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THE END OF THE WORLD ー世界の果てにて…ある少年の物語ー の小説カバー

THE END OF THE WORLD ー世界の果てにて…ある少年の物語ー

2110年、第三次世界大戦を経た大日本帝国は、4大財閥が権力を独占する極端な格差社会と化していた。戦争で両親を失い、施設で育った15歳の少年シーナは、戦争遺児への差別や暴力にさらされる過酷な日々を送っていた。ある日、暴行を受け絶望の淵にいた彼は、謎の男ヒデとの出会いを機に、世界中の若者が熱狂する仮想空間オンラインゲーム『FRONTIER』へと導かれる。端末を通して脳神経をシンクロさせる「ダイブ」により、仮想世界での戦いに身を投じるシーナ。仲間との絆や恋を知る中で、彼は自身の不遇な運命と向き合い、少年から大人へと成長を遂げていく。そして彼は仲間と共に、未だ誰も踏破したことのない最終フィールド「虐殺の門」の攻略という壮大な目標を掲げ、過酷な現実に立ち向かう。しかし、その虚構の世界の裏側には、現実をも揺るがす恐るべき秘密が隠されていた。シーナの視点から描かれる、葛藤と希望に満ちた未来型青春群像劇が幕を開ける。現実と仮想の狭間で、彼は生きる意味を見出していく。
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2110年。中学の卒業式の後、仲間と電気街に遊びにきた。そして迷彩服を着た四人組にカツアゲをされた。仲間は一目散に逃げ、俺一人がボコボコにされ、有り金すべても奪われた。あの迷彩四人組はFRONTIERのプレイヤーでパーティーだ。お揃いの迷彩に『BLACK EMPEROR』の刺繍。鼻血を垂れ流し、顔を腫らした俺に、長身ボサボサ頭の男が声をかけてきた。

「もう…お金ありませんから!!」

俺は思わず叫んでいた。ヒデと名乗ったこの男は、俺の腕を掴み起き上がらせた。

「どこからきた?なにがあった?」

俺に現状を説明させるヒデと言う名の男。まさか私服の警察か?俺はとりあえず事情を説明した。

「よしわかった。」

ヒデはそう言うと、後ろにいた仲間らしき男に、

「おいダイキ。ここまで車回せ。」

と指示を出した。ダイキと言われたメガネの男は、少し笑みを浮かべ軽く手を挙げその場を去った。金もなく、途方に暮れるしかなかった俺は、この素性もわからない胡散臭い男に従う他に術がなく、ダイキの運転するボコボコの軽自動車に乗った。

4ドアの後部座席で震える俺にお構いなく、ヒデとダイキは『今日のミッション』について語っていた。なぜこの人たちは町でボコられたガキを保護して送ってくれるのだろう?大きな疑問を思案しながら約40分のドライブが続いた。徐々に見慣れた風景が目に入り、無事に施設の前に車は止まった。安心した俺は急いで礼だけ言い車を降りようとしたが、ヒデが呼び止める。

「明日、俺の端末に連絡してこい。お前を襲ったた奴らを探して回収してやるからな。」

そう言うとヒデは端末ナンバーを紙切れに殴り書きして俺に渡した。

「ところでおまえ名前は?」

ヒデの問いに、

「椎名…椎名真琴です。」

と答え施設に飛び込んだ。

二度と電気街に近くづくまいと固く決意をして、その夜ベッドに入った。だが目を閉じると、浮かぶのはヒデと言う男の顔だった。なぜあの男は俺に声をかけ、親切にも家まで送り、さらに金まで取り返してくれるなんて言うのだろうか…。今の時代、一番信用してはいけないものは人間である。戦勝国で経済は戦後から上昇を続けているが、それに反比例するように人々の生活に格差を生み、失業率は毎年上がり路上生活者や自殺者も年々増えていた。国から援助が出る俺のような戦争遺児は人々からやっかみを買い、施設の子供はイジメの対象になっている。そんな時代、ヒデと言う人間の行動が不可解以外なにものでもないのだ。俺はポケットに手を突っ込み、ねじこんでいたヒデの端末ナンバーを出し、クシャクシャになった紙をきれいに広げはじめた。

翌朝、施設の電話の前で俺は悩んでいた。ヒデの端末ナンバーの書いた紙切れを何度も確認しながら。だがその作業も20分程で、打ち切られた。

「お客さんだけど…」

職員が俺を呼びにきたのだ。今までこの施設に俺を訪ねてきた人間は、政府の福祉課と姉だけだ。

玄関に行くとロングの髪を真っ赤に染め上げ、タンクトップから出た肩に翼の生えた青い羽根のタトゥー、そしてボロボロのブラックジーンズをまとった若い女が立っていた。

「えっと…あなたは誰ですか?」

戸惑いを見せる俺に、その女は少し笑みを見せ、俺の手を引っ張った。

「私はアサミ。ヒデが待ってる。行こっ!」

女は甘ったるい声で言うと、さらに引っ張っる力を強めた。

「ヒデ…!?」

焦る俺を女は容赦なくさらに引っ張っる。すると女の後方から一人の男が駆け寄ってきた。ダイキだった。

ダイキは女の手を掴み、少し強い口調で言った。

「おい!?アサミ!!手荒な事をしてはダメだ。ここは現実でFRONTIERじゃないんだぞ!」

だが目は笑っている。なるほど…この女もヒデの仲間か。俺はダイキの顔を疑視した。

「いや、すまんすまん。驚かせてしまったね。」

ダイキは楽しそうに言う。黒縁メガネで黒い真ん中分けした髪型に優しそうなあっさり顔。

「早く支度をしてくれ。僕とアサミは車で待っているから。」

「支度ってどこへ!?」

「電気街さ。昨日キミからカツアゲした奴らを見つけた。今、ヒデともう一人の仲間で張ってる。」

「そんな事言われても…」

躊躇する俺にダイキは少し厳しい視線を送った。

「悔しくないか?」

ダイキが放ったこの一言が、俺の感情に火をつけた。

「悔しいに決まってるじゃないですか!!」

俺は今まで感情を殺して生きてきた。戦争遺児はやっかまれる。悔しい思いや侮辱にまみれた差別にずっと我慢をしてきた。

俺の大きな声に、ダイキは再び笑顔に戻った。

「だったら取り戻しにいこう。キミが無くした金とプライドをね。」

ダイキの優しい声に俺は我に帰り、なにかを吹っ切れた感じが沸き上がった。

もうどうにでもなれ。

俺は部屋に戻り、身支度を整えダイキの車に乗った。

「帝都大学!?」

車の中でダイキの素性を知った。国立帝都大学の生物学部にいるのだと言う。帝都大学は、この大日本帝国一の天才大学であり、卒業生は必ず将来、その分野の要職が約束されている。

「これしか取り柄がなくてね。」

ダイキははにかんだが取り柄で帝都大学に行けるなら、それは才能でしかない。

なぜこんな男が電気街をうろうろしているのだろうか?そして赤毛のアサミはタバコをふかして音楽を聞いていた。イヤホンから漏れる音は、聞いたことのない英語の歌だった。俺はいつの間にか、このダイキに心を許していた。もしかしたら彼も、この時代の中で想像以上の苦労をしてきたのかもしれない。アサミもそうだ。無邪気に振る舞っているが、なんだか俺と同じ匂いがしてならなかった。今まで味わった事のない不思議な感覚を抱いたまま車は電気街に到着した。

ビルに入るとまず広いロビーがあり、並んだ無数のソファーには人が溢れごった返していた。ダイキは人の波を慣れた足並みで潜り抜けている。俺はこのむせ返る空気に圧倒され、アサミの手に牽引されるがまま人混に突入した。ロビーの一番奥に喫煙室があり、その扉付近にヒデがいた。

「よう。来たな。」

ヒデは俺に軽く手を挙げ髭面は笑みだった。

「昨日はありがとうございました。」

昨日の礼も言うと、

「まだ礼は早いさ。しっかり回収してからだな。」

とヒデの顔がマジになった。

「リョウは?」

ダイキがヒデに問う。

「ああ、リョウは対象を張っているよ。どこのフィールドに入るか突き止めないとな。」

どうやらリョウと言うのが四人目の仲間らしい。そしてそのリョウは、話の流れ的に解釈すると俺を襲った奴らを張っているそうだ。

ダイキは端末を取り出し、

「名前は椎名 真琴くんだったよね?」

と聞く。

「はい椎名です。」

「オッケー。じゃあ登録ネームはシーナね。次は…。」

ダイキの作業にヒデが口を挟む。

「アバターはSで、初期パラはスピード重視でな。初心者は動きやすい方がいいだろう。」

よくわからないが、まぁ黙っていよう。しばらくしてダイキが、

「よし、完了。キミの端末ナンバーを教えて。IDを転送するから。」

と納得の表情で俺に聞いてきた。

「携帯端末は持っていません。」

当たり前だ。施設暮らしで未成年の俺が端末なんか持てるはずがない。

「わかった。紙に書くから、ブースに入ったらセルフで入力してくれ。」

ダイキは財布からコンビニのレシートを出し、そこに数字を書き込み俺に渡した。

ダイキの作業はまだ続く。

「次は…キミのプライベートページから…パーティー申請…よし。ログアウトして…パーティーページにログイン。申請許可…。オッケー。準備完了。」

手慣れたように一通りこなし、ダイキは俺に親指を立てた。

「ダイキ、俺のストックからM4と弾をシーナに渡せ。相手の戦力がわからんにせよ初期の装備じゃ心許ない。」

ヒデの指示で、再びダイキは端末を操りはじめた。

「わかった。ヒデのM4をシーナに装備させる。ついでに僕のコルトも渡しておこう。」

完全に理解できていない俺をおいてきぼりに、話が進んでいく。

「ターゲットはR-DフィールドNO39に入るみたいよ。」

背後からの声に俺はすぐさま振り向いた。そこには黒髪の長い髪、色白で端正な顔をした長身細身の女が立っていた。

「リョ~ウ!!」

アサミが駆け寄り女に抱き着いた。

俺はリョウって名前で、てっきり男だと勘違いしていた。

リョウは俺を見て、

「あなたが西地区の施設の子?」

と、不機嫌に言った。

「あっ…はい。」

俺の返事に、リョウはため息をひとつ漏らしてこう言った。

「はっきり言って、私はこういう事は乗り気じゃないの。ただパーティーリーダーがやるって言うから付き合ってあげる。」

『こういう事』自体を把握してない俺は、返答を詰まらせた。ただひとつ把握したことは、このリョウって女は見た目はかなりの美人だが、極めて気の強い女であると言う事だ。

「まぁまぁ、あんまりいじめるなよリョウ。じゃあ早速ミッションに入ろう。」

ヒデはリョウを嗜め、全員に促した。

ヒデがロビーの天井からぶら下がる大きなモニターを見ながら、

「よし。今、四階のブースに空きがあるから、先にダイブして待ち伏せよう。」

と、指示を出す。

「あの…俺はなにをすれば…?」

俺の問いに、

「今からキミがすべき事をチュートリアルするから、よく聞いてくれ。」

ダイキが俺にいろいろ説明をしてくれた。聞けば単純だが、俺にできるだろうか。

「じゃあTHE END OF THE WORLD出陣だ。」

ヒデの声で全員が動き出した。

ロビーを抜けると幾つも扉の並んだフロアへ出た。エレベーターに乗り四階へ行くと、同じように扉が並び、ヒデの指示で一番奥の扉に入った。ここがいわゆるブースであり、2メートル四方の個室で、中央にリクライニングシート、その横になにかの機材と小さなモニターがあった。

俺はダイキの指示通り、機材のテンキーからIDとフィールドナンバーを入力。リクライニングに横たわり、機材からコードで繋がれているリストバンドとフルフェイスのヘッドギアを装着した。それは一瞬の出来事だった。頭の中が真っ白になり、意識が飛ぶ。

だがその次の瞬間、俺は見知らぬ街の真ん中に立っていた。

まさに『立って』いるのである。俺はつい数秒前に、FRONTIERのブースに横たわった。だが数秒後には、まるで瞬間移動したかのように雑踏の中に立っていた。周りを見渡し、確信した。ここがFRONTIERの仮想空間なのだと。

まさかここまでリアルに自分の体を操る事ができるとは…。深いグリーンの軍服を着た俺は、同色のヘルメットを被り、肩には銃をかけ人波に逆らうように歩いていた。少しセピア色の町並みは、中世のヨーロッパのような景色を広げ、今いる広場のような場所には円形の噴水があり、戦闘服を着た多くの人間が溢れている。人類の歴史はまさに『戦争』と共にあったと言っていい。争いの中で、人類は進化と成長を続けてきたのだ。その足跡を知るもののひとつ、それは兵器である。いわば人類の財産とも言うべき実際の兵器を装備し、このゲームのフィールドで戦っていくのだ。俺の肩からかけているのはヒデからもらったM4(アサルトライフル)。腰に装着されているのはダイキからもらったコルト(サイドアーム)。それなりにいっぱしの戦士の姿なのだが、これからどうしていいかわからず佇んでいたら、耳に装着されているインカムからヒデの声が聞こえてきた。

『全員ダイブしたな?俺とダイキとリョウはターゲットを探す。目印はBLACK EMPERORだ。必ずこの近くにいるはずだ。いいかダイキ、リョウ。見つけたら声をかけてパーティーバトルを持ち掛けろ。理由はなんでもかまわん。だが話がこっちに聞こえるようにインカムは入れとけよ。いいか?』

ダイキ『了解』

リョウ『OK』

『そしてアサミとシーナ。今の場所から大きな時計台が見えるな?そこを目指して行け。俺たちの合流ポイントはそこだ。あっ!あとシーナ、ここはニュートラルフィールドだ。敵はいない。間違っても発砲するなよ!いいな?』

アサミ『は~い!』

「はい!わかりました!」

俺も精一杯の返事をした。

時計台に向かい真っ直ぐ進むと、明らかにアサミの声で俺に女兵士が話し掛けてきた。

「シーナ!こっちこっち!」

アサミは軽装な戦闘服にコンパクトなアサルトライフル(MP5)、腰にこちらも小さなサイドアーム(ベレッタ)を装備していた。俺はここでひとつ気づいた事がある。

今、俺も現実の姿とは違うのである。ならなぜアサミは俺を認識したのだろうか?

「ねぇ…なんで俺の事わかったの?」

俺はアサミに聞いた。

「あは!シーナが着てる日本帝国の戦闘服。それはね初期装備なんだけど、普通はここのひとつ下のE級からはじめて、徐々にフィールドを上げてくるの。だからD級に初期設定の装備の人なんてほとんどいないよ。あとアバターサイズがSだから、私と目線が一緒でしょ。これだけの条件が揃っていたらシーナだってわかるよ。」

アサミの説明に納得した。確かに現実世界では、165センチの俺より10センチぐらいアサミは低かったはず。だが今は同じ目線で喋っている。

周りを見れば、確かにこの戦闘服を着ている人間はいない。、俺の質問は愚問に間違いないなく、このゲームでは常識なのだろう。アサミが続ける。

「でもね、戦闘服にもランクがあって、シーナの着ている初期設定の物でもこのフィールドでは充分大丈夫だよ。逆に火器装備は、私達パーティーの本来のB級で通用するやつだから、安心してね!」

俺はアサミの説明を聞きながらこれから始まるなにかに不安がこみ上げた…。

『あ?なんだお前は?』

突然インカムから野太い男の声が小さいボリュームで聞こえてくる。

『だからうちのパーティーとバトルしないって聞いてるの。報酬はこちらは3万ポイント。そっちはいくら出せる?』

リョウの声だ。

『リョウ、見つけたか。よし、ダイキと俺は時計台の下で合流だ。』

ヒデの声が聞こえてきた。

『わかった。すぐ向かう。』

ダイキの返事もインカムから聞こえてくる。

このインカムって装置は、おそらく登録されたパーティー内だけの通信機能なのだろう。それを思うと、リョウと話している相手の声が、小さく聞こえてくる事に、よりリアルを感じてならない。

『パーティーバトルやりたいって、お前レベル幾つだ。』

『私は7。』

『7だと!?なんでD級をウロチョロとしている?お前何者だ?』

『新人教育よ。フルパーティーでやりたいから新しいメンバーを入れたの。イーター相手のミッションより、バトルで練習した方が実践的でいいから。』

『なるほど、傭兵も良し悪しだしな…。わかった。こっちもまだ初心者のメンバーがほとんどのだから、バトルもいい経験になる。フルパーティーで人数も合うしな。ただオタクらは3万ポイント出すって言っても、こっちは半分しか出せん。これがハンデと言う事で

いいか?』

『大丈夫よ。じゃあ交渉成立ね。10分後にオープンフィールドで落ち合いましょう。こっちのパーティーネームはTHE END OF THE WORLD(エンドオブザワールド)よ』

『こっちは…』

『BLACK EMPERORでしょ。アバターの戦闘服にパーティーのロゴって、イモっぽくていいわ。それじゃあ後ほど。』

「交渉成立だ。リョウにしてはうまくやったな。」

俺の背後からヒデの声が聞こえ、振り返ると黒いフルフェイスのマスクに、同じく黒のメタルボディスーツを身に纏った大男が立っていた。

「ヒデさん?」

「おお?シーナ。懐かしいなその帝国兵の服。ダイキも来てるな。」

俺は再び振り返ると、俺より少し大きな体で、黒の戦闘服に鉄製のフェイスマスクで顔を覆った

男が立っている。

「今来たよ。」

ダイキの声だ。

「じゃあ、オープンフィールドに移動しよう。リョウ!お前もそこから直接行け。」

『わかったわ。』

「じゃあ、シーナ。今回のミッションを説明する。歩きながらだがちゃんと聞けよ。」

ヒデが説明し、ダイキが補足を入れる。なぜかその間、アサミが俺の手を引いて誘導してくれている。「迷子にならないように」だそうだ。二人の説明で、俺はFRONTIERのシステムや全貌を知る事になる。

まずこのFRONTIERと言う体感型仮想空間オンラインゲームは、パーティーでのプレイを前提に構築プログラムされていると言うこと。

これがひとつのキーワードであり、重要なポイントだ。ひとつのパーティーの最大登録人数は5人。ランクに合ったミッションをパーティーでコンプリートし、個人のレベルを上げ、ランクの難易度を上げる。ランクが上がればミッション・コンプリート時のパーティーボーナスも上がり、難易度が上がれば個人の得る経験値も上がる。極めて『向上心』と『野心』が求められるゲームなのである。

リョウの交渉の会話の中にあったフルパーティーとは『パーティーが5人いる』と言う意味。では『パーティーが5人いる』状況が普通であるかと言えば、決してそうではない。個人の経験値は、フィールド内で、個人が倒した敵の数やランクに応じて個人が得られるポイントである。だがパーティーボーナス(報酬)は、ミッション・コンプリート時にのみパーティーに支払われる。このパーティーボーナスは言わばパーティーの資産であり、パーティー運営を大きく左右させる。

下のランクで獲得できるパーティーボーナス(報酬)は少ない。このパーティーボーナスは現金化とメンバーへの経験値の割り振りに使われる。現金化した金はパーティーメンバーの次回の端末使用料金にあてられる。経験値はフィールド内ではどうしてもポイント獲得が少なくなる後方支援のメンバーへとステイタスポイントとして割り振られ、パーティー全体のレベルを上げる役目を支っている。だから少ないパーティーボーナスで、養えるパーティー人数は少ない方がいい。だが一人でも人数が多い方がミッション・コンプリートへ大きな有利になる事は言うまでもない。そこで残りの一枠を埋める傭兵と言う職業が存在する。傭兵とは、いわゆるフリーランスのプレイヤーで、どこのパーティーにも属さない者だ。正しく言えば傭兵なんて職業はオフィシャルではない。ソロプレイヤーに区分される。パーティープレイを前提に作られたこのゲーム内で、なんらかの事情によってパーティーに属さないプレイヤーも存在し、ひとつのミッションごとにパーティーと契約して報酬を得る。そう言う奴らをFRONTIERプレイヤーたちは傭兵と呼んでいるのだ。

そして傭兵がアバターサイズSのフォワードタイプが多い。

アバターには3種類のサイズがあり、その特性によりパーティーでの役割が違う。

まず一番小さいSは、前衛向きのスピードに秀でたアバター。しかし装備の数は3つまでで総重量が10キロまでしか持てない。

Mはフォワード(前衛)とスナイパー(援護)をこなせるオールラウンドプレイヤー。経験値の割り振りで、ある程度の自由な戦いができる。装備できる武器は4つ、総重量は15キロ。

そしてL。見た目からして大きなアバターで、持てる武器は4つだが、総重量に制限はない。重火器を持てるのはLサイズだけで、リベロはこのサイズしかできない。

言いかえるなら、傭兵と言う職業はフォワードでの需要が多く、かせられる仕事は極めて危険な前線でのアタック(突破)である。

少ないポイントの中で報酬を払うのだから、リスクとクオリティーの高い仕事を求められるのは仕方がない。

こう言う理由から、『パーティーが5人いる』状況はレベルの低いパーティーではデメリットが多く、使い捨てできる傭兵を雇用する事がパーティーのレベルアップへの近道とも言える訳だ。

ただ、傭兵になれないソロプレイヤーはどうするのか?

1、新たに現実世界で人を募りパーティーを組み直す。

2、FRONTIERを去る。

3、オープンフィールドを利用する。

大きくこの三つになる。1と2は説明不要だろう。問題は3だ。

このオープンフィールドが、FRONTIERのもうひとつの顔なのである。

オープンフィールドは各ランクのフィールドに設置され、FRONTIERのメインモードであるミッションフィールドとは別の目的で存在している。ミッションフィールドの敵がイーターと言われる『AI兵士』なのに対し、オープンフィールドはプレイヤーVSプレイヤーの戦いとなっている。このオープンフィールドにはフリーバトルという自由に使えるフィールドとパーティーバトルの2つの戦場に別れている。

パーティーバトルは文字通りパーティー同士のサバイバルゲームである。フィールド内には様々なシチュエーションが用意され、任意でルールを決め、開始される。パーティーバトルにおいて経験値やパーティーボーナスは発生せず、

お互いの資産からポイント賭ける。勝った方が、総取りとなるのだが、フィールドに立てばほぼ同条件で戦うため、力量に差のあるパーティーバトルではポイントの賭け金がハンデとしかなりえない。このパーティーバトルをメインでダイブしているパーティーも多く、まさにサバイバルゲームと言う趣味の場所でも活用されている。

このパーティーバトルが、俺の初めてのミッションになる。

俺達はニュートラルフィールドを西へ進み、突然フィールドが変わるフィールドチェンジをしてオープンフィールドへ出た。その瞬間、凄まじい爆裂音と乱射音が俺の鼓膜を響かせる。俺が踏み入れたこのフィールドはすでに戦場であり、市街戦をモチーフにした景色の中に銃を持ち、走り回る兵士の姿が多数見える。

「待ってたわよ。」

リョウの声のアバターがいた。俺より少し背が高いサイズMの女兵士。黒いボディースーツ、顔はノーマスクで長い金髪の美貌が見える。肩にはM16(アサルトライフル)、腰にはイングラム(小型機関銃)とコルト(サイドアーム)を装備。何より目立つのが、背中に見えるニホントウである。

「ダイキの言う通り、アバターの戦闘服にもBLACK EMPERORのロゴがあったわ。すぐにあいつらがわかった。」

とリョウ。

「よし、じゃあシーナの奪われた金を正当に取り返そう。みんな、準備はいいな?」

とヒデ。

「いつでもオッケー!!」

アサミの発声でパーティーの雰囲気が変わる。なにか楽しいことが始まるようなワクワク感。

パーティー全員が揃ったところで、ブルーの迷彩服を纏った五人組が近づいてきた。

「あんたらがTHE END OF THE WORLD(エンドオブザワールド)か?」

アバターサイズMの男が俺達に声をかける。

野太い声の男。コイツがパーティーリーダーだろう。

「ああ、そうだ。」

ヒデが答える。

「あんたがリーダーだな。とっとと契約して、始めようぜ。」

そう言うと野太い声は人差し指を自分の肩にあてた。すると指先に、まるでロールプレイングゲームのようなコマンド画面が現れた。宙に文字が浮き現れる様子を、俺は驚きの表情で見ていた。対峙するヒデも同じ仕草でコマンドを出し、契約を入力していた。俺は不思議な感覚に混乱していた。目の前の光景はまさに非現実的。しかし、この体の感覚はまさに現実そのもの。ここは仮想空間だとわかっていても現実のような錯覚を起こしてしまう。

「よし、契約完了だ。」

ヒデはコマンドを消す。

「おい!!B級パーティーってどういう事だ!?しかもハイプレイヤーがいるじゃないか!!リベロでレベル11って…こんな話聞いてないぞ!!」

野太い声が突然怒鳴りだす。パーティーバトルの契約が完了すれば、相手のステイタスが見れるのだ。戦力の差が想像以上だった事に怒りを爆発させている。

俺も試しに肩に人差し指をあててみた。すると俺達5人の名前や情報に画面が変わった。

THE END OF THE WORLD

パーティーランクB

登録サーバー JAPAN

HIDE SEX〔M〕パーティーリーダー

レベル11

HIGH PLAYER【JOB】VERSE

アバターサイズL

装備1:SCAR-H

装備2:FN ブローニング・ハイパワー

装備3:M1ガーランド

装備4:RPG7

RYO SEX〔F〕

レベル7

アバターサイズM

装備1:M16

装備2:コルト380

装備3:イングラムM11

装備4:ニホントウ陽炎

DAIKI SEX〔M〕

レベル7

アバターサイズM

装備1:XM8

装備2:S&W M39

装備3:S&W M39

装備4:MG42

ASAMI SEX〔F〕

レベル5

アバターサイズS

装備1:MP5

装備2:ベレッタ90TWO

装備3:スローインナイフ

SHEENA SEX〔M〕

レベル1

アバターサイズS

装備1:M4

装備2:コルトM1911

装備3:未装備

パーティー全員の情報が映し出された。

「くそ!!そのRPG(ランチャー)撃つんじゃねーぞ!!バトル開始は10分後だ!」

野太い声はそう吐き捨てメンバーに合図を送り歩いていった。それに続いて我々は逆方向に歩き出す。

「あの…俺の金を取り返すって…バトルで勝って相手から報酬を奪うって事ですか?」

俺はうすうす気づいていたことを恐る恐る聞いた。

「そうだ。」

ヒデが答える。

「じゃあ、負けたら逆に取られるんですよね!?そんな…俺返せませんよ!!」

俺のこの言葉にリョウが怒鳴る。

「は!?負ける!?あんな雑魚共に!?バカにするんじゃないわよ!!私達はねB級で戦ってる上位パーティーなのよ!!あんたみたいにウジウジ逃げ回っている臆病者とは違うの!!黙って後方で見てなさい!!」

このリョウの威嚇にダイキが割って入る。

「おいリョウ!!言い過ぎだ。それにシーナは臆病者じゃない。こうしてオトシマをつけにダイブしてきたじゃないか。今回だけかもしれないがシーナはパーティーだ。」

「は!?あんたいつからパーティーリーダーになったの!?私にいちいち説教たれないでくれる!?」

突然始まった二人の喧嘩。俺は責任を感じ二人に歩み寄ろうとしたら、アサミが腕を引っ張る。

「二人は戦場に入ったら凄いコンビなんだよ!」

アサミの言葉は説得力もなく、ただただ二人の言い争いは続いた。

ある程度好きにやらせていたヒデが、頃合いみて二人の間に入った。

「よし!!そこまでだ。作戦会議やるぞ。アサミとリョウが突っ込み、俺とダイキで援護。今日は自由にやっていいぞ。シーナは俺から離れるな。」

突然、作戦会議を始めたヒデ。作戦会議にしてはあっさりしたもんだ。だがすぐに興奮覚めやらぬリョウをアサミが手を引っ張り、フィールドの前衛に連れていった。

「すまないシーナ。見苦しいとこを見せた。」

ダイキが詫びる。

「いや…なんかすいません…」

逆に俺も詫びる。

「ハハハ!!いつもの事だ!気にするな。」

ヒデの高笑いで場が和んだ。

このフィールドは中東の市街戦をモチーフにした景色。もちろんCGによるものなのだが、すべてがリアルに見える。幅約20メートル、長さ約200メートルの路地でバトルをするのだ。遥か先には相手のパーティーが見え、すでに戦闘体制は整っているようである。他の路地からの乱射音が聞こえる中、バトル開始の時間を俺は震えて待っていた。

それは突然始まった。ダイキが腰の後ろに掛けてあったMG42を地に下ろし、スタンドを立て激しく連射を開始した。

その前方でアサミとリョウがアサルトライフルを乱射しながら前進する。

「パーティーバトルは最初の攻撃が大事だ。さあ、俺達も行こう。」

ヒデはガーランドを構え、一発放つ。敵のフォワードが躊躇して前に進出できずにいるのがわかった。この一本道での攻防は、相手の陣地を狭め行動範囲を制限する事で一気に制圧できる。

「シーナ!絶対弾に当たるなよ!ゲームだからってナメるな!ありゃ痛いぞ!現実の痛さに近いぐらいにな!」

ヒデは叫びながら確実にガーランドで敵の前進を防いでいた。その間もダイキのMG42は火を噴き続けていた。

『ヒデ!どうする!?一気に敵のテリトリーに入れた!このまま行く?』

インカムからリョウの声。

『まだだ!前衛はそのまま連射!ダイキ!MGをしまって前進だ!シーナついて来い!』

ダイキはすぐにMG42を腰にしまいアサルトライフルで連射しながら前進。ヒデもガーランドからアサルトライフルに替え、連射しながら前進を始めた。

敵も必死に連射を続けるが、明らかに我々がテリトリーを広げている。突然インカムからアサミの怒号。

『うおおおっ!おまえら全員キ○○マぶち抜いてやるぅぅぅ!』

アサミがな叫びを放ちながら連射を続けていた。

「おいシーナ!お前も撃て!」

ヒデの指示で俺はM4を構えた。誰にも教わっていないのに体が勝手に動く。

『味方を撃つなよ!』

ダイキの声がインカムから聞こえる。俺は敵の足元を狙って初めて引き金を弾いた。弾丸は地を撃ち砂煙りを上げる。それを合図に一気にアサミとリョウがさらに前進する。

『待て!なんかおかしいぞ!』

ヒデがそれを制止する。

『奴ら引き付けてる!?』

ダイキが言った次の瞬間、敵の前衛が一気に前に前進してきた。

『カウンター!?』

リョウがM16を肩に掛け、背中のニホントウを抜いた。敵の援護射撃の中、近距離戦になったフォワード同士が向き合った。

『アサミ!撃って!』

リョウがアサミに指示を出す。アサミはMP5からベレッタに替え、撃ちまくる。敵のフォワードは一瞬怯み、足を止めた。その期を狙って一歩踏み遅れた側の敵にリョウがニホントウで切りかかる。

「うがぁーー!!」

断末魔の叫びと共に、敵のひとりの迷彩服が真っ二つにセパレートした。次の瞬間、その体は消えた。

『一旦退け!』

ヒデの叫びでアサミとリョウは後退。15メートル程下がって物陰に隠れた。

『退役者だわ!!』

リョウがインカムで叫ぶ。

『ああ、恐らくあのパーティーリーダーがそうだな。』

ヒデが冷静に答えた。第三次世界大戦後、その退役軍人がFRONTIERにダイブする場合が多々ある。その連中の中には本物の戦略を駆使して戦場を支配する奴らも多い。ダイキがインカムから話す。

『シーナを襲った四人は素人だろう。ステーションで見たあいつらは若い奴ばかりだった。だから退役者はあのパーティーリーダーひとりだけだ。レベルも他の奴らが2前後に対してあいつだけ5だからな。ヒデ!トランスで狙撃しよう!』

ダイキが言うトランスとはフォワードと後衛が替わる戦術。

『待って!!ひとりひとり狩っていけばいいわ!!このままわたしとアサミで揺さぶる!』

リョウが反論する。

ヒデはガーランドを構えて照準を定める。

「退役者ごときでうろたえるなっ!!」

ヒデの一喝でダイキとリョウの声がインカムから消えた。

『だってこの前のミッションで退役者にプレイヤーキルされたばかりだし…』

アサミの震えた声が聞こえてきた。プレイヤーキルとは、同じミッションフィールドにダイブしている違うパーティーを狙う行為。特にペナルティーのないこの行為は、リタイアさせたプレイヤーの今ミッションで獲得している経験値を奪う事ができる。これはモラルが問われるゲーム内の最大級のタブーである。しかし、このプレイヤーキルはあえてプレイヤー同士の弾にヒットさせるプログラムを成立させているゲーム制作者の悪意が見える。この最大級のタブーを煽っているようにすら思える。

「ミッションモードのプレイヤーキルと、パーティーバトルは本質が違う!退役者だからと言うだけでパニクってたら上は目指せないぞ!!」

ヒデはパーティーに諭すように声を発している。バンッ!!ガーランドの重い銃声が一発。物陰から頭を出した敵のフォワードの眉間を貫いた。

「今の俺達の敵は前方だけだ!プレイヤーキルのように後方から密かに狙われているわけじゃない!前だけを見ろ!ただの下位パーティーどもだ!」

バンッ!もう一発ガーランドを放つ。続けて敵のスナイパーが姿を消した。

「残り二人!おまえらでケリをつけろ!」

ヒデの言葉にアサミが瞬時に飛び出した。ダイキが援護射撃で敵を止める。続いてリョウもM16を連射しながら前進。

「シーナ!お前も行け!」

ヒデが持ち替えたアサルトライフルで乱射しながら俺のケツを蹴った。押し出されるように走り出す。現実世界より早く走る自分にびっくりしながらも、援護射撃を続けるダイキを追い越し一気にリョウの背中に辿り着いた。リョウが叫ぶ。

「見てなさい!一瞬で終わらせるから!」

そういうと腰からコルトを抜き、狙いを定めて射撃。敵のスナイパーの肩にヒット。痛みでのたうちまわるスナイパーの首に小型のナイフが飛んできて刺さった。アサミのスローインナイフが命中したのだ。

消えるスナイパーの姿を確認したヒデは叫ぶ。

『迂闊に前に出るなよ!』

ヒデの指示に、アサミとリョウは動きを止めた。

『ヒデ!おびき出そう!』

ダイキの提案にヒデは肩に掛けてあるRPGを構えた。それを確認したアサミが路地の反対側にいる俺とリョウの方に移動。

「あんた!コルトに持ち替えて!」

リョウの指示で俺は腰からサイドアームを抜いた。

「銃を私の肩に乗せて!」

アサミが俺の前に出て言った。理解できていない俺の背中にリョウが密着。後ろから俺の腕を強制的に持ち、コルトを両手で握らせアサミの右肩に固定した。

「標準は私達が合わせる!あんたは私の合図で引き金を弾け!」

背中にリョウ、前にアサミ。これからなにが起こるのかはわからないが、ひとつ理解できたのは敵のリーダーを俺が仕留めると言う事だった。

『よし!行くぞ!』

ヒデはそう言った次の瞬間、構えられたRPGからランチャーを発射。凄まじい発射音で飛び出したランチャーは、敵のパーティーリーダーが潜む障害の手前の地面を捕らえ大爆発、辺りは炎と砂埃で視界を失った。パーティーリーダーは大破した障害から逃れるように、サブマシンガンを乱射しながら2メートル前方の障害への移動を試みる。だが次にダイキの乱射音が聞こえてきた。ダイキの連射は巧みにパーティーリーダーの進路を塞ぎ、何の障害のない路地の中央に誘導してみせた。

「降参だ!!もう終わりだ!!」

パーティーリーダーは両手を挙げ、降参を宣告した。

「まだよ!こっちの新人教育が終わってないわ!」

リョウは叫びながら、俺の腕を左右に微調整している。

「今よ!撃って!」

リョウの合図で俺は引き金を弾いた。

パンッ!乾いた射撃音が俺の鼓膜を響かせる。弾は目標の心臓部分に命中。次の瞬間、パーティーリーダーは地に倒れそして消えた。

『ミッション終了!みんないい仕事だった。』

ヒデの声が戦いの終わりの合図のように、リョウは俺の腕を離した。アサミは振り向いて

「やったね!」

と俺に抱き着きついた。時間にして約10分。俺のミッションは終わった。

『さぁセーブポイントへ帰ろう。』

ダイキの言葉で事態を把握した俺は、安心感に包まれた。

『これがFRONTIERだ。楽しんだか?』

ヒデの言葉に俺は返す言葉もなく、ただセピア色の空を仰いでいた

セーブポイントへ向かう中、ダイキからいくつかの注意点を言われた。まずブースで目覚めたら、新規のプレイヤーはIDカードが支給される。

『端末機から抜き忘れない事。』

様々な注意点を聞きながらニュートラルフィールドに戻ってきた我々は、まるで光りの柱のような円に入った。ここに入った時点でセーブ完了となり、現実へと戻るのだ。視界は暗闇になり、意識が飛ぶ。次の瞬間、俺は目を覚ました。

そこはまさに俺がダイブする前に横たわったリクライニングの上。薄暗いブースだ。ヘッドギアを脱ぎ、リストバンドを外す。体を起こした瞬間ひどい目眩と吐き気を感じ、もう一度リクライニングに倒れた。ダイブは脳に直接シンクロするため、初心者のプレイヤーは慣れていないからプラグアウト時に体の異変を感じるらしい。少し落ち着いた俺は、もう一度体を起こし端末機を確認した。すると機械からカードが出てきた。これがIDカードと言われるFRONTIERの個人識別カードである。初心者プレイヤーが初めてセーブを行った時点で支給される。俺はそれを抜き、ふらつく足元でブースを出た。

ロビーに戻ると、先程より人が増えごった返していた。喫煙室の前までくるとリョウとアサミがすでにいた。

「お疲れ!」

アサミが元気に俺を出迎える。やはり現実世界のアサミは俺より背が低い。

「ヒデとダイキはキャッシャーで並んでるわ。」

リョウは俺にそう言い、本を開いて読みはじめた。このFRONTIERのステーションには不似合いな知的な雰囲気を醸しだしている。

「よーし!完了!。とりあえず場所移そう。」

ヒデとダイキも合流し、俺達はステーションを出て、電気街の外れにあるスターバックスへと移動した。

「これがシーナの取り分。昨日カツアゲされた額な。残りは俺達のコーヒー代だ。」

ヒデが俺に金を渡す。それと同時にアサミとリョウが人数分のコーヒーを買ってきた。

「退役者には驚いたが、たいしたことなくてよかったよ。」

ダイキはそう言いながらミルクと砂糖を多めに入れてかきまぜた。

「今日は楽しかったね~!シーナもがんばったね~!」

アサミは笑顔で言う。

「どうしてですか?」

俺はずっと抱えている疑問をぶつけた。なぜ昨日会ったばかりの俺のために、この人たちは親切にも金を取り返してくれたのだろう。何も答えないヒデに代わり、リョウが口を開く。

「この連中はね、戦争遺児って聞いたら世話やきたくてしょうがないのよ。」

次にダイキが言う。

「僕とアサミは君と同じ戦争遺児なんだよ。僕は3年前、アサミは2年前、ヒデに拾われたんだ。」

だからなぜ?俺はヒデの言葉を待った。

「俺の弟が戦争で死んでな。まだ16才だったが国のためって志願兵となって戦地へ行った。そして沖縄基地で死んだ。バカな弟だよ。こんなクソみたいな国の為に命を失ったんだからな。でも…俺にとってたったひとりの弟だった。ダイキやお前を見てると弟を思い出してほっとけないんだ。」

ヒデは静かに言った。

「今まで何人にお節介した事か…。まぁそれがヒデのいいところなんだけどね。」

リョウが優しい目をして言った。

「あっそうだ。無事ミッションも終わったし、シーナをパーティーから外さないとね。」

ダイキが携帯端末を出して、操作をはじめた。

「ちょっと…ちょっと待ってください…!」

俺はダイキに言った。

「俺も…俺も仲間に入れてもらえませんか…?」

俺の搾り出した声に、ダイキは手を止めた。

別にFRONTIERが楽しかったとか、またやりたいとかって感情じゃなかった。この人たちと一緒にいたい。なんだかそう思ったんだ。

この時代、人を信じる事なんてバカを見るだけだと思っていた。でも、はじめて『人と一緒になにかをしたい』と強く感じた。

「は?なに言ってるの?本来レベル1のあんたはE級フィールドから始めるのが本当なの。今日は私達が一緒だからD級でやれただけ。それに私達は普段B級で戦ってるの。だから私達のパーティーにあんたは入れないの。わかった?」

やはりリョウが真っ先に口撃してきた。

「わかってます。でも…俺はあなた達と…一緒に戦いたいんです。」

俺はリョウの目を見てもう一度頼んだ。アサミは不安そうにこのやりとり見ていた。そこにダイキが口を挟む。

「いや、むしろそろそろフルパーティーでやりたいと言っていただろう。パーティーランクも上がって、逆に四人だとミッションがやりづらい。都合よくミッション時に、いい傭兵がいるわけじゃないからね。」

「は?ダイキなに言ってんの?上を目指すにはアサミのレベルも上げていかないといけないのに、今さら新人を養う時間もポイントもないわよ!それに私やあんたもハイプレイヤーまであとレベルを3つも上げなきゃいけない。経験値だけじゃあと1年はかかるわ!パーティーポイントを余計なやつに割り振る余裕はないのよ!」

リョウはヒデを見て言った。

「ヒデ!あんたもなんか言ってよ!私達はS級…R-SフィールドNO.1【虐殺の門】に行かなくてはならないのよ!

今、新人を育てていたら遠回りにしかならないわ。」

ヒデは腕組みをして考えるそぶりを見せていたが、俺に視線を変えて口を開いた。

「三ヶ月…。今から三ヶ月間仮入隊だ。三ヶ月後、今後お前を雇用するか判断する。それでいいか?」

ヒデは優しい眼差しで俺に言った。

「ありがとうございます!がんばります!」

俺は深々と頭を下げた。

「は!?ちょっと待って!どうしてそうなるのよ?」

リョウは納得がいかない。

「三ヶ月間はパーティーポイントからシーナに割り振りはしない。経験値のみでレベルアップしてもらう。ノルマはレベル3。これなら納得してくれるか?」

ヒデはリョウに強めの口調で言った。そこにダイキが反論する。

「ヒデ!?三ヶ月でレベル3はきついって!僕やアサミだって半年はかかったんだ。」

俺にかせられたハードルは高いらしい…。

「三ヶ月後にシーナをパーティーに入れるかは、リョウ…お前に決定権をやる。うちのエースがどうしてもダメって言うならこの話は無しだ。」

ヒデはもう一度、リョウに念を押した。

「それなら…いいわ…。」

エースって言葉にリョウは気をよくしたらしい。ダイキが俺の方を向いて大きな声を出す。

「シーナ!僕も一緒にレベルアップをサポートするからな!」

「ありがとうございます!」

俺も笑顔で言った。

「シーナがはじめて笑った!わたしも助けるよ!」

アサミも笑顔で言ってくれた。だがヒデがそれを遮る。

「ダメだ。シーナの教育係は…リョウ、お前がやれ。」

「は!?どうして私が…!?」

リョウは驚いて言い返した。

「シーナの雇用の決定権をお前が持っているんだ。だからお前が責任を持って教育しろ。」

ヒデの口調はリョウの反論を許さないほどの強さを発した。

「わかったわ…。ただ言っておくけど、使いものにならないと判断したら三ヶ月と言わずにすぐ解雇よ!いいわね!」

リョウは無理矢理自分を納得させるようにヒデを睨み、席を立った。スターバックスの出口まで怒りで肩を震わせながら歩いていったが、すぐに振り返りテーブルに戻って俺に怒鳴った。

「あんた!毎日17時にステーションに集合!一分でも遅れたら承知しないから!」

そう言うとまた踵を返し、スターバックスから出ていった。

「うまくいったな。」

ヒデが笑顔で俺達に言った。

「リョウの性格上、ああなったら引けないんだ。俺の戦略的勝利だ。」

誇らしげに言うヒデにダイキが反論する。

「だがいくらなんでもリョウに新人教育なんて…。」

「そんな事はない。あいつはまさに天才だ。レベル7だが、動きはハイプレイヤー並に戦う。今までいろんなプレイヤーを見てきたが、あいつに優るプレイヤーを見たことない。あいつに任せればシーナは間違いなく育つ。まぁ俺を信じろ。」

ヒデは自信満々な表情だ。逆に納得できない表情のダイキにヒデは、

「もちろんお前だっていいプレイヤーだぜ。うちのパーティーのブレインはお前だ。冷静な判断力と狙撃能力はかなりのもんだ。

お前とリョウがいればS級に必ず行ける。俺はそう確信してるよ。」

と、肩を叩いていった。

「わたしは?ねぇ!わたしは?」

アサミがヒデに無邪気に聞く。

「アサミは…うちのパーティーの…切り込み隊長だな。」

「隊長!?やった~隊長だって~!!」

このやり取りに俺は居心地の良さを感じていた。

「まぁとりあえず…ようこそシーナ、我がパーティーTHE END OFTHE WORLD(エンドオブザワールド)へ!」

ヒデの差し出した腕を俺は強く握り握手した。

電気街でヒデと別れ、ダイキの車で施設まで送ってもらった。相変わらずアサミは助手席で、携帯端末にイヤホンを挿して音楽を聞いている。

「シーナ。なんかあったらすぐ相談してくれ。レベル3は絶対条件だってヒデが言ってたのはマジだ。なんでも協力するから。」

ダイキは優しい。まるで兄貴のような包容力がある。

「あの…ひとつ聞いていいですか?」

俺はふと疑問に思った事を口にした。

「どうして、パーティーネーム…エンドオブザワールドにしたんですか?」

ダイキは

「ああ」

とはにかみ、アサミのイヤホンを外した。

「なに?」

突然イヤホンを取られたアサミは驚きながら聞いた。

「シーナに聞かせてやってくれ。THE END OF THE WORLDを。」

ダイキの言葉に、アサミは笑顔で携帯端末を操作し、俺の耳にイヤホンを装着した。

イヤホンから聞こえてきたのは透き通る声の女性歌手が歌う英語の歌。おそらく古いアメリカの歌だろう。

「ヒデの趣味だよ。その歌のタイトルがTHE END OF THE WORLD。

『世界の終わり』って意味じゃない。『この世の果てまで』って一途な愛の歌だ。ヒデらしくないだろ?」

うれしそうにダイキが話す。たしかにヒデの風貌からは想像できない優しい歌だ。俺は英語が苦手だからはっきりした意味はわからないが、なんだか落ち着いた気持ちになる。施設に到着し、ダイキとアサミに礼を言い車を降りた。空を見上げると星が幾つか光っていた。現実(リアル)と仮想(バーチャル)。その境界線とはなんだろう?ただ『生きる』と言う事が苦行に感じる現実。逆に『生きる』と言う実感を味わう事ができる仮想。今日、俺の中でなにか違う価値観が生まれた。

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