フォローする
共有
エリュフィシア・ヒストリオ の小説カバー

エリュフィシア・ヒストリオ

異世界エリュフィシアは、本来その地には存在しないはずの異端なる技術「アルコーン」の台頭により、果てなき戦乱の渦へと飲み込まれていった。加速し続ける争いの歴史の中で、小国ウェルギス王国もまた存亡の危機に立たされている。この動乱の時代を背景に、次期国王としての宿命を背負う青年アラステアは、自ら剣を手に取り最前線へと赴く決意を固めた。戦場に吹き荒れるのは、敗者の慟哭、強者の憤怒、そして己の信念を懸けて戦う者たちの誇り。混沌がすべてを支配する過酷な戦場において、彼は何を信じ、何を守り抜くのか。凄惨な戦いの中で、揺るぎない覚悟を胸に秘めた者だけが生き残ることを許される。国家の命運と個人の誇りが複雑に絡み合う中、アラステアは自らの正義を貫くために、終わりなき戦いへとその身を投じていく。これは、異質な技術がもたらした動乱の歴史に抗い、激動の時代を駆け抜ける王子の足跡を描いた壮大なファンタジー戦記である。彼が歩む道の先には、果たしてどのような結末が待ち受けているのだろうか。
共有

2

 門前の戦場は、まさに戦いの場になっていた。無数のアルコーンが両軍入り乱れ、大砲が大地をえぐっていた。ソルモールで数が多い、ヘレスとウォーブの群れが、絶え間なく襲い掛かってくる。まるでとめどない蟻の大群だ。

「ゲルガー!援軍はまだか!」

 その戦場で奮戦する部隊の一つ、第67大隊の隊長シフォード・ラウンは腹心のゲルガー・カインに催促した。

『ラウン隊長…!落ち着いて聞いてください。ア、アラステア様がご出陣なられたようです。おそらく、もうじきそちらに来られるかと!』

 シフォードは、その報告を聞いた時、一瞬、全ての動きが止まってしまった。それは彼の乗るイルザーノも同様で、無論それは戦場において禁忌である。

 気付いた時には遅かった。コクピット中央の大水晶には、敵の剣が迫っているのが映っている。もう間に合わないと思ったラウンは、アルコーンを捨てる覚悟をした。そして右側面にある脱出用の小水晶に、手を近づけていた。

 だが、その時は訪れなかった。敵の剣は横にそれ、そして敵アルコーンの本体は腰から横に真っ二つにされ、地面に崩れ落ちた。

『黄色と黒のイルザーノ…あなたはシフォードですね?』

「そ、そのお声、アラステア様!こちらに来られたのですか!?」

『ええ。ですが、シフォード。戦場で油断は禁物です』

「は、はっ!!申し訳ございません!」

 アラステアは、数人の部下たちと共に彼の前に現れた。最初は気付くものが少なかったが、それは瞬く間に、その場のウェルギス兵たちに知れ渡った。味方の兵士たちは歓喜し、敵の兵士たちは動揺している。その為、数で大幅に劣っているはずのウェルギス軍が、ソルモール軍を押し始めている。

「ウェリオンの子らよ!祖国の誇りをその胸に!」

 高く掲げられたその剣に合わせて、高鳴る多くの声が戦場を支配した。

 アラステアは周囲の味方に一時後退を命じた。自身はサーレーンを操作し、脚部内蔵のバネで空中で高く跳ばし、そして剣先を下向きにそのまま落下した。その衝撃は凄まじく、敵は吹き飛んだ。しかし当然ながら、搭乗しているアラステア自身の体にも、それ相応の衝撃はあった。だが、休んでいる場合ではない。後退させた味方に今度は、前進の命令を下す。

 友軍を束ねるサーレーンは、まず真っ先に敵陣に斬り込んだ。まずは1体。その勢いのまま、敵軍アルコーンのヘレスを盾ごと切り裂いた。そして2体、3体目。周りでも、激しい斬り合いが始まる。

 そんな戦況でも、アラステアは的確にサーレーンーを操る。後ろから斬りかかって来たヘレスを、素早く反応しまとめて切り捨てた。すかさず4、5、6体目。まず、真ん中のヘレスの胴に華麗にけりを入れ、吹き飛ばした。そして、横にいたヘレスを袈裟斬りで始末した。最後の6体目のヘレスの剣を盾で受け、そまま剣を弾き飛ばした。そして剣を胴体に突き刺し、とどめを刺した。

『見事な剣さばきだ、アラステア殿。千人斬りの伝説も、あながち嘘ではないとみた』

「群青のミスラール… マーサス・ヴィロン!あなたの勇名は、エリュフィシア中に轟いています。王都を随分と、蹂躙してくれたと…!」

『お褒めにあずかり光栄です。あなたもサーレーンも、かの王都の如く麗しい… ですが、あなたはここに相応しい人間ではない!』

 マーサスのミスラールは剣を構え、アラステアのサーレーンも剣も構えた。だが、それから両者は動かなかった。周りではなおも、激しい斬り合いが行われている。それだけに、この相対する2人は、異質な空気を醸し出している。

 そのあまりにも完璧な隙の無さに、マーサスはこれまで対峙したどの相手にも感じたことのない感覚を得た。全ての臓腑は肉体という大地を揺るがし、行き渡る血は流れるマグマとなり全身を駆け巡る。その感覚を。

 だが生命に永遠などない。

 並みの戦士ならば隙とは考えないであろう、その変化をマーサスは見逃さなかった。サーレーンの剣を持つ右手と、右腕がわずかに揺らいだのだ。

(もらった!)

 マーサスのミスラールは、微動だにしなかった先ほどまでとは打って変わり、ほんの一瞬でアラステアのサーレーンの懐に入りこむ。そして、マーサスは勝利を確信した。アラステアは明らかに反応出来ていない。その証拠に、この切っ先がすぐにでも、確実に胴体を捉えられる位置に来ているが、身動きが取れていない。

 マーサスは止めを刺すために、ほんの少し踏み込む。そう。この感触だ。幾度となく味わったこの感触。この感覚の数秒後には、敵は地に伏し、動かなくなっている。彼の目には、すでにその光景が見えている。見えていたのだ。

(…何だ!?)

 マーサスの錯覚は終わり、彼に通常の感覚が舞い戻る。剣は空を切った。彼にとっては信じがたいが、それは事実だった。

 焦ったマーサスは、もう一度斬りかかったが、隙だらけだ。そして、そんな敵を斬るのは容易い。横に真っ二つに斬られたミスラールが、サーレーンの前に地に伏していた。

おすすめの作品

12度目の決別 〜11回の流産を超えて、私は夫の愛を捨てました〜 の小説カバー
9.2
11回もの流産を経験しながらも、彼女は希望を捨てなかった。病床で無数の針に耐え、愛する夫との子を救うための「特効薬」を待ちわびていたのだ。しかし、8年間連れ添った夫がその薬を渡したのは、妊娠したばかりの愛犬だった。夫のあまりに冷酷な裏切りに直面し、彼女の心は完全に壊れる。頬を伝う涙を拭った彼女は、苦難の末に宿した命を自らの手で終わらせる悲壮な決断を下した。心変わりした男に未練はない。だが、己の献身を蹂躙した報いは必ず受けさせると誓う。彼女は長らく放置していた携帯電話を手に取り、絶縁していた唯一の連絡先へとダイヤルした。「私を娘と認めたいなら、一週間後に迎えに来て。あなたの後継者になるわ」と。かつての愛を捨て、復讐へと舵を切った彼女。その背中を見送った夫が、後に神仏に縋り、血を吐くような後悔の中で再会を乞い願うことになるとは、今はまだ知る由もない。裏切りから始まる、壮絶な愛憎劇が幕を開ける。
Alice の小説カバー
9.3
「ボクを殺したのは誰――?」鏡の向こう側で、運命の歯車が静かに回り始める。ロシア南部のクラスノダール地方に拠点を置く軍部には、最強と謳われる一人の少女がいた。コード・ゼロという名で呼ばれる彼女は、身寄りもなく、過酷な戦場をたった一人で駆け抜けてきた。感情を一切持たず、あらゆる事象に無関心なまま任務を遂行する彼女だったが、潜入捜査で訪れたある洋館で転機を迎える。巨大な鏡に映る自分と目が合った瞬間、鏡の中から白兎の耳を持つ謎の男が現れたのだ。自らを「白兎」と名乗るその男は、彼女に一つの残酷な依頼を告げる。「アリスを殺した犯人を殺してほしい」と。その言葉に導かれるように、少女は未知なる鏡の世界へと足を踏み入れる。それは、戦うことしか知らなかった孤独な兵士が、失われていた感情や「愛」という名の温もりを初めて知っていく物語。異世界の混沌と謎が交錯するなか、彼女は真実に辿り着けるのか。切なくも激しい戦いの幕が今、上がる。
死亡フラグを物理で叩き割ったら、家族全員がホームレスになりました。 の小説カバー
9.3
水無瀬時雨は、婚約者の手によってトラックの前に突き飛ばされた。彼が守りたかったのは時雨ではなく、使用人の娘だったのだ。死の淵から生還した時、彼女の心に宿っていた献身的な愛は完全に消え失せていた。時雨は、自分を裏切った婚約者や恩知らずな三人の兄たちとの決別を決意し、復讐を開始する。当初、兄たちは彼女が気を引こうとしているだけだと楽観視していたが、その傲慢さはすぐに絶望へと変わる。時雨が資金を引き揚げたことで長兄の会社は倒産に追い込まれ、代筆を拒まれた次兄の才能は偽りだと暴かれた。さらに三兄も彼女のサポートを失い、レース界から追放される。すべてを失い、ホームレス同然となった兄たちは、かつての妹に泣きついて許しを請うが、もはや手遅れだった。圧倒的な権力を誇る新たな婚約者の傍らで、時雨は冷徹に絶縁状を叩きつける。かつての優しさは消え、彼女は自らの手で運命を切り拓いていく。裏切り者たちに用意されたのは、救いのない破滅という結末だけだった。
追放された“クズ婿”は、世界を震わす絶世の王 の小説カバー
9.0
周囲から「無能な落ちこぼれ」と蔑まれ、肩身の狭い思いをしながら生きてきた一人の婿養子がいた。妻の家族からも人間以下の扱いを受け、犬にも劣る存在として虐げられる日々。そんな彼をさらなる悲劇が襲う。卑劣な陰謀に嵌められた彼は、身に覚えのない罪を着せられ、屈辱にまみれたまま妻の家を追放されてしまったのだ。すべてを失い、どん底に突き落とされた男。しかし、この理不尽な追放劇こそが、眠れる獅子を呼び覚ます引き金となる。彼こそは、かつて世界を震わせた伝説の王者であり、その真の姿を知る者は誰もいなかった。静かに牙を剥き、再び表舞台へと姿を現した絶世の覇者。裏切りと蔑みの果てに、彼は己を貶めた者たちへの逆襲を開始する。隠されていた圧倒的な力とカリスマ性が解放されるとき、世界は未曾有の衝撃に包まれることになる。これは、最底辺まで堕とされたクズ婿が、真の王として覚醒し、運命を自らの手で切り拓いていく壮大な復讐と再起の物語である。彼が歩む道の先には、驚愕の真実と新たな秩序が待ち受けている。
離婚後、偽令嬢の正体がヤバすぎた。 の小説カバー
9.2
松本星嵐が「偽の令嬢」だと露呈した瞬間、夫や両親、兄までもが彼女を冷酷に切り捨てた。婚家を追われた彼女が次に選んだのは、名門の重鎮・坂本凛斗という新たな盾だった。周囲が破滅を予見し嘲笑うなか、星嵐は隠し持っていた真の姿を次々と解放していく。その圧倒的な実力は並み居る権力者たちを戦慄させ、跪かせるほどであった。復縁を狙う愚かな元夫を地獄の底へ突き落とす一方で、彼女は凛斗に対し「私のヒモになりなさい」と微笑む。しかし、彼もまた底知れぬ正体を隠し持つ男だった。凛斗は静かな笑みを浮かべ、妻を支配せんとする本性を現す。実はこの二人、世界を揺るがす国際組織にとって最大の脅威となっていたのだ。星嵐の離婚と凛斗の結婚、そして最強の夫婦が裏社会で手を組み、縦横無尽に暴れ回ること――。無数の裏の顔を使い分け、実力を隠して暗躍する二人の規格外な物語が幕を開ける。正体を隠した最強夫婦による、痛快な逆転劇と愛の駆け引きが今、世界を震撼させる。
高校生活、やり直して地獄を見せてやる の小説カバー
8.2
高校3年生の夏、親友が不良グループのリーダーと恋に落ちたことで全てが狂い始めた。授業を放棄し、不健全な場所に身を置く彼女を救いたい一心で、私は自らの時間を犠牲にして彼女の両親へ実態を告発した。その結果、彼女を更生させることには成功したものの、待ち受けていたのは残酷な裏切りだった。大学入試の当日、彼女は私に薬物を混ぜた水を飲ませ、冷酷に言い放った。「私の輝かしい未来を奪った報いとして、あなたの人生も台無しにしてあげる」と。試験に失敗し、絶望の中で命を落としたはずの私は、気が付くと過去の世界へと回帰していた。かつての親友と不良のボス、私を地獄へ突き落としたあの二人への復讐心は消えていない。善意を踏みにじられた怒りを糧に、今度は私が彼らを破滅の淵へと追い詰める番だ。失われたはずの栄光を奪還し、自身の未来を守り抜くための孤独な戦いが幕を開ける。二度目の人生、私はもう決して容赦などしない。徹底的な報復によって、彼らに真の絶望を味わせることを誓う。