
99回の裏切りと私の選択
章 3
塚本美優 POV:
「美優先輩, 行っちゃうんですか? 」
沙織莉の声が, エレベーターホールに響いた.
慎和が, その声に気づき, 私の方を振り向いた.
彼の顔から, 笑顔が消える.
「美優, どうしてここに? 」
彼は, 眉をひそめて私を見た.
私は, 手に持っていた辞職願を, 彼に差し出した.
「お渡しするものが, あります」
彼は, 辞職願を無言で受け取った.
その表情は, 険しい.
「これは…どういう意味だ? 」
彼の声が, 低く響く.
「そのままの意味です」
「私, 辞めます」
私の言葉に, 彼は顔色を変えた.
「何を言っているんだ? 」
「君が辞めるなんて, 冗談だろう? 」
彼は, 辞職願を乱暴にデスクに叩きつけた.
「冗談じゃありません」
「もう, 疲れました」
私は, 彼の目を真っ直ぐに見つめた.
彼の顔に, 困惑の色が浮かぶ.
「疲れた? 」
「籍を入れる日だったから, こんなことを言っているのか? 」
「少し休めば, 元に戻るだろう」
彼は, そう言って, 私の肩に手を置こうとした.
私は, その手を避けた.
「そういう問題じゃない」
「あなたが, 私を裏切ったからじゃない」
彼の顔が, 青ざめる.
「美優…」
「君は, そんなことを言う子じゃなかっただろう」
「どうしたんだ? 」
彼の言葉に, 私は怒りが込み上げてきた.
「私は, ずっと我慢してきた」
「あなたの裏切りも, 嘘も, 全て」
「でも, もう限界なの」
私の声が, 震える.
彼は, 何も言えずに, ただ私を見つめている.
その時, 麻耶が, 笑顔で慎和のオフィスから出てきた.
「社長, お疲れ様です」
麻耶は, そう言って, 慎和の腕に抱きついた.
慎和は, 咄嗟に麻耶を突き放した.
麻耶は, 驚いた顔で慎和を見上げている.
「社長…? 」
「ごめん, 麻耶」
「ちょっと, 美優と話があるんだ」
慎和は, そう言って, 麻耶をオフィスへと押し戻そうとした.
麻耶は, 慎和の腕を掴んだまま, 私の方を見た.
その目には, 挑戦的な光が宿っている.
「美優さん, ごめんなさい」
「社長, 私のこと, 奥さんって呼んでくれるんです」
彼女は, そう言って, 慎和の腕にさらに強く抱きついた.
慎和は, 顔を赤くして, 麻耶を突き放した.
「麻耶, 何を言っているんだ! 」
「美優, 違うんだ」
彼は, 私に弁解しようとする.
しかし, 私の心は, もう冷え切っていた.
私は, 左手の薬指にはめていた指輪を抜き取った.
慎和が, ハッとしたように目を見開く.
私は, その指輪を麻耶に差し出した.
「これ, あげるわ」
「あなたたちには, お似合いよ」
麻耶は, 指輪を受け取ると, 冷たい笑みを浮かべた.
「ありがとうございます, 美優さん」
「でも, 私には, もっと素敵な指輪があるんです」
彼女は, そう言って, 慎和からもらったばかりの婚約指輪を見せびらかした.
慎和は, 顔を真っ赤にして, 麻耶を叱りつけた.
「麻耶, いい加減にしろ! 」
彼は, 私の方を向くと, 必死な顔で言った.
「美優, 信じてくれ」
「これは, 偽装結婚なんだ」
「僕は, 君と結婚したいんだ」
彼の言葉が, 私の耳には届かない.
私は, 何も言わずに, 彼に背を向けて歩き出した.
「美優! 」
彼の呼び声が, 私の背中に突き刺さる.
しかし, 私は, 振り返らなかった.
エレベーターの扉が開き, 私は中に乗り込んだ.
扉が閉まる直前, 私は, 彼が, 私が差し出した指輪をゴミ箱に投げ捨てたのを見た.
そして, 麻耶が, その隣で, 満面の笑みを浮かべている.
私の心は, 砕け散った.
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