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全力で、お仕置きの時間です の小説カバー

全力で、お仕置きの時間です

婚約を控えた夜、私は残酷な真実を知った。三年間愛し抜き、家政婦の息子から大富豪の御曹司へと押し上げた婚約者は、今も初恋の女性を想い続けていたのだ。彼は初恋の人が私に窃盗の罪を着せるのを黙認し、あろうことか誘拐犯を雇って私の尊厳を奪おうとした。電話越しに「あのブスは好きにしていい」と冷たく放つ彼の声を聞き、私は絶望の果てに笑った。醜く愚かな女を演じていたせいで、彼は私が本物の大富豪の令嬢であることを忘れてしまったらしい。もう演技は終わりだ。田舎者と嘲笑うクラスメイトの前で真の美貌を晒し、成果を盗んだ女のプロジェクトを根底から潰してやる。権力を振るう元婚約者には、彼の父親を跪かせて報復する。正体を現した私の背後には、大富豪の父、伝説の神医、そして世界を牛耳る軍需帝国の後継者が控えていた。軍需帝国の主が私を抱き寄せ「俺の妻だ」と宣言したとき、全てを失った元婚約者は正気を失い、涙ながらに復縁を乞う。しかし、私に慈悲など残っていない。今こそ、彼らに相応しい地獄を見せるお仕置きの時間だ。
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3

「……何だって?」

並木慎はその場で体を固まらせ、瞳が見開かれ、さっきまでの尊大な表情が一瞬で崩れ落ちた。

その瞬間、周囲はざわめきに包まれた。

おべっかを使うのが得意な数人のクラスメートが、わざとらしく甲高い声を上げた。

「理奈、今日はずいぶん着飾ってるじゃない。結局、並木さんに見てもらいたいだけでしょ? ーー演技もほどほどにしなさいよ!」

「そうよ、自分を何様だと思ってるの?あんたなんかが"別れる"なんて言葉、口にしていい身分なの?」

「並木さんに選んでもらったことに感謝して、土下座して礼を言うべきよ!」

けれど山崎理奈は、彼らの声など耳に入らないように、落ち着いた動作でメニューを取り上げ、 ゆっくりと料理を選び始めた。

一通り注文を終えたあと、彼女は顔を上げ、青ざめた慎の顔を見据えた。 「まだ突っ立ってるの? ーーあなたの顔を見てると食欲がなくなるわ」

確かに、並木慎は見た目だけなら整っている。

深い目元に背筋の伸びた姿、その外見に惹かれてしまったのは事実だ。かつての彼女は"貧しいけれど努力家"という幻に騙され、同情すらしていたのだ。

だが、今目の前にいる並木慎は違う。

立っているだけで滑稽で、惨めで、かつて恋に落ちた男の面影などどこにもなかった。

もはや、彼は理奈が注いできた真心に値する人間ではない。

慎は奥歯を強く噛みしめ、胸の奥に渦巻く怒りを必死で抑え込んだ。 「……理奈、いいさ。どうしてもそうしたいんだな? ーー好きにすればいい。ただ、後で泣いても知らないぞ」

クラスメートたちはすぐに騒ぎ出した。

「そうだよ!並木さんは大富豪の息子なんだ。彼を好きな子なんて、校門の外まで行列よ!」

「明日にはラブレターで机があふれるに決まってる!」

「そのうち土下座しても、もう振り向いてもらえないわね!」

そこへ西田羽美が、まるでタイミングを計ったように前へ出てきた。「理奈、意地張らないで……早く慎に謝りなさい?」

そう言いながら彼女は理奈の腕を取ろうとしたが、 理奈は軽く身を引いてそれを避けた。

羽美は驚いたように瞬きをし、そのまま足がもつれて床に倒れ込んだ。

膝を擦りむいたらしく、血がじわじわと滲み出してくる。

慎は慌てて駆け寄り、ほとんど転びそうになりながら羽美を抱き上げた。

周囲の生徒たちは一斉に怒りを爆発させ、指を突きつけて叫ぶ。

「なんて酷いの!良心ってものがないの!早く羽美に謝りなさい!」

「自分のクラスメートを傷つけるなんて!嫉妬してるんでしょ、羽美の方が何でも上だから!」

理奈は、そんな中でふっと笑いを漏らした。「……西田羽美、私、あなたに触れてもいないのに、どうして転んだの? ーーその演技力、映画の賞でも狙えるんじゃない?」

慎は鋭い視線を向けて怒鳴った。 「みんな見てたんだぞ!お前がわざと避けたせいで羽美が転んだんだ!ーーまだ言い逃れする気か!」

羽美は慎の胸元にすがりつきながら、か細い声で言った。 「理奈は……前に私が彼女の研究成果を盗んだって言ったこと、まだ怒ってるのよ。ーー慎、もう一度なだめてあげて?」

慎は鼻で笑った。 「なだめる?必要ないね。どうせ放課後には"ごめんなさい"って泣きついてくるさ。いつもそうだっただろ?」

そう、彼は慣れていた。

彼女の下手に出る態度も、限界のない譲歩も、すべてが当たり前になっていたのだ。

だからこそ、理奈の反発など取るに足らない気まぐれだと思っていた。

彼女の怒りなんて気にすることないーー。

「理奈、今すぐ羽美に薬を買ってこい!」

ちょうど料理が運ばれてきた。湯気の立ちのぼる中、理奈はまぶたひとつ動かさずに箸を取り、淡く微笑んだ。

「悪いけど、私は食事中よ。ーー誰が怪我をさせたのか、その人が買いに行きなさい」

「な、なんて冷たいの……信じられない!」

周囲は一気に騒ぎ出した。

「山崎理奈、あなた本当に人間なの? ーー羽美が痛がってるのに!」

「気取ってんじゃないわよ!前は並木さんに尻尾振ってたくせに、今さら偉そうにしないで!」

「やっぱり下品ね、少しも同情心がない!」

理奈が黙って食事を続けるのを見て、慎は歯を食いしばり、羽美を抱いたまま出口へ向かった。だが、店主が警備員を連れて立ちふさがった。「お客様、まだお会計を済ませていません。どこへ行かれるんです?」

振り返った慎は、怒りに震える声で理奈の名を呼んだ。「ーー山崎理奈っ!」

けれど理奈は聞こえぬふりをして、ゆっくりとフォークを置き、涼しい声で言った。「たとえ警察が来ても、その支払いは私とは関係ないわ」

見かねた生徒のひとりが、小声で言う。「もうやめようよ……理奈、多分お金がなくて払えないんだよ。今は羽美の怪我を治すのが先じゃない?」

「そうだよ並木さん、あなた大富豪の息子なんでしょ?ーーこのくらいの金額、痛くもないでしょ?」

その言葉に、慎の顔が一瞬でこわばった。額には冷や汗が浮かぶ。

抱きしめられた羽美が、タイミングを見計らったようにすすり泣いた。「慎……痛いの……もう、無理……」

みんなの視線が集まる中で、慎は凍りついたように立ち尽くした。

そのとき、理奈は静かに食器を置き、皮肉な笑みを浮かべて言った。「ねぇ、慎ーーまさか、払えないんじゃないの?」

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