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君が染める白黒の世界〜冷徹なる覇王と傷だらけの天才医〜 の小説カバー

君が染める白黒の世界〜冷徹なる覇王と傷だらけの天才医〜

幼い頃、炎の中で実母に突き放された夏川結衣。時を経て帰還した彼女を待っていたのは、家族からの冷酷な仕打ちだった。顔に傷を持つ「醜い村娘」と蔑まれ、妹の身代わりに政略結婚を強要された結衣は、家族への情を捨て去り決別を決意する。しかし、彼らはまだ知らなかった。彼女が宝飾界の巨匠に師事し、帝都病院長が後継者に指名する天才医であり、伝説的ハッカー集団を率いる首領であるという真実を。そして、その傷の下に息を呑むような美貌が隠されていることを。後悔に震え許しを請う家族の前に、裏社会までをも支配する財閥の覇者、清原京介が立ちはだかる。京介の瞳に映る世界は、感情を失ったかのような無彩色の白と黒。当初は身代わりの妻に無関心だった彼だが、結衣の存在だけがその視界に鮮やかな色彩を取り戻させていく。氷のように冷徹な覇王の心は、傷だらけの天才医が放つ輝きによって、熱く激しく溶かされていくのだった。
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3

華やかな宴会場。その喧騒の中に身を置きながら、結衣の心は午前中に遭遇した「銀色の仮面の男」に囚われていた。拭い去れない胸騒ぎが、さざ波のように心を掻き乱す。

その時だった。入り口の方がにわかに色めき立ち、誰かが声を潜めて囁きかけた。「見て、長谷川様よ……本当にいらしたわ!」

その一言が合図であったかのように、あれほど騒がしかった会場は水を打ったように静まり返る。人々は畏怖を込めて左右に分かれ、そこには吸い込まれるような一本の道が生まれた。

結衣もまた、弾かれたように顔を上げた。

そこには、ゆっくりと歩を進める京介の姿があった。上質な黒のシャツは端正な体躯をなぞるように完璧に仕立てられ、無造作に捲り上げられた袖口からは、しなやかな筋肉のラインが覗く。その佇まいは、圧倒的な王者の余裕を漂わせていた。

(……え?)噂に聞く「醜悪な怪物」とは、似ても似つかない。彫りの深い精悍な輪郭。鴉の濡れ羽色のように長い睫毛の下には、すべてを見透かすような鋭い瞳。すっと通った鼻梁から、剃刀のようにシャープな顎のラインに至るまで、それは冷徹なほど完璧な「美」だった。

「嘘でしょう……?あの方が、あの長谷川京介なの?」

「メディアに一切顔を出さないからって、まさかこれほどの美貌だなんて……」

「素敵……。でも、性格は残忍そのものだって聞くわよ」

「しっ、声を落として!逆らえば最後、生きては帰れないと言われる『氷の暴君』なのよ……!」

会場を支配するのは、陶酔と、それ以上に深い恐怖。

一方の結衣は、一筋縄ではいかない違和感に目を見開いていた。(……あの瞳。どこかで……)

刹那、二人の視線が真っ直ぐにぶつかった。

変……。

四目が交わった瞬間、京介の体が微かに強張ったのを、結衣は見逃さなかった。彼の瞳には、明らかな驚愕の色が浮かんでいる。

(……まさか、この顔に怯んだのかしら?)

だとしたら、苦労して施したこの「醜い特殊メイク」の勝ちだ。結衣は内心でほくそ笑んだ。

だが、京介の内面では、今まさに世界が作り替えられるほどの大嵐が吹き荒れていた。

「……葵生、あの女だ」

京介は、結衣を射抜くように凝視したまま、隣に立つ葵生に低く告げた。確信した。午前中、死の淵で自分を救ったあの女は、決して失血による幻覚などではなかった。

あの忌まわしい事故以来、京介の世界からは「色彩」が失われていた。

医師たちが「精神的トラウマ」と名付けた、永劫に続くかのようなモノクロームの世界。彼はとうに、その死んだも同然の灰色の日常に順応していたはずだった。

だが――目の前の女が、またもや奇跡を見せつけてきた。

「……本気か?」葵生が、信じられないといった様子で問い返す。

「ああ、間違いない。俺には、あの女の『色』が見える」 京介の喉から、震えるような吐息が漏れた。「……溢れているんだ」

結衣を中心に、鮮やかな色彩が噴水のように噴き出している。

彼女が手にするグラスは燃えるような金色に輝き、漆黒のドレスでさえ、彼の目には濡れたような艶やかな光沢を帯びて映る。

世界は依然として色褪せたまま。なのに、彼女の周囲だけが、目が眩むほどの極彩色に支配されていた。

「マジか……」葵生の表情から余裕が消え、真剣なものへと変わる。 「わかった。すぐに人を回して、彼女のすべてを洗わせる」

数多の名医が匙を投げた不治の病。その解決の鍵が、目の前の「忌み子」と呼ばれた女だというのか。

葵生はふと、現実的な問いを投げた。

「……それで、婚約はどうするつもりだ?」

京介の視線は、獲物を捉えた野獣のように結衣に縫い付けられたまま。彼は迷いなく、断定した。

「決まっている」

「何があろうと、この女と結婚する」

葵生は耳を疑った。たしかに彼女が「色彩」をもたらす存在だとしても、結婚までとは。

(……京介、お前、正気か?)

その時、恵子が、顔に媚びるような笑みを貼り付けて進み出た。「長谷川様、ようこそお越しくださいました!主人も息子も、まさかこれほどお早いお着きとは存じ上げず、すぐにこちらへ参りますので!」

恵子は捲したてるように言うと、結衣の背中を強引に前に押し出した。

「まずは、こちらの結衣をご覧いただけますでしょうか。長谷川様とは幼い頃にお会いしたことがあるのですが……。 本来、ご縁を結ぶはずでしたのもこの子でして。行方知れずとなっておりましたが、この度ようやく戻ってまいりました。つきましては、婚約も当然この子が……」

恵子は、あたかも「正当な形に戻っただけ」だと言わんばかりに、言葉巧みに「身代わり」の事実をごまかそうとしている。

その傍らで、次女の奈緒は、顔を真っ赤に染めて立ち尽くしていた。

(嘘……長谷川京介……

素敵……)

その圧倒的な美貌を目にした今、あの「醜い不気味な姉」に彼を譲ってしまったことを、奈緒は激しく後悔し始めていた。

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