フォローする
共有
出所した悪女は、無双する の小説カバー

出所した悪女は、無双する

佐久間家の令嬢として育った小林美咲の運命は、自身が「偽物」だと判明した日に暗転した。本物の令嬢に嵌められ、家族や婚約者からも見捨てられた彼女は、無実の罪で4年間の獄中生活を強いられる。出所後、復讐を胸に秘めた美咲が選んだ再出発は、東條グループの放蕩息子と噂される男との結婚だった。周囲が彼女の没落を確信する中、事態は一変する。世界的な宝飾ブランドの創設者、伝説のハッカー、天才料理人、そしてかつて佐久間家を影で支えた功労者――その正体はすべて美咲だったのだ。掌を返して許しを乞う元家族や執着を見せるかつての婚約者を余所に、彼女は圧倒的な実力で頂点へと登り詰めていく。一方で、自堕落な「ヒモ」だと思っていた夫の幸雄もまた、実は財界を支配する神秘的なレジェンドとしての顔を持っていた。最愛の妻を独占するため、密かに牙を研いでいた夫の真の狙いを知らぬまま、美咲の華麗なる逆襲劇が幕を開ける。互いに巨大な秘密を抱えた夫婦が辿り着く結末とは。
共有

1

七月、滝川刑務所。

小林美咲は袖口を下ろし、腕の生々しい傷跡を隠した。その時だった。看守が彼女に向かって叫ぶ声が聞こえた。「小林美咲、佐久間家の者が迎えに来ているぞ!」

美咲の手が、ぴたりと止まった。

佐久間家――なんと馴染み深く、そして今は遠い響きだろう。

かつて彼女は、佐久間家の令嬢だった。

四年前、警察が突然訪ねてきて、佐久間勝政・智子夫妻の実の娘が見つかったと告げた。

一夜にして、佐久間美咲は偽物の令嬢へと成り下がった。

美咲の実の両親はすでに他界していた。佐久間家は世間体を気にして、これからも美咲を実の娘として扱うと公言した。

しかし……

それまでの十七年間、佐久間夫妻は仕事に明け暮れ、美咲に無関心だった。

だが、実の娘である佐久間美月が戻ってくると、その態度は一変。美月を掌中の珠のように扱い、甲斐甲斐しく世話を焼いた。

美月が、東條グループ傘下の最高級宝飾店『瑞梵詩』の至宝を盗み、その罪を美咲になすりつけた時、佐久間家の人間は誰一人として彼女を信じなかった。全員が美月を庇い、異口同音に美咲を犯人だと指差したのだ。

たとえ、佐久間美月の嘘がどれほど稚拙なものであっても。

瑞梵詩は、滝川市で絶大な力を持つ東條グループが経営する宝飾店。佐久間家のような家が、東條グループに逆らえるはずもなかった。

佐久間家は、養女ひとりのために東條グループを敵に回すことを恐れ、手のひらを返した。彼女は佐久間家の人間ではなく、小林家の娘だと突き放し、その手で美咲を刑務所へと送り込んだのだ。

そこまで思い返し、美咲は無意識に指をきつく握りしめていた。

佐久間美月の身代わりとして、四年。

今日が、その出所の日だった。

……

刑務所の正門前には、大勢の記者たちが詰めかけていた。

陽炎が立ち上るほどの熱波が、波のように押し寄せてくる。誰もが焦燥感を滲ませていた。

重々しい鉄の扉が、ゆっくりと開いていく。

収監された時と同じカジュアルな服装のまま、小林美咲が中から姿を現した。

佐久間夫人は彼女の姿を認めると、ぱっと顔を輝かせ、急いで駆け寄った。

その周りには、無数のマイクとカメラが群がっている。

その芝居がかった光景に、美咲は心の中で冷たく鼻を鳴らした。

「美咲、お母さんが迎えに来たわよ」 佐久間智子の目には涙が浮かび、声は嗚咽に震えている。

その痛々しい姿に、そばにいた記者たちも同情を禁じ得ないようだった。

しかし美咲は、そんな彼女を冷ややかに見つめ、言い放った。「佐久間夫人、人違いではございませんか」

智子は一瞬、虚を突かれた顔をしたが、すぐさま悲痛な表情を浮かべた。

「美咲、何を言うの? あなたは私が十数年も育てた娘よ。どんな姿になろうと、この母親があなたを間違うはずがないじゃない」

美咲の口元に、嘲りの笑みが浮かぶ。

「そうですか? ですが四年前、あなた方が私に濡れ衣を着せて刑務所に送った時、『この子は佐久間ではなく小林だ』とおっしゃいましたよね。 私はとっくに佐久間家の人間ではない。それなのに、どうしてあなたの娘だなどと言えるのですか?」

濡れ衣?

佐久間ではなく小林?

短いやり取りに含まれた衝撃的な情報に、記者たちは顔を見合わせ、次の瞬間、堰を切ったように沸き立った。

誰もが少しでも重要な情報を聞き逃すまいと、我先にとマイクを突き出す。

智子は屈辱に顔を歪めたが、大勢のメディアの前で怒りを爆発させるわけにもいかず、必死に感情を押し殺した。

その時、鋭い声が響き渡った。

「小林美咲!何をふざけたことを言っている! あの時、瑞梵詩の宝飾品はお前のバッグから見つかったんだぞ!人贓物証ともに明らかだ、何が濡れ衣だ! 四年も服役したお前を、俺たちは見捨てるどころか、こうしてわざわざ炎天下の中を迎えに来てやったんだ。それなのにその言い草はなんだ!恩を仇で返すにもほどがあるぞ!」

声の主は、佐久間家の長男――佐久間浩志だった。

美咲が十七年間、「お兄ちゃん」と呼んできた男。しかし彼は、彼女が罪を着せられた時、佐久間美月を背後にかばい、美咲を床に突き飛ばした張本人だ。

倒れ込んだ際、腕を机の角に打ち付け、肉が裂けるほどの深い傷を負った。

それが今も醜い傷跡として残っている。

あの宝飾品は……

佐久間美月が、美咲が化粧室に立った隙に、彼女のバッグにこっそり忍ばせたものだった。

あの時の美咲は、まだ美月が純粋で心優しい少女であり、自分と仲良くしたいのだと信じて疑わなかった。

だからこそ、美月が「バッグ、持っていてあげる」と申し出た時、何の警戒もせずに預けてしまったのだ。

だが、その清純な仮面の下に隠されていたのは、美咲の存在が佐久間家における自分の地位を脅かすことを恐れる、嫉妬深く悪辣な心だった。

すべては、彼女を陥れるための罠だったのである。

あの日、美咲は佐久間家の人間たちの本性を、その醜い素顔を、はっきりと見た。

そして、彼女の心は完全に死んだ。

「お姉ちゃん、きっとまだ私のことを怒っているのね。だからあんなことを……」浩志の隣で、美月が目を赤く潤ませた。

「お姉ちゃん、私、あなたから佐久間家のお嬢様という立場を奪いたくて帰ってきたわけじゃないの……だから、もう怒らないで……」

華奢な身体をか弱く震わせ、その瞳からは今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうだ。

浩志は愛おしそうに美月の肩を抱き寄せ、慰めた。「美月、お前は何も悪くない。悪いのはこいつだ。十七年間も、本来お前のものだったはずの栄華を独り占めしてきたんだぞ! 罪を犯しておきながら反省の色もない。いっそのこと、もう数年刑務所に逆戻りさせて、根性を叩き直してもらうべきだな!」

「少し黙りなさい!」智子は息子を睨みつけ、記者たちに視線を走らせた。

これだけ多くの目が見ているのだ。自制しなければならない。

そしてメディアの方へ向き直ると、こう語りかけた。「四年間も会っていませんでしたから、美咲もまだ戸惑っているのでしょう。彼女の気持ちは理解できます。過ちを認めて更生してくれるのなら、あの子は今でも私たち佐久間家の、大切な令嬢なのです」

佐久間家の令嬢?

美咲は思わず笑いが吹き出してしまった。そして、すっと眉を吊り上げると言った。「佐久間夫人、お忘れですか?あなた方とは、とうの昔に関係を断ち切る書類に署名したはずですが。 まさか、この小林家の人間である私に、佐久間家の令嬢を名乗れとでも?」

おすすめの作品

心を持たない男が、私だけには過保護すぎる件 の小説カバー
8.1
水嶋澄香は、病を抱えた母と自分を虐げる父、そして継母という過酷な家庭環境の中で孤独に耐え続けてきた。そんな彼女の運命を変えたのは、街で窮地に陥っていた一人の男を偶然助けたことだった。その人物こそが、圧倒的な権力を誇る冴木財閥の若き当主、冴木烈である。周囲から「氷の鬼将軍」と恐れられる彼は、極めて冷酷かつ無感情な性格で、浮いた噂一つないほど女性を遠ざけて生きてきた。しかし、命の恩人である澄香に対してだけは、烈の態度は一変する。風が吹けば彼女を庇い、転ばぬようにと歩行すら制限し、水一杯を飲む際にも自ら毒見を行うほど、その執着は常軌を逸した「過保護」へと変貌していく。冷徹だったはずの男が初めて知った恋心は、周囲が驚愕するほどの極端な愛へと昇華されていた。冷酷な独裁者が特定の女性にだけ見せる、あまりに不器用で献身的な溺愛劇。世間の常識を覆す、最上級のシンデレラストーリーが幕を開ける。
離婚後の私、無敵です。 の小説カバー
8.1
結婚記念日という特別な日に、御曹司の夫・尾崎時生から突きつけられたのは、初恋の女性を選ぶというあまりにも身勝手な裏切りだった。長年の献身を無下にする彼に対し、西森千夏は未練を断ち切り、即座に離婚届を叩きつけて去る。時生は「どうせすぐに戻ってくる」と高を括っていたが、彼女が選んだ道は芸能界への華々しい復帰だった。かつての「か弱い妻」から一転、圧倒的なカリスマ性で無双する千夏は、時生の愛人の本性を暴き、社会的に葬り去っていく。一方、千夏の前には世界的スターやメディア王、大富豪の継承者といった最高峰の男たちが現れ、彼女を巡って熱狂的な求愛を繰り広げる。立場は完全に逆転し、千夏の成功を目の当たりにした時生は、焦燥感からなりふり構わず復縁を迫る。しかし、かつての冷遇を忘れない彼女は、すがりつく元夫を一瞥だにせず冷酷に告げる。「一度捨てた過去を二度と拾うことはない」と。これは、裏切りを糧に覚醒した女性が、かつての夫を絶望の淵へと突き落とし、真の愛と栄光を掴み取る痛快な愛憎劇である。
榊社長、もう虐めないで——私、離婚届にサインしました の小説カバー
8.2
結婚から三年の月日が流れても、永瀬涼は夫である榊静真の冷徹な心を溶かすことができずにいた。かつて静真が愛した初恋の女性が帰還したことを機に、涼はついに離婚を決意する。しかし、最後に一度だけ、淡い期待を込めて彼に問いかけた。「もし私との間に子供が授かったとしても、あなたは別れを選ぶの?」という切実な願いに対し、静真が放ったのは「ああ」という無慈悲で冷淡な一言だった。その言葉に絶望した涼は、彼への未練を断ち切り、静かに目を閉じる。心身ともに限界を迎え、冷え切った病床に横たわる彼女は、ついに離婚届へと署名した。「榊静真、これでもう私たちはおしまいよ……」と決別の言葉を口にする涼。ところが、その瞬間、財界で“生きる閻魔”と畏怖されるほど冷酷だったはずの静真が、彼女の枕元で激しく動揺を見せる。彼は震える声で涼に縋り付き、必死の面持ちで「離婚しないでくれ」と懇願し始めるのだった。愛を諦めた妻と、失う恐怖に直面した夫。二人の関係は、破局の淵で予想外の転換期を迎える。
彼女は娘を連れて去り、元夫は狂気に沈む の小説カバー
8.0
一途に追い続けた8年間。酒の勢いで結ばれた一夜をきっかけに、彼女は念願だった彼との結婚を果たす。しかし、幸せを確信したはずの結婚初日、彼女の母親が彼の姪に轢き殺されるという悲劇に見舞われた。さらに翌日、彼は彼女の父親の命を盾に、姪への告訴を取り下げるよう強要する。すべては姪を守るための冷酷な仕打ちであり、彼の本心が自分にはないことを彼女は痛感した。姪による暴力で入院しても彼は示談を迫り、父の酸素チューブを抜く暴挙に及んでも、彼は彼女に謝罪を強いる。妊娠中の彼女は自分から離れられないと高を括る彼に対し、彼女は静かに決意を固めていた。出産後、彼女は娘を連れて彼の宿敵のもとへ嫁ぎ、姿を消す。失って初めて、彼は己の傲慢さを悔いて狂乱し、膝をついて償いを乞うが、彼女の心はすでに氷のように冷え切っていた。「命を賭けるというなら、死ねばいい」。かつての愛は消え去り、彼女は振り返ることなく彼を突き放した。
間違えて嫁いだら、社長の愛しさが止まらない の小説カバー
8.5
意地悪な妹が仕掛けた罠によって、謎の男性を救うことになった佐藤夏希。しかし翌日、彼女を待っていたのは、妹の身代わりとして「無能」と蔑まれる男のもとへ嫁げという理不尽な強要だった。恐ろしい形相をしていると噂される結婚相手だったが、目の前に現れたのは、類まれなる美貌を持つあの時の男性だった。高貴な身分を隠し持つ彼は、千億もの莫大な資産を譲渡することを条件に、百日後の離婚を夏希に提案する。やがて約束の日が訪れ、夏希が身を引こうとしたその時、夫である翼は初めて彼女を深く愛している自分に気づく。夏希を失いたくない翼は、どこまでも彼女を追い、壁際に追い詰めると「俺の子供を宿していながら、まだ逃げるつもりか」と切実に訴えかける。離婚は容易くとも、一度離れた心を取り戻すのは命がけの試練。愛に飢えた社長が、最愛の妻を再び手に入れるために執念で追いすがる、波乱に満ちた溺愛劇がいま幕を開ける。
夫が私を口説いている。 の小説カバー
9.3
結婚から二年の月日が流れたある夜、夫婦は初めて肌を重ねた。しかし、彼女が相手を夫だと認識していた一方で、夫は目の前の女性が自身の妻であることにすら気づいていなかった。冷徹に離婚を告げる夫に対し、彼女も未練を残すことなくその提案を受け入れる。だが、二人の運命はここから予想もしない形で深く絡み合っていく。時が過ぎ、業界の権力者である彼が帰国すると、世間はある噂で持ち切りとなった。彼が一人の有能な女性弁護士に執着しているというのだ。美貌と知性を兼ね備え、多くの男を虜にする彼女を彼は強引に追い詰める。しかし、彼女は指先で彼の胸を制し、「私には夫がおりますから」と冷ややかに告げた。絶句する彼をよそに、離婚が成立した後、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。「私の元夫の名前を知りたい?奇遇ね、あなたと同じ名前なのよ」と。かつての無関心が執着へと変わり、皮肉な再会が二人の関係を泥沼の愛憎劇へと塗り替えていく。