
初恋を捨てた夜、彼の親友に美味しく蹂躙されました
章 2
東都国際空港。
7年の時を経て、片山美央はついに帰国したが、そのことは誰にも伝えていなかった。
荷物でいっぱいのカートを押していると、背の高い外国人の男性同僚が、手に提げていたスーツケースをさらにその上に載せた。
彼は美央の肩をポンと叩いた。「sage、ご苦労さま」
美央は首を横に振った。海外で暮らしたこの数年間、神崎家からは一銭ももらえず、一番貧しかった頃は農場で野菜を収穫したり、工事現場で肉体労働をしたりしていたのだから、この程度の荷物を押すことなど造作もなかった。
外国人は彼女のそばを手ぶらで歩き、スマートフォンを構えてあちこち撮影している。
彼らのそばを通り過ぎる歩行者たちは皆首を横に振り、中には陰口を叩く者もいた。
「向こうの生活で頭までイカれたのか?あんなに外国人に媚びへつらって」
「最近の女は白人を見ると歩けなくなるらしいぜ、タダ働きでも喜んでやるんだと」
悪意に満ちた憶測のひそひそ話を聞きながら、迎えを待っていた神崎凛太朗は、ふと自分が海外へ追いやったあの少女のことを思い出した。7年が経ったが、彼女はどうしているだろうか。
今の女の子のように、外国人の使いっぱしりに成り下がってはいないだろうか?
だが考え直して、それはないと思い至った。この女がこんなことをしているのは金のためだろうが、自分は美央に毎月3万ドルの生活費を送っている。日本円に換算すれば1年で4000万円にもなり、7年間1日たりとも途切れさせたことはないのだ。
物価の高いM国であっても、彼女は大部分の人間より良い暮らしをしているはずだ。
彼女のために申請した大学も学業のプレッシャーなどなく、ただ卒業証書さえ手に入れればいい。
7年という時間は、彼女が成長し、聞き分けよくなるには十分だ。そろそろ迎え入れてもいい頃合いだろう。
そう考えると、彼は傍らにいる華薬グループ社長の藤原蒼真に声をかけた。「あなたの会社に、あの新進気鋭の薬学専門家・sageを迎え入れたいと言っていましたね? いつ出立するおつもりですか?」
3日前、日本の国宝級の科学者であり、ノーベル賞受賞者、日本学士院会員でもある三浦隆司が急病で亡くなり、彼と関わりのあった国家機関や製薬会社は軒並み影響を受けていた。
なかでも華薬グループへの影響は最も大きく、すでにいくつかの新薬研究プロジェクトがストップしている。
今、プロジェクトを継続させるためには、新たな薬学研究の人材が早急に必要だった。
そこで彼の一番弟子であるsageが、最有力候補となったのだ。
凛太朗の言葉を聞き、蒼真はゆっくりとスマートフォンのゲームから顔を上げた。
彼は左耳の蛇の形をしたイヤーカフに触れながら、気だるげに口を開いた。「神崎主任、sageならあんたが接待しているM国の弔問団の中にいるよ」
凛太朗は最初は驚いたが、すぐに納得した。蒼真はただのビジネスマンではない。強力な政財界のバックボーンを持っており、自分よりも事情に通じていることなどごく普通のことだからだ。
彼は思わず尋ねた。「そのsageという女性はいくつなんですか?日本人ですか?」
蒼真はスマートフォンをしまい、眉間にわずかな疑問を浮かべた。「日本人だということしか分かっていない。とても謎めいている」
「研究者の中にはそういう奴もいる。表に出たがらないんだ。だが、彼女のように基本データすらない奴は本当に珍しい」
そう話していると、「弔問団が来ました」と誰かが呼ぶ声が聞こえた。
蒼真と凛太朗が同時に視線を向けると、その一行の5、6人はすべて欧米人だった。
先頭を歩くホークが真っ先に蒼真を見つけ、大げさに両手を広げてハグを求めてきた。
蒼真は眉をひそめて身をかわし、彼と握手だけを交わした。
弔問団の接待は公式な場であるため、凛太朗はタイミングを見計らって歩み寄り、流暢な英語で自己紹介をした。
挨拶を終え、凛太朗が彼らをホテルへ送ろうとしたとき。
ホーク博士が後ろを振り返った。「待ってくれ、我々にはもう一人……おお、彼女が来た」
ーーまさか、sageか?
凛太朗と蒼真が同時にそちらを見ると――
やって来たのは、背の高い東洋人の女性だった。シンプルなジーンズにシャツという出で立ちで、山積みの荷物で顔の半分が隠れており、黒く澄んだ瞳と富士額だけが見えていた。
それはなんと、先ほど通行人に陰口を叩かれていた、あの荷物を押す女だった。
凛太朗が部下に手伝わせようとしたそのとき、蒼真が冷ややかに口を開いた。「ホーク、あんたたちの手は北米で綿花でも摘むために置いてきたのか?」
彼の英語の発音は標準的で文法も正確だったが、ホークたち外国人には全く通じなかった。
さまざまな色の瞳が交錯し、誰もが彼の言っている意味を図りかねていた。
だが「綿花を摘む」という言葉が、決して良い意味ではないことだけは伝わった。
日本側の人間たちは皆、必死で笑いをこらえていた!
さすがはアジア随一の製薬会社の社長、口を開けば毒を吐く。
荷物用カートの後ろから軽やかな笑い声が聞こえ、女性が荷物の陰から姿を現した。「皆様、ホーク博士たちのことを誤解なさらないでください。これは私がやるべきことですから」
自分から喜んで? やはり向こうの生活にすっかり染まっているらしい。
蒼真は一瞥しただけで視線を外したが、凛太朗は目を丸くしてその場に釘付けになっていた。
目の前の少女は濃い眉に長い睫毛を持ち、笑うと目が少し細くなり、口元には2つの浅いえくぼが浮かぶ。
(これは……俺の美央か?)
美央もまた、凛太朗の姿を捉えた。
歳月は彼の端正な顔立ちにいささかの痕跡も残しておらず、堅苦しい公務員風のジャケットでさえ、彼の温和で上品な雰囲気を隠しきれていなかった。
美央は胸の奥がツンと痛み、すべてが変わってしまったことを思い知らされた。
あの年、彼女は親友の神崎心春からもらったフルーツワインを飲み、3206号室のドアを開けたが、そこにいたのは凛太朗などではなく、彼女と同じように体の自由が利かなくなった見知らぬ男だった。
暗闇の中、互いの顔はぼやけて見えなかった。ただ、極上の筋肉の感触だけが手の下で熱く燃え上がり、狂気の果てまで行き着いた。
その後……彼女が目を覚ましたときに直面したのは、叔母の伊藤美音から浴びせられたビンタだけだった!
恩知らずの恥知らず、それが彼女に貼られたレッテルとなった!
7年経った今でも、美央には理解できなかった。自分こそが被害者なのに、なぜ美音の口ぶりでは、まるで自分が薬を盛って凛太朗を無理やり襲ったかのように言われているのか。
満18歳になったばかりの少女は、一夜にして友人、家族、そして純潔を失い、大学入試の権利を剥奪され、汚名を着せられたまま海外へ追いやられた。
さらに残酷な運命が待ち受けていた。彼女は海外に着くやいなや強盗に遭い、身ぐるみ剥がされた。電話を借りて叔父に助けを求めたが、何か企んでいると思われ、即座に着信拒否されたのだ。
異国の路上で身寄りのない女性がどんな目に遭うか、ニュースでも珍しくない。弱者は犯罪の格好の標的だ。もし2人の親切な留学生に出会っていなければ、彼女はとうの昔に路上で死体となっていただろう。
左の袖を強く引っ張って引き締めると、彼女は淡々と声を絞り出した。「叔父さん、お久しぶりです」
最初の衝撃が過ぎ去ると、凛太朗の脳は思考を始め、内心も複雑に揺れ動いた。
彼は喉仏を動かした。「美央、この7年、元気だったか?」
美央は伏し目がちになった。そんなこと、どう答えればいい?
ーー良くなかった、と? でも死んではいない。
だが、元気だったという言葉は、どうしても口に出せなかった。
7年間、路上をさまよった時も重病で生死の境をさまよった時も、彼女は一切の助けを得られず、自力で生き抜くしかなかった。
7年間、何の音沙汰もなく、1通の電話でさえ彼女にとっては手の届かない願いだった。
おそらく、恥知らずのふしだらな女と罵られたあの時、彼女は自ら離れるべきだったのだ。
追放され見捨てられ、肉親の気が変わるのを待つ雛鳥のように、繋がらない電話を卑屈なまでに何度も何度もかけ続け、希望から絶望へと突き落とされるのではなく……
彼女がずっと黙っているのを見て、凛太朗は思わず手を伸ばし、昔のように彼女の頭を撫でようとした。
美央は荷物を取るふりをして、それを避けた。
凛太朗の手は宙に浮いたまま止まり、やがてきつく握りしめられた――
元の彼女の性格なら、顔を合わせた途端に自分の胸に飛び込み、この数年間の恨みつらみを甘えるように泣きながら訴えてきたはずだ。
だが、彼女がこんなにもよそよそしいのは、自分のことを恨んでいるからだろう。
それもそうだ。あの日、彼は18歳の少女を海外へ放り出した。いくら衣食住に困らなくとも、寂しくて怖かったに違いない。
だからこそ、彼女は泥棒に遭ったとか病気になったとか、次々と嘘をついては帰国をせがんだのだ。
胸の奥に苦さと悲しみが広がった。7年も経つのに、彼女はまだ自分の親心に気づいていない。
その時、また別の人が荷物を取りに来たので、美央は彼に申し訳なさそうに微笑んだ。「叔父さん、私は仕事に戻ります」
荷物用カートが蒼真のそばを通り過ぎた。
彼女はこれまでに美しい男をたくさん見てきたし、凛太朗もその中では群を抜いていた。
目の前にいるこの男は、凛太朗の知的で上品な雰囲気とは異なり、顔全体の骨格がしっかりしていて、目鼻立ちが深く、鼻筋が通り、攻撃的なまでに美しかった。
だが……見覚えはない。
美央は彼に軽く頷くと、視線を戻して前へ歩き出した。
蒼真もまた視線を外し、二人はすれ違った。
突然、爽やかな甘いレモンの香りが鼻腔に押し寄せ、一瞬で彼の脳内を駆け巡った。
漫然としていた瞳が瞬時に収縮し、彼は常人よりも鋭い鼻を思わずヒクつかせた――
間違いない。レモンにラベンダーが混ざり、パチョリとアンバーグリスの薬のようなウッディなベースの香りだ。
彼は再び視線を上げ、美央を見た。この独特の香りは、7年前に自分と寝たあの女と同じだ。
「待て」
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