
彼の裏切りが、彼女の真の力を解き放った
章 2
浩人 POV:
世界が、ぐらりと揺れた。
エリカ。ここに。
俺のオフィスの外の廊下に、スーツケースを足元に置き、地獄さえも凍らせるような目つきで立っている。
一瞬、俺の脳は目の前の光景を処理することを拒否した。
まるでマトリックスのグリッチ、まだ生きるはずのなかった人生の一場面のようだった。
頭が追いつく前に、足が動いていた。
大股三歩で彼女との距離を詰めたが、抱きしめることはできなかった。腕が鉛のように重い。
俺の最初の本能、原始的で、愚かな本能は、キラの方をちらりと見ることだった。彼女は、読めない表情で俺たちを見ていた。
「エリカ」
俺はもう一度、かすれた声でなんとか言った。
「なんでここにいるんだ?」
彼女はすぐには答えなかった。
その視線は冷たく、水平で、まるで平手打ちのようなよそよそしさで俺に話しかけた。
「佐伯さん」
「やめろよ」
俺は低い声で言った。
「来るならどうして教えてくれなかったんだ?」
俺は彼女のスーツケースに手を伸ばした。何か、何か普通のこと、当たり前のことをするための、不器用で必死のジェスチャーだった。
「驚かせたかったの」
彼女は平坦な口調で言った。
「成功したみたいね」
俺は彼女をオフィスに押し込み、背後でしっかりとドアを閉めた。
ドアに寄りかかり、髪をかきむしる。
「キラ、少しの間、電話全部止めてくれるか?」
木のドア越しに呼びかけた。
沈黙。
俺はエリカの方を振り返った。
彼女は部屋の真ん中に、硬直した姿勢で立ち、隅々まで目を走らせていた。
ビデオ通話で見る彼女とは違って見えた。より力強く、より威圧的に。
胸にノートパソコンを乗せたまま眠りに落ちる、疲れ果てた優しい女はもういない。
代わりに、シャープな仕立てのスーツを着た見知らぬ女がいた。
「なんで怒ってるのか教えてくれるのか、それとも当てろってことか?」
軽い口調を試みたが、張り詰めた空気の中でそれは空しく響いた。
彼女は答えなかった。
彼女の視線は俺の机の上、かつて湘南のビーチで撮った俺たちの写真が入っていた小さな銀色のフレームに注がれた。
そこには今、新しいチームの写真、前回のプロジェクトの打ち上げパーティーでのスナップショットが収まっていた。
キラが俺の隣に立ち、満面の笑みを浮かべ、彼女の手がさりげなく俺の腕に置かれていた。
「あ、あれは、チームの士気のために置いたんだ、わかるだろ?」
俺はどもった。
「プロジェクトチームのだよ。キラも写ってる」
その説明は、自分の耳にさえも弱々しく聞こえた。
エリカはついに俺を見た。その瞳の中の失望は、物理的な打撃だった。
「この瞬間を二年間、想像してたわ、浩人」
彼女の声は静かだったが、俺の哀れな言い訳を切り裂いた。
「あなたに会ったら、あなたは…わからない。喜んでくれると思ってた」
返事をする代わりに、彼女はスマホを取り出した。
一言も発する必要はなかった。ただ再生ボタンを押しただけだ。
キラの明るく、屈託のない声が、殺風景なオフィスに響き渡った。
「てっぺんまで競争よ、佐伯!負けた方がラーメン奢りな!」
顔が熱くなった。
「エリカ、お前が思ってるようなことじゃない」
「そうじゃないの?」
「彼女はただのアシスタントだ!それに友達。それだけだ。それは…クライミング仲間なんだ。ジム仲間みたいなもんだよ」
「その『ジム仲間』が、あなたのアシスタントでもあるの?二年間、一度も口にする必要がないと思ったような?」
彼女は、怒りよりも俺を怖がらせる疲労感をにじませた声で尋ねた。
「疲れたわ、浩人。もう、本当に疲れた」
「なあ、彼女を雇ったことは言うべきだったってわかってる。急な話だったんだ、前のアシスタントが辞めて、キラが仕事を探してた。ただ…都合が良かったんだ」
俺は彼女に一歩近づき、平和のジェスチャーで両手を上げた。
「俺たちはただのパートナーだ。ただの…仲間。そう呼び合ってるだけなんだ」
俺はついに距離を詰め、彼女を腕の中に抱きしめた。
彼女は硬く、こわばっていた。
「五年間だぞ、エリカ」
俺は彼女の髪に囁いた。声は絶望で厚くなっていた。
「俺たちはいろんなことを乗り越えてきた。こんな…くだらない動画一つで、すべてを台無しにしないでくれ」
彼女の体を震えが走るのを感じ、一瞬、彼女が壊れてしまうのではないかと思った。
彼女の鼻が俺の胸に押し付けられ、シャツを通して彼女の涙の湿り気を感じた。
胸が痛んだ。俺は馬鹿だ。完全な、自己中心的な馬鹿だ。
「驚かせようと思ってたんだ」
俺は、彼女を見るために少しだけ身を離して言った。
スマホをごそごそと取り出し、フライトの確認画面を見せた。来週末の、彼女の街への往復チケット。
「先週予約したんだ。お前を迎えに行くつもりだった。お前が先にここに来たってことは…いいことだろ?完璧じゃないか」
彼女の表情は、痛みと混乱が入り混じっていた。
バイクのこと、あの夜のこと、写真のこと――彼女が聞きたがっているであろう質問が、俺たちの間に言葉にならないまま漂っていた。
彼女はあまりにも途方に暮れ、傷ついていて、俺は耐えられなかった。
俺は親指で彼女の頬から涙をそっと拭った。
「もう一度…やり直そう。いいか?」
彼女の手を取り、ドアの方へ引っ張った。
これをやる必要があった。はっきりさせる必要があった。
ドアを開けた。
キラは自分のデスクのそばに立ち、忙しいふりをしていたが、明らかに聞き耳を立てていた。
俺たちが出てくると彼女は顔を上げ、その目はすぐに俺たちの繋がれた手に注がれた。彼女の笑顔が引きつった。
「キラ」
俺は、聞こえる範囲の誰にでもわかるように、大きく、しっかりとした声で言った。
「こちらは桐谷エリカ。俺の彼女だ」
キラの態度は完璧だった。
彼女は小さく、丁寧な笑みを浮かべた。
「やっとお会いできて嬉しいです。浩人さん、いつもあなたのこと話してますよ」
彼女の目は再び俺たちの手にちらりと落ちた。
「こんにちは、エリカさん。それとも、未来の佐伯夫人って呼ぶべきかな?」
彼女は、少し甘すぎる口調で言った。
「エリカでいい」
俺は口調を軽く、しかし断固として保とうと努めた。
「彼女は三階のソフトウェアチームで働くことになる。オペレーション部門まで案内してくれるか?」
エリカはぼんやりと頷き、彼女の手は俺の手から滑り落ちた。
彼女が肩を落として歩き去る姿に、息を呑むほど鋭い罪悪感の痛みが走った。
俺が自分のデスクに戻ると、キラはすでに俺のオフィスの戸口に立っていた。
「『俺の彼女』?」
彼女は、わざとらしい憤りをにじませた声で囁いた。
「マジで、佐伯?なんか私…すごく公認みたいじゃん」
俺は思わず微笑んでしまい、肩の緊張が少し和らいだ。
「まあ、そうだからな。なんて言えばよかったんだ?」
「さあね」
キラは、ふくれっ面でドアフレームに寄りかかりながら言い返した。
「迷子の子犬みたいに手を繋ぐのはやめたら?今週末のクライミング、まだ行くよね?」
その気楽なやり取りは安堵であり、エリカという嵐の後の心地よいリズムだった。
「どうかな、キラ。エリカが来たから、それは…」
「えー、やめてよ」
彼女はうめいた。
「ダサいこと言わないで。彼女も見に来ればいいじゃん。楽しくなるって」
彼女はウィンクした。
「それに、ラーメン奢ってくれるって約束したでしょ」
俺の決意は崩れた。
「わかったよ。でもお前が奢れ」
エレベーターホールに消えていくエリカの後ろ姿を見つめた。
冷たい恐怖が胃の底に沈んでいく。
俺は二つの異なる世界を掴もうとしていて、その両方が指の間から滑り落ち始めているのを感じていた。
エリカ POV:
私はロボットのように歩き去った。足は動いているのに、心は百万マイルも彼方だった。
彼の言葉、彼の感触、彼の瞳に浮かぶ見せかけの誠実さ――それは一つの演技であり、私はその不本意な観客だった。
キラのからかうような口調と、それに応える彼の気楽な笑い声を聞いた瞬間、幻想は完全に砕け散った。
オペレーション部門の空いているキュービクルを見つけて座ると、スーツケースが私の隣で孤独な島のように佇んでいた。
何時間も、真っ白なコンピュータの画面を見つめていた気がする。
私が計画したサプライズ、喜びの再会は、この醜く、哀れな混乱へと変わってしまった。
スマホが震えた。メンターであるCTOの城崎さんからだった。
「歓迎会はどうだった?」
彼の温かい声が聞こえた。
私は話すことができなかった。喉に嗚咽が詰まる。
「エリカ?どうしたんだ?」
彼の口調は即座に心配の色を帯びた。
「大丈夫です」
私は嘘をついた。声が震えていた。
「大丈夫じゃないだろう。彼が何をした?」
堰が切れた。
動画のこと、キラのこと、嘘のこと、彼の顔に浮かんだ表情のこと。
すべてが、堰を切ったように溢れ出した。私は彼にすべてを話した。
電話の向こうで、長い沈黙があった。
「城崎さん?」
「ここにいる」
彼は、危険なほど静かな声で言った。
「なるほどな。佐伯君は、この会社で本当の力を持っているのが誰なのかを忘れてしまったようだ」
「それが何になるんですか?」
私は手の甲で目を拭いながら囁いた。
「彼はもう、私のことなんて愛してない」
「愛は一つのことだ、エリカ。尊敬はまた別のことだ」
城崎さんは、鋼のように硬い声で言った。
「そして彼は、その違いをこれから学ぶことになる。君は『Aura』の創造主だ。この会社も、彼のキャリアも、すべて君の才能の上に築かれている。彼はこの小さな城の王様気取りでいるが、自分が君の帝国にいるただの客人に過ぎないことに気づいていない」
彼の言葉は力づけようとするものだったが、私をさらに惨めな気持ちにさせるだけだった。
問題は権力でも、金でも、キャリアでもなかった。
私が五年という歳月を注ぎ込んだ男が、今、私ではなく新しい「クライミングパートナー」を選んでいるという事実だった。
「帰りたいです」
私は囁いた。戦う気力は完全に消え失せていた。
「もうこの仕事もいらない。もう…何もいらない」
「早まった決断はするな」
城崎さんは優しく言った。
「数日、様子を見てみろ。だが、これだけは知っておけ、エリカ。君は一人じゃない。そして、あの若造が君を破滅させるのを、私は黙って見ているつもりはない」
でも、彼は間違っていた。
私はもう、破滅していた。
私が築き上げてきた人生、私が思い描いていた未来は、たった一日のうちに瓦礫と化してしまったのだ。
彼はクライミングパートナーが欲しい?
いいわ。くれてやる。
私は城崎さんとの電話を切り、もう一本、決してかけることはないと思っていた電話をかけた。
「鷹宮さん?」
私は震える声で言った。
「桐谷さん。驚きました」
最大のライバル企業のCEO、鷹宮蓮が答えた。彼の声は穏やかでプロフェッショナルで、私の頭の中の混沌とは対照的だった。
「去年、私にしてくださったオファーのこと、覚えていますか?」
私は目を閉じながら尋ねた。
「共同創業者兼、主任設計者として迎えるという、あの話です」
間があった。
「覚えていますよ」
彼はゆっくりと言った。
「まだ有効ですか?」
「はい。ですが、そのオファーには条件がありました」
私は深呼吸をした。その言葉は口の中で灰のような味がした。
「あらゆる意味での、パートナーシップ。その条件も、まだ有効でしょうか?」
鷹宮さんは長い間、黙っていた。
電話の向こうで、彼のかすかな息遣いが聞こえる。
「本気ですか、エリカさん?」
彼の声が柔らかくなった。
「無理をする必要は…」
「本気です」
私は彼の言葉を遮った。声は硬く、もろかった。
「自分の人生で、二番手でいるのはもううんざりなんです。自分のために、何かを築き始める準備はできています」
たとえそれが、他のすべてを破壊することを意味するとしても。
おすすめの作品





