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全力で、お仕置きの時間です の小説カバー

全力で、お仕置きの時間です

婚約を控えた夜、私は残酷な真実を知った。三年間愛し抜き、家政婦の息子から大富豪の御曹司へと押し上げた婚約者は、今も初恋の女性を想い続けていたのだ。彼は初恋の人が私に窃盗の罪を着せるのを黙認し、あろうことか誘拐犯を雇って私の尊厳を奪おうとした。電話越しに「あのブスは好きにしていい」と冷たく放つ彼の声を聞き、私は絶望の果てに笑った。醜く愚かな女を演じていたせいで、彼は私が本物の大富豪の令嬢であることを忘れてしまったらしい。もう演技は終わりだ。田舎者と嘲笑うクラスメイトの前で真の美貌を晒し、成果を盗んだ女のプロジェクトを根底から潰してやる。権力を振るう元婚約者には、彼の父親を跪かせて報復する。正体を現した私の背後には、大富豪の父、伝説の神医、そして世界を牛耳る軍需帝国の後継者が控えていた。軍需帝国の主が私を抱き寄せ「俺の妻だ」と宣言したとき、全てを失った元婚約者は正気を失い、涙ながらに復縁を乞う。しかし、私に慈悲など残っていない。今こそ、彼らに相応しい地獄を見せるお仕置きの時間だ。
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2

電話の向こうでしばらく沈黙が流れたあと、父の心配そうな声が聞こえた。「理奈、前にも言っただろうーー」 「恩知らずの並木慎なんて、どれだけ尽くしても報われない男なんだ」

山崎理奈はかすかに笑みを浮かべたが、その笑顔には苦さしかなかった。「そうね、結局、私が身の程知らずだったのよ」

「もう帰っておいで」父は優しく、けれど痛みを押し殺した声で続けた。 「家で決めた見合い相手は、家柄も人柄も、あの並木慎なんかより百倍もいい。君は山崎家の大事な娘なんだ。愛されない男に心をすり減らす必要はない」

「分かったわ」理奈は小さくうなずいた。 「自分の手で全部終わらせたら、ちゃんと帰る」

翌朝早く、理奈は鏡の前に座り、メイドに乱れた髪をほどかせた。

それから、彼女はシャネルの新作ーー真珠のように輝く白のロングドレスに着替え、細いヒールを鳴らしながら階段を降りていった。

使用人たちはざわつき、こそこそとささやき合う。

「今日のお嬢様、どうしたの? いつもはわざと地味にしてたのに」

「だってそうしないと、並木様が落ち着かないんでしょ」

執事の小森が銀のトレイを抱えて近づき、恐る恐る尋ねた。「お嬢様、今日はご家族に会いに行かれるのですか?」

理奈が本気で着飾るのは、家族に会うときだけだった。

彼女は赤い唇の端を少し上げたが、その目には氷のような冷たさが宿っていた。

「いいえ、 学校に行くの」

……

運城大学。

教室では、いつものように派手な服を着た男女が集まり、大声で笑いながら噂話をしていた。

「聞いたか? 昨日、理奈が誘拐されたって!」

「それだけじゃないらしいよ、服まで全部脱がされて、動画まで撮られたって!」

「うわ、すごい話じゃん。 どうりで今日は慎と一緒じゃないわけだ」

その時、外がざわめき始めた。

口笛が鳴り、男子学生のひとりが叫ぶ。「女神!こっち向いて!」

歓声がどんどん高まっていく。

彼らが思わず振り返ると、 光と影が交錯する廊下の奥から、一人の女性が静かに歩いてくるのが見えた。

真珠色のドレスが彼女の細い腰をなぞるように揺れ、その姿は目に焼き付くような鮮やかさだった。

数秒の沈黙のあと、全員が息をのむ。ーーまさか、あの地味で冴えない山崎理奈だなんて。

彼らは素早く視線を交わし、悪意の笑みを浮かべて彼女を取り囲んだ。

「おや、誘拐されたはずなのに、よく顔を出せたね」

「しかもずいぶん派手じゃない? シャネルのドレスかしら? どこでそんな金を?」

「もしかしてーー」 誰かが下品に笑った。「ああ、分かった!自分でエロ動画でも撮って金稼いだんだろ?それでバレるのが怖くて、誘拐されたって言い訳したんじゃない?」

「そうよ、どう頑張っても慎には釣り合わないくせに!」

「並木様は大富豪の息子よ、あなたなんかと比べるのも失礼」

理奈は鼻で笑った。 「大富豪の息子?」

(あの並木慎のこと? 貧民街出身で、学費すら私が立て替えた人間が?)

(ブランド品は全部私が買った。上流パーティーに潜り込ませてあげたのも私。 それなのに、父と撮った写真を使って"資産家の息子"を名乗ってた詐欺師よ)

一度はその嘘を庇い、彼の哀れなプライドを守ってやった。

けれど今となってはーー吐き気がするだけ。

理奈は冷ややかに睨みつけ、「邪魔よ、どきなさい」と吐き捨てた。

すると、相手の数人が一斉に顔を真っ赤にして怒鳴った。 「何様のつもり!? この恥知らず!」

ちょうどその時、並木慎が人混みの向こうから現れた。

彼は眉をひそめ、教壇前まで歩み寄ると、まるで教師のような顔で理奈を見下ろした。

「理奈、君の家が貧しいのは知っている。でもいくら見栄を張りたくても、そんな動画で金を稼ぐなんて間違ってる。 このドレスだって……君には似合わない」

理奈はゆっくりと視線を上げ、そしてふっと笑った。 「誰が貧しいって? あなたのことを言ってるの?」

教室が一瞬、凍りついたように静まり返った。

誰もが息を呑み、信じられないという顔で理奈を見た。

かつて並木慎の前では息を殺していたあの山崎理奈がーー今、堂々と彼に言い返している。

「慎は"資産家の息子"なんだろ?もし彼が貧しいなら、この世に裕福な人なんていないはずだ!」誰かが焦って叫んだ。

「山崎理奈、頭おかしくなったんじゃない!?」

「うわっ、気持ち悪い!」

「ただの運転手の娘のくせに、並木様がいなければ家族そろって飢えてたくせに!よくそんなこと言えるね!?」

その言葉に、理奈は冷たい笑みを浮かべ、慎をまっすぐに見据えた。「私がーーあなたの家の運転手の娘?」

慎の顔色がさっと変わった。冷え切った声で言う。「話を逸らすな。今すぐその服を脱げ。恥を晒すな!」

理奈は面倒そうに目をそらし、「もし嫌だと言ったら?」と淡々と返す。

すると、今まで慎を持ち上げていた生徒が立ち上がり、彼女に掴みかかった。「この小娘、嫌だって?じゃあ私たちが脱がせてやる!」

数人の手が同時に理奈へと伸びた。

だが、理奈は一歩も引かない。その目には冷たい光が宿っていた。

最初に飛びかかってきたのは、いつも威張り散らしているクラス委員。理奈は退くどころか、逆に踏み込み、左手で相手の腕をはじき飛ばすと、右拳を鋭く振り抜いた。

「ーードン!」

重い音が響き、クラス委員は呻き声も上げられず、後ろへと崩れ落ちた。

その場にいた数人が息を呑み、次の瞬間、怒声を上げて一斉に突っ込んできた。

だが、理奈の動きはまるで幻のように速かった。

すれ違いざま、彼女の足が鋭く横に走り、二人目の脇腹に強烈な一撃を叩き込む。

男は呻きながら床に倒れ込み、息をするのも苦しそうだった。

「な……なんで……理奈が、あんなに強いの!?」 誰かが呆然と声を上げた。

理奈は裾を直しながら、何事もなかったかのように立っていた。

その目は氷のように澄み、全員を順に見回してーー最後に慎を射抜いた。

「……」彼女は静かに笑う。慎はその笑みに、なぜか背筋が冷たくなった。彼は汗をぬぐいながら咳払いをした。「理奈……君は見栄っ張りだな。ドレスを着たいなら着ればいい。 でもーーお金は俺に言えばいいじゃないか。もうあんな方法で稼ぐなよ」

床に倒れた生徒たちはうめき声を上げ、数人は泣きながら慎の足元に這い寄った。

「並木さん、どうか私たちの味方を……!」

「そうだよ!早く理奈を懲らしめてよ!」

「彼女、前はあなたに逆らえなかったでしょ!?」

その言葉を聞いた途端、慎の顔に自信が戻った。

そうだ。山崎理奈なんて、自分の命令ひとつで動く存在に過ぎないーーそう思ったのだ。

「理奈、彼らも悪気があったわけじゃない。 君がこんなに暴れたんだから、ちゃんと謝るべきだ。 ……そうだ、ちょうど昼飯の時間だし、みんなに食事をおごって謝るといい」

そう言い捨てると、慎は理奈の顔も見ずに背を向け、スタスタと歩き出した。

彼の頭の中には、(理奈はどうせ、いつもみたいにすぐ追いかけてくる)という確信があった。

けれどーー理奈は、ただ小さく笑っただけだった。

これまで並木慎は学食を嫌い、 いつも外の高級レストランで食事をしていた。

もちろん、その支払いは毎回彼女だった。

山崎理奈がいなければ、並木慎にはまともな昼食ひとつ払う余裕すらない。

理奈は何も言わず、静かに校門を出た。

それを見た生徒たちは鼻で笑いながら囁く。ーー「やっぱり、あの子は慎に従うのね!」

「そうよ、全部彼の気を引きたいだけだわ」

レストランに着くと、理奈は落ち着いた様子で席に座った。

少し遅れて、慎は西田羽美たちを連れてやってきたが、彼女の隣に座るのは嫌なようだった。

それでも、彼は当然のように理奈のテーブルに置かれたメニューを取り上げ、指で示した。ーー「俺はフォアグラのキャビア添えと、エスカルゴのグラタン、それに黒トリュフのハムとロブスターパスタ。 他のみんなも好きな物を頼めよ」

同級生たちはわざと高い料理ばかりを選び、ひそひそと笑い合った。「これだけ頼んで、あの女、払えるのかしら? 破産でもしたら笑えるわね」

慎も得意げに口角を上げた。

やがて、豪華な料理が次々と運ばれてきて、 クラスメイトたちはもう我慢できないといった顔で、よだれ零れそうにして我先にと箸を突っ込み、むしゃむしゃ頬張った。

理奈は黙って彼らの食事を見つめ、 全員が食べ終わって席を立とうとする頃になって、ゆっくりと手を拭った。

ウェイターが伝票を持ってくると、慎は当然のように彼女を指さした。 ーー「会計は彼女に」

伝票を受け取った理奈は、一瞥もせずにふっと笑った。 「この料理、私は一口も食べていないわ。どうして私が払うの?」

慎は一瞬ぽかんとしたが、すぐ顔を真っ赤にして叫んだ。 「理奈!おごって謝るって言っただろ! 何言ってるんだ!」

「私はたまたまここに食事に来ただけ。誰があなたたちをおごるなんて言ったの?」

慎の顔はみるみる赤くなり、言葉が喉に詰まった。

ウェイターは困惑しながら周囲を見回した。「えっと……どなたがお支払いを?」

慎はポケットを探ったが、中は空っぽだった。

支払いなど、できるはずがない。

同級生たちも伝票を覗き込み、息をのんだ。 ーー金額は、彼らのひと月の生活費よりも高かった。

西田羽美がすぐに甘えた声で近寄った。「ねえ、理奈、払ってよ。普段慎があなたにどれだけお金使ってると思ってるの?」

他の生徒たちも次々に同調する。「そうそう、理奈の生活費は並木様が出してるんでしょ?ここでケチるの?」

「あんなに得してるのに、一食おごるくらいで文句? 本当に貧乏人ね!」

「並木様は運が悪かったわ、あんな女と付き合うなんて!」

その瞬間、理奈は堪えきれずに笑い声を上げた。

なんて滑稽な話だろう。

並木慎ーー学費すら彼女が払い、ブランド物も全部彼女の金で買っていた男が、 自分が"養っていた"と吹聴しているなんて。

「そう? 彼が私にお金を使ったって?じゃあ証拠を出して。 送金記録でも、レシートでも。 どれでもいいわ。 彼が私に一円でも使った証拠を見せてみなさい。 出せないなら、名誉毀損で訴えるわよ」

慎は怒りに震え、両手をテーブルに突き出し、身を乗り出して低い声で怒鳴った。 ーー「山崎理奈!いい加減にしろ! これが最後のチャンスだ!今すぐ払え! さもないともう二度と構わないからな!」

「それでいいわ」 理奈は冷ややかに顔を上げ、はっきりと告げた。 「私たちは終わりよ。 ーー今この瞬間から、あなたとはもう何の関係もない」

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