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愛なき政略結婚、冷酷な夫を見限ります の小説カバー

愛なき政略結婚、冷酷な夫を見限ります

結婚三周年の記念日、冷え切った食事を前に待つ私の元へ、義妹から衝撃的な写真が届く。そこに写っていたのは、夫が初恋の女性と彼に瓜二つの少年を囲み、まるで本物の家族のように誕生日を祝う姿だった。深夜、甘い香水を漂わせ帰宅した夫は、機嫌取りのためにブラックカードを投げつける。真実を確かめるべく彼を追って病院へ向かうと、そこには彼女を優しく抱きしめる夫の姿があった。彼女の腕には、私への埋め合わせとして贈られたものと同等の高価なブレスレットが輝いている。実家の窮地を救うための政略結婚以来、私は大好きなヴァイオリンも諦め、三年間全てを捧げて彼を支えてきた。しかし、彼にとって私は都合の良い家政婦か、あの女の代用品に過ぎなかったのだ。夫に突き飛ばされて意識を失い、目覚めた病室にも彼の影はない。権力で息子を連れ戻そうとする姑を制し、私は静かに告げた。「もう、結構です」と。バッグに忍ばせた離婚届を胸に、私は愛のない冷酷な鳥籠から抜け出し、自らの足で歩み出す決意を固めた。
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3

午後七時、銀座の高級フレンチレストラン。

暁は静の椅子を引き、自らメニューを手に取った。彼は今日、濃紺のビジネススーツに身を包み、いつもと変わらぬ完璧な佇まいでソムリエにワインを告げる。一切の隙もなく、まるで雑誌の表紙から抜け出してきたようだった。

「お前の好きな抹茶トリュフもある。好きなだけ頼め」

静は、向かいに座る夫を静かに観察していた。昨夜、離婚を宣言した相手に対して、彼はまるで何事もなかったかのように振る舞っている。記念日の埋め合わせだと言って、こうして高級レストランを予約した。説明も、謝罪もなく——ただの業務連絡のように。

「ありがとう」

静は短く答え、水のグラスに指を触れた。かつての彼女なら、彼がこうして時間を作ってくれただけで、舞い上がるほど嬉しかっただろう。だが今は違う。彼の完璧なエチケットの裏に隠された、底知れぬ冷たさが見えすぎるほど見えていた。

前菜が運ばれてくるまでの間、暁はポケットから深い青色のベルベットの小箱を取り出し、テーブルの上を滑らせて静の前に置いた。

「三周年の記念だ」

静が蓋を開けると、無数のダイヤモンドが散りばめられたブレスレットが、照明を受けて冷たく煌めいた。ヴァンクリーフ&アーペルの特注品——少なくとも七桁はするだろう。彼女はそれを一瞥しただけで、そっと蓋を閉じた。

「ありがとうございます」

「つけてやる」

暁が席を立ち、静の後ろに回り込んで左手首を取ろうとした瞬間、静はとっさに手を引っ込めた。彼女の全身が、本能的に拒絶している。昨夜のあの香水の匂いが、まだ鼻腔に残っているかのように。

「……自分でつけられますから」

暁の目に、ほんの一瞬、鋭い光が走ったが、彼は何も言わずに席に戻った。

料理が運ばれてくる間、静はふと顔を上げ、暁に問いかけた。

「暁さん、もし私が、あなたの手作りのデザートが食べたいと言ったら——作ってくれますか?」

暁は眉をひそめ、心底不可解だという顔で静を見つめた。

「何を言っている。そんなものはシェフの仕事だ。俺の時間をキッチンで無駄にするつもりはない」

静はゆっくりと視線を落とした。口元に、かすかな笑みが浮かぶ。

——やはり、そうだった。

彼は斎藤美咲のためには、手作りのブルーベリーケーキを焼いた。SNSにまで投稿して、その愛を世界に誇示した。なのに、妻である自分のためには、たかがデザート一つすら、作る価値すらないというのだ。

愛しているか、いないか。その差は、これほどまでに残酷なほど明確だった。

静は抹茶トリュフを一口、口に運んだ。舌の上で広がる苦みを、彼女はゆっくりと噛み締める。まるで、今のこの人生そのもののように——どこにも吐き出せない、果てしない苦さ。

その時、暁のスマートフォンが震えた。彼は画面を一瞥すると、眉をひそめて通話を切った。しかしすぐに再び震え始める。二度、三度。

四度目の着信で、暁はついに立ち上がった。

「すまない、急用が入った。運転手は残しておく。俺を待つ必要はない」

彼はそれだけ言うと、ジャケットを手に取り、足早に個室を出て行こうとした。静も立ち上がる。その拍子に、椅子に掛けていたバッグが床に落ち、中身が散乱した。口紅、コンパクト、ハンカチ——そして、白い封筒。

「離婚届」と印字されたその一角が、レストランの柔らかな照明の下に、はっきりと晒された。

静は慌てて床に這いつくばり、その封筒を掴んでバッグに押し込んだ。暁が振り返り、その様子をじっと見ている。

「……何の書類だ」

「ただの、医療関係の資料です」

静は冷静を装って答えた。暁は疑わしげな目つきで彼女を見つめたが、再びスマートフォンが震えたのを機に、それ以上追及することなく、個室を後にした。

残されたのは、食べかけの料理と、静の決意だけ。

静は震える手でバッグを抱え直し、深く息を吸った。封筒の中には、昨日、丸の内の法律事務所で受け取った離婚届と、財産分与に関する合意書の雛形が入っている。弁護士は言った——「ご署名だけで進められますが、相手方の同意を得るのが最も確実です」と。

母が退院したら、すべてを終わらせる。その決意は、もはや揺るぎようもなかった。

レストランを出ると、冷たい夜風が頬を打った。静は暁の運転手を丁重に断り、一台のタクシーを拾った。行き先は自宅ではない。母の入院する病院だ。

タクシーの後部座席で、静はハンドバッグからコンシーラーを取り出し、目の下の濃い隈を丁寧に隠した。これから会う両親に、心配をかけるわけにはいかない。完璧な娘を、そして——少なくともあと数日は——幸せな鷹司家の嫁を、演じ続けなければ。

病院に着き、VIP病棟の廊下を歩いていると、ふと階段室のドアの隙間から、見慣れた後ろ姿が目に入った。暁だった。彼は廊下に背を向け、電話口の相手に何かを話している。その声は、驚くほど優しく、甘い響きを帯びていた。

——あの女を宥めるために、ここにも来ていたのか。

静はその場に立ち尽くした。怒りと屈辱が胃の奥から込み上げてくる。だが、ここは病院だ。母がいる。

やがて暁は電話を切り、振り返った。静の姿を認めると、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに完璧な笑みを顔に貼り付ける。

「静、来ていたのか。ちょうどお義母さんの様子を見に寄ったところだ」

その声も、表情も、非の打ちどころのない夫のものだった。静は背筋が凍る思いで、彼の演技を受け止める。彼は本当の優しさを別の女に与え、自分にはこの抜け殻のような偽物だけを向けるのだ。

病室では、父が満面の笑みで暁を迎えた。母も、暁の手から差し出される林檎の兎に、嬉しそうに微笑んでいる。誰が見ても理想的な婿——それが、この男の本当の顔だと、誰も知らない。

静はその隣で、ただ静かに微笑んでいた。バッグの中の離婚届が、ずしりと重く、彼女の決意を支えている。

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