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全力で、お仕置きの時間です の小説カバー

全力で、お仕置きの時間です

婚約を控えた夜、私は残酷な真実を知った。三年間愛し抜き、家政婦の息子から大富豪の御曹司へと押し上げた婚約者は、今も初恋の女性を想い続けていたのだ。彼は初恋の人が私に窃盗の罪を着せるのを黙認し、あろうことか誘拐犯を雇って私の尊厳を奪おうとした。電話越しに「あのブスは好きにしていい」と冷たく放つ彼の声を聞き、私は絶望の果てに笑った。醜く愚かな女を演じていたせいで、彼は私が本物の大富豪の令嬢であることを忘れてしまったらしい。もう演技は終わりだ。田舎者と嘲笑うクラスメイトの前で真の美貌を晒し、成果を盗んだ女のプロジェクトを根底から潰してやる。権力を振るう元婚約者には、彼の父親を跪かせて報復する。正体を現した私の背後には、大富豪の父、伝説の神医、そして世界を牛耳る軍需帝国の後継者が控えていた。軍需帝国の主が私を抱き寄せ「俺の妻だ」と宣言したとき、全てを失った元婚約者は正気を失い、涙ながらに復縁を乞う。しかし、私に慈悲など残っていない。今こそ、彼らに相応しい地獄を見せるお仕置きの時間だ。
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痛みが走ったーー頭の奥で何かが裂けるような、鈍く重たい痛みだった。

脳が引きちぎられるみたいに、思考すらまとまらない。

山崎理奈はまぶたを重く持ち上げ、ぼやけた視界の中で、少し離れた場所に立つ数人の男たちを見た。彼らはスマホをスピーカーにして囲み、何かを話している。 「人質は確保しました。次はどうすれば……」男の声が震えていた。

電話の向こうでは、並木慎が眉を寄せ、流れるようなカルテニア語でその言葉を遮った。「不便だ。もっとわかりにくい言語で話せ」

誘拐犯たちは顔を見合わせ、しばらく考え込んだ末、ぎこちないカルテニア語で言った。「並木様、この女はどうしてあなたの怒りを買ったんです? どう扱えばいいんです?」

「……あいつは俺の好きな人の研究を盗んだ。どうしようと構わない」慎は冷たく言い放った。 「ただし、手加減はするな。羽美の気が済んだら、すぐに1000万円を振り込む。 動画を撮って送ってくれ。学校の掲示板に上げて、全員にあいつの醜い素顔を見せてやる」

そのカルテニア語の一言一言が、理奈の頭の中で自動的に日本語へと変換された。

内容を理解した瞬間、彼女の血の気が一気に引いていく。

――誘拐を仕組んだのは、並木慎だった。

学費を払い、ブランド腕時計まで買ってやり、すべてを捧げた相手。その彼氏こそが黒幕だったのだ。

理奈は無意識に唇を噛みしめ、鉄の味が口の中に広がった。

誰も知らない。彼に近づくために、彼女はずっと前からカルテニア語を独学で覚えていた。

だからこそ、慎と誘拐犯のやり取りがすべて聞き取れてしまった。

電話越しの言葉が、一本一本の釘になって彼女の胸を刺す。

胸の奥で封じ込めてきた記憶が、絶望とともに溢れ返った。

理奈は大財閥の一人娘で、慎はその家で働く家政婦の息子だった。

あの年、慎は母親に付き添われて初めて理奈の家の別荘にやって来た。陽の光の中、白いシャツを着た少年の姿が、彼女の目に焼きついた。

その一瞬で、並木慎という名前は彼女の心に刻まれた。

けれど、その想いはずっと胸の奥に隠してきた。

身分の差が大きすぎたのもあるが、 それ以上にーー彼の視線が、いつも別の少女を追っていたからだ。

その少女、西田羽美。慎と幼い頃から一緒に育った幼なじみだった。

彼は羽美への想いを隠さず、まるで宝物のように彼女を守り続けていた。

18歳のとき、慎は羽美を庇って交通事故に遭い、片足の骨を折った。

だが羽美は罪を逃れるように姿を消した。

慎の両親は仕事に追われ、病院での7か月間、彼を支えたのは理奈だけだった。

冬から夏まで、深夜から夜明けまで、冷たい汗を拭き、 震える体を抱きしめたのも彼女だった。

退院の日、慎はそっと彼女の手を握った。

だがその後、羽美は再び彼のもとに現れ、頻繁に近づくようになった。

理奈の胸に、言葉にできない不安が広がった。

やがて羽美は理奈にささやいた。「慎はね、あなたが完璧すぎて疲れるの。私と一緒にいる方が落ち着くのよ」

その言葉を信じた理奈は、自分の語学の才能を隠し、富豪の娘という身分を隠し、高価な服を脱いで、あえて地味な格好をした。

ーーただ、彼の隣にいられるように。

だが婚約前夜、羽美は涙ながらに「理奈に研究を盗まれた」と訴えた。

慎は何も確かめもせず、すぐに理奈を犯人扱いし、誘拐を仕組んだ。

「ツーツー……」無情な音が響き、電話は切れた。

男たちは電話を置くと、歪んだ笑みを浮かべた。

理奈は怯えたふりをしながら一歩ずつ後ずさり、目線だけで逃げ道を探った。

「放して……放してくれたら、2000万円は約束するわ……」彼女は震える声で懇願した。

誘拐犯は大笑いし、彼女の髪を乱暴に掴もうとした。 「ははっ、こんなブスが金持ちだって? 並木様がお前を選んだだけでもありがたいと思え!」

その瞬間、理奈は身をひるがえし、膝を勢いよく相手の腹へ叩き込んだ。

男が苦痛に顔を歪めた瞬間、彼女は左手を鋭くひねって力を込めた。

小さな「カチッ」という音が二度鳴り、縛っていたロープが一瞬で緩んだ。

理奈は体をひねり、関節を外してから素早く元に戻す。

その動きは稲妻のように速かった。

「お、お前……どうやってーー」男たちは目を見開き、息をのむ。

理奈は手首を回しながら、口角をゆっくりと上げた。「今度は、誰が誰に施してるか教えてあげる」

怒り狂った男たちが一斉に襲いかかり、太い腕を伸ばして叫んだ。「この女、殺してやる!」

理奈の瞳が鋭く光り、体をひねり、足を上げて蹴りを放った。

高いヒールが相手の胸に直撃し、 「ドン!」という音が響く。

男は悲鳴を上げ、糸の切れた人形のように吹き飛び、背中から箱の山に激突した。

もう一人が電撃棒を突き出したが、理奈は身をひねってかわし、そのまま掌底を相手の喉に叩き込む。

骨の砕ける音が重なった。

男は地面に崩れ落ち、電撃棒が彼の体の上で火花を散らし続けた。

周囲に敵がいないと確かめた瞬間、理奈の目に涙が溢れた。

それは恐怖ではなく、憎しみの涙だった。

頬を伝う熱い滴が落ちる。

「私の娘は爪を隠す必要などない」父の声が脳裏に響く。その言葉が、「女が強すぎると男は疲れる」という慎の言葉と激しくぶつかった。

理奈はようやく、すべてを悟った。

涙を拭い、瞳に決意の色を宿す。

慎が彼女を操り人形のように扱ったなら、この茶番は自分の手で終わらせるしかない。

彼女はスマホを手に取り、その数分後ーー。

黒塗りの防弾車が現れ、武装した家の護衛たちが倒れた誘拐犯を引きずり込んだ。

慎からの着信が画面に表示されたが、 理奈は一瞥しただけで切り、番号を迷わずブロックリストへ入れた。

そして、 ずっと避けていた父に電話をかけた。

「お父さん……前に話していた縁談の件、私、受けます」

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