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触れられない身代わり彼女 の小説カバー

触れられない身代わり彼女

交際して一年が経つというのに、恋人は一度も自分に触れようとしない。そんな歪な愛に翻弄される中島桔依の心は、次第に深い病に蝕まれていった。ある深夜、彼女は恋人が姉の写真に口づけを贈る姿を目撃し、自分がただの身代わりに過ぎなかったという残酷な現実を突きつけられる。絶望の淵で駆け込んだ病院で出会ったのは、端正な顔立ちをした若きエリート医師だった。診察室で理性が崩壊しかけるほどの衝撃を受けた翌日、出社した桔依をさらなる驚愕が待ち受ける。昨日の担当医こそが、会社に新しく就任した社長だったのだ。赤の他人を装おうとする桔依だったが、運命に導かれるように社長専属アシスタントに抜擢されてしまう。略奪を疑い抗議する彼女に対し、社長は静かに距離を詰めていく。やがて、桔依は執着を捨てて新しい男の手を取る決断を下した。豹変した元恋人が血走った眼で復縁を哀願し、何でもすると縋り付いてきても、彼女の心はもう揺るがない。かつての愛に冷笑を浮かべ、桔依は自分を蔑ろにした男を容赦なく突き放すのだった。
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2

桔依は診察室をを飛び出すと、薬を受け取り、一目散に病院を後にした。

さっきの診察室での出来事――あの男性医師にズボンを下ろされ、あそこまで診察されてしまった情景が脳裏を掠める。

思わず顔から火が出そうになる。

こんなことが誰かに知られたら、外を歩くことさえ恥ずかしい。

もう二度と、見知らぬ男にあそこを診察されるのはごめんだ。これからは絶対女医にしてもらう。

その時、1台の黒いベントレーがゆっくりと彼女の前に止まった。

桔依は配車アプリで呼んだ車が来たのかと思い、窓越しに中を覗き込んだ。

なんとそこには、輪郭のくっきりとしたイケメンの顔があった。

まるで神が彫り上げたような、非の打ち所がない完璧な顔立ちだ。

桔依の視線が相手と一瞬交わり、どこかで見たような気がした。

その目つき……。 まさか、さっき診察室であんな恥ずかしい診察をしたあの男の医者?

桔依は息を呑んだ。

一瞬で顔が赤くなる。

(なんでこんな偶然、病院の入り口でまた出くわすの?)

颯馬が声をかけた。「乗れよ、送っていく」

桔依は慌てて首を振って断った。「結構です。ありがとうございます」

親しくもないのに、車に乗せてもらうわけにはいかない。

それに、さっき診察台で、あんな恥ずかしい診察をされたばかりだ……。

今、一番会いたくない相手だ。

逃げ出したいぐらいなのに。

これからは会っても他人のフリをするのが一番だ。

颯馬は瞳をわずかに暗くし、眉を片方軽く上げた。

無視できないほどの威圧感が漂う。

女に断られたのは、これが初めてだった。

桔依は男の不機嫌さを察したが、気まずそうに再び手を振った。

「本当に大丈夫です。もうすぐ旦那が迎えに来るので!」

今度は「旦那」という言葉を強調した。

つまり、自分は既婚者だとアピールしたのだ。

「……」

颯馬の口元に、気づかれないほどの冷たい笑みが浮かんだ。

彼は運転手に車を出すよう命じた。

走り去るベントレーの後ろ姿を見送って、桔依はやっと少し息をついた。

しかし、さっきの男の医者が診察室で言った言葉を思い出す。

彼女のこの病気は、長期間夫婦生活がないことが原因だ。

薬はバランスを整えることしかできない。

完全に治すには、やはり男と関係を持つしかない。

今夜はちょうど、旦那の翔太が出張から帰ってくる。

このチャンスを掴まなければ。

桔依は休む間もなくショッピングモールへ向かい、翔太が好むセクシーなネグリジェと、ムードを高める香水を買った。

家に帰ると、長年眠らせていた高級ワインを出した。

彼女の計画はこうだ。まず翔太とお酒を飲み、彼が酔っ払ったところでベッドに誘う。

翔太は極度の潔癖症で、夫婦の営みにはかなり抵抗があった。

結婚してからの1年、彼女が求めてもすべて拒絶されてきた。

そのせいで、桔依は心身ともに大きなストレスを抱えていた。

こんな病気にまでなってしまった今、やむなくこんな手段に出るしかなかった。

準備がすべて整うと、自分がひどく緊張していることに気づいた。

結婚してこんなに経つのに、下心を持って夫を“誘惑”するのは初めてだ。

心臓が飛び出そうなくらい激しく鳴っている。

桔依はまず自分に赤ワインを注ぎ、緊張をほぐした。

……

夜8時、翔太が出張から帰宅した。

パチッ。

真っ暗だった寝室に、パッと明かりが点いた。

ベッドで狸寝入りをしていた桔依は、ビクッと体を震わせた。

目を開けると、無意識にドアの前に立つ背の黒いシルエットを捉えた。

「あなた、お帰りなさい」

彼女はすぐに布団を跳ね除けてベッドから降り、嬉しそうに彼に駆け寄った。

翔太は目を細めた。

今夜の彼女がワインレッドの胸元の開いたキャミソールを着ていることに気づいた。雪のように白い肌が際立ち、メリハリのあるスタイルがあらわになっている。

さらにそのあどけなく色気のある顔立ちも相まって、まさに絶世の美女だ。

彼女が駆け寄ってくるにつれ、魅惑的な香水の匂いが漂ってきた。

男としての本能的な欲望をくすぐってくる。

間違いなく、目の前の女はセクシーで、色っぽく、挑発的だ。

ピュアでありながら妖艶でもある。

しかし、絶対に彼の好みのタイプではない。

彼の漆黒の瞳から欲望が少しずつ消え去り、代わりに冷淡さとよそよそしさが現れた。

翔太は無意識に彼女を突き放して言った。

「疲れてるんだ」

その一言で、桔依の心の中で燃え上がっていた情熱の大部分が一瞬にして冷え切った。

だが、彼女は諦めきれない。

病気はもう待ったなしで、どうしても男と関係を持たなければならないのだ。

ましてや今夜は、彼のためにわざわざ念入りにオシャレをして、いろいろと準備までした。

ここで引き下がるわけにはいかない。

彼女は自分から彼の腕を掴み、優しく提案した。 「あなた、マッサージしてあげようか?」

翔太はまるで汚いものに触れられたかのように、嫌悪感を露わにして彼女を振り払った。「結構だ!」

彼はそのまま大股でバスルームへ向かった。

彼が桔依のそばを通り過ぎた時、はっきりと女の香水の匂いがした。

上品で気高い香り。

絶対に彼女が普段使っている香水ではない。

桔依は呆然と立ち尽くした。

瞳に驚きと疑いの色が一瞬走る。

(まさか翔太、外に別の女がいるの?)

しかし思い直した。翔太はよく外で接待をしている。

たまに女の香水の匂いが移ったからといって、浮気の証拠にはならないはずだ。

それに翔太は極度の潔癖症だ。妻の自分にすら触れたがらないのに、外の女なんてもってのほかだろう。

桔依はそう自分に言い聞かせた。

歩み寄って翔太のグラスに赤ワインを注ぎ、当初の計画通り、まずは彼を酔い潰すことにした。

30分後、翔太がバスルームから出てきた。

彼は白いバスローブを羽織っただけで、帯は結ばず、胸元の引き締まった筋肉がチラチラと見え隠れしている。

小麦色の肌が、薄暗いオレンジ色の照明の下で極度に妖艶に見えた。

両脚はスラリと長くまっすぐだ。

さらにその端正で禁欲的な顔立ちも相まって、桔依は危うく見惚れてしまうところだった。

本能的に喉の渇きを覚える。

久しぶりだからか、それとも彼がずっと冷たい態度だったせいか、突然こんな姿を見せられて、桔依の心はすっかり乱れてしまっていた。

桔依は思わず生唾を飲んだ。

視線がふと、引き締まった腰から下へと向かう……。

ーーヤバい!

なんだかますますそっちの欲望が強くなっているような気がする。

翔太の低く厳しい声が不意に響いた。

「何を見てる?」

桔依はビクッと震え、すぐに我に返って慌てて首を振った。

「なんでもない!」

翔太の体をいやらしく見ていると思われ、これ以上嫌悪されるのを恐れたのだ。

彼女は口角を上げて微笑み、手元の赤ワインを手に彼へ歩み寄りながら言った。「あなた、一杯どう?」

翔太には寝る前に一杯飲む習慣があるのを知っている。

しかし今夜は、彼女がそう言っても、翔太はしばらくの間沈黙したまま何も答えなかった。

桔依は思わず後ろめたさを感じた。

(もしかして、計画がバレた?)

彼女は諦めきれず、甘ったるい声を出して彼にすり寄った。「ねえ……」

さらに酒を勧めるつもりだったが、翔太が突然振り向き、意味深な視線を彼女に向けた。

「こんな時間だ。まだ寝ないのか?」

桔依は一瞬、パッと顔を輝かせた。

彼も自分と「寝る」気があるのだと思った。

彼女はすぐにワイングラスを傍らのナイトテーブルに置いた。

「うん、今すぐ寝る!」

興奮してベッドに上がろうとしたが、彼女の細い手が彼に触れるより早かった。

翔太は突然彼女の手首をガシッと掴み、眉を上げて鼻で笑った。「まさか、今夜俺がお前を抱くと思ってないだろうな?」

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