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夫と上司の禁断の秘密 の小説カバー

夫と上司の禁断の秘密

長年の努力が実を結び、部長昇進を勝ち取ったキコ。これで家族との時間を取り戻せると確信していたが、その喜びは夫・ヒデのスマホに届いた一通の通知によって打ち砕かれる。送り主はキコの上司であり、そこには彼女の不在を狙って密会を企てる二人の生々しいやり取りが記されていた。さらに衝撃的な事実に直面する。十年もの間、深い愛情を注いで育ててきた愛娘の彩葉は、夫と上司の間に生まれた子供だったのだ。これまでの献身は踏みにじられ、自分はただ家族を養うための「ATM」として利用されていただけだったと悟る。愛も信頼もすべてが周到に仕組まれた偽りであり、夫は妻を冷遇する一方で、上司を愛称で呼び溺愛していた。全てを失い絶望の淵に立たされたキコだったが、その心には静かな怒りが宿る。自分を裏切り、人生を搾取し続けた夫と上司への壮絶な報復が幕を開ける。これは、都合のいい道具であることをやめた女性が、冷徹な意志で仕掛ける反撃の記録である。
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清水希子 POV:

「ヒデちゃん, この家, 本当に気に入ったよ. 君とここで新しい生活を始めるなんて, 夢みたいだね」

陽介が私を「ヒデちゃん」と呼んだ最初の記憶は, 私たちが結婚して最初の家を探していた時だった. 孤児院育ちの私にとって, 自分の家を持つことは長年の夢だった. 陽介と結婚して, 新しい家庭を築く. その夢を叶えるために, 私は必死に働いた. 週末は陽介と一緒に何件ものモデルルームを見て回り, 理想の家を探した.

やっと見つけた, 日当たりの良い, 駅からも近い新築マンション. 私の給料と貯金をやり繰りすれば, なんとか手に入れられる物件だった. けれど, 陽介の両親と妹の華奈は, そのマンションに猛反対した. 「そんな狭いマンションじゃ, 陽介さんの才能が埋もれてしまうわ! 」「希子さん, もう少し広い家を探してあげないと, 陽介さんが可哀想よ」. 彼らはそう言って, 私の選んだマンションを馬鹿にした.

結局, 私は陽介の両親の古い実家を買い取ることになった. 築三十年以上の古い一軒家で, 駅からは遠く, 通勤には不便だった. 陽介の両親は, 私が支払った買取金で, 都心に新しいマンションを購入し, 楽しそうに引っ越していった. その時も陽介は「さすがは僕のお母さんだね」と嬉しそうに言っていた.

陽介は, その古い家を指して言った. 「ここなら, 彩葉がのびのびと育てるね. 庭もあるし, 小学校も目の前だ. 将来のことを考えたら, この家が一番だね, ヒデちゃん」. 彼の言葉に, 私は深く納得した. 当時は本当に, この家で陽介と彩葉と幸せな家庭を築けるのだと信じていた. 駅までの遠い道のりも, 満員電車での通勤も, 全ては家族のため. そう思えば, どんな苦労も乗り越えられると, 自分に言い聞かせていた.

二度目に陽介が私を「ヒデちゃん」と呼んだのは, 数年前のことだ. 陽介の親戚が, 事業に失敗して多額の借金を抱えてしまった. その返済を肩代わりしてほしいと, 陽介の両親が泣きついてきたのだ. もちろん, 陽介の両親にはそんなお金はない. そこで, 陽介が私に頼んできた.

「希子, お願いだ. 僕の親戚を助けてやってくれないか? 君なら, きっとできる」

陽介は, その頃から体調を崩しがちで, 顔色も悪く, いつも疲れているように見えた. 彼はソファに寄りかかり, 力なく私を見上げた. 「ヒデちゃん, 君しか頼れる人はいないんだ. 君なら, 僕の家族を救える」. 彼の弱々しい頼みに, 私は心が揺れた. 孤児院で育った私にとって, 家族という存在は特別なものだった. 陽介の家族は, 私の大切な家族だ. 彼らを助けるのは, 私の使命だと思った.

あの頃の私は, 自分の体に起こっている異変に気づかないふりをしていた. 連日の残業とストレスで体はボロボロだったが, そんなことを陽介に話すことはできなかった. 彼を心配させたくなかった. 結局, 私は自分の貯蓄の全てと, ボーナスを前借りして, その借金を肩代わりした. これで家族は安泰だと, 自分を納得させたのだ.

陽介は, 普段私を「おい」「なあ」と呼ぶ. 私を名前で呼ぶことさえ滅多にない. 会社の人や, 彼の友人と話す時は, いつも穏やかで, 優しい声で話していた. 私はずっと, 彼が口下手で, 愛情表現が苦手なだけだと思っていた. だから, 二人きりの時に私を「おい」と呼ぶのも, 彼なりの愛情表現なのだと信じ込もうとしていた.

けれど, 彼のスマホに隠されていた「ヒデちゃん」という呼称. そして, 松江秀恵とのメッセージのやり取り. そこには, 私が知らなかった陽介がいた. 彼は口下手なんかじゃなかった. ただ, 私に対しては, その必要性を感じていなかっただけなのだ. 松江役員には, 私に見せたことのない甘い言葉を囁き, 私に見せたことのない優しい表情を向けていたのだろう.

もし, 私がこの真実を知らなければ, 私はずっと幸せな夢の中にいられただろうか? いや, そんなことはない. この裏切りは, 私の人生を根本から揺るがしている.

私は震える指で, 陽介の隠しアカウントのチャット履歴を遡り始めた. そこに隠されているであろう, さらなる真実を知ることが, 恐ろしい. けれど, もう後戻りはできない. 私の心臓は, まるで誰かに握りつぶされたかのように, 激しい痛みを訴え始めた.

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