミングで公開すれば、あいつの会社は始まる前に終わる。何が起きたかも分からないだろう」

彼はクスクスと笑った。

「それに、数ヶ月前に仕組んだあの『救出劇』。あの強盗事件で、決まりだ。あいつは今や俺を完全に信頼している。俺を自分の救世主だと思ってるからな」

「救世主」。その言葉が、ナイフのように美咲の腹をえぐった。

美咲は息を呑んだ。思わず口に手を当て、悲鳴を押し殺す。

後ずさりした拍子に、床板がわずかにきしんだ。

「なんだ?」マコトの鋭い声がした。

蓮の足音がドアに近づいてくる。

「スタッフだろう」

美咲はよろめきながら後ずさりし、心臓が肋骨を激しく打ち付けた。振り返って逃げ出した。涙で視界がぼやける。豪華な廊下が、果てしなく続くように見えた。

耳鳴りがする。体が震える。冷たい夜の空気に飛び出し、息を呑んだ。街の光が、めまいがするほど嘲笑うように渦巻いていた。

パニック状態で乗ったタクシーで、学生寮の狭い自分の部屋に戻る途中、パズルのピースが残酷なほどはっきりと組み合わさっていった。

蓮がヒーローのように現れ、今思えば笑えるほど偽物くさい襲撃者たちを追い払った「自作自演の強盗事件」。

彼が鮮やかに解決してくれ、私に恩義を感じさせた「公募展でのトラブル」。

優しい言葉も、情熱的な夜も、彼が私に懇願して撮らせた写真も、すべてが嘘。計算され尽くした、残酷な芝居。

私は駒だった。大和に向けられた、武器だった。

夢を抱いて東京に来た日のことを思い出す。自分の足跡を残そうと決意していた。私はアーティストで、自立していて、情熱的だった。

そんな私の人生に、一条蓮はギャラリーのオープニングで突然現れた。魅力的で、洗練されていて、私と私の作品に心酔しているように見えた。圧倒的なこの街で、彼は命綱のように、守護者のように思えた。

彼は私のスケッチを、私のビジョンを褒め称えた。私を認めてくれているように感じさせてくれた。

なんて馬鹿だったんだろう。北海道から来た世間知らずの娘。簡単に目をくらまされ、簡単に騙された。

彼は執拗に私を追いかけ、愛情を注ぎ、未来の約束をささやいた。

「美咲は違う」彼は言った。その目は真剣だった。「君は本物だ。俺たちのこの関係も、本物だ」

私は彼を信じた。兄を破滅させるために巧妙に作られた幻影に、恋をしていたのだ。

街が私に迫ってくるように感じた。きらびやかなスカイラインは今や、私自身の愚かさの記念碑だ。東京の灰。私の烈火は消え去り、冷たく苦い塵だけが残った。

震えながら自分の小さな部屋に戻り、スマホを手探りした。真っ先に思い浮かんだのは大和だった。いつも大和だった。

まるで私の苦悩を、国の反対側から感じ取ったかのように、スマホがすぐに震えた。彼からだった。

「美咲?声が…変だぞ。どうしたんだ?」いつもは穏やかで落ち着いている大和の声が、心配で張り詰めていた。

涙が頬を伝う。

「大和兄ちゃん」私は声を詰まらせた。「私…大変なことになっちゃった。東京から出なきゃ。私、ひどい間違いをしちゃった」

まだ、すべての真実を話す気にはなれなかった。恥ずかしさがあまりにも生々しかった。

「もう何も言うな」大和の声は、厳しくも優しかった。「軽井沢行きのチケットを取る。明日の始発だ。俺が資金提供してる新しい美術財団があるんだ。信頼できる人間に運営を任せたい。君が望むなら、その仕事は君のものだ。新しいスタートだ、美咲」

新しいスタート。それは救いのように聞こえた。

「うん」私はささやいた。「うん、お願い」

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