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幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります の小説カバー

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります

5年もの献身を捧げた結婚式当日、橘明音は絶望の淵に立たされた。婚約者の長谷川冬樹が「死にたい」と繰り返す幼馴染の機嫌取りを優先し、式を放棄したのだ。彼の心が永遠に氷のままだと悟った明音は、過去を断ち切り江南へと逃亡する。しかし、人生をやり直そうと泥酔した夜、彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまう。一夜を共にした相手は、社交界でタブー視される実兄の宿敵、藤堂修祢だった。逃げ出そうとする明音を屈強な腕で引き戻し、彼は艶やかな声で「食い逃げか?」と責任を迫る。冷徹無比な高嶺の花として知られる藤堂だが、その正体は宿敵の妹である明音を狂おしいほどに欲する偏愛の鬼だった。古都を買い取るほどの巨額を投じ、禁欲主義の仮面を脱ぎ捨てて彼女を執拗に追い詰める藤堂。甘美な罠に囚われた明音の運命は、かつての婚約者への復讐さえも飲み込むほどの情熱に塗り替えられていく。冷徹な支配者が唯一愛した女性にだけ見せる、あまりにも過剰で危険な溺愛劇が今、幕を開ける。
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3

冬樹は思わず呆気にとられた。

明音の口から、これほど冷酷な言葉が出るとは思ってもみなかったのだ。彼女はいつだって、彼に対して従順だったから。

彼女が極度の注射嫌いだということは知っている。針を刺されるたびにひどく震え、落ち着くまでに長い時間がかかるほどだ。

それでも彼女は冬樹のために、何度も静香への輸血に応じてくれた。

冬樹は迷いを見せ、明音に視線を向けた。「じゃあ……」

「明音お姉ちゃん……」彼が言いかけた言葉を遮るように、静香が口を開く。言葉よりも先に、涙がこぼれ落ちていた。「それ……どういう意味?私に死ねって呪ってるの?」

明音は冷ややかな目で彼女を見下ろした。この女の悪意と執着、そして演技力は、まさにアカデミー賞ものだ。毎回、冬樹は見事に騙されている。

いや……騙されたがっているのかもしれない。

明音は口元を歪めて笑った。「誰が輸血しようと勝手だけど、私はもう二度とごめんだわ」

静香は冬樹の腕にすがりつき、これ以上ないほど悔しげな声を上げる。「冬樹、見てよ。あんな言い方、ひどい。私がICUにいるお母さんみたいになればいいって思ってるんだわ!そうすれば満足なんでしょ?」

静香の母は五年前、冬樹を庇ってトラックにはねられ、今も植物状態のままICUに眠っている。

その負い目があるからこそ、冬樹は静香を特別扱いしてきた。

静香もそれを理解していて、事あるごとに母親の話を持ち出し、彼をコントロールするのだ。

そして冬樹も、毎回それを許してきた。

だが今回は、いつもと少し違った。母親の話が出た瞬間、冬樹の眉がぴくりと動いたのだ。

彼は決して忘れていない。五年前、暴走するトラックから自分を突き飛ばし、代わりにタイヤの下敷きになった桜井麻子の姿を。広がる鮮血を……。

しかし、明音は……。

彼が長く沈黙しているのを見て、明音の胸にわずかな希望が芽生えた。

一度でいい。

冬樹が自分の味方をしてくれればいい。

そうすれば、これまでの数年間の献身も報われる気がした。

彼は明音が嫌いなのではなく、今はまだ余裕がないだけなのだと、信じたかった。

「明音、あと一回だけ静香に輸血してやってくれないか? これが最後だと約束する!」冬樹が顔を上げ、漆黒の瞳で明音を見つめる。

湧き上がった淡い期待は、一瞬で凍りついた。

明音は力なく笑う。――私って、本当にバカ。

まだ彼に期待なんてしていたなんて。

(結局、彼が天秤にかけた時、 切り捨てられるのはいつだって私なのだ。)

静香は密かに安堵のため息をつき、勝ち誇った視線を明音に向けた。「明音お姉ちゃん、今回も悪いけどお願いね。本当にありがとう!」

明音は横目で彼女を一瞥した。

――冬樹は本当に、彼女には優しいのね。

以前は、冬樹も少しずつ人を愛することを学んでいるのだと、自惚れていた。

だが今、彼はその冷徹さをもって証明した。一生、明音のことなど好きにはならないと。

明音は視線を戻し、淡々と冬樹に告げた。「言ったはずよ。私は彼女に血を与えるつもりはない」

冬樹が眉をひそめる。明音の瞳があまりに冷たく、心がざわついたからだ。

初めて出会った時、彼女は夏の太陽よりも眩しい笑顔を見せていたはずだ。

いつから、彼女は笑わなくなったのだろう?

「どうしよう? 明音お姉ちゃんがくれないと、私、死んじゃう!」静香はパニックになったように叫んだ。「冬樹、お母さんとの約束を守るって言ったじゃない……」

冬樹の声は冷たいが、必死さが滲んでいる。「今すぐ他のドナーを探す。お前を死なせはしない!」

静香は目を見開き、信じられないという顔で冬樹を見た。「見つからなかったらどうするの!? 明音お姉ちゃんの血なら適合するし、拒絶反応もないのよ!どうしてわざわざ他の人を探すの?」

冬樹は答えなかった。

静香の目に涙が溢れる。「わかった、もういい!冬樹が助けてくれないなら、梅子おばさんに言いつけてやる!」

そう叫んで病室へ走り去り、 すぐに梅子を連れて戻ってきた。

眠りから覚めたばかりの梅子は、まだ顔に疲労の色が濃く残っている。

静香に何を吹き込まれたのか、梅子は咎めるような視線を明音に向けた。

「冬樹、静香ちゃんをいじめちゃダメでしょ。あの子のお母さんは、あなたの命の恩人なのよ?明音に少し血を分けてもらうだけじゃない。今までだって平気だったんだから、大したことないわ。 このままだと静香ちゃんが死んじゃうのよ!」

冬樹は唇を引き結ぶ。「母さん、すぐに代わりを探すって言ってるだろ。血液バンクにも在庫はある。明音から抜く必要はない」

「梅子おばさん、聞いてよ。冬樹ったら明音お姉ちゃんばっかり庇って、私のことなんてどうでもいいのよ!」静香はここぞとばかりに明音を巻き込んだ。

梅子は困ったように眉を寄せた。だが、冬樹が無表情のまま冷ややかなオーラを放っているのを見て、息子の頑固さを思い出したようだ。彼が一度決めたら、誰にも止められない。

仕方なく、彼女は矛先を明音に変えた。「ねえ、明音さん。静香ちゃんに血を分けてあげてくれない? おばさんからもお願い。この通りよ」

明音は乾いた笑いをもらした。

やっぱり、こうなる。

静香がワガママを言うたびに、譲歩させられるのはいつも自分だ。

そして未来の義母である梅子も、毎回決まって明音に我慢を強いる。

それもそうか。

(最初から、私が勝手に追いかけ回した恋だったのだから。)

梅子と初めて会ったのは、五年前の冬休みだった。

当時、明音は大学に入学したばかりだった。

ある晩、大学に戻るのが遅くなり、酔っ払ったチンピラに路地裏へ引きずり込まれたことがあった。絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、背の高いすらっとした男の子だった。顔は見えなかったが、チンピラのナイフで胸を切りつけられたことだけは覚えている。

その後、退院した明音は、冬樹の体にあの時の傷跡を見つけた。

もともと彼に一目惚れしていたのだが、命の恩人だと知って、その想いはさらに燃え上がった。

たとえ彼がどれだけ冷淡でも、追いかける情熱は止まらなかった。

当時は法学部のマドンナと呼ばれていたにもかかわらず、プライドをかなぐり捨てて彼を追いかけ回し、夢中になっていたのだ。

その後の冬休み。ひと月という長い休みに耐えきれず、家族に内緒で彼の田舎へ向かう電車の切符を買い、会いに行った。

都会育ちで裕福な家庭に生まれた明音は、苦労というものをほとんど知らずに生きてきた。

道を尋ねながら、ようやく冬樹を見つけた時、彼は地面に力任せに押さえつけられていた。

「お前ってやつは、どうして言うことを聞かねえんだ!山には狼が出るって言っただろ。鈴木お婆ちゃんも噛まれたんだぞ? 今山に入ったら、死にに行くようなもんだ!」

「お前の母親も多分、狼に遭っちまったんだ。警察には通報したから、来るのを待ってから山に入ろう。早まるな」

村人たちが口々に叫ぶ。

冬樹は地面に押さえつけられ、顔は泥だらけ、体中草まみれだった。

それでも彼は、じっと山の方を睨みつけていた。表情こそ変えていないが、その瞳は狂気に駆られた野獣のようだった。

「その人を離して!」明音は真っ直ぐに駆け寄ると、どこからそんな力が湧いてきたのか、冬樹を押さえつけていた二人の男を突き飛ばした。

「どこの娘っ子だ? 邪魔すんじゃねえ! 俺たちはあいつのためを思ってやってるんだ。もうすぐ日が暮れる。今山に入ったら、狼の餌食だぞ!」

冬樹は黙って地面に座り込み、長い指を強く握りしめていたが、相変わらず一言も発しない。

「こんなに人がいるじゃない!まだ日が暮れてないうちに、みんなで手分けして探してよ。ここで突っ立って何もしないより、ずっとマシでしょ!」

村人たちは顔を見合わせ、誰も声を上げない。

もし本当に狼に出くわしたら、命に関わるからだ。

「手伝わないなら、邪魔しないで!」明音は冬樹の手を掴んだ。「行こう。私と一緒に、おばさんを探しに行こう!」

冬樹は座り込んだまま、彼女を見上げた。

「行くよ!」 明音は強引に彼を立たせ、手を引いて山へと歩き出した。

その時、あたりはすでに闇に包まれ始めていた。

「冬樹さん、心配しないで。私が絶対に、おばさんを見つけるから!」 明音は深呼吸をして、薄暗く危険な前方をじっと見据えた。自分を奮い立たせようとしていたが、恐怖で心臓は口から飛び出しそうなほど激しく打っていた。

「おばさんが見つかったら、一緒に格闘技やテコンドーを習いに行こう。そうすれば、もう誰にもあなたのやりたいことを邪魔させない!」

さっき、泥まみれで地面にねじ伏せられていた冬樹の姿が、明音の脳裏に焼き付いていた。

いつも孤高で優秀な彼に、これほど無力で絶望的な瞬間があるなんて、思いもしなかった。

あんな姿、二度と見たくない。

彼はいつだって輝いていて、誰もが憧れる存在であるべきなのだ。

神様は、まだ二人を見捨てていなかったらしい。

完全に日が暮れる寸前、運良く梅子を見つけることができた。彼女は出血多量で、意識を失いかけていた。

狼に襲われたわけではなかった。転倒した拍子に木の枝がふくらはぎに刺さり、大量に出血していたのだ。

冬樹はすぐに彼女を背負い、山を降りた。

あの時、梅子は何度も何度も感謝してくれた。「冬樹、こんないい子を泣かせちゃ駄目だよ」と、繰り返し言っていたのを覚えている。

だが、今となっては――。

時は流れ、 人も変わってしまった。

今、目の前にいる梅子は、他の女に輸血してやってくれと、自分に懇願しているのだ。

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