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記憶をなくした女将軍、運命の人を間違えました の小説カバー

記憶をなくした女将軍、運命の人を間違えました

崖下への転落事故によって記憶を失った女将軍の私は、目覚めた際、自らの地位と許嫁の存在のみを辛うじて覚えていた。やがて朝廷から迎えの使者が訪れた時、私は期待に胸を膨らませて再会を待ちわびる。しかし、副将が私の婚約者として指し示したのは、全く予期せぬ人物だった。その事実を到底受け入れられず、私は思わず「正気で彼を愛するはずがない」と強く否定してしまう。その言葉に皇太子は嘲笑を浮かべ、屈辱に顔を歪ませた若君は「後悔するな」と私に言い放つのだった。だが、実際に後悔の念に駆られたのは、私ではなく彼の方であった。かつての私は、彼一人を真っ直ぐに見つめ、その存在だけで心を満たしていたかもしれない。しかし、記憶を失い、一人の戦士として再生した今の私は、もはや過去の献身的な娘ではないのだ。運命の歯車が狂い始めた中で、かつての愛に縛られない新たな人生が幕を開ける。失われた記憶の断片と、すれ違う想いが交錯する、愛と運命の物語。
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【1】

歓迎の宴で、私は未来の夫となる人を隣に座らせた。

席に着く間もなく、先ほどの男が血相を変えてやってきた。

「江時渺、何の真似だ?私が煙を側室に迎えたいと言っただけで、そこまで私を無視するとはな」

意味が分からなかった。そもそも見ず知らずの男だ。彼が誰を側室に迎えようと、私には関係のないことである。

蹴り出してやろうかと思ったその時、李副将が私のそばへ寄ってきた。

「違います、将軍、違います」

「何が違う?この私が間違うことなどありえない」

「いえ、将軍が人違いをされている、と申し上げたいのです。そちらの方こそが、将軍の許嫁である侯爵家の若君、宋晋明様でございます」

青天の霹靂だった。私は思わず隣の男に視線をやった。

では、この人は一体……。

彼はすっと扇子を閉じ、軽やかに笑った。「阿渺、私だよ。慕長川だ」

慕長川。大魏の皇太子である。

まさか。私は信じられずに叫んでいた。

「あり得ない、絶対にあり得ない!私がどんなに男を見る目がなくても、こんな浮気性の男を選ぶわけがない!」

私の言葉に、広間は水を打ったように静まり返った。ただ一人、慕長川だけが声を上げて笑っている。

視線を戻せば、宋晋明の顔は怒りでどす黒く染まっていた。

「江時渺!お前、もう二度と我が侯爵家の門をくぐれると思うな!侯爵夫人など夢のまた夢だ!」

隣の葉挽煙は勝ち誇ったような笑みを浮かべながらも、取り繕うように宋晋明をなだめている。

笑わせるな。この私は三十万の軍を率いる大将軍だ。

たかが侯爵夫人の椅子など、くれてやると言われても願い下げである。

「それは好都合だ。では、この縁談はなかったことに。若君の物分かりの良さには感謝する」

宋晋明は怒りの勢いを削がれ、信じられないといった顔で聞き返した。「……何だと?」

どうやらこの男、頭の出来が悪いだけでなく耳まで遠いらしい。

若くして難聴とは、気の毒なことだ。

慈悲深い私は、親切にもう一度繰り返してやった。

「だから、この私が、お前なんぞいらんと言っているのだ!」

彼はカッと顔を赤らめ、息も絶え絶えに吐き捨てた。「後悔するなよ!」

それだけ言うと、葉挽煙の腕を引いて足早に去っていった。

「ごゆっくりどうぞ、お見送りはいたしませんが。ああ、今日は実に良い日だ。酒を持ってまいれ!」

その声が聞こえたのか、宋晋明の体がぐらりと傾ぎ、危うく倒れそうになるのが見えた。

【2】

酒に手を伸ばしたところで、慕長川に制された。

「怪我は完治していないはずだ。酒は飲めないだろう」

どうしてそれを、と訝しんでいると、彼の視線が私の頭へ向いているのに気づいた。包帯だ。

目覚めて三日もすればこの通り元気だったから、頭を打ったことなどすっかり忘れていた。

私は素直に杯を置いた。

そばで鬼のような形相でこちらを睨んでいた軍医が、ふぅ、と安堵のため息を漏らす。

「ありがたや、ありがたや。ようやくこの大魔王を手懐けられる方が現れた」

そう言うと、軍医は弾むような足取りで去っていく。その実に楽しげな後ろ姿に、無性に腹が立って拳がうずいた。

逃げた軍医の代わりに、私は慕長川に矛先を向けた。

「先ほど、殿下が私の許嫁かと尋ねた際、なぜ肯定されたのですか?」

慕長川は私の問いには答えず、悠然とした仕草で手酌で一杯あおった。

私が痺れを切らして掴みかかろうとした、その時。ようやく彼が口を開いた。

「忘れたのか、阿渺。我々は幼馴染だろう。六つの頃、君が言ったのだぞ。『私の夫になって』と。それを嘘とは言えまい」

あまりにも晴れやかに笑うものだから、こちらも毒気を抜かれてしまった。

「まあ、そう言われれば、そうだが……」

改めて目の前の男をじろじろと観察する。やはり、私の目は節穴だったに違いない。

幼馴染の皇太子を袖にして、よりによってあの好色な侯爵家の若君に懸想するとは。

あんな男に嫁ぐと聞かずに父を困らせ、

ついには根負けさせてこの縁談を認めさせたというのだから。

李副将の話では、私が記憶を失った直接の原因も宋晋明にあるらしい。

奴が遊女を側室に迎えるという知らせを受け取ったせいで、私は心を乱し、注意散漫になって敵の罠にはまり、崖から転落したのだという。

どう考えても、宋晋明はろくでもない男だ。

都広しといえど、正室を迎える前に側室を囲うなどという不届きな貴族は聞いたことがない。

だが、もういい。過去の私など死んだも同然。

今の私は、新しい私だ。私は闇を捨て光を掴む。まずは、宋晋明を叩き出すことからだ。

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