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俺の妻はそっけない女 の小説カバー

俺の妻はそっけない女

「お前は名義上の妻に過ぎず、俺が愛することなど一生ない」――。政略結婚を強いられたエドアードは、デイジーに対して非情な言葉を突きつけた。互いの家族の強欲な思惑に翻弄され、犠牲となった二人。愛のない冷え切った関係のまま、彼女は彼の前から姿を消した。それから六年の月日が流れ、デイジーは軍隊で「鉄の意志を持つ大佐」としてその名を轟かせるほどの強靭な女性へと成長を遂げていた。再びエドアードの前に現れた彼女は、かつての面影を覆すほど凛々しく、彼の心を激しく揺さぶる。一変した彼女の姿に、エドアードはこれまでにないほどの恋心を抱き、惹かれていく。しかし、過去に深く刻まれた心の亀裂は、そう簡単に埋まるものなのだろうか。冷遇されていた過去を持つデイジーは、果たして彼の愛を受け入れるのか。そして、二人の間に生まれた息子の存在は、離れ離れになっていた夫婦の絆を再び繋ぎ止める鍵となるのか。すれ違う二人の運命と、再生へと向かう愛の行方を描いた物語。
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「社長、 お出かけになるんですか?」 アーロン・チャオは山積みの資料を持ちながらせかせかとやって来て、エドワードとジャスティンにぶつかるところだった。

「歩く時はちゃんと前を見たまえ」 エドワードはよく手入れされた眉をしかめた。 もし彼が機転を利かせてすぐにかわしていなかったら、腕の中の小さな男の子は怪我をしていたかもしれない。

「申し訳ありません。 たくさんの書類があったもので、気が回りませんでした。 それにしても、この少年は誰ですか?」 アーロンは話を逸らすように、何げなく尋ねた。

「私の息子さ」エドワードは、まるで今日の天気について話しているかのように軽く答えた。 その言葉を聞いて、周りの人がどれほど仰天するか全く気付いていなかったようだ。 おまけにその傲慢な態度は誰が見ても苛立つだろう。

「えっ? ご子息?」 驚いたアーロンはのけ反って、床に倒れそうになった。 先ほどの女性将校の大事件からすると、 こちらの一件もあり得ないようなおかしな話ではないのかもしれない。 だが、彼が離れたほんの少しの間に、 何で急に息子さんができた? 世界は本当に刻々と変化しているんだよな。 この真理は社長からぴったり表現されているんじゃないか。

「どうした? 息子がいるのは変なのか?」 エドワードはむかっとして、少し声を荒げた。 どうやら普段からアーロンのやつにあまりにも優しすぎるから、俺にはこんな話し方だと、と考えた。

「うーん…少し変ですね」 そりゃ、完全に変だろ。 社長に息子がいるなんて誰も知らなかったんだからとアーロンは心の中でつぶやいた。

「なんだと?」とエドワードが言って、 そのそっけない態度が どんな濃い好奇心でも挫ける 。

「いやいや! 変じゃないですよ。 全然変じゃないです」 まさか。 彼はそれほど馬鹿ではない。 エドワードを怒らせるようなことをあえて言う必要は無い。 社長が冷たい悪魔であることは周知の事実なのだ。 頭の中で疑問符が溢れかえっていたが、これ以上尋ねると危ない。 まだ定時で帰りたいので、さもなければガールフレンドとデートする時間も無くなっちゃう。

「なら良い。 これからお昼を食べに出るから、よほどの重要案件が出ない限り邪魔しないでくれ。 あと、午後の予定もキャンセルしておけ」 そう言って彼は秘書室にくるりと背を向けてしなやかに去って行った。 残されたのは、ただ心が砕けた美人の秘書たちだけだった。

まさか彼女たちの社長には愛息がいるなんて。 母親は誰? さっきの素敵な女性軍人なの?それとも社長と謎めいた関係を持っているジェシカ・リン?

「冗談を言ってるんじゃないかしら、それとも本当だと思う?」 秘書の一人が思案に暮れていて、周りの人と話し合った。 どうやら彼女たちは社長の恋愛対象になるチャンスを失った。 何しろ、すでに子持ちなのだから。

「ただの養子かも、 まだ分からないわよ」 そう言って自分を慰める者もいた。 本当に想定外の事だったので、 彼女たちがそう反応するのも無理はない。

「でも、あの子供、社長にそっくりじゃない?」 秘書室の一人が嘆いた。 現実とはいつも残酷なものだ。

「いつまで怠けるつもりだい? 早く自分の仕事に戻れ」とアーロンが言った。実は彼も興味津々なのだ。 しかし今、彼がすべきことは、皆の好奇心を抑えて、職場の秩序が乱れないようにするのだ。

そもそも、社長は一言で簡単に予定をキャンセルすることはできるが、 尻ぬぐいをするのはいつもこっちだぞ、とアーロンは心の中で文句を言った。 本当に泣きたいのは補佐官の彼だよ! 以前社長に言われたことがある、「君の価値は使用人として俺のすべての命令に従うことにある。 君の見かけが好みで雇ったわけじゃない。 まあ、このイケメンの社長の俺の前に、君くらいのレベルは到底日の目を見ることは無いけどな」

何という上から目線だ。 アーロンの見かけはそんなにひどかったか?

いいえ! 彼の外見に問題があるわけではない! ひとえに社長がハンサム過ぎて、太刀打ちできる男性はおらず、いくら外見自慢の男でもひとたび彼の横に並べばたちまち見劣りしてしまうのだ。

エドワードはジャスティンを腕に抱きながら会社から出た。 またゴシップのネタにされると分かっていたけれど、 気にも留めなかった。 何と言っても、彼自身もまだ完全に納得していない。まさか自分にはこんなに大きな息子がいたとは。 まるで夢を見ているような感覚だった。

ジャスティンは彼の父親であるこの男を観察するような調子で眺めた。 確かにとてもハンサムで、 ママのような素敵な女性がこの人を好いているというのも無理のない話だ。 ジャスティンはずっと、父親に抱かれるとはいったいどんな感じなのか想像していた。 今、やっとその待ち望んでいた感覚を味わうことが出来た。 ママに抱かれる感じとは少し違って、パパの身体は少しごつごつとしているけれど、それもまた快適だった。

「伯父さん、ケンタッキーに行こうか?」 男の子はあどけない顔でエドワードを見た。 この「伯父さん」という呼び方がパパを驚かせることになるとは思わなかった。 エドワードは「伯父さん」と呼ばれて、驚きのあまり地面に倒れそうになった。

「ジャスティン、俺は伯父さんじゃなくて、君のパパでしょ」 エドワードはモヤモヤした気分になった。 なぜジャスティンは彼をパパと呼ばなかったのだろう? 俺は彼の父親であることを知ったのに、あえて伯父さんと呼んだとエドワードが考えた。

「だって伯父さんじゃない? みんなのパパはママと一緒に暮らしてるけど、うちは違うでしょ。だから、パパじゃないよ。 伯父さんって呼ばなくっちゃ」

「ふん」ジャスティンはひそかに考えた。「簡単にパパなんて呼んであげないよ。 ここからが本番なんだから。 これからもっと面白くなるからね、 オ・ジ・サ・ン」

なるほど。 確かに俺のせいかもしれないな。 しかし、たった一度の関係で息子を授かっていたなんて到底想像にも及ばなかったのだ。 だから、全部が俺のせいでも無いらしい。 今日の今日までジャスティンの存在すら知らなかったんだから、とエドワードは考えた。

「あのね、君がそこに居るってことは知らなかったので、一緒に居られなかったんだよ」とエドワードは弱弱しく説明した。

クソー、面倒くさいとエドワードは心の中で叫んだ。 今までの人生、自分の行動を人にとやかく言われる事なんて一度も無かったのだから。

「もし知ってたら一緒に居たの?」 ジャスティンは首を傾げて尋ねた。 父親が一体どんな言い逃れをするのか見たかったのだ。 ママにパパを探すように頼んだことは一度も無かった。なぜなら、ママが新聞に載ったパパの写真を1、2時間も眺めながら途方に暮れているのをよく見ていたから。 そんな時ママの目は真っ赤だった。 彼には大人の世界はまだよく分からなかったが、ママは彼の父親が好きなことを感じていた。 そうでなければ、新聞や雑誌によく登場するスキャンダラスな男がパパだと彼に言わなかっただろう。 パパを憎まないようにとも言った。そして彼らが一緒に住んでいない理由は結婚式のすぐ後に行き違いが生じてしまったからということも。

そうは言っても、母親のことを心から愛し、また心に寂しさを抱えているジャスティンがこの件に関し憤ったり心配したりしないことは到底無理だろう。 また、他の子供たちが父親と一緒に遊んだり、走ったり、泳いだりするのを見る度にとても羨ましく思った。 彼にはママしか居ない。

学校ではクラスメイトにパパ無しっ子と笑われたこともある。 怒りを堪え切れずに喧嘩をしてしまうことも珍しくはない。そんな時決まって彼は言った、ちゃんとパパは居るけれど、忙しすぎて一緒に暮らせないだけなんだ、と。 喧嘩の事がママにバレたら、罰として腕立て伏せをするように命じられるので、学校で起こったことをママに話さなかった。

「うーん…」参ったな。 残念ながら、エドワードは唐突な質問に答えることが出来なかった。 彼にとって演説などお手の物だったが、 なぜ息子の質問には答えられなかったのだろう。

「ジャスティン、ケンタッキーがいいんでしょ? パパが連れて行ってあげる、何でも好きなだけ食べなさい」 羽目になったエドワードは ケンタッキーを餌に話をはぐらかした。

「うん! フライドチキンの脚のところのやつと、ポテトとコーラがいい」 そう言って、ジャスティンはパパへの拷問を止めた。 どうやらこの少年にとって妥協するのは簡単なことだ。 うっかり毅然とした態度を取ることも忘れてしまった。

「そうか、ちゃんと全部食べられるなら、パパが頼んであげる」 エドワードはジャスティンの髪を愛しそうに撫でた。 そして思いがけない満足感が彼の心を満たした。 この小さな男の子は彼の息子で、見た目だけでなくその立ち居振る舞いもまさに彼に生き写しだった。

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