
THE END OF THE WORLD ー世界の果てにて…ある少年の物語ー
章 3
1
「だからなんでちゃんとリロードをしないのバカッ!!」
リョウが怒鳴る。この一週間、プラグアウトしたあと、ずっとこんな感じでスターバックスを騒がす俺とリョウ。オープンフィールドでフリーバトルに投入され、必死に経験値を上げている。もちろんリョウも一緒にダイブして、鬼軍曹のごとく俺に激を飛ばす。
「だいたい、いつになったら自分の銃の弾の残りを覚えるの?引き金弾くたびに数えてるとか?バカじゃないの!?ある程度撃ったらすぐリロード!肝心な時に弾切れってなんなのよ!銃からマガジンを抜いて、腰についてる予備のマガジンを装着、そしたら自然とあんたの腰に新たなフル装弾のマガジンが着いてるの!その繰り返しでしょ!いい加減覚えなさいよね!!」
ずっと同じ事を言われ続けているから、頭では理解しているんだが、フィールド内で戦っているとリロードまで気がまわらない。
「しかも昨日なんて無防備に突っ込んでいくから、セーブ前に撃たれてリタイアして…まったく無意味で時間の無駄!いい?一日一回しかダイブできないのよ!1回プラグアウトしたら20時間はダイブできないの!端末使用料だってバカにならない!わかってるの!?」
わかってますよ…。俺とリョウのこの一週間の端末使用料はパーティーの資産から出してもらっている。昨日、金を出して獲たものは経験値ではなく体中のアザだった。フィールドで蜂の巣にされた俺は、ブースで目覚めた時、体中に内出血のような無数のアザがあった。リアルダメージ。脳とシンクロするFRONTIERは、フィールド内で受けた傷を、脳が現実の体に指令をだし、戦争で受けた激痛を微痛として残すのだ。
「どうだ?うまくいってるか?」
毎日ヒデが、この時間帯で合流する。もちろんリョウは俺の失態を報告。ヒデは携帯端末を開き、俺の成果を確認しながら笑った。
「おお!なかなか順調じゃないか。やはりスピードのパラメーターを優先して上げているな。始めて一週間でこれなら先も望める。」
ヒデが俺のアバターのステイタスを見ながら納得の表情だ。俺がその日獲た経験値はプラグアウト後にリョウがパラメーターを振り分けている。
「あとこれ。」
ヒデが携帯端末を俺に差し出した。
「連絡とれないと不便だからな。持ってろ。」
ヒデが俺に渡した携帯端末は、手の平サイズのいわゆるPC。これを手に入れる為には身分証明書が必要で、未成年は保護者の承諾書が必須。そして維持費もかかる。俺のような遺児はなかなか持てない。
俺は興奮していた。この携帯端末は国民の八割が持っている。持っている事が当たり前の世界の中で、持っていない人間にすれば、それが憧れの境地以外何物でもない。はしゃぐ俺にヒデが、
「偽造の証明書で契約したから、あまり派手に使うなよ。」
と付け足した。
「あと、明日は久しぶりにミッションに出るぞ。」
ヒデがそう言うと、リョウが不満そうな顔で突っ掛かる。
「帝都大学さんのスケジュールのせいでパーティーミッションに支障がでるのよね。」
「まぁそう言うな。俺も今仕事が忙しいし、アサミも書き入れ時らしいからな。」
我がパーティーは様々な環境の中で時間を作りミッションに励む。
ヒデ(25)はフリーのプログラマーとして自分で仕事を請け負っている。
ダイキ(20)は帝都大学の学生。学部的に研究や研修が多い。
アサミ(17)もすでに自立して仕事をしているらしいが詳しい事はなぜか教えてもらえない。
「でもリョウさんも学校とか忙しいんじゃないですか?」
俺の問いにリョウが皮肉たっぷりに言う。
「は?帝都大学さんに比べたら私なんて大した事ありませんけど。」
リョウ(19)は聖サイモン女学院大学部の二年生。超お嬢様学校だ。私立で幼稚園から始まるエスカレーター方式。小学部、中等部、高等部、大学部とあり、全国のお嬢様たちが通う(学生寮あり)女子専門校だ。
「とりあえず明日は、B級のいつものフィールドでフラッグまで目指す。リョウのレベルがもう少しで上がるから、まずそっちを優先で今後進めようと思う。」
ヒデは端末を覗きながらリョウに言った。
「早くハイプレイヤーに上げてジョブを追加しなきゃね。」
リョウも端末を開き答えた。ジョブとはハイプレイヤー(レベル10以上)になると付加される特殊能力の事である。各アバターサイズにそれぞれ4つのジョブがあり、レベルが10になった時点でプレイヤーが任意に選択する。
例えばヒデのVERSE(ヴァース)はアバターサイズLのジョブで、スピード値の上限がアップする。本来はリベロのポジションで最後方から攻め上がるLサイズが、ヴァースの特性によりスナイパーのポジションを兼任できるようになるのだ。これはより攻撃的なパーティー構成を可能にする。一度選択したジョブは二度と変更ができない為、慎重な判断が必要とされる。
ハイプレイヤーとなりジョブを付加させてからが本当のFRONTIERの始まりとよく言われる。レベル10なんて三年から五年は必要とされる下積みを熟して達成される偉業であり、FRONTIERプレイヤーの一割程度しか存在しない。そしてレベル10から更にレベルアップが困難を極め、確認されている最高レベルはアメリカのプレイヤーのレベル14である。
未だに世界中でコンプリートされた事のないR-SフィールドNO1。レベル1の俺にとっては、まだまだ関係のないフィールドである。
「私はジョブをHIGHLANDER(ハイランダー)って決めてるわ。確かダイキはDRAGONAR(ドラグナー)だったかしら。アサミもなるべく早くレベル8ぐらいまで上げないとね。」
リョウが強い眼差しで言った。ハイランダー(Sサイズ並みにスピード値の上限を上げるジョブ)とドラグナー(装備重量上限の大幅アップ)は共にアバターサイズMのジョブである。
俺はヒデからもらった携帯端末をいじりながら、話の途中で突然席を立つ事態となった。施設の門限が迫っている事に気づいたのだ。
「すいません!!もう帰らないと!!!」
月に三回門限を過ぎるとペナルティーとして翌月まで私用の外出許可が下りなくなる。俺が暮らす西地区施設の独自のルールだ。今、外出許可が下りない状況になれば約束の三ヶ月でレベル3なんて不可能だ。俺はヒデの「気をつけてな」の声を背中に聞きながらスターバックスを走って出た。帰りの電車で携帯端末を開く。FRONTIERのサイトへアクセスし、俺のプライベートページへ飛んだ。
SHEENA SEX〔M〕レベル1
アバターサイズS
所属パーティーTHE END OF THE WORLD(JP)
装備1:M4
装備2:コルトM1911
装備3:SIG SAUER P230
ヘッド:初期装備帝国ヘルメットレベル1
フェイス:初期装備帝国マスクレベル1
ボディースーツ:初期装備帝国軍服レベル1
火器装備だけ見れば一人前の兵士だが、残念ながらリロードもろくにできない素人である。ちなみに三日前、未装備だった装備3にリョウからもらったSIGを入れた。オープンフィールドで数人倒してセーブをしてまた戦場へを繰り返しているとサイドアームの弾が足らなくなってしまった。そこでリョウが自分のストックからSIGをくれたのだ。ちなみにリョウのメイン火器のアサルトライフルはM16、サイドアームにコルト380。小型機関銃イングラムM11を撤退用のサブライフルに装備し、もうひとつの装備武器にニホントウを着けている。比較的軽装であるが、リョウ曰く「必要な武器さえ揃えば、装備重量の上限ギリギリに装備する必要はない」だそうだ。逆にダイキは装備重量の上限ギリギリである。FRONTIERがパーティーでのプレイが前提とされているため、同じアバターサイズMの二人だが、パーティー内でのポジショニングによって必要な武器が変わるのだ。
これはオールラウンダーであるアバターサイズMの宿命でもある。パーティーの事情で自分の戦闘スタイルが左右されるのである。パーティーによっては全員がMサイズであったりする場合もあるが、エンドオブザワールドに限って見れば、アバターサイズMはリョウとダイキの二人。リョウは攻撃的な装備で、ダイキはバックアップを主体にした装備。戦闘ゲームをプレイするにあたって、娯楽と言う観念で見れば攻撃的なアバターを構築する方がよりゲームを楽しめる。だが膨大な時間と労力と資金を費やすFRONTIERで、ゲームを楽しむよりもミッションのコンプリートを優先している奉仕的なプレイヤーの存在。ミッションのコンプリートにはこの役割分担が重要なのだ。我がパーティーにおいてはダイキがそれを担っているが、これはゲームなのだ。まるで本当の戦場のような人材選択を強いる必要があるのか疑問になる。この疑問を解決する鍵…俺は携帯端末の画面を検索モードに変え、
【FRONTIERの歴史】と打ち込んだ。
FRONTIER
概要
第三次世界大戦の終戦後に世界15ヶ国で普及した仮想現実オンラインゲーム。大戦中、アメリカのコンピュータ開発のトップ企業マイクロシステム社が、政府から依頼された兵士育成プログラムを改良したものがFRONTIERの発端とされる。仮想世界の中で、あたかも現実の世界で戦争を繰り広げているようなリアルさが若者の間で大流行し、2117年現在、世界中で300万人のプレイヤーが登録をしている。
兵士育成プログラム
第三次世界大戦で、兵士の育成や作戦の組み立てを目的として、アメリカ政府が計画したのが兵士育成プログラムである。仮想世界へ兵士をダイブ(接続)させ、現実さながらの戦場で実際のミッションを行わせ訓練させる。仮想世界内は現実の戦場の地形や市街が忠実に再現されていて、当時アメリカ軍が採用していた実際の武器や兵器を操る事ができた。このプログラムを開発したのがマイクロシステム社。
150年前からコンピュータ分野で世界のトップに君臨し、アメリカを代表する大企業である。元々戦前から、マイクロシステム社が開発を進めていた仮想世界コミュニティをコンセプトとする『アナザーワールド・プロジェクト』が基礎となっており、政府の金銭的な支援はもちろん、世界中のあらゆる戦場データの提供が開発のスピードを早め運用まで到る事に成功した。
この米政府の介入により、マイクロシステム社は多数の兵士をダイブさせ、膨大なサンプルを取り、徐々に脳へのシンクロ率を高めていく。この兵士育成プログラムの最大の特徴は痛みを現実に持ち帰ると言う点である。
リアルダメージ
ダイブした兵士たちは仮想の戦場で、あらかじめ用意されたミッションを能えられ、本物の戦場さながらに戦闘を行う。戦場にはCGで作られた敵兵が、兵士達のミッションの邪魔をする。敵兵も様々な武器を装備しており、難易度の高いミッションではリタイアする者も多数でる。リタイアとは敵兵に撃たれて死ぬ事の意味であるが、もちろん仮想世界ではリタイアした兵士は現実へ強制的に帰還させられる。このリタイア時、敵兵の弾が体に命中した時の痛みがまさに本物そっくりの激痛なのだ。その痛みは一瞬で、すぐに現実世界で目を覚ますのだが、目を覚まして更に驚く。撃たれた箇所が青くアザになり、自分がどこを撃たれたのかハッキリ分かるのだ。痛みを感じた脳が体に指示を出し、仮想世界の痛みを現実世界へ持ち帰えらせるのである。このシステムは兵士達に様々な効果をもたらした。仮想世界の訓練だからといって、手を抜いたり適当にミッションに望む者がいなくなったのである。現実に近い痛みを、例え一瞬でも味わう事の辛さを意識と体に染み込ませたのだ。本番さながらの緊張感の中、兵士育成プログラムで訓練された米兵は本当の戦場でも大活躍を見せ、アメリカが支持した韓国側の勝利に大きく貢献した。
終戦後~FRONTIERへ
アメリカ政府のシステム権利をマイクロシステム社が買い取り、待望の商品化へと一気に加速。従来の計画であったアナザーワールドのコミュニティというコンセプトは消滅し、戦争をテーマとした仮想現実オンラインゲームとして計画が見直される事となる。これはアメリカ政府がマイクロシステム社に戦中に提供された膨大な戦場データやシステムをそのまま使い回す事でコストを抑える目的にあった。商品化に必要不可欠な端末接続場を連合各国の主要都市に建設することに莫大な費用が発生。後にステーションと呼ばれる端末接続場はこうして誕生した。そしてFRONTIERと命名され世界中でダイブされるヒット商品へと成長していった。
FRONTIERの問題点
運用を始めてプレイヤー数を順調に伸ばしていったFRONTIERだが、様々な問題点が浮き彫りになった。特に重要課題とされているのが、アンデッド問題である。
アンデッドは社会問題にもなっている事例。ダイブしたプレイヤーが目を覚まさず植物人間状態になってしまう大事故が世界中で起こっている。これは上位レベルのプレイヤーに限り確認されており、システム上に問題があるのではないかと調査が進められているが、今だに明確な原因は解明されてはいない。事態を重く見たマイクロシステム社は、各国に自営のホスピスを開き、アンデッド者を受け入れ治療を行っているが、目を覚ましたプレイヤーはいない。
(上記の問題で世界中のFRONTIERの運営に規制が入らないのは、マイクロシステム社の最大の後ろ盾であるアメリカ政府の圧力があるとも言われている。)
俺は携帯端末の画面に並ぶ文字をじっくり読み進めた。元々は軍事訓練用のシステムであったFRONTIER。本物の戦場データを基盤にプログラムされているフィールド。まさにリアルを体で感じるこのゲーム。しかし俺が疑問に思ったゲームの概念はまったく的外れである事がわかった。これはもうゲームなんて時限じゃない。戦争の擬似体験なのだ。いや…もしかすると『違う人生の擬似体験』なのかもしれない。こう考えると旧名アナザーワールドに納得してしまう。体はアバターでも脳は自分のもの。現実世界の臆病者は、仮想世界でも臆病者なのだ。そう考えるとダイキのような奉仕的なプレイヤーの存在にも納得できる。このFRONTIERはプレイヤーの人間性にも大きく関係してくるからだ。現実世界となんら変わらない。FRONTIERのフィールドで駆け回るアバター達は、人間そのものなのだ。個々に人生があり、アバターの数だけ今日まで生きてきた物語が存在している。俺は携帯端末を閉じポケットにしまった。自分はこのFRONTIERでどんな人生を作るのだろうか…。そんな事を思いながら施設へと帰路についた。
2
朝早く携帯端末のけたたましい機械音が鳴り響く。ベッドから飛び起きた俺は急いでその音を消した。昨夜はもらったばかりの携帯端末で夜遅くまで遊んでいた。あらかじめ聞いていたパーティーメンバーの端末にもメールで連絡先を送ったりして携帯端末を堪能していた。眠たい目を擦りながら端末の画面を見る。ダイキからのメールであった。
『迎えにいくよ。あと30分ぐらいでつく。準備しておいてくれ』
ダイキは優しい。つくづくそう思う。準備が完了した俺は施設を出て、表通りでダイキを待つ事にした。
しばらくしてダイキが車で現れ、合流。
「シーナ。リョウとはうまくいってるか?」
「それなりには……」
「リョウは絶対的に自分を信じている人種だ。だから他人の価値観を受け入れられない。シーナも自分を信じて諦めずにがんばれよ」
俺は前から疑問に思っていた事がある。リョウとダイキの折り合いの悪さだ。事あるごとに二人は衝突する。絶対に折り合うことなく最後はヒデが決断を下しそれに従うという展開がいつもだ。戦場ではリョウを後方からサポートしているダイキ。二人の間にはある程度の信頼関係はあるに違いない。
「ダイキさんはリョウさんと仲悪いんですか?」
俺は思い切って聞いてみた。
「仲が悪いわけじゃないんだ。きっとリョウにとって僕だけじゃなく誰にも負けたくないんだよ。たまたま近くに僕がいるから、対象が僕なんだ。リョウは聖サイモンだろ。僕は帝都大。国立ってだけで帝都が上に見られるけど、聖サイモンもかなりの秀才学校なんだよ。ただのお嬢様学校じゃない。エスカレーター方式って言っても進学するたびに振るいにかけられる競争率の激しい学校なんだ。リョウはすごく努力しているよ。だけど聖サイモンのイメージがお金持ちのお嬢様が通う学校ってしか印象を残さないんだ。たしかにリョウの家は老舗の不動産業で、都心にも大きな物件を抱える大企業だ。帝都不動産って聞いた事あるだろ?大企業だ。おそらく将来的にはリョウの婿さんがあの企業を継ぐんだろう。リョウには一人兄貴がいるんだけど、アンデッドしてしまって今は病院で寝たきりだ。だからリョウは周りに認めてもらうために必死なんだ。そしてリョウには勉学もFRONTIERも才能がある。もしかするとリョウ自身が企業を継ぐかもしれないな。」
帝都不動産って…すごい企業じゃないか…。俺はそこの娘と毎日一緒にいるのか…。
「でもダイキさんもリョウさんとFRONTIERでは同じレベルだし、やっぱり帝都大学はすごいですよ。」
俺はお世辞でもなく素直に言った。
「いや、FRONTIERの中のリョウは別格なんだ。リョウは僕より一年後にFRONTIERを始めていて同じレベルだからね。それにアバターのパラメーターはあくまでも動ける上限にすぎない。だけどリョウは常にパラメーター通りの動きができる。いや、パラメーターの数値を自由自在に使いこなせるって言った方が正確かもしれない。これは凄い事なんだ。現実世界での鍛練もある。元々剣道有段者だから剣術に長けているのも大きいな。
大日本帝国で唯一のS級パーティー『VANDAL HEARTS(ヴァンダルハーツ)』から声がかかるぐらいさ。元々はヴァンダルハーツのパーティーリーダーのアキラさんとリョウの兄貴、そしてヒデはRAINY DAYS (レイニーデイズ)の一員でね、四年前に解散するまで一緒にミッションを行っていたんだ。大日本帝国で初めてR-SフィールドNO1に挑んだ伝説のパーティーだ。その時のミッションでリョウの兄貴はアンデッドしちまったんだけどね…」
と、ダイキは一気に話した。
レイニーデイズについては俺も施設にあるパソコンで調べた。戦歴から見てもまさに伝説のパーティーである。FRONTIER草々の時代に生まれたレイニーデイズは、結成わずか三年でS級まで駆け上がった。フルメンバーで全員がハイプレイヤー。
パーティーリーダーのシュウを中心とした完璧な作戦で、次々とミッションをコンプリートしていくレイニーデイズは世界的にも名を挙げて大日本帝国を代表するパーティーになっていった。
メンバーはリョウの兄であるパーティーリーダー
シュウ アバターサイズMレベル11
ジョブHIGHLANDER(ハイランダー)
現S級パーティーVANDAL HEARTS(ヴァンダルハーツ)パーティーリーダー
アキラ アバターサイズMレベル11
ジョブPYGMALIO (ピグマリオ)
現在A級パーティーであるSLUM DOGS(スラムドッグス)パーティーリーダー
ヒュウガ アバターサイズMレベル11
ジョブGENEROUS(ジェネラス)
紅一点で現ヴァンダルハーツのリベロ
ハルカ アバターサイズLレベル11
ジョブGRANDIA(グランディア)
現B級パーティーエンドオブザワールドパーティーリーダー
ヒデ アバターサイズLレベル11
ジョブVERSE(ヴァース)
アンデッドしたシュウ以外は今もFRONTIERで戦い続けている。
ダイキの話によれば、失敗に終わったR-SフィールドNO1に挑戦した四年前のミッションで、シュウがアンデッドした後パーティーは空中分裂を始めた。全員がハイプレイヤーという実力者揃いのパーティーは、シュウと言うカリスマで繋がれていたのだ。リベロを同時に二人もハイプレイヤーに育て養うことができたのもシュウのパーティー運営力を物語っている。
ダイキが話を続ける。
「エンドオブザワールドを結成したはじめの一年は本当に遊びだったよ。でもリョウが入ってからヒデが本格的にパーティー運営を始めたんだ。リョウとヒデには共通の目的があってね。『R-SフィールドNO1へシュウを迎えに行く』。あの二人はこの一点にまっすぐ向かっているんだ。」
リョウの執念とも言うべきR-SフィールドNO1への想いはここにあったのだ。だが俺にひとつの疑問が浮かぶ。
迎えに行くって…?
R-SフィールドNO1でアンデッドしたシュウは、意識を取り戻さないままホスピスのベッドで四年も眠り続けている。もちろんプラグアウトした状態でだ。ダイキに聞くと、
「僕も同じ疑問にぶつかったよ。リョウ曰く『今もシュウは戦い続けている』らしい。しかしその根拠はあってね、ベッドで寝ているシュウの体に時々青いアザが出るらしいんだ。これはリアルダメージの症状ではないかってね。もちろんR-SフィールドNO1でアンデッドしたシュウを目撃した人はいないだろう。R-SフィールドNO1はフラッグのみのステージで、通称【虐殺の門】の先にシュウは今もいるとリョウは考えているらしい。」
と半信半疑な顔で答えた。
ダイキと様々な話をしながら車はあっという間に電気街へと到着。少し早く到着した為、二人で駅前の牛丼屋に入った。
「貧乏学生だからこんなもんしかおごれないけど。」
とダイキが俺の分も払ってくれた。俺は、いつもダイキの優しさが本当に嬉しい。世間から忌み嫌われる存在である戦争遺児同士の連帯感がそこにあった。施設で一緒だったやつらとはこんな関係を築けなかったのに、ダイキとは本当の兄弟のような錯覚に陥ってしまう。
俺はふと姉を思い出した。俺を慈しみ育ててくれた姉。弟のひいき目でもあるが、姉は綺麗な女だ。美人で評判だった姉だが、あるとき付き合っている男に顔の形が変わるぐらい殴られた。それを知った俺は怒りのままその男に飛び掛かった。結果、俺も半殺しにされ玉砕となった。姉は今もその男と一緒にいる。仕事もしていないろくでなしの男を食わしている。『私がいないとダメだから…』とか言って…。たまに姉から施設に連絡がくるけどしばらく会っていない。
「じゃあいこうか」
とダイキに促され牛丼屋を出てステーションへ向かう途中、ヒデを見つけ合流。
「今日アサミ欠席。昨日、また酔って手首を切りやがった。」
ヒデの言葉に俺はひどく驚いたが、「またか……」とダイキはいたって冷静だった。
3
三人でステーションに入り、いつもの待ち合わせ場所である喫煙室の前に行った。リョウは先に来ていたようで、艶っぽい大人の女と談笑していた。
「ハルカさん…!?」
ダイキが驚いたように呟いた。二人はこちらに気づいたようで女が手を振る。
「悪かったな、突然呼び出して。」
ヒデがその女に詫びる。
「いいわよ、久しぶりにリョウと話したかったから。ダイキもご無沙汰ね。」
女は笑顔で答えた。ハルカと呼ばれた女。伝説のパーティーレイニーデイズの一員、リベロのハルカである。大日本帝国の女性プレイヤーの頂点に位置する最強の女。現実の彼女は俺より少し小さな身長と華奢な印象。ヒデと同年代にしては大分若く見える。
「今日、アサミのピンチヒッターをハルカに頼んだんだよ。」
ヒデの言葉の後にダイキが凄い笑顔になった。
「うわ~。ハルカさんとミッションなんて久しぶりですね!今日も勉強させてもらいますよ!」
ダイキの弾けた声に笑顔で応えたハルカは次に俺に視線を合わせた。
「あなたが新人くんね。あら、かわいい顔してるじゃない。だいぶリョウに気に入られてるみたいよ~。」
屈託なく言うハルカの言葉にリョウが真っ赤な顔をして反論した。
「ハルカさん!!何言ってるんですか!?こんな奴使えないって言ったんです!!」
「あらムキになって。あんた昔から本当にわかりやすい性格。凄く可愛いわよ。」
ハルカに軽くあしらわれるリョウを見て、俺は少し胸がすかっとした。
「ハルカ、今日の報酬だがミッション・コンプリート時に25%でいいか?」
ヒデがハルカに聞いた。今日のハルカは外部枠になるため傭兵と同じく契約によりミッションに参加する。少し考えたハルカは、
「報酬設定は無しでいいわ。ミッション後に個人的にご褒美を貰うから。」
と、はにかみながら言った。それを聞いたヒデはため息をはきながら了解し、呆れ顔のリョウのその横でダイキが笑顔で頷いていた。よく状況が読めない俺だったが、なんだか居心地の良さを感じている自分に気づいた。誰かと仲間なんて空気を感じることなく今まで生きてきた俺は、その空気の輪にいる事が気持ち良く、自分がこのFRONTIERの世界に入った選択に間違いがなかったと確信できた。
「よし、じゃあ行こう。」
ヒデの掛け声に続くパーティーの中にいる俺と言う存在。このままずっとここにいたい…。ノルマのレベル3に向かって、俺は気を引き締めブースに向かった。
『みんなダイブしたか?いつもの場所で落ち合おう。ハルカ、中央広場はわかるな?シーナ、とにかく道なりに進め。』
インカムからヒデの声が聞こえてきた。俺は言われた通りまっすぐ道なりに進む。まるで大昔のウェスタン映画の舞台のような町並み。しばらく進むと広めの空間が現れ、そこに多くの人だかりが見えた。ここが中央広場と確信した俺は、仲間達を探した。
広場に入った俺は、ハルカを見つけた。それがハルカと確認した訳じゃない。だがハルカに間違いないと確信していた。そしてこの人だかりはハルカが作ったものであり、30人程の人だかりは全てハルカに視線を送っている。ハルカのその姿は、当たり前だが現実世界とはまったく掛け離れた大きな体。アイアンスーツの重装備に全身を包み、一際目立つのは背中から空に向かって伸びる長く太い筒。いわゆるバズーカと呼ばれる重火器が明らかに異彩を放っていた。俺は自分の肩に手をやり、コマンドを出しパーティーステイタスを選択した。
HARUKA
レベル11 HIGH PLAYER
【JOB】GRANDIA(グランディア)
アバターサイズL
装備1:FAL T48
装備2:モスバーグM500
装備3:SRS99D
装備4:FGM-148
グランディアは発動型のジョブで、ミッションフィールドのオールマッピングが付加されていて、全てのフィールドの地理地形、設置された敵の兵器などを掌握できる能力である。司令塔に向いたジョブであり、ヒデのヴァースのような能力上昇型よりパーティープレイに必要な戦略的属性を強く持っている。
アバターLのジョブは、VERSE(ヴァース)能力上昇型、スピードの限界能力が上がり、アバターLでありがら前線での戦いが可能になる攻撃系ジョブ。
GRANDIA(グランディア)発動型、すべてのミッションフィールドの地理地形や敵戦力などの情報が把握できる戦略系ジョブ。
CORNELIUS(コーネリアス)能力上昇型、スピード、命中率、クリティカル率、フィジカル系など、パラメーター上限が平均的にアップする。
ALFONS(アルフォンス)戦力強化型、アバターLの装備武器数は4つだが、ひとつ追加し5つにできる。
以上の4つである。
「あんな大きなジャベリン(FGM-148)を背負ってたら、さすがに目立つわね。」
俺の背後からリョウの声が聞こえた。ジャベリンとは対戦車ミサイルの事で、携帯型重火器の中では格段に大きい。そしてジャベリンはアバターLのハイプレイヤーにしか装備できない制限アイテムでもある。
振り向いた俺にリョウは、
「とりあえず行きましょう。」
と促し、ハルカの元へ移動した。五人集まりミッションフィールドへと移動を始めたが、やはりハルカは目立つ
ハイプレイヤーのリベロを二人も要する俺達パーティーは、R-BフィールドNO26に入った。けたたましい乱射音が鳴り響き、すでにダイブしている他のパーティーが戦闘を開始していた。本来、俺のようなレベル1のプレイヤーがダイブしてはならないB級フィールド。イーター(敵)も強い。緊張感が増してくる。
「わたしたち以外に5パーティーってとこね。」
ハルカがジョブ能力のフィールド情報をインカム越しに伝える。距離は近いのだが辺りの乱射音で声が聞こえないからインカムが役に立つ。
同じフィールドに複数のパーティーがいる時に気をつけなければならない事は、流れ弾に当たらない事。
故意(プレイヤーキル)や事故に問わず、被弾した時点でリタイアだ。
「ちょっと待って…コリアンのパーティーが混じってる。やっかいね。」
ハルカの声にヒデが、
「大丈夫だろう。行こう。」
と答えた。
E~C級フィールドは各国のカントリー・サーバーでダイブするため、海外のパーティーと一緒になることはないが、B級フィールドからインターナショナル・サーバーになり、海外のパーティーと同じフィールドで戦う事になる。この際、問題となるのが民族の文化の壁である。特にコリアン(大韓民国)のプレイヤーは世界中から敬遠されがちで、ダイブしたフィールドにコリアンのパーティーが存在していたらミッションフィールドを変更する選択もよく見られる。いわゆるプレイヤーキルをまるでオフィシャルの如く行い、フィールド内にいる自分達パーティー以外はすべて敵だと見る傾向がある。このFRONTIER内で暗黙のルールが多数存在していて、例えば『狭い路地戦では先にダイブしていたパーティーに道を譲る』、『後方のパーティーは前方のパーティーが前進してフィールドチェンジするまで待機する』などのマナーとモラルがコリアンプレイヤーにはない。この概念がないのだからトラブルが後を絶たない。だから敬遠して回避するしかないのだ。FRONTIERとは基本的に自由であり制限が少ない。この自由さがいわゆるコリアントラブルの原因になっている。
FRONTIERで決められているフィールド内での事項は、パーティーの人数の上限、アバターサイズによる武器規制だけである。パーティーの人数の上限が5人という事だけで一人でも二人でもパーティーとして成立するし、パーティープレイを前提とされているがパーティーに所属しなくてもプレイできる。ミッション・コンプリートを目的にゲームを進めるのがオフィシャルではあるが、ミッションに参加しなくてもオープンフィールドで楽しむ事が可能。そしてこのゲームは禁止という事項がない。だからペナルティーの類が一切ないのだ。システム内での行動がプレイヤーの意思で自由に行えるのである。だからこそ暗黙のルールが存在してくる。まさに現実世界と同じ人間と人間の関係が生まれるのだ。自由性が上がる事で人間の本質が浮き彫りになる。ここに人種の特性がはっきりと出てくる。コリアンの大きな特徴である『世界で最も優れた民族』という勘違いを引き起こす結果となった。だがこれはコリアンの性質に問題があるのではなく、FRONTIER運営側のはっきりとした悪意が見える。このようなトラブルもすべて『想定内』であるに違いないのだ。
あえて禁止事項を無くす事でプレイヤー間でタブーを作らせ秩序を成立させる。これをオフィシャルではない任意のルールとして規準のラインを引き違反者を煽るのだ。例を挙げるなら、『プレイヤーキル』と言うタブーを犯してもペナルティーは発生しない。むしろ相手の経験値をすべて奪う事ができる。『プレイヤーキルをしない者』はモラルに従順するかわりにミッションに支障が生じるケースもある。ゲームと言う概念で言えば前者がこの仮想空間での生き方に向いていると言える。禁止されていないプレイヤーキルはオフィシャルであると考えるコリアンはFRONTIER内では正しいのである。まさにFRONTIER運営サイドの意図はここにあると考える。様々な人種が武器を持ち『本来の性質』で集わせる事により、第三次世界大戦の縮図を再現させているのだ。
4
「今日はワントップ(リョウ)、ダブルスナイパー(ヒデ、ダイキ)、ワンリベロ(ハルカ)でいく。シーナはハルカについてろ。」
ヒデの指示で、リョウが前衛に走り、ダイキがMG42を構える。ヒデもM1ガーランドを準備し、態勢を整えた。
「久しぶりのB級フィールドだわ。あなたは初めてのミッションフィールドでしょ?アバターSなのに後方って物足りなくない?」
ハルカはSRS99Dを右手に持ち、俺に問い掛けた。確かに俺のアバターサイズでこのポジションは有り得ない。もちろん俺自身はこのフィールドではミスキャスト以外何者でもなく、役不足甚だしい存在である。アバターSはスピード重視のアタック専門ポジションであるが、レベル1の俺はアバターLのヒデやハルカにも劣る。本来E級のプレイヤーである俺がハイプレイヤーのハルカと同じフィールドに並んで立っている事が奇跡なのだ。
「よし…ミッション開始だ!!」
ヒデの合図でダイキが連射を始め、リョウが動き出す。その直後、ハルカが俺の背中を押した。弾かれるように俺は前線へと走った。無意識の中、ダイキとヒデを追い越し、リョウ位置まで一気に出て、物陰に身を寄せた。
『ちょっと…!?勝手なことしないで!!』
リョウの怒号がインカムから聞こえてきた。
「いや…ハルカさんに押されて…」
俺の言い訳だ。これは半分本当で半分は嘘だ。後ろのポジションでハイプレイヤーの影に隠れてただ見ているだけでは自分が参加している意味はない。例えリタイアしたとしても自分のアバターSらしく前線で戦いたかった。そのジレンマの中、ハルカの後押しが、俺の背中だけではなく心まで前線に放ってくれた。
「とにかく下がって!!邪魔よ!!」
リョウの怒りにあふれた声に、俺は戸惑ったが直後にヒデの声がインカムから聞こえてきた。
『シーナ!その位置でリョウの援護!常にリョウの2メートル後ろにつけ!』
ヒデが俺の前線参加を認めてくれた指示だった。
「後でおぼえてなさい…」
リョウの声にビビりながら俺は迫るイーターに連射を放った。
R-BフィールドNO26は海岸沿いから内陸へと目指すルートが特徴のフィールドで、ノルマンディー上陸作戦を連想させる。俺はリョウの後ろにつき、連射をしながらイーターを倒していた。ミッションでは後方との連携が重要で、ダイキとヒデに呼吸を合わせてじっくり前へと進攻していく。リョウは自慢のスピードを武器に巧みに敵を引き付けルートを開き後方を誘導していく。
凄い…!!
ダイキが言っていた通り、リョウの動きは天才的だ。繊細な銃さばきでありながら、大胆に切り込んでいく強引さに思わず見とれてしまう。下位フィールドのイーターと違い、B級フィールドのイーターは強い。しかしリョウのアタックにダイキの巧みな援護射撃で海岸沿いから内地へと難無く侵入した俺達は、ジャングルへとフィールドチェンジした。この先にフラッグがあるのだが、リョウが動かずに俺もそれに従って立ち止まった。
『前のパーティーがまだフィールドチェンジしてないわ。ここで待機よ。』
リョウの言葉で一同身を潜めた。
「いつもはこんなに混雑するフィールドではないんだけどな。」
ダイキが俺に近づき言った。ダイキが言うには、このフィールドNO26はエンドオブザワールドがよく使うフィールドらしい。フィールドの広さがあまり大きくないため短時間でコンプリートでき、ダイブできるパーティー上限数も10パーティーと少なく時間帯を選べばスムーズに進む事ができる。経験値を稼げるイーターの数は他のフィールドに比べ少なめだがミッション・コンプリート時のボーナスを最大の目的とするならば使いやすいフィールドと言える。慣れているフィールドのため、海岸沿いの攻略をスムーズに行った事が納得できた。
「とにかくイーターを見たら撃ちまくれ。経験値をできるだけ稼いでおけよ。」
ヒデが俺に言った。そうだ…俺は自分の経験値だけでレベルを上げなくてはならない。っていう事はイーターを数多く倒さなくては経験値が獲られないのだ。
「ヒデ、あんたのパーティーいいメンバーよ。リョウの突破力にダイキの命中率の高さ、アサミちゃんもいい動きだし、新人くんも素質あるじゃない。あんた今楽しいでしょ?うらやましいわ…。」
ハルカがヒデに感慨深げに言った。有名なハイプレイヤーのひとりであるハルカの言葉に俺はテンションが上がった。我が国のFRONTIERの歴史で最強のパーティーと語り継がれているレイニーデイズと現在現役最強のヴァンダルハーツで名リベロとして活躍しているハルカに『素質』があると言われたのだ。ただリョウの後ろで無駄に乱射していた俺の何を見て素質を見たのかわからなかったが、一流の人に評価された事が純粋に嬉しかった。
「前のコリアンがなかなか進まないわね。追い抜く?」
突然ハルカがヒデに提案した。このジャングルを約200メートル先に行くとフラッグステージへとフィールドチェンジできる。フィールドチェンジ直前でコリアンパーティーが手間取っている様子である。
「あそこはガトリング部隊がいるから初見のパーティーは必ず足踏みするんだよ。」
ダイキの説明で初心者の俺にもこの先のフィールドが見えてきた。フラッグ前の最後の難関としてガトリングを撃ちまくる部隊が立ちはだかり、そこを越える事でフラッグへとたどり着ける。すなわちコリアンパーティーを追い越すって事は、ガトリング部隊を俺達が先に攻略するって事に他ならない。これはコリアンパーティーも一緒にフラッグステージへとフィールドチェンジする事を意味している。フィールドに点在する各難関は、攻略すると一定時間機能を停止する。この間に通過するわけだから、俺達が攻略すればその場にいる他のパーティーも一緒に抜ける事ができるのだ。しかし一緒に抜けフラッグへ到達してもコリアンパーティーと共闘する訳ではない。複数のパーティーが同時にダイブしているフィールドであっても、フラッグだけは1パーティーVSフラッグとなり、フラッグステージは別々にフィールドチェンジするようにシステムされている。
実際、この前のパーティーを追い越すという状況はけっして珍しくはない。複数のパーティーが難所に存在した場合、その場の一番レベルの高いパーティーが前に押し出されるのだ。これは意図的に下位のパーティーが身を引く状況もあれば、今の俺達のように痺れを切らして前に強引に出る場合と二通りある。この暗黙の状況判断を意識できるパーティーと、できないパーティーの差がキャリアであり、前者はその状況を利用して有利にミッションを進める武器にもなるが、逆に後者はその場の全パーティーへ悪影響を及ぼし兼ねない。決断を誤ると思いもがけない結果を迎える事になるのだ。そして今前方で苦戦しているコリアンパーティーは後者である可能性が高い。逆に追い越して背中を見せたが最後、プレイヤーキルにあうかもしれない。ガトリング部隊のように難所のイーターは経験値が高いのだ。その経験値を見逃すわけがない。このまま待機して前が空くのを待つか、経験値を獲るために突入するか。ヒデの言葉を待った。
少しの沈黙の後、ヒデは
「行こう。」
と小さく呟いた。なんだか躊躇が混じるその声に俺は違和感を覚えたが、その直後にインカムが壊れるぐらいの大きな声で指示が飛んだ。
『リョウとダイキがアタック(突破)しろ!俺は援護に回る!シーナはリョウから離れずとにかく前に撃って進め!今後も使うフィールドだから身体に叩き込め!慣れたミッションだからって気を抜くな。リタイアは許さん!いいな!』
ヒデの激に各自が動きを開始した。左右に別れたリョウとダイキ。俺は凄いスピードでジャングルを駆け進むリョウに必死でついていく。とにかくイーターが現れたら撃ちまくり進路をこじ開ける。俺の位置は右翼攻めのリョウと左翼攻めのダイキから10メートルぐらい後方で、二人の中間を狙って撃ち進む。気をつけるのは前にいるリョウやダイキに俺の弾が当たらない事。もししくじったら現実世界でリョウに殺されかねない。さらに俺の後方からはヒデが針の穴を通す程の精度でガーランドを撃ち放ち、ピンポイントでイーターを狙撃している。時間にして5分。ジャングルを駆け抜けた俺達の前に小さな橋が現れた。そこでは橋の対岸にいるガトリング部隊と、橋を渡れないコリアンパーティーとの激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
別々の物陰に一旦身を隠した俺達は、ヒデのゴーサインを待っていた。橋の対岸では七機のガトリングが激しい機械音と乱射音を発しながらコリアンパーティー目掛けて放たれている。対するコリアンパーティーは物陰からアサルトライフルで応戦。だがよく見ると三人しか確認できない。突然、俺は背後に気配を感じ振り向くとダイキだった。
「なかなかいい動きだよシーナ。この一週間リョウのシゴキに耐えただけあるな。」
ダイキの言葉は俺にとってすごく嬉しいものだった。初めてのミッションで緊張していたが、ダイキと言う存在が援護をしてくれているという事だけで安心して前だけ見て進攻してこれたのだ。おそらく普段はダイキに噛み付くリョウも、この安心感の中で自由に攻め上がる事ができているのだろう。戦場で後ろを任せると言う事は信頼できる人間以外に成立しないのだ。
『ダイキ!あんまりお世辞を言わないで!調子に乗られると困るわ。たまに連射が不自然に止まるのはちゃんとリロードできてないからでしょ?本当にヘタクソなんだから!!』
インカムからリョウの悪態が聞こえてきたが、俺はこの先のフラッグとの初対面にテンションが上がっていた。俺の心の中でFRONTIERを楽しみ始めていたのだ。
ふと気づくとガトリング部隊の乱射音が消えていた。コリアンパーティーがいないのだ。撤退したのか?そんな疑問が浮かんだ瞬間、ヒデの号令が飛んだ。
『アタックだ!!』
まずリョウが連射をしてコリアンパーティーがいた物陰まで前進した。
「ついてこい!!」
ダイキが飛び出し、俺はそれに続いた。ダイキと俺は連射をしながら一気にガトリング部隊に一番近い物陰に入り一息入れた。
「リョウがアタックをかける、俺達は援護だ。いいかシーナ、ガトリングを狙うんじゃなくてそれを操るイーターを狙うんだ。」
ダイキの言葉に俺は頷きリロードを済ませた。ここからが早かった。ダイキと俺の連射にガトリング部隊のイーターは身を隠し撃つのを止めた。その間にリョウが素早く橋を渡りガトリング部隊の後方に回った。M16を腰にしまい、背中からニホントウを抜いてイーターを三体斬った。残りの四体はヒデの狙撃で消滅。辺りは静寂となった。
「いつもはアサミとリョウでアタックをかけるからもっとスムーズにいくんだよ」
ダイキの優しい声に俺は、ひとつの難関をクリアした安堵感が込み上げた。
『はい、みんなお疲れ様。やっと出番ね。』
インカムからハルカの声が聞こえて振り向くと、ジャングルから姿を現し俺達と合流した。
「めんどうな役目で悪かったな。」
ヒデがハルカに詫びる。
めんどうな役目?
俺は意味がわからず佇んでいたが、次のリョウの言葉でさらに戸惑った。
「で?誰が抜ける?もちろんシーナよね?」
これは非常に重要な事であった。フラッグステージに入れば後戻りができない。フラッグをクリアするか全員リタイアする以外ミッションを終えれないのだ。フラッグ戦で弾を消費し、状況によってはリタイア者を出した後にセーブポイントへと戻らなくてはならない。そこで一人退路確保と言う役割が必要となってくる。他のメンバーがフラッグステージへと入った後に、退路ルートであらかじめ余計なイーターを排除しておきスムーズにセーブポイントへと誘導する重要な仕事である。退路ルートはここまで来た往路とは別に復路が存在し、フラッグステージをクリアしたパーティーはその退路側の出口から帰ってくる。だから退路確保者はこの場でパーティーと別れ横道をそれて退路ルートへフィールドチェンジする必要がある。リョウが言った『誰が抜ける』かとは『誰が残る』のかと言う意味なのである。
ミッション中にリタイア者を出した場合、残ったメンバー全員でフラッグステージへ進む選択もあるが、本来退路確保の任務はフォワード(アバターサイズS)が行う。言い換えるならフォワードの役目はここで終了なのだ。フラッグステージで重要なのは征圧力で、重火器を操れるアバターサイズLのリベロとMのスナイパーである。傭兵を雇っていた場合も退路確保に回されるのは確実で、一番危険な前線アタックを散々やらされた末にフラッグへは行けないジレンマがフォワードにはあるのだ。
「今回は全員でフラッグステージへ入る。シーナも経験しておけ。」
ヒデが皆に告げる。
「ちょっとヒデ…。いくらなんでも甘すぎるわ。」
リョウが不満げに言う。なだめるようにハルカがリョウに、
「大丈夫でしょ。ハイプレイヤーが二人もいるのよ。B級フラッグぐらいで退路戦力を失う事もないわ。」
と。ハルカの言葉にリョウの反論はない。
「よし、シーナ行こう!」
ダイキが俺に歩み寄り肩を叩いた。
リョウが、
「あんたはハルカさんとヒデの後ろにいなさい。チョロチョロ邪魔しないでよ。」
と、釘を刺す。
「さぁ、気を引き締めろ。」
ヒデの声と共に、俺達はフラッグステージへとフィールドチェンジした。
5
フラッグステージへ入った瞬間、リョウとダイキがすぐさま前進を始めた。俺はリョウから言われた通りヒデの後ろについていた。辺りはジャングルに囲まれた広いスペースで前方には黒い戦車が見える。それを囲むように数人のイーターが銃を構え、すでにこちらに連射を開始していた。
『シーナ。フラッグ(戦車)を護衛しているのがハイイーターだ。しぶとくて強敵だかその分経験値が高い。フラッグはリベロの役目だが、あれはお前でも倒せる。行くか?』
ヒデのインカムからの声に俺は躊躇なく前進を始めた。しかしリョウの後ろについた時、ダイキ側に行かなかった事を後悔した。リョウから激しい叱責を受ける事が明らかだからだ。
『ったく…チョロチョロするなと言ったのに…』
やはりリョウのストレスがインカムから聞こえてきた。だがここまで来たら引き返せない。俺はハイイーターに照準を合わせた。
『ハイイーターを全滅後にフラッグにアタックする!』
ヒデの指令にリョウが一気にハイイーターへと飛び掛かり、ダイキが連射を開始した。
このフラッグ戦では、迅速にハイイーターを全滅させる事が重要になる。長期戦となれば状況不利は明らかで、リベロを失う状況や所持弾切れなどのケースに陥る事に繋がる。もちろんハイイーターを無視し、リベロの重火器の一発で終わる事も可能ではある。だがハイイーターを無視できない幾つかの理由が存在する。最大の理由ははフラッグステージ内のハイイーター撃墜時の取得経験値が異常に高いという点。
通常のイーターの三倍のポイントが手に入るのだ。レベルアップを迅速に行う為には各ステージでのハイイーターは絶対に無視できない存在なのである。
フラッグを先に倒してしまった場合、ハイイーターは撤退して消えてしまう。だから『まずハイイーターを倒す』という事がセオリーなのだ。
ハイイーターを倒して高いポイントを手にする事がパーティー全体のレベルアップを生むため、スナイパーに討伐させる選択を選ばざるをえないのである。
『シーナ!!とにかくハイイーターを狙って撃ちまくれ!!』
ダイキの声がインカムから聞こえてきた。俺は右側から回り込むように移動をしながら連射を開始した。リョウとダイキは、確実にハイイーターを撃ち倒していく。対するハイイーターは、ハルカへの集中攻撃に徹していた。しかし俺の弾がハイイーターを一体倒した瞬間、数体のハイイーターが銃口を俺へと向けた。
『バカ!!前に出すぎ!!とにかく動いて逃げなさい!!』
リョウの怒号がインカムから聞こえた次の瞬間、俺に対してハイイーターの攻撃が始まった。
『シーナの援護は俺がする!!二人はそのままアタックだ!!』
ヒデの指示でリョウとダイキはジワジワ前進を続ける。俺は必死に逃げながら連射をハイイーターに向けた。ある程度距離をとると、ハイイーターの攻撃が弱まり、戦況を広い視野で見る事ができた。ハルカは一番遠い場所で攻撃をかわしながら最後のタイミングを待っていた。ヒデは一体一体を確実に狙撃して数を減らしている。リョウとダイキも両翼に広がり、なれたようにハイイーターを倒していく。俺はもう一度アサルトライフルを構え、ハイイーターへ攻撃を再開した。
距離を保ちながらハイイーターへの攻撃を続ける俺は、7体を撃ち倒した。ハイイーターはフラッグから離れない。言い換えれば、こちらの間合いで戦える事がわかった。フラッグも大きな主砲で撃ち込んでくるが、戦車の軌道は分かりやすく動きながら回避できる。
『そろそろだな。ハルカ頼む!!』
ヒデの声にハルカがジャベリンを構える。それは激しい爆音を発して火花を吹いた。あまりにもあっけなくフラッグは大爆発とともに消えた。同時に残っていたハイイーターも姿を消し、不思議なほど静かな空間がそこに残った。
『まぁ、B級フラッグならこんなものね。』
ハルカの言葉で戦いの終わりを実感した俺は銃を下ろし深く息を吐き出した。
『あんた、勝手に前に出て…』
リョウの怒りがインカムから聞こえてきた。もちろん俺に対してだ。だけど…俺は…楽しかった!!スリリングで、なんて爽快な気分なんだろう。きっと帰還後にリョウにからメチャメチャ怒られるだろう。でもいいんだ…。俺は今まで感じた事のない達成感に体が震えていた。
6
フラッグステージをコンプリートした俺たちは、新たに出現した退路フィールドへの出口を進み、数体のイーターを倒してセーブポイントへと帰ってきた。はじめてのミッションフィールドで興奮していた俺は、ブースで目覚めた時、まだ体が震えていた。ステーションのロビーに戻ると、ハルカが俺を出迎えてくれた。
「お疲れ様。いいミッションだったわ。」
ハルカの言葉に俺は安堵感を隠せず肩の力がフッと抜けた。
「ありがとうございました。いい経験になりました。」
素直な気持ちだった。俺の言葉にハルカは、
「所詮ゲームよ。楽しみなさい。でなきゃ、リョウのようになってしまうわ。」
と、少し寂しく言った。その言葉に違和感を覚えた俺の後頭部に突然痛みが走る。帰還したリョウの平手打ちだった。
「あんた、バカじゃないの!!フラッグステージで勝手に前に出て…!ヒデが援護しなかったら蜂の巣にされていたわよ!!だいたいあんたは…」
リョウの叱咤が浴びせられているが、覚悟のうえだ。ハルカがたしなめてくれているがリョウのお説教は続いている。俺はリョウの罵詈雑言を聞き流しながら、ヒデとダイキの帰りを待っていた。しばらくするとヒデとダイキがキャッシャーの方から歩いてきた。
「お待たせ。精算もすませたし、とりあえずスタバにでもいくか。」
ヒデの言葉に、
「私はもう戻るわ。開店の準備もあるし。今夜は私の店に来てよね。それが今日のミッションのご褒美。」
ハルカが笑顔ではにかんだ。
「わかっているよ。だから今日のミッションポイントは多めに現金にしてきたよ。」
ヒデが苦笑いで言うと、ダイキが横で嬉しそうな顔を見せている。
「じゃあ新人くんも後でね。」
ハルカが軽く手を挙げてステーションを後にすると、俺たちもスタバへと場所を移した。
「まず、今日はお疲れ様。」
スタバに到着してコーヒーを啜りながら今日のミッションの反省会が始まった。
「シーナ、はじめてのミッションとフラッグステージにしては凄くよかったよ!!」
ダイキが俺に労いの言葉をくれた。しかし、その直後にリョウが声を荒げた。
「冗談じゃないわ!だいたいB級フラッグにレベル1のフォワードを連れていくこと事態間違っているのよ!」
かなり怒っている。それにヒデが割って入る。
「まぁ落ち着けよリョウ。今回はシーナにフラッグを見せておきたかったんだよ。それにフラッグ戦の予備知識や戦い方を教えておかなかった俺の責任だし、ハルカもいたから、安心して自由に戦わせられた。これも経験だよ。リョウだってはじめてのフラッグ戦はパニクってたじゃないか。」
ヒデの言葉にリョウは黙った。リョウがパニクる!?なんだか俺の顔が緩む。
「なに笑ってるのよ!!」
リョウの叫びも可愛く思えた。
「シーナ、今日経験してみてある程度理解したかもしれないが、フラッグ戦はフィールド戦とは違う戦い方があるんだよ。パーティーでのポジショニングも重要だ。今日のように1人で突っ込んでいく戦い方はダメだってことはわかったな?」
ヒデの問いに俺は頷く。たしかにフラッグ戦の途中で俺がハイイーターの的になる状況があった。これはフラッグとハイイーターの関係に理由がある。ヒデに代わってダイキが俺に、フラッグ戦の特性を教えてくれた。
フラッグ戦の鉄則は、リベロを守る事が前提である。リベロを温存しながらハイイーターを倒して経験値を稼ぐ。だからリベロは、一番遠い場所で待機する。ハイイーターをある程度倒すまではリベロの出番はないのだ。だが今回のフィールドのフラッグはあまり動かないため自分たちの間合いで戦えたが、フラッグによってはリベロの周りを固めるポジショニングも必要になってくる。状況に応じた組織的な動きが要求されるのがフラッグ戦である。基本的にハイイーターはリベロを狙った攻撃を行ってくる。しかし一定のテリトリーを越えてくるプレイヤーには標準を変えてくる。俺が的になった理由はこれだ。この絶妙な間合いを測るのもフラッグ戦を制する技術のひとつである。これは経験を積む他にスキルアップはない。場数を踏んでいくことによって感覚で覚えていく戦い方なのだ。だが今回のミッションは俺の無知な行動が逆にハイイーターを引き付けることになり、リョウとダイキのアタックをスムーズに行える結果となった。もちろん俺を狙うハイイーターをヒデが確実に狙撃してくれた事が、リタイアせずにすんだのも忘れてはならない。とにかく経験を積む事の大切さを知ったミッションであった。さまざまなダメ出しをリョウから浴びせられた反省会は、ヒデのフォローで幕を閉じた。
「そろそろ行くか。」
ヒデの合図で一同席をたち、リョウは
「じゃあ。」
といい放ちスタバを後にした。
「やっぱりリョウは行かないか。」
ヒデが笑いながらそれを見送る。残された男三人はダイキの車に乗り込み、帝都一の繁華街である歌舞伎町へと向かった。
「ハルカにヘルプを頼むといつも高くつく。」
ヒデの言葉にダイキが、
「たまにはいいじゃない。」
と、嬉しそうに言う。
「シーナは時間を見て帰れよ。でなきゃオールナイトになっちまう。」
ヒデが俺に気づかいの言葉を言った。
「ハイ」
と返事をした俺だが、実は舞い上がっていた。歌舞伎町なんて初体験だ。普通の居酒屋からさまざまなマニアックプレイができる風俗店が集まる日本を代表する歓楽街。俺のようなガキンチョには怖いイメージしかない。しかし1人なら不安だが、ヒデやダイキも一緒だし、ハルカの店に行くわけだから、危ない目にあうことはないだろう。パーキングに車を入れ、大勢の人々が行き交うキラびやかな街を歩きながら、ヘタレのくせに好奇心だけは旺盛な俺は二人の後ろを心踊らせながら歩いていた。
7
人混みをかき分け、メインストリートを一本入った雑居ビルの4階にあるONLY YESTERDAY(オンリー・イエスタデイ)という店の前についた。店の扉にはCLOSEがかかっていたが、ヒデはお構い無く中へ入り、ダイキと俺も続いた。
「いらっしゃい。まってたわよ。」
俺たちを出迎えたハルカ。さっき会った時からさらにハデなメイクに華やかなドレスを着ている。ここはハルカが経営するバーである。カウンター15席程の小さな店だが、カウンター越しにさまざまな酒が棚に並んでいる。まだ時間が早いようで店は開店していなかったが、カウンターに1人、男が座っていた。すでに呑んでいる様子で、男の前にはウィスキーの瓶と、手には飲みかけのグラスが握られていた。
「よう。来てたのか。」
ヒデがカウンターの男に声をかけた。男は黒のスーツ姿で、睨み付けるようにこちらを向いた。
「アキラさん!?」
ダイキが驚いたように男の名を呼んだ。アキラ!?ヴァンダルハーツのパーティーリーダーアキラがそこにいた。
「ヒデか…あとガリ勉メガネ…なんだそのガキは?」
アキラは俺たちを一瞥してグラスを一気にあけた。一瞬目が合っただけでゾクッとする威圧感。伝説のパーティーレイニーデイズの一員でありサブリーダー。
現在ヴァンダルハーツのパーティーリーダーとして大日本帝国のFRONTIERプレイヤーの頂点に君臨する男。
「私が呼んだのよ。ヒデが来るからってね。」
ハルカが新しいウィスキーの瓶とグラスを3つカウンターにおきながら言った。ヒデは軽く笑いながらアキラの隣に座りダイキ、俺が順番に続いた。
薄暗い店の中には、ステンドグラスをあしらった洒落た照明でカウンターを照らしていた。アキラは懐からタバコをだし、一本くわえるとジッポで火をつけた。その仕草に見とれていた俺は、大人の渋さを感じていた。アッサリした顔立ちだが目付きが悪い。だがなんだかカッコいい。この雰囲気に凄くマッチした風貌だった。
「おいハルカ。シーナはノンアルコールだ。」
ヒデがハルカに笑いながら言う。ハッとした顔でハルカが俺の前にコーラを持ってきた。ダイキが二人分の酒をつぎ、乾杯もなくグラスを口に運ぶ。しばらく沈黙の四人。ここでハルカが切り込む。
「リョウは?」
「リョウはこの街が苦手なんだよ。オテンバ娘だがやはりお嬢様だからな。」
ヒデが説明する。
「やっぱりね。まぁいいわ。今日はジャンジャンお金使ってね。」
笑顔でえげつない事を言うハルカ。しかし、これで場が和んだ。
「アキラ、なかなかフィールドNO.1には挑めてないようだな?」
ヒデがアキラに意地悪な声で言う。フィールドNO.1とはもちろんS級のラストフィールドの事だ。現在、日本で唯一のS級パーティーであるヴァンダルハーツでも、挑戦すらできないNO.1フィールド。
「トライアルがなかなかクリアできなくてな。」
アキラが気だるそうに返す。俺は小声でダイキに
「トライアルって?」
と聞いた。ダイキはいつものように笑顔で教えてくれた。
R-SフィールドNO.1、別名【虐殺の門】。世界中のプレイヤーが目指す最終フィールド。このフィールドへ挑戦するには大きな条件が必要とされる。それがトライアル・フィールドだ。フィールドNO.2~NO.4のいずれかをクリアしなければならない。もちろん難易度の高いフィールドであることは言うまでもない。この条件をクリアしたパーティーにのみ、その後30日以内に1回だけ挑戦権が与えられる。その1回の挑戦に失敗、または30日間の期限を過ぎたら、もう一度トライアルからやり直しとなる。
そしてペナルティーとして2か月はトライアルへ挑戦はできない。
このトライアルの難易度が高すぎて、ここで足踏みするパーティーが多く、フィールドNO.1に挑戦できるのは世界でも一部の有力パーティーに限られており、3ヶ月から4ヶ月に一度のペースである。唯一この【虐殺の門】だけは世界中にライブ中継される。ごく少数しか挑めない最終フィールドを世界中のFRONTIERプレイヤーがネットやステーションのモニターを通して見る事ができるのだ。
「俺たちがトライした【虐殺の門】…もちろん覚えているよな?」
アキラがヒデに問う。
「もちろんだ…。」
ヒデは静かに答えた。
「散々だったわね。」
ハルカは笑顔だ。アキラが、再びタバコをふかしなから話始めた。
「最初にハルカがリタイアして、次にヒデ。そしてヒュウガが消えた。俺はシュウの援護をしながら蜂の巣にされたよ。リタイアする寸前…意識がなくなりかけた俺はシュウが【虐殺の門】を通過するのを見た…。」
アキラの言葉にヒデとハルカは口を閉ざした。それはつらい過去を思いだし、言葉にならない様子だった。そのトライ後にシュウはアンデッドしたのである。
「【虐殺の門】とはそれほどまでの難易度なんですね…」
ダイキが静かに言葉を発した。
「ガリ勉メガネ…あそこは地獄だ。」
アキラの呟きにダイキも口をつぐんだ。FRONTIERの歴史上、一度もコンプリートされたことのないフィールドNO.1【虐殺の門】。
幾多の実力者が挑み破れた難攻不落のラストフィールド。しかしゲームである以上、なんかしらの攻略法があってもいいはずである。俺の好奇心が、勝手に口を開かせた。
「しかし…ヴァンダルハーツほどの最上級パーティーであれば…ましてや【虐殺の門】を経験しているアキラさんとハルカさんがいるパーティーです…なにかコンプリートへの策もあるんじゃないですか?」
俺の言葉にアキラが深くタバコを吸い込みゆっくり吐き出し、俺に視線を合わせた。
「ガキ…いや、シーナと言ったか?お前がもしあのフィールドにトライした時、戦う相手は自分の中の絶望だよ。」
アキラの静かで強い口調に俺は好奇心で口にした言葉を後悔した。しかし、
「だがな…ひとつだけ少ない可能性だがチャンスはある。」
アキラは少し表情を緩めて言った。
「3パーティー連隊でのトライね。」
ハルカが続く。
「むしろこれしか考えられないな。」
ヒデもこれに相槌をいれる。
「3パーティー連隊?」
さらに好奇心に襲われた俺はアキラにさらに強く聞いた。
「【虐殺の門】っていうのは要塞なんだ。その要塞にある小さな門を抜けることでコンプリートとなる。
ただ問題なのは、パーティー人数の50パーセントが抜ければならない。フルパーティーなら3人、4人のパーティーなら2人だ。今まで抜けたヤツは何人かいた。シュウもその1人だ。しかし、パーティーとしてコンプリートしなくては意味がない。それが【虐殺の門】だ。」
アキラは俺の事は見ずに話を進めた。続けてヒデが口を開く。
「その要塞から何百という機関砲やガトリング、ランチャーが一斉にプレイヤーめがけて撃ってくる。スピードに特化したプレイヤーなら、それを掻い潜って 門へ直行できないこともない。シュウがくぐれたようにな。しかし、パーティーってのは様々なポジショニングを想定した構成で作っていく。言い換えるなら、【虐殺の門】までたどり着いた時点で、スピード特化のプレイヤーはパーティーに1人か2人しかいない。ミッションフィールドのフラッグではリベロが必要だから、リベロを育てる事を最優先にS級まで上がったのに、ラスボス戦ではリベロがまったく役にたたないんだ。」
ハルカもこれに加わる。
「私やヒデのようなリベロは完全に援護に徹する状況になるわ。例えばフルパーティーだったとしても門まで3人向かわせてしまったら、実質の戦力は2人。あの嵐のような火器砲火では、1パーティーだけでの戦力では足らないのよ。」
それを聞いたダイキがハッした表情で話し出した。
「なるほど…たしかR-SフィールドNO.1のパーティー接続上限は3でしたよね?それで3パーティー連隊ってわけですね?」
ヒデが大きく頷いてまた話し始める。
「1パーティーをコンプリート部隊として、残りの2パーティーでひたすら援護をする。もちろんその3パーティー間でもメンバーを入れ替える。パーティーリーダーさえ変わらなければトレードは自由だ。コンプリート部隊にスピード特化のプレイヤーを集中させる。現状考えうる策はこれしかない。」
グイっとグラスをあけたアキラが、こう付け足す。
「まぁ、不可能な策だけどな。」
と。
「なぜ不可能なんですか?そこまでしっかりとしたプランがあるならばやるべきですよ。」
俺の無駄口に、
「やれるなら、とっくに世界中のどこかのパーティーがやっているわ。」
と、ハルカに一蹴された。俺はダイキの顔を見た。ダイキは俺の視線に気づき、真剣な眼差しで口を開いた。
「トライアルだよ。」
ダイキの言葉に俺は理解できない顔をした。
「トライアルで【虐殺の門】へと挑戦権を獲るパーティーは、3ヶ月に1回あるかないかだ。そんな状況で3パーティーも同時にクリアできるわけないだろう。それに世界中でS級パーティーなんて一握りの存在だ。限りなく少ない確率の中で、この策は不可能なんだよ。」
ダイキの説明で、納得がいった。
アキラがさらに口を挟む。
「仮に3パーティー揃ったとしよう。じゃあ、どのパーティーがコンプリート部隊になるか…これで揉めるな。3パーティーが力を合わせて難攻不落の【虐殺の門】をクリアしたとしても、称賛を浴びるのはコンプリート部隊が集められた1つのパーティーだけだ。歴史に名を刻むのも、そのパーティー名だ。まったく知らないパーティー同士では成立しないんだ。」
なるほど…じゃあ同じ志をもったパーティー同士なら、無い話でもない。俺の顔を見て思惑を見透かしたようにハルカがつけたした。
「S級パーティーが3パーティーも同じフィールドに存在すること自体、めずらしい状況ね。 何度も言うけどS級パーティーは絶対数が少ないの。S級フィールドに接続上限なんて関係ないわ。だって他のパーティーにほとんど会ったことないもの。大日本帝国では私たちヴァンダルハーツしかS級がいないからなおさらね。時差もあって海外のパーティーに会うこともないわ。それに例えS級の3パーティーが仲間になったとしても、同じ時期に【虐殺の門】への挑戦権を獲る可能性は低いわ。」
結局、話は振り出しに戻る。しかし、これはゲームだ。絶対になにかコンプリートのキーワードがあるはずである。俺のモヤモヤは大きく膨らむばかりだった。
俺のへたれた顔を見たヒデは、ハルカに言った。
「ハルカ、久しぶりにあれを歌ってくれよ。」
言われたハルカは、
「はぁ?今?」
と嫌そうな顔をした。
「俺も聞きたい。」
アキラも表情を変えずに続く。ため息をひとつ漏らして、ハルカは、店に飾ってあったアコースティックギターを構えた。
「なんの歌?」
ダイキがヒデに問う。
「レイニーデイズの歌だよ。」
ヒデが嬉しそうな顔をした。レイニーデイズの歌?
「シュウが好きな歌だったRAINY DAYS AND MONDAYSってカーペンターズの曲名から、レイニーデイズって名がつけられたんだ。」
アキラが付け足した。ハルカはポロンとギターを一度鳴らして、透き通る歌声を発した。
俺は感動していた。ハルカの歌声は俺の胸の奥深くにある魂をギュッと掴んだ。もちろん歌詞の意味はわからない。だけどすべてが浄化される…そんな気持ちにさせられた。
「お前の歌声は、いつ聞いても癒されるよ。」
ヒデが言うと、
「おだてないで。今日はめんどくさい仕事をさせたんだから、ちゃんとお返ししなさい。」
ハルカは、新しいボトルをヒデの前に置いた。
めんどくさい仕事?
ダイキの顔を見ると、
「ハルカさんが、前にいたコリアンパーティーを排除してくれたんだよ。」
とバツが悪そうに答えた。
プレイヤーキル!?
俺の疑視はヒデに向けられた。
「いや…まぁ…あれだよ…。」
歯切れの悪いヒデの態度にアキラが口を挟んだ。
「コリアンへのプレイヤーキルは当然の事だ。殺らなきゃこっちが殺られる。シーナ、これだけは覚えておけ。コリアンはイーターと同じだ。見つけたら必ず撃て。どうやって俺たちレイニーデイズがわずか3年足らずでS級までかけ上がったか…邪魔するヤツは例えプレイヤーキルになろうと、排除してきた貪欲さだ。ヒデはアマいヤツだから、お前たちガキンチョメンバーたちには、プレイヤーキルなんてさせたくなかったんだろう。ありがたいと思え。」
う~ん…なんか納得いかない。
「ま…まぁ、あれだよシーナ。世の中綺麗事だけじゃあ…まぁ、あれだよ…なぁダイキ!!」
ヒデが焦りながらダイキに振った。ダイキも首を何度も上下させ俺の肩を叩いた。
う~ん…納得いかない…
けど…これが俺の選んだ仲間なんだと思えば不思議と納得できた。理由なんてない。自分を受け入れてくれたヒデを信じるだけだ。
「さぁ、そろそろ店の女の子たちも出勤してくるわ。ナギサももうすぐ来るから…ダイキ、もう少し待ってね。」
ハルカが場を切り替えようと明るく言った。ダイキの顔が満面の笑顔に変わる。
なるほど…ダイキが今日のハルカ参戦を喜んでいたのはコレか…。ナギサって女がお目当てだったわけだ。
俺はコーラを一気に飲み干した。今日は楽しもう。なにも考えずに仲間たちと。ふと店の隅に、張り紙が見えた。薄暗い店内で今まで見えなかった。《従業員募集》と書かれた張り紙。俺の中で、何かが動きはじめた。
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