
エリュフィシア・ヒストリオ
章 2
門前の戦場は、まさに戦いの場になっていた。無数のアルコーンが両軍入り乱れ、大砲が大地をえぐっていた。ソルモールで数が多い、ヘレスとウォーブの群れが、絶え間なく襲い掛かってくる。まるでとめどない蟻の大群だ。
「ゲルガー!援軍はまだか!」
その戦場で奮戦する部隊の一つ、第67大隊の隊長シフォード・ラウンは腹心のゲルガー・カインに催促した。
『ラウン隊長…!落ち着いて聞いてください。ア、アラステア様がご出陣なられたようです。おそらく、もうじきそちらに来られるかと!』
シフォードは、その報告を聞いた時、一瞬、全ての動きが止まってしまった。それは彼の乗るイルザーノも同様で、無論それは戦場において禁忌である。
気付いた時には遅かった。コクピット中央の大水晶には、敵の剣が迫っているのが映っている。もう間に合わないと思ったラウンは、アルコーンを捨てる覚悟をした。そして右側面にある脱出用の小水晶に、手を近づけていた。
だが、その時は訪れなかった。敵の剣は横にそれ、そして敵アルコーンの本体は腰から横に真っ二つにされ、地面に崩れ落ちた。
『黄色と黒のイルザーノ…あなたはシフォードですね?』
「そ、そのお声、アラステア様!こちらに来られたのですか!?」
『ええ。ですが、シフォード。戦場で油断は禁物です』
「は、はっ!!申し訳ございません!」
アラステアは、数人の部下たちと共に彼の前に現れた。最初は気付くものが少なかったが、それは瞬く間に、その場のウェルギス兵たちに知れ渡った。味方の兵士たちは歓喜し、敵の兵士たちは動揺している。その為、数で大幅に劣っているはずのウェルギス軍が、ソルモール軍を押し始めている。
「ウェリオンの子らよ!祖国の誇りをその胸に!」
高く掲げられたその剣に合わせて、高鳴る多くの声が戦場を支配した。
アラステアは周囲の味方に一時後退を命じた。自身はサーレーンを操作し、脚部内蔵のバネで空中で高く跳ばし、そして剣先を下向きにそのまま落下した。その衝撃は凄まじく、敵は吹き飛んだ。しかし当然ながら、搭乗しているアラステア自身の体にも、それ相応の衝撃はあった。だが、休んでいる場合ではない。後退させた味方に今度は、前進の命令を下す。
友軍を束ねるサーレーンは、まず真っ先に敵陣に斬り込んだ。まずは1体。その勢いのまま、敵軍アルコーンのヘレスを盾ごと切り裂いた。そして2体、3体目。周りでも、激しい斬り合いが始まる。
そんな戦況でも、アラステアは的確にサーレーンーを操る。後ろから斬りかかって来たヘレスを、素早く反応しまとめて切り捨てた。すかさず4、5、6体目。まず、真ん中のヘレスの胴に華麗にけりを入れ、吹き飛ばした。そして、横にいたヘレスを袈裟斬りで始末した。最後の6体目のヘレスの剣を盾で受け、そまま剣を弾き飛ばした。そして剣を胴体に突き刺し、とどめを刺した。
『見事な剣さばきだ、アラステア殿。千人斬りの伝説も、あながち嘘ではないとみた』
「群青のミスラール… マーサス・ヴィロン!あなたの勇名は、エリュフィシア中に轟いています。王都を随分と、蹂躙してくれたと…!」
『お褒めにあずかり光栄です。あなたもサーレーンも、かの王都の如く麗しい… ですが、あなたはここに相応しい人間ではない!』
マーサスのミスラールは剣を構え、アラステアのサーレーンも剣も構えた。だが、それから両者は動かなかった。周りではなおも、激しい斬り合いが行われている。それだけに、この相対する2人は、異質な空気を醸し出している。
そのあまりにも完璧な隙の無さに、マーサスはこれまで対峙したどの相手にも感じたことのない感覚を得た。全ての臓腑は肉体という大地を揺るがし、行き渡る血は流れるマグマとなり全身を駆け巡る。その感覚を。
だが生命に永遠などない。
並みの戦士ならば隙とは考えないであろう、その変化をマーサスは見逃さなかった。サーレーンの剣を持つ右手と、右腕がわずかに揺らいだのだ。
(もらった!)
マーサスのミスラールは、微動だにしなかった先ほどまでとは打って変わり、ほんの一瞬でアラステアのサーレーンの懐に入りこむ。そして、マーサスは勝利を確信した。アラステアは明らかに反応出来ていない。その証拠に、この切っ先がすぐにでも、確実に胴体を捉えられる位置に来ているが、身動きが取れていない。
マーサスは止めを刺すために、ほんの少し踏み込む。そう。この感触だ。幾度となく味わったこの感触。この感覚の数秒後には、敵は地に伏し、動かなくなっている。彼の目には、すでにその光景が見えている。見えていたのだ。
(…何だ!?)
マーサスの錯覚は終わり、彼に通常の感覚が舞い戻る。剣は空を切った。彼にとっては信じがたいが、それは事実だった。
焦ったマーサスは、もう一度斬りかかったが、隙だらけだ。そして、そんな敵を斬るのは容易い。横に真っ二つに斬られたミスラールが、サーレーンの前に地に伏していた。
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