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幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります の小説カバー

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります

5年もの献身を捧げた結婚式当日、橘明音は絶望の淵に立たされた。婚約者の長谷川冬樹が「死にたい」と繰り返す幼馴染の機嫌取りを優先し、式を放棄したのだ。彼の心が永遠に氷のままだと悟った明音は、過去を断ち切り江南へと逃亡する。しかし、人生をやり直そうと泥酔した夜、彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまう。一夜を共にした相手は、社交界でタブー視される実兄の宿敵、藤堂修祢だった。逃げ出そうとする明音を屈強な腕で引き戻し、彼は艶やかな声で「食い逃げか?」と責任を迫る。冷徹無比な高嶺の花として知られる藤堂だが、その正体は宿敵の妹である明音を狂おしいほどに欲する偏愛の鬼だった。古都を買い取るほどの巨額を投じ、禁欲主義の仮面を脱ぎ捨てて彼女を執拗に追い詰める藤堂。甘美な罠に囚われた明音の運命は、かつての婚約者への復讐さえも飲み込むほどの情熱に塗り替えられていく。冷徹な支配者が唯一愛した女性にだけ見せる、あまりにも過剰で危険な溺愛劇が今、幕を開ける。
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「いやー、大騒ぎの結婚式だね。聞いた? 長谷川弁護士の幼馴染が、ホテルの屋上で自殺騒ぎを起こしてるって!」

ドアの外から漏れるひそひそ話に、橘明音の心はずきりと痛んだ。

これが、桜井静香による99回目の自殺未遂だ。

もう慣れっこだと思っていた。

けれど、今日は違う。

今日は、明音と長谷川冬樹の結婚式なのだ。

静香がこうして騒げば、自分がまた一歩引かなければならないことを、明音は理解していた。

冬樹と付き合って五年、静香もまた五年間、騒ぎ続けてきた。

そのたびに、冬樹は真っ先に彼女の元へ駆けつけ、なだめてきたのだ。

この恋において、自分こそ日陰者の浮気相手なのではないかと錯覚するほどに。

だが前回、自分を置いて静香の元へ向かった際、冬樹は約束してくれた。「これが最後だ」と。

明音は彼の「最後」という言葉を信じ、今日の結婚式を迎えた。

『死にたいなら勝手に死なせろ!俺に電話して何になる?』

明音はハッとして顔を上げた。バルコニーのドアは完全に閉まっておらず、冬樹の低く冷淡な声が隙間から漏れ聞こえてくる――。

『飛び降りるだと? できないだろうな!彼女が今まで何度自殺騒ぎを起こしたと思ってる? 一度でも血を見たことがあったか?』

最後に、冬樹は声を潜めて何か指示を出したが、あまりに小声だったため、明音には聞き取れなかった。

通話を終えた冬樹が振り返ると、ちょうど明音と目が合った。

明音の心臓が早鐘を打つ。今回、彼は静香のところに行かなかった……。

つまり、彼、嘘ついてなかったんだ?

本当に、これが最後なのか?

「何そんなに見てるんだ? もうすぐ式が始まる。準備はいいか?」冬樹の顔には何の感情も浮かんでいない。

それでも、明音は嬉しかった。

彼女は知っている。冬樹という男は、生まれつき感情が欠落しており、他人に共感することが難しい質だということを。

青春時代の淡い恋心から始まり、心からの愛を捧げるに至った今、明音はようやくその思いが実を結んだと感じていた。

彼にとって、自分は特別な存在のはずだ。

そうでなければ、結婚なんて承諾するわけがない。

明音は花のような笑顔を浮かべ、彼の腕に身を寄せ、「冬樹、私たちやっと結婚できるんだね……」と感慨深げに言った。

冬樹は相変わらず無表情のまま、「ああ、わかってる」とだけ答えた。

控室のドアが開く――。

「さあ、新郎新婦の入場です!」 司会者のよく通る声が、瞬時に会場の空気を掌握した。

明音は幸せいっぱいの表情で、冬樹の腕を組み、ステージへと歩き出した。

「皆様、盛大な拍手を……」

言葉の途中、唐突に冬樹の携帯電話が鳴り響いた。

司会者の顔に気まずさが走り、会場からはどっと笑い声が上がる。

明音の笑顔が凍りついた。その着信音は、彼女にとって悪夢のような音――静香専用の着信音だったからだ。

冬樹は懐から携帯を取り出し、電話に出た。『もしもし、また何かあったのか?』

司会者は慌てて場を取り繕い、再び雰囲気を盛り上げようとする――。 長年司会をしていて、こんな事態に遭遇するのは初めてだろう。

だが、彼が口を開くより先に、冬樹の声が響いた。

『すぐに行く』

冬樹はその一言を残し、大股でステージを降りていった。

一瞬にして、会場全体が騒然となる。

「行かないで……」明音はウェディングドレスの裾を持ち上げて追いかけ、すがるような表情で訴えた。「最後だって言ったじゃない」

冬樹はわずかに眉を寄せ、冷徹に損得を計算しているかのようだった。

数秒後、彼は冷静に説明した。「静香が本当に飛び降りたらしい。行って確認しなきゃならない。お前は客の相手をしててくれ、すぐ戻る」

「冬樹!」明音は彼の手首を掴み、離さなかった。「もし行くなら、私はもう結婚しない!」

冬樹は無造作に彼女の手を振りほどいた。「なら、後悔するなよ」

明音の心は粉々に砕け、涙が不意にこぼれ落ちた。

その涙を見て、冬樹の心臓がわずかに震えた。しかし彼は、これも明音の妥協のサインだと解釈した。

いつものように。

彼女は自分を見捨てられないはずだ。

明音がいかに自分を好いているか、冬樹は知っていた。箱入りのお嬢様でありながら、家族と絶縁してまで宮都で働く自分についてきたのだ。

何があっても、彼女は常に自分の味方だった。

彼女の最大の願いは、彼と結婚することだ。

それに、以前静香が何度も騒ぎを起こしたときも、彼女が尻拭いをしてくれた。

だが今回、「結婚しない」と脅してくるとは、よほど追い詰められているのだろう。

とはいえ、静香のほうは本当に緊急事態だ。

明音のわがままに付き合っている暇はない。

冬樹は反射的に何か言おうと唇を動かしたが、ポケットの携帯が再び震えたため、電話に出ながらきびすを返し、外へと走り去っていった。

一瞬、招待客一同はポカンと顔を見合わせた。

これ……どういう状況だ?

新郎が逃げた?

混乱が広がる中、明音は涙を拭い、気力を振り絞って振り返ると、呆然と立ち尽くす司会者からマイクを奪い取った。「皆様、申し訳ありません。本日の結婚式は中止とさせていただきます……」

会場は一瞬にしてざわめきに包まれた。

だが、明音にはもうどうでもよかった。

今日という日を境に、自分が宮都最大の笑い者になることはわかっていた。

誰もが知っているのだ。明音が冬樹に惚れ込み、数多のエリートたちを蹴って、貧しい彼を選んで共に苦労を重ねてきたことを。ようやく苦労が報われたと思った矢先、結婚式当日に捨てられたことを。

明音がホテルを出たところ、入り口は野次馬で埋め尽くされていた。

少し離れた場所で、静香はすでに救助マットから降ろされ、冬樹に抱きかかえられていた。彼女もウェディングドレスを着ており、目を真っ赤にして泣いている。

「冬樹、どうして私を一人にしたの? ずっと一緒にいるって約束したじゃない」

「無茶するな」冬樹はわずかに眉をひそめたが、その顔には相変わらず表情がなかった。

静香はいきなり彼の顔を両手で包み込み、その漆黒の瞳を覗き込んだ。「やだ!」

その行動を見て、明音は咄嗟に冬樹が怒ると思った。

かつて明音も、若かりし頃に彼の顔を包み込み、見つめたことがあった。だが彼は、冷ややかな目で彼女を見下し、こう言ったのだ。「俺の顔に触られるのは好きじゃない」

その声は氷のように冷たく、瞳には一片の感情もなかった。

しかし今、冬樹は拒絶する素振りすら見せず、 静香が彼の整った顔を揉みくちゃにするのを許し、最後には彼女を泣き笑いさせた。

明音はこれまで、冬樹の感情欠落は誰に対しても等しく冷淡なのだと思っていた。けれど今この瞬間、静香を抱きかかえて救急車へ向かう彼を見て、自分がどれほど滑稽なピエロだったかを思い知らされた。

来る日も来る日も、いつか自分の想いが冬樹の凍った心を溶かし、彼が自分を愛してくれる日が来ると信じていた。そして、その涼やかで美しい瞳が、自分への愛おしさと甘やかさで満たされる日を心に描いていた。

だが結果は――。

現実は残酷にも、彼女の頬を張り飛ばした。

なるほど、冬樹にも感情はあったのだ。ただ、それは自分に向けられたものではなかった。

明音は笑いながら、涙を流した。

この五年間。

(私は一体何だったの?)

(明音、あんたって本当に単純で、笑っちゃうくらい馬鹿だわ。)

この五年間は、ただの長い夢だったのだ。

夢が砕けた今。

もう、目を覚まさなきゃ。

明音は控室に戻り、ウェディングドレスを脱ぎ捨て、私服に着替えた。

結婚式のドタキャン騒動の余波はまだ激しく、明音が法律事務所に戻ると、噂話をしていた同僚たちの声がピタリと止んだ。

だが、明音は気にしなかった。昔から図太かったのだ。法学部の秀才だった冬樹を追いかけ回していた学生時代、すでに全校生徒の笑い者だったのだから。

ただひたすらに猪突猛進し、ようやく頭を打って血を流したことで、彼女は悟ったのだ。冬樹は本当に自分のことを好きではないのだと。

明音は自分のデスクに戻り、パソコンから退職願をプリントアウトした。署名を済ませると、それを冬樹のオフィスのデスクに置いた。

置いた瞬間、携帯が震えた。

冬樹からの電話だ。

『結婚式を中止にしたと聞いたぞ? なぜ事前に相談しなかった? 事務所の評判にどれだけ悪影響があるか分かっているのか?』

『中止にしなくてどうしろって言うの?』 明音は冷ややかな声で反論した。『大勢の招待客に、あなたが悲劇のヒロインを助けて戻ってくるのを待っていろとでも?』

冬樹は数秒沈黙した。明音が口答えするとは予想していなかったようだ。

付き合い始めた頃から、明音は太陽のように彼を照らし、常に活力に満ち、笑顔を絶やさなかった。

彼に怒りをぶつけたことなど一度もなかったのだ。

『俺が悪かった』 冬樹はどこまでも理知的で冷静だった。『配慮が足りなかった』

明音は自嘲気味に笑った。当時の自分は本当に怖いもの知らずだった。なぜ、生まれつき感情のない人間が自分を愛してくれるなどと思い込んだのだろう?

明音はデスクの上の退職願を一瞥して言った。『冬樹、私の辞しょ……』

言葉が終わらないうちに、受話器の向こうから甘ったるい声が割り込んできた。『冬樹、腰が痛いの。早く揉んでよぉ』

『今取り込み中だ。また後で話そう』

電話はすぐに切れ、無機質な切断音が響いた。

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