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武道の神 の小説カバー

武道の神

武術の実力が人々の敬意を左右するロスランド大陸において、スティーブンは周囲から「負け犬」と蔑まれる不遇な日々を送っていた。しかし、空から飛来した謎の火の玉が彼を直撃したことで、その運命は劇的な変貌を遂げる。九死に一生を得た彼が手に入れたのは、他の生物が持つ才能を自らのものとして吸収できるという、常識を超越した異能であった。圧倒的な力を手にしたスティーブンは、最愛の妹や家族を理不尽に傷つけた者たちへの復讐を開始する。かつて自分を虐げたすべての人間に「いつか必ず俺の前で膝をつかせてやる」と心に誓い、彼は過酷な戦いの道へと足を踏み出す。どん底から這い上がった男が、強大な才能を奪い取りながら武の頂点へと突き進む、壮絶な復讐と成長の物語が幕を開ける。失った尊厳を取り戻し、家族の仇を討つための孤独な旅路の果てに、彼はどのような景色を見るのか。運命に抗い、己の力で世界を屈服させるための冒険が今、ここから始まる。
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ロスラン大陸では武道の能力が最も重要視されており、 生来の才能が豊かな人物ほど、より多くの尊敬を集めていた。

技術レベルによって人々は天、地、黒、黄と等級分けされ、 更に等級ごとに各自の能力がレベル1からレベル9にランク付けされていた。 中でも天の才能を持つ者は、何百年もの修行を重ね伝説の武道の達人となるという言い伝えがあったのだ。

しかし、ほとんどの人々は黄のレベル1にも届いていなかった。

この話は、ドリアス国のヴァルマーから始まる。

「おい、例の噂聞いたか? チュー氏族の酋長が殺されたらしいぜ! びっくりだろ!」

「ああ! 一瞬耳を疑ったよ! 世界にはまだまだ強いやつがいるもんだな。 なんでも、剣で一撃だったらしいぜ。 信じられるか? 何百人という武道家が目指して修行をしている霊界一の人間が いとも簡単に殺されるなんて」

「犯人は財産と武術に関する貴重な本には手をつけていないらしい。 それをもらうために、残された一族はきっと激しい競争を繰り広げるだろうな」

「お願いだ! 殺さないでくれ!」

ダレン・チューは薪小屋の中で 全身に汗をびっしょりとかきながら、 悪夢より目を覚ました。

彼は、ヴァルマーの武道氏族の中でも最上位と言われているチュー氏族の酋長、 ギャビン・チューの七男坊だ。

3日前にギャビン酋長が黒ずくめの覆面をした男に殺されたというニュースが流れると、 伝説の武道家の無念の死に、国民はショックを隠せなかった。

その後すぐにチュー氏族内で遺産争いが勃発し、同一族は混乱状態に陥っていた。

争いの刃はまず、酋長の七男であるダレンに向けられた。 特に秀でた才能も無いダレンは一族の恥だと 全員が同意していたのだ。 チュー氏族ほど大きな一族であれば、立場の弱い人間から始末するのが一番手っ取り早いのを誰も知っているからだ。

なので、ダレンは彼らに何度も相続放棄すると訴えたが、誰ひとりとして彼を解放する事はなかった。

「俺は、まだ生きているのか?」

遺産争いが始まりすぐの頃、6番目の兄が目の前に現れ、何かにつけてダレンに嫌がらせをするようになっていた。 兄にどんなに酷い事をされても彼は怒らなかったのだが、それが更にいじめを助長し、 どんどんダレンは追い詰められていった。

挙句の果てに、武道の才能がないただの親不孝者だとダレンを非難し、 彼を始末する口実まででっち上げる始末だった。

その瞬間、火の玉が空から落ちてきてダレンの頭に直撃した。

それを見た兄は彼の死を確信し、攻撃をやめたが、 ダレンはかろうじて逃げ切っていたのだった。

「ちくしょう!」

ダレンは一連の出来事を思い出し、地面を拳で殴りつけた。

「嘘だろう!」

怒りの渦中、頭に火の玉の衝撃が蘇ってくると、 自分は意識を失い、目の前の世界が闇に包まれたことを思い出した。 「なぜまだ生きているんだ?」 彼は自分が生きていた事が不思議で仕方なかった。

額を撫でると、火の玉に当たった場所がかさぶたになっているのが分かった。 あんな物がぶつかってきたというのに、痛みさえ感じなかったのが驚きだ。

「なんだこれは! 痛くもかゆくもないじゃないか! あの火の玉は一体何だったんだ?」

ダレンが頭を悩ませていると、ドアの外で犬の鳴き声が聞こえ、 次には、人の話し声がしてきた。

「ねえ、ベルさん。 やっぱり、あなたは 亡骸を守るため、ここにいらっしゃるのですね」

「あいつとあなたとの間にはさぞかしたくさんの思い出があるだろうから、離れがたいのは分かる。 だがしかし、エヴァン様が 全財産を引き渡すようにおっしゃっているのだから、 さっさと渡せ。 さもないと、大切な兄貴の体が腹をすかした犬の 餌になっちまうぞ。 早くしろ! やつの身体をバラバラにされたくなかったらな!」

わずか13歳のベル・チューは、狂暴そうな犬を見て青ざめた。 彼女は兄の遺体が安置されている薪小屋の外に立たされていたのだが、 この犬達が凶暴な犬種を改良して生まれたものだと知っており、思わず身震いした。 ダレンの死はベルにとってとてもつらいものであり、 彼女は今、その遺体さえ失いそうになっているのだ。

「私の兄は死んだのです! なぜ 放っておいてくれないのですか?」 ベルは絶望を感じ、 彼女の頬を涙がつたい始めた。 チュー氏族内の権力争いが激しくなる中で、 ダレンの死が彼女の孤独感に拍車をかけていた。 「お願い! お願いです! 兄を放っておいてください! 私達に構うだけ無駄です! 私は嘘など言いません、 信じてください」とベルはすすり泣いた。

ベルにとって、ダレンはたった一人の家族であった。 彼らの母親はベルを出産してすぐに亡くなり、 それ以来、ダレンとベルはチュー氏族からのけ者扱いをされていた。

しかし、彼らはどんなにつらい目に遭っても、父親にその事実を伝えようとはしなかった。もし助けを求めるなどすれば、他の兄弟からより酷くいじめられるのが目に見えていたからだ。

他の兄弟達はそれぞれ母方の家系の権力や宗派を利用し、チュー氏族の中でも強い影響力を持っていたのだが、 ダレンにはそのようなものは一切無かった。

「クソ野郎!」 外の様子を伺っていたダレンは、会話を聞いてそのあまりの酷さに激怒し、叫ばずにはいられなかった。

ギャビンの六男であるエヴァン・チューは、ダレンの異母兄弟だった。 エヴァンの母親は、ヴァルマーの地に住むユエ一族の娘であり、 家柄的に地位が高いわけではないが、ダレンの母方の家系よりは良いとされていた。

この場合、彼が他の兄弟達を敵に回す事は権力争いの上でも不利になるのは間違いなく、 だからこそエヴァンはダレンを標的にしていたのだった。 相続人が少なければ少ないほど、エヴァンはより多くの財産を得る事が出来るのだ。

ダレンは、エヴァンが見張りとして残した2人の男を今すぐにでも殺してやろうと思ったが、思いとどまった。 手下など殺したとしても事態は何一つ変わらないと分かったからだ。 なぜなら、真の敵はエヴァン一派であり、さらには他の異母兄弟達でもあるかもしれないからだ。 今は軽率に行動をとってはいけない。

「ベルさん、もう覚悟は出来たか? まさかエヴァン様の命令に逆らうつもりじゃないだろうな?」 ベルに向かって1人の男が声を荒げて言った。

「私達は財産などもらっていません! 本当なのよ!」 ベルは涙を流しながらそう訴えた。

「ふん! お前らにも相続権があるんだから、そんな事あるわけないだろう。 さあ 今だ、かかれ!」

犬達はベルに吠えて威嚇すると、薪小屋に物凄い勢いで入って行った。

「やめて! あなた達最低よ! やめてってば!」 ベルはあまりの恐ろしさに顔を手で覆い、叫び続けた。 兄の遺体を守るために薪小屋へ行き戦う意志もあったが、エヴァンの手下達がそれを阻んでおり、 自らの無力さに彼女は思わず地面に倒れこむと、更に泣き続けた。

一方、緑色に光る目が獲物を探していた犬達は、 薪小屋の中にいるダレンに気が付くと、唾液を口からダラダラと流し始め、酷い臭いが小屋全体に充満していた。 彼らは戦闘の為だけに生み出された、獰猛な獣なのだ。

「ハッ ハッ ハッ!」

すると、犬達はダレンに一気に襲い掛かった。

しかし、一部始終を聞いていた彼は 攻撃のかまえで、最初に襲い掛かって来た犬に拳で激しい一撃を食らわせた。

「バキッ!」

なんとその一撃で、犬の頭は大破した。 いくら彼は才能に乏しいと言われていても、ダレンは3歳から武道の修行を積んでいるため、 飛び掛かって来る犬を殺すなど造作も無い事であった。

渾身の一撃が招いた光景は、あまりの悲惨さに他の犬達が後ずさりするほどだった。

「待て! なんだあれは? 黄色い光の玉がこっちに向かってくるぞ!」

光の飛んで来るスピードはとても速く、ダレンはかわす事が出来なかった。 すると瞬く間に光が彼の頭に飛び込んでいった。

ダレンはそれで怪我をしたかと思ったが、 そうではなくむしろすっきりした気分だった。 そして彼は残りの犬達の方へ向かって行った。

「バキ! バキ! バキ!」

ダレンの動きは信じられないほど素早く、犬達に命乞いの時間さえ与えなかった。

先ほどと同じく、犬達が死ぬと現れる黄色い光の玉がダレンの頭に飛び込んでいった。

これは彼にとって未だかつてない経験だったが、 光の玉が入った後、まるで目の前の世界が光り輝いて見えるようだった。 視力、聴力、知覚など、五感もとても敏感になっている事も手に取るように分かる。

「そういえば、前、何かで読んだ事があるぞ。 これは黄の能力と似ていないか? つまり俺は昇級したのか?」

ダレンは思わぬ出来事に嬉しさを隠せず、 これは火の玉のおかげだと喜んだ。

「確か、この世界に生きとし生けるものは皆、武道の才能を持っていると書いてあった。 あの火の玉によって他の生物の技を同化する能力を俺は習得したのか?」

そう自問自答しながらも、犬達の死後、黄色い光の玉は確かに頭に入り込んできたため、ダレンにはこの理論は正しいという確信があった。 つまり、今の彼は同化スキルを身につけた。

なんて凄い技なんだ! 常に向上心を持って修行をすれば、武道の才能は無限に習得が可能だったのだ。 このままいけば、自分の才能レベルが最高位の天に達する日が来るかもしれない。

そして、もし同化スキルで天の位を超えたら、どうなるのだろうとダレンが考えていた。

これは正に、天から授かったかけがえのない才能だと悟ると、 彼の目は涙に濡れた。

「今まで俺の事を馬鹿にしていた奴らめ、これを知ったら後悔するぞ。 エヴァン、次はお前の番だ!」

一方、薪小屋の外では。

「おい! ジム! いくらなんでも静かすぎないか? あいつらはもう食い終わっちまったのかな? はは!」

「ありえるな。 まったく、笑えるぜ!」 すると、ジムはもう1人の部下に向かって言った。「テッド、ベルを見てみろ! 可愛い娘だろう! スタイルも良くて 最高だ! ちょっとどんな感じなのか興味ないか?」

「ジム! 馬鹿な事を言うなよ。 曲がりなりにも酋長の娘じゃないか。 それに、 エヴァン様からそのような命令は受けていないんだ。 大人しくしていた方がいい」

「臆病な奴だな! やってみたいかって聞いてるんだよ。 ベル様には兄の死を受け入れられず自殺したとか何とでも言い訳が立つだろう。 考えてもみろよ! 俺達があれだけの美人を好きなように出来るなんて滅多にない事だぞ」

2人の男の会話を耳にしてベルは泣き崩れてしまい、 目の前が真っ暗になりそうだった。

「それもそうだな。 たとえ長老達が犯人捜しをしても、 全ての責任はエヴァン様にある。 はは! 可愛い俺のベル、 今行くからな!」 そう言いながら、テッドはベルをいやらしい目つきで見つめた。

「嫌よ! 離れて!」 ついにベルは男達に追い詰められ、あまりの恐怖に身体が震え始め、 もう駄目だと思った。

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