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凍える山に消えた私の愛 の小説カバー

凍える山に消えた私の愛

極寒の冬山で、私は婚約者の真弘と彼の愛人である綾に裏切られ、崖から突き落とされた。頼みの綱である最新鋭の防寒具やGPSは細工されたかのように故障し、私はお腹に宿した新しい命と共に、冷たい雪の中で息絶えた。しかし、肉体が滅んでも私の魂はその場に留まり、二人の醜悪な本性を目撃することになる。救助を待つふりをしながら、私の死を「迷惑だ」と吐き捨てる真弘。悲劇のヒロインを演じつつ、裏でほくそ笑む綾。かつて私が絶望から救い、心から愛した男にとって、私と我が子の命はその程度の価値しかなかったのか。怒りと悲しみに震える幽霊の私が見守る中、事態は思わぬ方向へ動き出す。私が死の間際に必死で掴み取った決定的な「証拠」の存在。そして、異変に気づいた私の母と真弘の姉が、この偽装工作の裏に隠された真実を暴くために動き始めたのだ。愛する者に殺された女の執念が、逃げ場のない地獄へと二人を追い詰めていく。これは、雪山に消えた命が巻き起こす、凄惨な復讐劇の幕開けである。
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私は, この冬山で死ぬ. 婚約者に見捨てられ, お腹の赤ちゃんも一緒に.

私は, この冬山で死ぬ. 婚約者に見捨てられ, お腹の赤ちゃんも一緒に.

最新鋭のはずの防寒具はGPSごと故障し, 私は猛吹雪の崖から突き落とされた. 婚約者の真弘と, 彼の愛人である綾の手によって.

私とお腹の子は, 一瞬で命を奪われた. だが, 私の魂はすべてを見ていた.

幽霊となった私が見たのは, 信じがたい光景だった.

「恵美はいつもそうだ, 俺を困らせる」

救助を待っていたはずの真弘は私の死を迷惑そうに扱い, 綾は心配するふりでほくそ笑む.

なぜ? 私が命がけで愛し, 絶望から救ったはずの彼は, 私と我が子の死を何とも思わないの?

だが, 二人は知らない. 私が死の間際に握りしめた「証拠」と, 私の母と彼の姉が, この偽りの悲劇の真相を暴き始めることを. 私の死は, 彼らにとっての地獄の始まりに過ぎなかった.

第1章

倉田恵美 POV:

目の前に広がるのは, 白く濁った無限の虚空だった. 猛吹雪がゴーゴーと唸り, まるで生きた怪物の咆哮のように私の全身を震わせる. 凍てつく風が容赦なく吹き付け, 皮膚の奥まで冷え切っていくのが分かる. 頼みの綱だったはずの最新式防寒具は, なぜかまるで機能していなかった. 指先はとうに感覚を失い, かろうじて動く唇からは白い息が吐き出される. 私は今, 断崖絶壁の淵に立たされていた.

この状況で, 私は自分の体よりも, お腹の中の小さな命を心配した. 数ヶ月前に知ったばかりの, 私の赤ちゃん. 真弘に伝えようと, どれほど楽しみにしていたか. その喜びは, この世界に生まれることのない命の悲劇へと変わってしまった. この絶望的な寒さの中, 小さな心臓がまだ脈打っているのか, それとももう止まってしまったのか, 私にはもう分からなかった. ただ, 冷たい感覚だけが全身を支配し, 意識が遠のき始めていた.

足元には, 真っ白な雪に覆われた深い谷が口を開けていた. その深さは, 底が見えないほどだ. もしこのまま落ちたら, 無数の岩に激しく叩きつけられ, 私たちの体は原型を留めないだろう. そんな考えが頭をよぎるたび, 吐き気がこみ上げてきた.

それでも, 私は何かに縋ろうともがいた. 僅かに残された理性で, 唯一の希望だったGPS付き最新防寒具のデバイスを確認しようと, 凍え震える手をポケットに差し込んだ. だが, 私の指が触れたのは, 冷たい金属の感触だけだった. 何の反応もない. ディスプレイは真っ暗なままだ. 私は必死にボタンを押したが, 何も起こらなかった. どうして?  これは真弘が「最新鋭だから絶対に大丈夫」だと言っていたものなのに.

突然, デバイスの小さな画面が, 一瞬だけ光を放った. そこに表示されたのは, たった一言のメッセージだった.

「邪魔. 」

その文字は, まるで私の心を直接抉り取るかのように, 冷たく, そして残酷だった. それは, 私がこの遭難の前に, 綾から送られたものだ. そのメッセージは, GPSの故障を告げるものではなく, 私の存在そのものを否定するものだった. 彼女は, 私が真弘にとって邪魔な存在だと言いたかったのだ.

全身を震わせる吹雪の中で, 私は, もう一度デバイスの画面に目を凝らした. やはり, そこには「邪魔」という文字が, 私の意識を嘲笑うかのように, はっきりと映し出されていた. 背後から聞こえる吹雪の音は, まるで彼女の嘲笑のようにも聞こえた.

「恵美さん, まだ生きてるの? 」

その声は, 風に乗って, 私の耳元に届いた. 綾の声だ. 弱々しく, 心配しているような声色なのに, 私の心には鉛のように重く響いた. 彼女は, 私がまだこの世に存在していることに, 心底驚いているようだった.

絶望の淵で, 私は深呼吸をしようとしたが, 冷たい空気が肺を焼き, 咳き込むことしかできなかった. 心臓の鼓動が, 自分の意思とは関係なく, 速く, そして激しく打ち鳴らされる. その音は, まるで死神が私を呼び寄せているかのようだった.

私は, 崖の縁に立つ自分の足を見下ろした. まるで他人の足のような感覚だった. もう, 何も感じない. ただ, 冷たさだけが, 私の存在を主張していた. このままでは, 凍え死ぬだけだ. それも, ゆっくりと, 確実に.

私は, お腹に手を当てた. 小さな命が, まだかすかに脈打っているような気がした. この子だけは, 私と同じ運命を辿らせたくない. でも, もうどうすることもできない. 私の手には, 何の力も残されていなかった.

突如, 強い突風が私の身体を押しやった. まるで, 誰かに背中を押されたかのように, 私はバランスを崩し, 虚空へと吸い込まれていった. 身体がフワリと浮き上がり, 次の瞬間, 重力が私と赤ちゃんを容赦なく引きずり下ろした.

落下する感覚.

それは, まるで夢の中を漂っているかのような, 奇妙な浮遊感だった. 同時に, 私の魂が身体から引き剥がされるような, 激しい痛みが全身を貫いた. 私は, 自分の身体が, まるで紙切れのように軽くなったのを感じた.

落下していく私の身体は, 小さな点となり, あっという間に雪の中に消えていく. 私は, まるで第三者であるかのように, その光景をただ眺めていた. この視界は, 一体何なのだろう. 私は, もうこの世にいないのだろうか.

身体は, 無数の岩に叩きつけられ, 砕け散っていった. それでも, 私には何の痛みも感じなかった. ただ, 虚しく, 冷たい感覚だけが残された.

私の意識は, まるで古びた映画のリールが巻き戻されるように, 過去へと遡っていった. 最初に脳裏に浮かんだのは, 真弘と出会った頃の自分だ. あの頃の私は, 希望に満ち溢れ, 未来に何の不安も抱いていなかった.

「真弘, 聞いてほしいことがあるの」

雪山に向かう前日, 私は真弘にそう告げた. その夜, 私は真弘に, お腹に新しい命が宿っていることを伝えようと思っていた. サプライズで, 可愛い赤ちゃんの靴をプレゼントするつもりだった. 彼がどんな顔をするだろう, どんな風に喜んでくれるだろうと, 私は胸を躍らせていた.

だが, あの時の真弘は, いつものように私の話をろくに聞こうともしなかった. 私の目を見ることなく, ただ携帯電話の画面に目を落としたままだ. 彼は, 私といるときよりも, 携帯電話の向こう側にいる誰かに夢中だった. 彼の態度から, 私の期待は少しずつ削り取られていった.

「恵美, また何か面倒な話? 」

真弘は, 冷たい声で私を遮った. うんざりしたような顔で, 彼は携帯電話を置いた. その表情は, 私の心を深く傷つけた. 私は, 彼にとって, ただの面倒な存在だったのだろうか.

「あのね, 私, 妊娠してるの」

私は, 震える声でそう告げた. 真弘の表情は, 一瞬にして凍りついた. 彼は, 私を信じられないといった目で見た. その目には, 喜びの色は微塵もなかった.

「恵美, 冗談だろ?  今, こんな時に? 」

真弘は, 不快そうに顔を歪めた. 彼は, 私を信じていないようだった. どころか, まるで私が彼を困らせようとしているとでも言いたげな態度だった. 私の心は, 冷たい水をかけられたように, 一瞬にして冷え切った.

「私が嘘をつくと思うの? 」

私は声を震わせた. 必死に真実を伝えようとしたが, 真弘はさらに苛立ちを募らせた.

「綾が今, 体調を崩してるんだ. 知ってるだろう?  お前はいつもそうだ, 肝心な時に俺を困らせる」

真弘は, 私の言葉を遮るように言った. 彼の目は, 私ではなく, まるで遠い場所にいる綾を見ているようだった. 私の言葉は, 彼には届いていなかった.

「でも, これは... 」

私の言葉は, 真弘の怒鳴り声にかき消された.

「もういい!  俺は綾のところに行く. お前はここで大人しくしてろ」

真弘は, そう言い放つと, 私のことなど見向きもせずに, 綾の元へと駆け寄っていった. 彼は, まるで綾を守る騎士のように, 私の目の前から消えていった.

真弘と綾は, 私が凍え死ぬかもしれないという状況だというのに, 当たり前のように話し, まるで何も起こっていないかのように振る舞っていた. その光景は, 私にとって, あまりにも残酷だった.

私は, 自分の死を受け入れようと努めた. だが, お腹の中の赤ちゃんだけは, 私と同じ運命を辿らせたくなかった. この子だけは, 生まれてくるべきだった. 私に, その力があれば... .

私は, ポケットから, かろうじて動く指で衛星電話を取り出した.

「もしもし!  助けてください!  遭難しました! 」

私は, 震える声で叫んだ.

「落ち着いてください. 現在地を教えていただけますか? 」

電話の向こうから聞こえてきたのは, 冷静な男性の声だった.

「私のGPSは壊れていて... . でも, 真弘が持っていた最新式の防寒具にはGPSが付いています!  それを頼りに探してください! 」

「分かりました. まずは, 身につけている重いものを全て捨ててください. 少しでも身軽になれば, 状況は好転します」

男性は, 冷静に指示を続けた.

私は, 言われるがままに, 持っていた食料や飲料水を全て捨てた. 少しでも生存の可能性を高めるために, 必死で指示に従った.

「状況は分かりました. すぐに救助ヘリを向かわせます. パイロットと連絡を取り, できるだけ早くそこへ向かわせます. それまで, 電話は切らないでください」

男性は, 私に希望を与えてくれた. だが, その希望は, 長くは続かなかった.

私の周りの状況は, 急速に悪化していった. 吹雪はさらに激しさを増し, 視界はほとんどゼロになった. 体温はどんどん奪われ, 指先は氷のように冷たくなった.

「お願いです!  早く来てください!  もう, 限界なんです! 」

私は, 涙ながらに叫んだ. だが, 私の声は, 吹雪にかき消されていく.

突然, 別の電話がかかってきた. 画面には, 「国立公園管理事務所」と表示されている.

「もしもし, 倉田恵美さんですか?  中島真弘さんは今, どちらにいらっしゃいますか? 」

電話の向こうから聞こえてきたのは, 意外な質問だった.

「真弘は, もうここにはいません. 彼は綾と一緒に下山してしまいました. 私の持っていた防寒具は故障してしまって, 今は身一つです」

私は, 必死で状況を説明した.

「それはおかしいですね... . 中島様は, まだ山頂にいらっしゃるはずでは? 」

管理事務所の職員は, 困惑した様子だった. 彼らは, 真弘が私を置いて下山したことなど, 知る由もないのだ.

「落ち着いてください, 倉田さん. 私たちも最善を尽くします. 他にできることはありませんか? 」

職員は, 私を励まそうとしてくれた.

「この熱気球, ガスを放出して高度を下げれば, 少しは安定するかもしれません. ですが, 山頂付近は風が強く, 危険です」

職員は, 新たな提案をしてきた. だが, それはあまりにも危険な提案だった.

「そんなこと, できません!  ガスを放出したら, 一気に地面に叩きつけられてしまいます!  真弘もそう言っていました! 」

私は, 必死で拒否した. 真弘は, 私にそう教えてくれたはずだ. まさか, 彼が私を危険な目に遭わせようとしているとでも?

「それでは, 私たちにはもう, できることがありません」

職員の声は, 絶望に満ちていた. 彼らは, 私を見捨てるしかないのだ.

「中島様が下山されているのであれば, 彼が助けに来てくれるはずです. 彼なら, この山のことをよく知っていますから」

職員は, そう言って電話を切った. 彼らは, 真弘が私を見捨てたことなど, 知らないのだ.

私は, 真弘が本当に下山したのか, 不安になった. 彼が下山したということは, 私を見捨てたということではないのか?  いや, そんなはずはない. 彼は, 私を愛しているはずだ.

私は, 真弘だけが, この状況で私を救うことができると信じていた. 彼なら, きっと私を助けに来てくれる. そう信じて, 私は何度も真弘の携帯電話に電話をかけた.

何度も, 何度も. コール音だけが虚しく響く.

諦めかけたその時, ようやく真弘が出た.

「真弘!  お願い, 助けて!  私, もうダメなの! 」

私は, 涙声で必死に訴えた.

「恵美, また騒いでるのか?  もういい加減にしてくれ」

真弘は, 私の言葉を遮るように言った. 彼の声は, 苛立ちに満ちていた.

「どういうこと?  私, 妊娠してるのよ?  それに, 今, 死にそうなんだから! 」

私は, 叫んだ. だが, 真弘は私の言葉を信じようとしなかった.

「お前はいつもそうだ. 妊娠してるだの, 高所恐怖症だの, 俺を困らせるだけだ. 昔のお前は, もっと強かったじゃないか」

真弘は, 私の過去の勇敢な行動を例に出し, 今の私を否定した.

「恵美, お前は本当にわがままだな. 綾を巻き込むなよ」

真弘は, 私のことをわがままだと罵り, 綾を擁護した.

「いいから, 自分で降りてこい. 俺はもう, お前の相手をする暇はないんだ」

真弘は, そう言い放った. 彼の声は, 冷たく, そして感情がこもっていなかった.

その時, 電話の向こうから, 綾の弱々しい声が聞こえてきた.

「真弘さん, 私, 胸が痛むわ... 」

綾は, まるで真弘に甘えているかのように, 弱々しい声を出した.

「綾, 大丈夫か?  恵美, もういいから, 自分で何とかしろ. 綾の体調が悪いんだ」

真弘は, 私の言葉を遮るように言った. 彼は, 私のことなど, どうでもよかったのだ.

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