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叔父様、その愛は罪ですか? の小説カバー

叔父様、その愛は罪ですか?

孤児だった十歳の頃、名家に養子として迎えられた彼女。孤独な暮らしの中で唯一の救いだったのは、義理の叔父の存在だった。しかし彼はある日、彼女を置き去りにして海外へと発ってしまう。七年の歳月が流れ、葬儀の場で再会を果たした二人は、叔父と姪という表向きの顔を保ちながら、密かに禁断の愛を育むようになった。世間では遊び人を卒業し、政略結婚を控えた「愛妻家」と評される彼だが、その裏にある奔放で冷酷な素顔を知っているのは彼女だけだった。彼の情熱に溺れ、いつしか本気で彼を愛してしまった彼女は、涙ながらに結婚を望む。だが、彼は冷たく突き放し、「君と結婚することはない」と言い放つのだった。絶望した彼女は別の男性との婚約を決め、街中にその報せが広まる。迎えた結婚式当日、かつての余裕を失い、彼女の前に跪いたのは彼だった。必死な形相で「行かないでくれ」と懇願する彼の真意とは。名家の重苦しい空気の中で繰り広げられる、執着と背徳に満ちたロマンス。
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2

「見つかったら、私は……。谷川様なら監視カメラの映像を消去できるはずです、どうか……」 紀伊理紗は谷川智彦の袖をつかみ、泣きそうな声で懇願した。

「明日、見合いがある。時間がない」 智彦は理紗の手を振り払い、冷たい背中を向けた。

簡単なことのはずだった。だが、彼は手を貸さなかった。

理紗はその場に立ち尽くし、全身の血が凍るようだった。

中村先生の葬儀で智彦と密会していたことが明るみに出れば、自分は再起不能なほど落ちぶれてしまうだろう。

谷川家からは追い出される。

大学は退学処分。

卒業証書も手に入らず、就職もできない。長年の努力が、すべて水の泡となる。

人望の厚かった中村先生、その葬儀で義理の叔父である智彦を誘惑したとなれば、 万死に値する罪だ。

悪評が立てば、鳴海市に自分の居場所はなくなるだろう。

これほど広い世界で、一体どこへ行けばいいというのか。

理紗は壁に沿ってずるずると座り込み、口を手で覆い、声を殺して泣いた。

翌日、理紗は大学へは行かず、家で生きた心地がしないまま、頭上に吊るされた剣がいつ落ちてくるかと怯えていた。

昼食後、間もなくして智彦が帰ってきた。

「杉山汐里さんとのお見合いはどうでした?」と、義姉の谷川美桜が彼を迎えた。

智彦は眉を軽く上げ、機嫌が良さそうに答えた。「とても気が合いましたよ」

美桜はほっと息をついた。「それは良かった。すぐに杉山夫人に電話して、あなたたちの結婚について相談します」

智彦は玄関の靴に目をやった。「理紗は家に?」

美桜は電話をかけながら言った。「お腹が痛いと言って、今日は学校を休んでいます」

智彦は上着を脱いだ。「様子を見てきます」

「理紗ももう大人です。叔父と姪とはいえ、立場をわきまえるべきですよ」

智彦は階段の途中で立ち止まり、軽く笑った。「あの子は俺が小さい頃から見てきましたから」

「それもそうね」美桜は頷き、そして満足げに続けた。「理紗は誰よりも規律正しい子です。一線を越えるようなことは決してしません」

二階の寝室。

「生理か?」 ピンク色の布団の小さな膨らみに向かって、智彦は声をかけた。彼は布団の中に手を差し入れ、彼女のしなやかな体の曲線に沿って下へと滑らせる。

「叔父さん」 理紗は悲鳴に近い声をあげ、慌ててその不躾な手を捕まえようとした。

「顔色が悪いな」 智彦は、理紗の額にかかった乱れ髪を耳の後ろへとかき分けた。

理紗は彼の手から逃れるように顔を背けた。

智彦は彼女を自分の膝の上へと引き寄せ、下腹部をさすった。「何度かすれば、生理痛も軽くなるらしいぞ」

全身に電流が走ったかのように、理紗は震えた。

何度かする。

彼が自分を手放す気がないことを、 理紗は悟った。

智彦はわざと監視カメラの映像が見つかるように仕向けたのだ。そうすれば、自分は谷川家を追い出され、大学を退学になり、行き場を失う。彼に屈し、飼われるしかなくなる。

理紗は声もなく泣いた。「谷川様、お願いです……せめて、卒業までは……」

智彦は理紗ごと布団に潜り込んだ。布団の中は、たちまち熱っぽく、甘い空気に満たされ、彼は彼女が何を言っているのかまるで聞いていなかった。

不意に、彼は眉をひそめた。「生理じゃないな」

理紗はこくりと頷いた。

智彦は深く息を吸い、その手で悪戯を始めた。「嘘つきめ……」

理紗の頭の中は混乱していた。

智彦に逆らうことも、拒むこともできない。

身じろぎ一つもできない。

智彦は手慣れた様子で下着のホックを外し、一枚、また一枚と衣服を剥いでいく。その瞳に宿る欲望の色は、次第に濃くなっていった。

布団の下で、彼の手は理紗のすべてを確かめるように動き回り、呼吸はますます荒くなる。

理紗は体を縮こませた。顔が熱い。男の濃密な気配に包まれ、 理紗の理性が溶けていく。

彼の愛撫に、全身が汗ばんだ。

欲望が、爆ぜる寸前だった。

コン、コン、コン――。

「どうしてドアを閉めているのです? 智彦さん、お話があります」美桜の声がドアの外から響いた。

理紗は魂が抜けたようにベッドから飛び起き、慌てて服をつかもうとする。

智彦は彼女をベッドに引き戻し、布団でその体を包み込んだ。

彼は立ち上がってドアへ向かった。

ドアが開くと、そこにいたのは微笑みを浮かべた智彦だった。その表情はすっかり落ち着き払っている。「義姉さん、何か御用ですか?」

彼の顔には先ほどまでの情欲の痕跡は微塵もなく、 まるで別人のようだった。

「中村家の方が言うには、監視カメラの映像は手に入ったものの、距離が遠くて男女の顔がはっきりしないそうです。あなたの下には、最高の技術チームがいますね。映像の解像度を上げてもらえないかしら」 美桜が言った。

智彦は袖口を整えながら答えた。「簡単なことですよ」

理紗は眉をひそめた。

断ることもできたはずなのに。

美桜は安堵のため息をつくと、理紗に視線を向けた。「あの日、理紗が奥のホールから戻ってくるのを見ました。汐辺テラスに誰かいるのを見かけましたか?」

あの日、中村先生の葬儀でのこと。

すべてがあまりに突然だった。

汐辺テラスで、二人は上半身の服は着たまま、下半身は隙間なく重なり合っていた。遠目には、ただ寄り添っているようにしか見えなかっただろう。

激情の最中だった。

湖を挟んだ向こう岸で、誰かがこちらに手を振っているのが見えた。

極限の状況で、すべてが解放された。

そして、前田夫人が近づいてきて、智彦に挨拶をした。

理紗はスカートの裾を引き下ろすのが精一杯だった。

顔は紅潮し、目は動揺に揺れていた。

顔を上げると、智彦はすでに背を向け、ポケットに両手を突っ込んで涼しい顔で立っていた。その身なりは、寸分の乱れもない。

瞳からはとっくに情欲の色が消え失せていた。

まるで、さきほど欲に溺れていたのは自分だけだったかのようだ。

思い出にふけっていた理紗は、我に返った。​​視線を上げ、美桜の目とぶつかった。慌てて首を横に振った。「い……いませんでした」

美桜は頷いた。「いないなら結構です。あなたは良家のご令嬢なのですから、あのような汚らわしい話は耳に入れるのも、目にするのもいけません」

理紗は罪悪感に苛まれ、うつむいた。

美桜が尋ねた。「一週間以内に結果は出ますか?」

智彦は落ち着いた口調で答えた。「長くとも五日です」

理紗ははっと顔を上げた。目の縁が赤くなっている。

(谷川智彦は一体どういうつもりなのだろう)

二人の不貞を天下に知らしめたいとでもいうのか。

それもそうか。この不貞が露見すれば、世間は間違いなく自分が意図的に誘惑したと決めつけるだろう。何しろ、谷川グループの御曹司が女に困るはずがないのだから。

理紗の目に涙が滲んだ。

「早ければ早いほどいいです。一体どこの恥知らずな女か、この目で見てやりたいものです」美桜は歯ぎしりをした。

彼女は、色香で男を惑わす女を心の底から軽蔑していた。

美桜は理紗の方を向いて言った。「理紗、叔父様がいらっしゃるのに、布団に潜っているなんてはしたない。早く起きなさい」

理紗に起き上がることなどできるはずがなかった。

布団の下は、裸なのだ。

「どうしたの?熱でもあるの?」美桜は理紗の顔が真っ赤なことに気づき、その額に手を伸ばした。「どうしてこんなに汗をかいているの」

理紗は俯いたまま、心臓が喉から飛び出しそうだった。

熱などない。智彦のせいでかいた汗だ。

智彦はポケットに両手を突っ込み、まるで他人事といった表情で言った。「理紗は生理なんですよ。長谷川に生姜湯でも作らせてください」

「生理なら私に言えばいいものを、叔父様に言うなんて、はしたない」美桜は咎めるように言った。

智彦の口元に、意味ありげな笑みが浮かんだ。「俺に甘えているんですよ」

理紗の神経は切れそうだった。智彦は、自分をいたぶるこの状況を心から楽しんでいるようだった。

美桜は手を引っ込め、微笑んだ。「叔父さんと姪が仲睦まじいのは良いことです。杉山汐里さんがお嫁に来たら、理紗も彼女と仲良くしてちょうだいね」

智彦は眉を上げた。肯定のしるしだ。

布団の下で、理紗は指の関節が白くなるほど、シーツを強く握りしめた。

美桜は智彦と連れ立って部屋を出て行く。「汐里さんへの贈り物をいくつか選びに行きましょう。次に会う時に渡せるように」

一週間の猶予を得て、理紗は大学に戻った。

そんなある日、美桜から電話がかかってきた。「理紗、すぐに戻ってきなさい」

理紗の心臓が、どきどきと音を立てた。来るべき時が、来てしまった。

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