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出所した悪女は、無双する の小説カバー

出所した悪女は、無双する

佐久間家の令嬢として育った小林美咲の運命は、自身が「偽物」だと判明した日に暗転した。本物の令嬢に嵌められ、家族や婚約者からも見捨てられた彼女は、無実の罪で4年間の獄中生活を強いられる。出所後、復讐を胸に秘めた美咲が選んだ再出発は、東條グループの放蕩息子と噂される男との結婚だった。周囲が彼女の没落を確信する中、事態は一変する。世界的な宝飾ブランドの創設者、伝説のハッカー、天才料理人、そしてかつて佐久間家を影で支えた功労者――その正体はすべて美咲だったのだ。掌を返して許しを乞う元家族や執着を見せるかつての婚約者を余所に、彼女は圧倒的な実力で頂点へと登り詰めていく。一方で、自堕落な「ヒモ」だと思っていた夫の幸雄もまた、実は財界を支配する神秘的なレジェンドとしての顔を持っていた。最愛の妻を独占するため、密かに牙を研いでいた夫の真の狙いを知らぬまま、美咲の華麗なる逆襲劇が幕を開ける。互いに巨大な秘密を抱えた夫婦が辿り着く結末とは。
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2

佐久間智子の顔色が、さっと険しくなった。

かつて小林美咲との関係を清算するため、佐久間家は東條グループの者の前で、彼女に関係断絶の念書へ署名させたのだ。

それによって、東條グループからの追及を免れた経緯がある。

だがそれも……やむを得ない事情だった。

記者たちがすかさずマイクを突き出す。「佐久間夫人、それは本当のことでしょうか? 以前、実の娘さんが見つかっても、幼い頃から育ててこられた佐久間美咲さんを見捨てることはないと仰っていましたが」

智子は気まずそうに微笑んだ。「ええ……もちろん、そのような事実はございません」

小林美咲は唇の端を吊り上げた。「では佐久間夫人、当時の東條グループの方をお呼びして、あの念書が本物か偽物か、ここで対質する勇気はおありで?」

「佐久間美咲、あまり調子に乗るな!東條グループの方々を、我々がそう簡単に呼べるわけがないだろう!」と、佐久間浩志が隣で怒鳴った。

美咲は彼に向かってにっこりと目を細める。「じゃあ、できないってこと?」

浩志は言葉に詰まった。

作り上げてきた体面が崩れそうになるのを見て、智子はとっさに何かにショックを受けたかのように、激しく咳き込み始めた。

佐久間美月は即座にその意図を汲み取り、慌てて母を支えながら背中をさする。「ママ、どうしたの?大丈夫?」

美月は美咲を見上げ、か弱く、傷ついた表情で言った。「お姉ちゃん、ママはこの数年、あなたが刑務所でちゃんと食べているか、眠れているか、毎日泣いて心配していたの。体が弱っているんだから。もし十数年の恩を少しでも感じているなら、もうママを怒らせないで、一緒に帰りましょう……」

その芝居がかった様子に、美咲は吐き気を覚えた。

帰る?

かつて佐久間美咲には家があった。だが、今の小林美咲には――

もはや家などない。

これ以上、彼らと関わりたくはなかった。

彼女は決然とした眼差しを向けた。

「佐久間美咲は四年前、佐久間家の人間によって、その手で殺されたのよ!」

その言葉を残し、美咲は人垣を抜けて、まっすぐにその場を去った。

それを見た智子は、すぐさまその場に崩れ落ち、悲嘆に暮れたように泣き叫んだ。

そして白目をむき、気を失った。

現場はたちまち大混乱に陥った。

浩志が素早く母を背負ってその場を離れ、美月がその後に続いた。

自家用車に乗り込み、マスコミから完全に遮断されると、智子は目を開けて体を起こした。

先ほど、とっさに気を失うふりをしなければ、収拾がつかなかっただろう……。

すべて、あの佐久間美咲のせいだ!

こちらが過去を水に流し、わざわざ出所を迎えに来てやったというのに、感謝するどころか、大勢の前で佐久間家の顔に泥を塗るとは。

佐久間家はとんでもない恩知らずを育ててしまったものだ!

「あの女、ふざけやがって!恩を仇で返しやがった!」浩志はハンドルを握りしめ、怒りに任せて罵った。

智子の瞳から、それまでの優しく慈愛に満ちた表情は消え、冷たく険しいものへと変わっていた。

彼女は鼻を鳴らして言い放つ。「あの子は一文無しで、四年間の前科まで背負っているのよ。佐久間家を離れて生きていけるはずがないわ」 佐久間美咲は必ず戻ってくる。その時が来たら、あの子を躾ける方法はいくらでもあるわ!」

……

午後、美咲は滝川市役所の前に来ていた。

約束の時間までまだ間があったので、木陰に寄りかかり、静かに目を伏せる。

様々な思いが頭をよぎった。

四年前、収監されたばかりの頃を思い出す。刑務所では、ありとあらゆるいじめを受けた。

半殺しにされた時、幸運にも所内のとある大物に助けられた。

その人物は囚人でありながら、絶大な影響力を持ち、特別に設えられた豪華な個室で暮らしていた。看守でさえ、彼女には手出しができなかった。

他の囚人たちは彼女の名を聞くだけで震え上がり、誰もが避けて通った。

その大物は美咲を気に入り、弟子にしたいと言った。だが、そこには一つの条件があった――

ある男との結婚を承諾し、結婚後、彼女のために一つのことを成し遂げろ、と。

地獄のような監獄で無事に生き延びるため、美咲に選択の余地はなかった。

彼女は即座に承諾し、頭を下げて師弟の契りを交わした。

そして今、出所した彼女が真っ先にすべきこと、それは師匠との約束を果たし、この婚約を履行することだった。

少し離れた日陰に、一台のリムジン、ロールス・ロイス・ファントムが停まっている。

「社長、あの方が……聡美様がご用意された結婚相手ですか?」

車窓の向こうに、うつむき加減の、しなやかな身体つきの女の姿が見えた。

シンプルな白いTシャツにローライズのジーンズ。伸びをした拍子に、贅肉のない細い腰が一瞬だけ覗く。

どこか人を寄せつけない、野性的な雰囲気を漂わせている。

整った顔立ちをしているが、いかんせん前科持ちだ。

(聡美様はいったい何を考えておられるのか。よりによって、自分の社長に刑務所帰りの女と結婚しろとは。)

秘書である中村樹にとってさらに理解しがたいのは、その社長があっさりと同意したという事実だ。

東條幸雄は後部座席に深くもたれかかり、腕を無造作に組んでいた。まくり上げた袖口から、引き締まった腕が覗いている。

彼は切れ長の目を細め、女の細い腰に視線を注いでいた。口の端には、どこか悪戯っぽい、捉えどころのない笑みが浮かんでいた。

やがて、幸雄は車のドアを開け、女の方へ歩いていった。

「小林さん?」

呼びかけられ、美咲は顔を上げた。

その瞬間、思わず息を呑む。

目の前に立つ黒いシャツの男が、真昼の太陽を遮っていた。

その顔立ちは、まるでルーブル美術館に飾られた精緻な油絵のように、完璧に整っていた。

この人が……師匠が言っていた、東條グループのろくでなしで放蕩者の、あの私生子だろうか。

美咲は内心、不安を覚えていたが、意を決して尋ねた。「あな……東條さん、ですか?」

男は頷いた。

美咲は改めて彼を観察する。服装はラフだが、全身から不思議な気品が漂っていた。だが、その深い瞳の奥は、まったく笑っていない。

謎めいた男だった。

「小林さん、目玉が飛び出しそうだ」 幸雄が軽やかに笑った。

美咲は自分が相手を凝視しすぎていたことに気づき、慌てて視線を逸らす。

「すみません……では、入りましょうか」

二人は並んで市役所に入り、しばらくして出てきた時には、その手に真新しい結婚証明書が握られていた。

「東條さん、ご安心ください。聡美様の言いつけを果たしたら、あなたの邪魔はしません。すぐに離婚しますから」

二人の間に愛情はなく、前科のある女を妻にしたい男などいるはずもない。美咲は自分の立場を冷静にわきまえていた。

幸雄は彼女に目をやる。風に少女の長い髪が舞う。妖艶な顔立ちとは裏腹に、その美しい瞳はどこまでも澄み切っていた。

彼は離婚の話には答えず、代わりに尋ねた。「叔母さんは、あの中では元気にしていたか?」

美咲は一瞬虚を突かれ、慌てて答えた。「ええ、お体はとても丈夫です。中で苦労された様子は……ありませんでした」

そう言って、唇をきゅっと結ぶ。

苦労どころか……

師匠である東條聡美にとって、刑務所など第二の我が家も同然だったのだ!

「それならよかった」

幸雄はそれ以上は聞かず、ポケットからカードを取り出して美咲に差し出した。「これを使ってくれ。結婚祝いだ」

美咲はそれを押し返した。「いえ、結構です。お金はありますから」

結婚したとはいえ、今日が初対面だ。それに師匠の話では、東條幸雄は東條家の人間でありながら、本家からは疎まれ、グループ内での立場も低いという。

定職にも就かず、毎日ぶらぶらと遊び歩いている放蕩息子――

大した蓄えもないはずだ。

そんな彼のお金をもらうわけにはいかない。

しかし、幸雄はまったく意に介さず、彼女の手を引っ張り、カードを彼女の手に押し込んだ。

彼の美しい黒い瞳が、美咲の目を捉える。その眼差しには、こちらの考えを見透かすような色が浮かんでいた。

「俺たちはさっき籍を入れた。今、俺は君の夫だ。 妻が夫の金を使うのは当然だろう。それを受け取らないというのは、俺を夫として認めないということか?」

「夫」という言葉に、美咲の涼やかな頬が、ふわりと薄紅色に染まった。

「そんなつもりは……」

美咲は何か言おうとしたが、言葉が続かなかった。

黙ってカードを受け取ると、小さな声で礼を言った。

幸雄は満足げに薄い唇を綻ばせると、尋ねた。「どこへ行く? 送るよ」

美咲の心は、ずしりと重くなった。これから佐久間家へ戻るつもりだった。

他のものはどうでもいい。だが、祖母が生前に残してくれた腕輪だけは、どうしても取り返さなければならなかった。

佐久間勝政と佐久間智子夫妻が仕事に明け暮れていた間、ずっとそばにいて、自分を教え導き、育ててくれたのは祖母だった。

血の繋がりこそなかったが、祖母が自分に注いでくれた愛情は本物だった。

もし祖母が生きていたら、あの時、きっと自分のことを信じてくれたに違いない。

一瞬、悲しみが胸をよぎった。

美咲はその感情をすぐに押し殺し、顔を上げて東條幸雄に微笑みかけた。「少し用事がありますので、東條さん、お構いなく。送っていただかなくて大丈夫です」

「そうか。何かあったら電話してくれ」

幸雄は電話番号を告げると、去っていく美咲の背中を見送った。

彼女の姿が完全に見えなくなるのを待ってから、彼は視線を落とし、手の中にある赤い結婚証明書を眺め、口元を緩ませた。

離婚? ありえない。

この日をどれほど待ちわびていたことか、誰にも分かりはしない。

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