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神様曰く、運命なので の小説カバー

神様曰く、運命なので

最愛の婚約者から非情な婚約破棄を言い渡された公爵令嬢レイチェル。絶望の淵で「ヒロインになりたい」と叫んだ彼女に対し、可憐なヒロイン・ステラは嘲笑と共に残酷な真実を告げる。「この世界はゲームに過ぎない」のだと。その後、無実の罪を着せられ投獄されたレイチェルは、突如発生した大地震によって命を落としたはずだった。しかし、次に目が覚めた時、彼女の視界に飛び込んできたのは一年前に見覚えのある懐かしい光景だった。死の淵から過去へと回帰したレイチェルは、自身を待ち受ける過酷な運命の正体とステラの真の目的を突き止めるため、再び彼女のもとへと向かう。自らに課せられた「悪役令嬢」という役割を打ち破り、望んだ幸せを掴み取ることはできるのか。これは、定められた運命に抗い、大切な存在や自らの居場所を守り抜くために戦う二人の少女の物語。華やかな貴族社会の裏側で、己の存在意義を懸けた激しいバトルが幕を開ける。少女たちの執念が交錯するローファンタジー、ここに開幕。
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3

次に目を覚ますと、レイチェルは馬車の中にいた。

 目の前にはコーディがいる。彼はむっつりと黙って、不機嫌そうに座っていた。

 辺りを見回すと、そこはコーディの家の馬車であることに気がついた。

 ああ。この後に及んで、自分はまだ夢を見ているらしい。

 浅黒い肌。無骨な手。短い茶髪。緑の瞳。ちゃんとコーディだ。懐かしい姿に、思わず涙ぐむ。夢の中とはいえ、もう一度会えると思っていなかった。

 ほうっと息を吐くと、椅子に身を沈める。傍らには、赤くてふわふわの、いつものクッションがあった。

 幼い頃彼が贈ってくれたのだ。レイチェルが気に入ってずっと使っているから、コーディの馬車に乗る時には、彼の執事がいつも乗せてくれる。

 あまりにいつも通りの光景に、レイチェルは痛む頭を押さえた。

 思えば、この頃はまだ幸せだった。彼には嫌われていたけれど、コーディの隣はまだレイチェルの場所だった。

「しかし、君にはほとほと呆れる]

 長い息を吐くと、コーディはレイチェルに顔を向けた。眉間を揉むと、疲れた様子のコーディは「いいな?」と前置いて、言い聞かせるように話し出す。

「あのメイドは俺の弟の世話をしているだけで、俺とはほとんど話さない。君も知っているはずだが?」

 責めるような口調にたじろぐ。だが、コーディの言っていることは、彼の言う通りちゃんと知っている。その原因はレイチェルなのだから。

 レイチェルが怒り出すからという理由で、コーディの世話をしているのはほとんど執事になっている。

 レイチェルの家計は、現在コーディの家に頼り切りで依存しているが、こんな風になる前は、逆にコーディの家を助けることもあった。

 コーディ自身も、昔レイチェルに助けてもらったことがあり――他にも理由はあったが、レイチェルは知らない――みんなレイチェルに逆らえないのである。

 そこまで思い出し、一年前に同じような会話をしたなと思い出す。入学式だったから覚えがある。

「あの子は俺に色目なんて使っていないし、クビになると行くところが無くなる。解雇するだなんて二度と言わないでほしい。みんな困るんだ」

 間違いない。これは一年前の会話だ。学園に行く馬車の途中で、コーディとこんな会話をした。

 レイチェルは、どうやら走馬灯でも見ているらしかった。

「……レイチェル? 聞いてるのか?」

 ぼうっとしていると、コーディが立ち上がろうとする。ちょうどそこで馬車が止まって、運転手が学園に着いたことを知らせてくれた。

 コーディの手を借り、馬車を降りる。そこには通い慣れた学園があって、レイチェルは、目眩のする頭を押さえた。もうこの光景は二度と戻ってこない。

「わっ!?」

 ぼんやりしていて、足元に段差があることに気がつかなかった。レイチェルは、つんのめって、転んでしまう。――痛い?

 違和感に、はたと止まる。驚いたコーディが手を差し伸べてくれたが、レイチェルは固まったまま地面に寝転がっていた。

 地面を叩くと、土の感触がする。レイチェルは起き上がると、胸元に手を当てた。傷はないし、血も着いていない。

 いや、走馬灯なのだから当たり前か? それにしては一場面が長くないだろうか。疑問に首を傾げる。

「胸が痛いのか?」

 コーディが、眉を寄せると片膝をついて、レイチェルの顔を覗き込んできた。その顔を掴むと、彼をぺたぺた触り出す。

 ちゃんと感触も体温も伝わってきて、レイチェルはますます混乱する。

「……転んで頭でも打ったか?」

「そんな風は見えませんでしたが……おそらく体調が良くないのでは?」

「そういえば、馬車の中でもぼうっとしていたな。引き返して病院に……いや、学園には保健室があるんだよな。連れて行こう」

「その方がよろしいかと」

 不審な行動を始めるレイチェルを前に、コーディは真剣な顔で執事と相談を始める。

「コーディ様。ちょっといいですか?」

「あ、ああ……」

 そんな彼の手を掴むと、レイチェルは、自分の胸を触らせた。

「!!?!?」

 コーディが目を剥いて飛び上がる。レイチェルはすくっと立ち上がると、驚く彼に詰め寄った。

「もっとちゃんと触ってください」

「公衆の面前で何を言ってんだ!?」

「ちゃんと、わたくしの心臓が動いてるか確認してください」

「???」

 動揺するコーディに舌打ちすると、レイチェルはもう一度彼の手を掴もうとして──彼女を見つけた。

 コーディを押し退けると、その背中に向かって一目散に走り出す。

「すいません、コーディ様!」

「レ、レイチェル!?」

 コーディの焦る声が聞こえたが、振り向かずに彼女に向かって声をかけた。

「ステラ様!」

 レイチェルの呼びかけに、彼女は、立ち止まって振り返る。長い黒髪がさらりと揺れ、金の瞳が見えて、レイチェルはその美しさに息を飲んだ。

 この瞬間。彼女と対峙するこの瞬間。レイチェルはいつも、一瞬だけ嫉妬もなにもかもを忘れて見入ってしまう。それから、こう思うのだ。星を見つけた、と。

 レイチェルは彼女に駆け寄ろうとしたが、しかし、何を思ったのか、ステラはダッシュでその場から逃げ出した。

 残されたレイチェルは、一瞬ぽかんとして、項垂れる。次いで、肩を震わせた。

「ふふ……」

「レイチェル。あのご令嬢がなにか――ひえっ」

 追いついてきたコーディが顔を覗き込んで、後退る。レイチェルは笑うと、遠くなっていく背中を凝視して、屈伸を始めた。

「……レイチェル。まさか追いかける気じゃないよな? 違うよな? 貴族が集まる学園の入学式で、よそのご令嬢を、走って追いかける気じゃないよな?」

「そんなことしませんわ」

 慌てふためくコーディに、ハッと笑ってみせる。否定が返ってきて安心したのか、胸をなで下ろす彼に、レイチェルは堂々と告げた。

「捕まえてふん縛るのよ」

 顔を青くして叫ぶコーディを置いて、準備運動を終えたレイチェルは、目標めがけてダッシュした。

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