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幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります の小説カバー

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります

5年もの献身を捧げた結婚式当日、橘明音は絶望の淵に立たされた。婚約者の長谷川冬樹が「死にたい」と繰り返す幼馴染の機嫌取りを優先し、式を放棄したのだ。彼の心が永遠に氷のままだと悟った明音は、過去を断ち切り江南へと逃亡する。しかし、人生をやり直そうと泥酔した夜、彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまう。一夜を共にした相手は、社交界でタブー視される実兄の宿敵、藤堂修祢だった。逃げ出そうとする明音を屈強な腕で引き戻し、彼は艶やかな声で「食い逃げか?」と責任を迫る。冷徹無比な高嶺の花として知られる藤堂だが、その正体は宿敵の妹である明音を狂おしいほどに欲する偏愛の鬼だった。古都を買い取るほどの巨額を投じ、禁欲主義の仮面を脱ぎ捨てて彼女を執拗に追い詰める藤堂。甘美な罠に囚われた明音の運命は、かつての婚約者への復讐さえも飲み込むほどの情熱に塗り替えられていく。冷徹な支配者が唯一愛した女性にだけ見せる、あまりにも過剰で危険な溺愛劇が今、幕を開ける。
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2

明音は深く息を吸い込み、胸の奥から込み上げる酸っぱい感情を無理やり押し殺し、窓の外に顔を向けた。

ガラスの向こうには、燦々と降り注ぐ陽光と、絶え間なく流れる車の波。広大な宮都の街並みが一望できた。

ふと、思い出す。今や宮都でその名を知らぬ者はいない冬明法律事務所も、最初はたったひとつの小さなオフィスから始まったことを。

それも、彼女が自分名義の唯一のマンションを売り払い、その金で冬樹のために借りた場所だった。

今では、このフロアすべてが冬樹のものだ。

あのオフィスを借りた日も、今日のような晴天だったと覚えている。

「事務所の名前、冬明にするのはどう?」

「名前なんて何でもいい」 冬樹は表情一つ変えずに言った。「お前が決めてくれ」

明音は嬉しくて彼に飛びついたが、容赦なく頬をつねられ、その腕から引き剥がされた。「人に抱きつかれるのは好きじゃない」

それでも明音は能天気に笑い、懲りずにまた彼の胸に頭を突っ込んだ。「私は抱きつきたいの!」

かつて彼女は、豪快に笑って冬樹に告げた。「私があなたを宮都で一番の弁護士にしてみせる」と。

冬樹は「どうでもいい」と言った。彼にとっては、明音が楽しそうにしていることが何より大事だと。

彼女は約束を守った。

だが、彼は嘘をついた。

……

明音の私物は多かった。

半日かけても片付けが終わらないほどに。

創業から今日まで、彼女はずっと冬樹の背後に立ち、事務所の運営や事後処理を一手に引き受けてきた。

会社の名義は冬樹だが、ここには彼女の血と汗が染み込んでいる。

従業員たちは明音が荷造りする姿を見て、顔を見合わせるばかりで、誰も声をかけようとしなかった。

結婚式での騒動は、当然彼らの耳にも入っている。

ただ、ボスの冬樹が相手である以上、クビになりたくない彼らは陰口を叩くことすら憚った。

ようやくすべての荷物をまとめ終え、引越し業者を呼ぼうとしたその時、スマホが鳴り響いた。

着信画面には、冬樹の母親の名前。

明音は唇を引き結び、通話ボタンを押した。

『もしもし、橘さんですか?』聞こえてきたのは、家政婦の焦った声だった。

『長谷川先生に電話が繋がらないんです。お母様が急に発作を起こして病院に運ばれました。今すぐ来てもらえませんか?』

『わかった、すぐ行く』

明音が病院に駆けつけると、田中梅子はすでにベッドの上で、家政婦が剥いたリンゴを平気な顔で食べていた。

明音が入ってくるなり、梅子の蒼白な顔に焦りと怒りの色が浮かぶ。彼女はすぐさま顔をしかめ、説教を始めた。「明音、冬樹と一体どうなってるの? 結婚っていう大事なことを、こんなふうに台無しにして。 当日にキャンセルだなんて、世間に知られたらどれだけ恥ずかしいと思ってるの!」

明音の額には細かい汗が滲んでいたが、梅子に人を叱る元気があるのを見て少し安堵した。おそらく、結婚式中止の知らせを聞いて、怒りのあまり一時的に具合が悪くなっただけだろう。

「おばさん、まずは落ち着いて」

「落ち着いてなんていられるわけないでしょ!」 梅子は眉を吊り上げる。早口でまくし立てたせいか、胸が大きく波打っていた。「冬樹は頑固で、思いついたら一直線な子よ。明音、どうしてあなたが止めてあげなかったの?あの子にこんな勝手な真似をさせて」

明音は深く息を吐き、忍耐強く説明した。「私たちが式を挙げようとしていた時、静香さんが飛び降りようとしたの」

「なんですって?」梅子は驚愕し、顔色を変えた。「静香ちゃんは?無事なの?」

「無事よ。冬樹が病院に連れて行ったから」

梅子は胸を撫で下ろした。「ああ、びっくりした……無事でよかったわ」

事情を知ってようやく安心したのか、梅子は明音に対し、式のキャンセルに伴う事後処理をしっかりやるように、そして冬樹に迷惑をかけないようにと何度も念を押した。

ひとしきり騒いで体力を使い果たしたのか、彼女はすぐに眠りに落ちた。

「橘さん、わざわざすみませんでした。あとは私が見てますから、お仕事に戻ってください」家政婦が申し訳なさそうに言った。

明音はベッドで熟睡する梅子を一瞥した。「今後、おばさんのことで私に電話しないで。私は……」

言いかけた言葉を遮るように、家政婦が慌ててフォローを入れる。「橘さん、怒らないでくださいね。奥様がああ言ったのも悪気があるわけじゃないんです。そういう性格ですし、桜井さんのことは小さい頃から見てきましたから、どうしても身内贔屓になっちゃうだけで……本当は橘さんのことも大好きなんですから」

明音の口元に、自嘲気味な笑みが浮かんだ。家政婦の目から見ても、梅子が静香の方を気に入っているのは明らかだった。

「おばさんに対して怒ってなんかないわ。ただ、私と冬樹さんはもう別れたの。だから彼のことはもう私には関係ない。これからは冬樹さんに電話して」

明音はきびすを返した。家政婦が呆然としているのを気にする余裕もなかった。

だが、顔を上げた瞬間、廊下の少し先に立っている冬樹と静香が目に入った。

冬樹と視線がぶつかる。その優れた容貌は、何度見ても完璧だと認めざるを得ない。

そう。

この顔じゃなかったら、自分もあそこまでのめり込むことはなかっただろう……。

「なんでまだネットの騒ぎを処理してないんだ?俺のところにまで電話がかかってきてるぞ」 冬樹は眉をひそめ、不機嫌そうに言った。

明音の胸に苦いものが広がる。――冬樹は、本当に自分のことが好きじゃなかったんだ。

彼が求めていたのは、尻拭いをしてくれる使用人でしかなかった。

それなのに自分は、それを愛情の証だと勘違いして、尻尾を振ってついて回っていたのだ。

でも、二人の間には確かに美しい思い出もあったはずだ。

一つひとつが明音にとっての宝物であり、今まで盲目的に突き進んでこられた理由だった。

けれど今――それも終わらせる時が来た。

「明音お姉ちゃん、今日はごめんなさい。私、冬樹とお姉ちゃんの結婚式を壊しちゃって……本当に反省してます」

隣にいた静香が、まるで台本を読み上げるような誠意のない口調で謝罪を口にした。そしてそのまま冬樹の腕に絡みつき、猫なで声で甘える。「ね、冬樹。私、ちゃんと謝ったよ?もう怒らないで……」

「ああ」 冬樹は無表情に頷いた。

静香の顔にパッと笑みが咲き、勝ち誇ったような視線を明音に投げかける。

明音は冷ややかな目でそれを見ていた。

こういう安っぽい芝居は、静香の常套手段だ。

以前なら、間違いなく真っ向からやり返していただろう。

だが今は、そんな気力さえ残っていなかった。

明音は視線を外し、歩き出した。「まだ会社の荷物が片付いてないから、帰るわ」

しかし、すれ違いざまに手首を掴まれた。

振り返ると、冬樹の漆黒の瞳が彼女を捉えていた。

「話があ……」

彼が言いかけたその時、横にいた静香が突然、ふらりと冬樹の方へ倒れ込んだ。

冬樹は素早く彼女を抱き留め、緊張した面持ちになる。「どうした?」

「私……すごくめまいがして……久しぶりに輸血しなきゃいけないかも……」

「輸血」という単語を聞いた瞬間、明音の体が条件反射的に強張った。

静香は先天性の造血障害を患っており、定期的な輸血が必要だった。しかも、彼女の血液型は極めて稀なRhマイナス型。

そして明音もまた、同じRhマイナスだった。

若くて世間知らずだった頃、初めて静香への輸血を頼まれた時、明音は彼女を冬樹の従妹だと思い込み、自ら進んで引き受けた。

その後は、ただ冬樹に喜んでもらいたくて続けてきた。

あの頃の自分は本当に愚かだった。好きな人が大切にしている相手を、自分も同じように大切にしなければならないと信じ込み、何度血を抜かれたか数えきれないほどだ。

冬樹は当然のように振り返った。「明音、準備してくれ。静香に輸血する」

しかしその瞬間、明音はどうしようもなく笑いたくなった。

冬樹が自分と付き合っていたのは、単に使用人が欲しかっただけでなく、静香のために「都合のいい移動式血液パック」を確保しておきたかっただけなのではないか。

「嫌よ」彼女はきっぱりと拒絶した。

冬樹は眉をひそめる。「静香の病状は特殊なんだ。今すぐ輸血しないと死ぬかもしれないんだぞ」

「じゃあ、死ねばいい」

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