元カノとヨリを戻した夫が、毎晩私の足元で泣いて離婚してくれません の小説カバー

元カノとヨリを戻した夫が、毎晩私の足元で泣いて離婚してくれません

8.2 / 10.0
幼少期から神崎涼真に一途な恋心を抱き続けてきた桜井結衣。二人が結婚の約束を交わしてから、すでに三年の月日が流れていた。ようやく夫婦として結ばれる時が近づいた矢先、涼真はかつての想い人を連れ帰ってくる。その光景を目にした結衣は、自分たちの関係がもはや修復不可能であることを悟った。積み重ねた時間は愛情を深めることもなく、互いを敬う心さえ育まなかった。すべては虚構に過ぎなかったのだと痛感した彼女は、彼への執着を捨て、自分自身の人生を取り戻すために別れを決意する。しかし、結衣が離婚協議書を突きつけた瞬間、涼真の態度は一変し、激しく取り乱した。「おとなしく俺の妻でいろ、離婚など絶対に認めない」と強引に繋ぎ止めようとする彼に対し、結衣は静かに微笑んで言い放つ。自分にとって彼はもう、何もいらない存在なのだと。かつての愛に縛られず、自由を求める妻と、離れることを拒み足元で泣き崩れる夫。壊れた関係の果てに、二人が辿り着く結末とは。

元カノとヨリを戻した夫が、毎晩私の足元で泣いて離婚してくれません 第1章

「おめでとうございます、妊娠していますよ。赤ちゃんもとても元気です」

医師は検査結果の用紙を桜井結衣に手渡した。

結衣はあまりの驚きに呆然としたまま、信じられない様子でもう一度尋ねた。「先生、本当ですか?」

医師は力強く頷いた。「間違いありませんよ。もうすぐ3週目に入ります」

病院を出るまで、結衣はその検査結果をきつく握りしめていた。驚きが少しずつおさまり、やがてじわじわと喜びが胸に広がっていく。

結婚した当初、神崎涼真は彼女に「子供は作らない」とはっきり告げていた。

2人がベッドを共にする時は、毎回必ず避妊していた。

だが先月、どうしてもひ孫の顔が見たい祖父が、2人を寝室に閉じ込めたのだ。

あの夜、涼真は朝が来るまで彼女を離さず、ありとあらゆる体位を試してきた。

結衣は思わずにはいられなかった。3年という月日が経ち、彼も考えを変えたのかもしれない、と。

スマホを手に持ち、妊娠したことを今すぐ涼真に伝えるべきか迷っていた。

その時、ふいにスマホが鳴り、1通のメッセージがポップアップした。

「俺のオフィスに来い」

結衣は少し驚いた。彼の方から会社に来るよう呼んだことなど、これまで1度もなかったからだ。

***

すでに社員たちは退社している時間だった。結衣はエレベーターで神崎グループ本社の最上階へ直行し、涼真のオフィスへと向かった。

道中、彼女の胸はずっと高鳴っていた。妊娠を知って驚き、喜ぶ彼の姿を想像していたのだ。

きっと彼も喜んでくれるはず。ーー私と同じように。

しかし、オフィスのドアを開けた瞬間、結衣は頭が真っ白になった。顔からさっと血の気が引いていく。

床には女性の服が散乱しており、ピンク色のハイヒールまで転がっていた。

隣のシャワールームからは、ザーザーと水の流れる音が聞こえてくる。

結衣は胸をナイフで深くえぐられたようなショックを受け、一瞬で呼吸が苦しくなった。

(私を呼んだのは、これを見せつけるためだったの!)

背後から、氷のように冷酷な声が響いた。 「何しに来た」

結衣が振り返ると、ドアの前に涼真が立っており、不機嫌そうな目でこちらを睨んでいた。

彼はシャツ姿で、首元のボタンを2つ外していた。その首筋には、生々しい赤いキスマークが残っている……。

結衣は無理やり視線を逸らすと、激しく胸を上下させ、床の服を指差して問い詰めた。「これ、どういうこと?」

涼真が眉をひそめ、口を開きかけたその時。シャワールームのドアが開き、彼のオーバーサイズのシャツを着た1人の女が出てきた。

胸元のボタンが2つだけ留められており、胸の谷間と、すらりと伸びた2本の脚が露わになっていた。

女が甘い声を出した。「涼真、シャワー終わったよ……」

だが、顔を上げて結衣の姿に気づくと、女は言葉を詰まらせ、オロオロとした視線を向けた。

その整った顔立ちには、見覚えがあった。結衣は彼女をじっと見つめ、少しの間を置いた後、ふいに自嘲するような笑みをこぼした。

どうりで。彼が自分のオフィスに他の女を入れるわけだ。

相手が白石莉子だったのだから。

涼真がずっと忘れられずにいた初恋の女が、ついに帰ってきたのだ。

結衣と涼真の結婚は、親族からのプレッシャーによる政略結婚に過ぎず、結婚式すら挙げていなかった。

彼女が涼真の妻であることを知る者など、世間にはほとんどいない。

彼が自分を愛していないことくらい、結衣は最初から分かっていた。

なのに、彼が自分たちの子供を愛してくれるなどと、どうしてそんな甘い夢を見てしまったのだろう?

莉子が帰ってきた今、彼は一刻も早く自分を神崎家から追い出し、「神崎夫人」の座を彼女に返してやりたいと思っているに違いない。

結衣は、これ以上ピエロのように惨めな姿を晒したくなかった。彼女は踵を返し、逃げるようにその場を去った。

涼真は彼女を引き止めることもなく、弁解の言葉1つすら口にしなかった。

結衣の姿が完全に見えなくなってから、莉子はわざとらしく申し訳なさそうな顔を作り、おずおずと口を開いた。

「涼真、ごめんなさい。結衣が外にいるなんて知らなくて。私から彼女に説明しに行こうか?」

空港から出たところでちょうど雨に降られ、涼真のオフィスでシャワーを借りたいと提案したのは莉子の方だった。

彼女は涼真が席を外した隙を狙い、結衣にメッセージを送りつけ、その直後にすぐ送信履歴を削除していたのだ。

涼真の視線は結衣が消えた方向を見据えたままだった。そのゴツゴツとした指は、力強く握り込まれていた。

彼は険しい顔つきのまま吐き捨てた。「必要ない」

莉子の瞳の奥で、勝ち誇ったような光が怪しく煌めいた。

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