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炎に消えた家族、残されたのは叔父の腕だけ の小説カバー

炎に消えた家族、残されたのは叔父の腕だけ

将来を占う誕生日の儀式。邸宅に並ぶ金銀財宝には目もくれず、幼い少女がその手を伸ばしたのは、父の親友である「叔父」だった。周囲は微笑ましい光景に、叔父は一生彼女の面倒を見る運命になったと囃し立てる。しかし、幸せな時間は一転、凄惨な炎が一族を襲った。火の海に消えた家族の中で生き残ったのは、長兄と妹の二人だけ。財産を狙う親戚たちが飢えた狼のように群がる中、叔父は自らの手で二人を救い出す。彼は片方の手で兄を国外へと逃がし、もう片方の手で幼い彼女を抱き寄せ、その後の人生を捧げて育て上げた。あの日、彼を選んだ瞬間から、彼女の世界には叔父という存在だけが唯一の光として刻まれることになる。過酷な運命に翻弄されながらも、二人の絆は血縁を超えた深い執着と愛情へと変貌していく。燃え盛る炎の中で失われた過去と、残された叔父の腕の中で育まれる現在。家族を失った孤独な少女にとって、彼は救世主であり、世界のすべてとなった。ミステリアスな過去を背負いながら、歪で純粋な愛の物語が幕を開ける。
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名家である夏家が、愛娘・夏語棠の一歳の誕生祝いに行った「選び取りの儀式」でのこと。

無数の金銀財宝が並べられる中、

彼女は黄金や宝玉には目もくれず、父の年の離れた友人である江逾白の手を掴んだ。

周囲の大人たちは「それなら、この叔父さんが一生面倒を見てやらないとな」と笑って囃し立てたものだ。

後に、夏家はすべてを焼き尽くす大火に見舞われ、一家は炎に呑まれた。

ただ、長男の夏知曜と幼い娘の語棠だけが残された。

一族の者たちは、二人の子供を食い物にしてやろうと、虎視眈々と狙っていた。

そんな中、江逾白は夏知曜を修行のために海外へ送り出し、語棠は自身の手元に引き取って養育した。

あの日から。

夏語棠の世界には、江逾白という「叔父さん」ただ一人だけが存在するようになった。

1.

都大路のプラタナスの葉が、秋風に舞い上げられる。

夏語棠はスマートフォンの画面に映る兄、夏知曜の顔を見つめながら、胸の奥からこみ上げる切なさを感じていた。

ビデオ通話の向こうの兄は、オーダーメイドの高級スーツを身に着けている。その瞳に浮かぶ憂いは、十年前、空港で目を赤くして旅立っていった時のものと寸分違わなかった。

「語棠、来月のフライトはアシスタントに手配させた」

「君が気に入っていたあの別荘も、リノベーションさせてある。以前、君が話していたフレンチスタイルにしたから、きっと気に入るはずだ」

夏語棠は無理に笑おうと口角を引きつらせたが、うまくいかない。

「お兄ちゃん、そんなに気を遣わなくていいのに」

「何を水臭いことを言うんだ」夏知曜は眉をひそめた。「この数年、君が国内でどれだけ辛い思いをしてきたか。もう十分だろう。 夏家の事業も、今や欧米で完全に軌道に乗った。君が芸術系の大学に行きたいと言っても、世界一周旅行がしたいと言っても、兄さんがすべて叶えてやる」

彼は少し間を置いてから、口調を和らげた。「子供の頃、フランスで音楽会を聴きたいって、よく言っていただろう?覚えているか?」

もちろん覚えている。

まだ八歳だった彼女は、江逾白の膝に乗り、ヨーロッパの音楽祭のドキュメンタリーを見ていた。そして画面を指さし、いつか必ず生で聴きたいと言ったのだ。

江逾白はそれを聞くと、彼女の髪を優しく撫で、穏やかな声で言った。「語棠が大きくなったら、叔父さんが連れて行ってあげよう」

周りの人々は皆、江逾白が彼女を天にも昇るほど可愛がっていると言った。

星をねだれば、月さえもついでに摘んで与えるだろう、と。

過去が蘇り、

心臓を何かに鷲掴みにされたような痛みが走る。

夏語棠は、涙がこぼれて兄に心配をかけまいと、慌てて俯いた。

「覚えてる」 声がくぐもった。

画面の向こうの夏知曜が、数秒間黙り込み、言葉を選んでいるのがわかった。

「語棠」彼はついに意を決したように切り出した。その声には、慎重な探りを入れるような響きがあった。「君と、叔父さんのことだが……。 君がこの数年、辛い思いをしていたのは知っている」

夏語棠は反射的に拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込み、無数の痛みが走る。

兄がどれほどやるせなく、心を痛めているか、想像に難くない。

あの日の大火は、夏家の屋敷だけでなく、彼女の憂いのないはずだった子供時代をも焼き尽くした。

全身傷だらけの彼女を抱いて火の海から救い出してくれたのも、一族の圧力に屈せず兄と彼女の相続権を守り抜いてくれたのも、そして、手ずから書物や文字を教えてくれたのも、すべて江逾白だった。

だが、その感謝の念は、いつからか密かに変質していた。

十五歳で熱を出したあの夜、徹夜で看病してくれた彼の温かい手首に、偶然触れてしまった時だろうか。

それとも、十八歳の誕生日に贈られたチェロを手に、彼が「語棠の音色は、いつか世界中に届く」と言ってくれた時だろうか。

もう、忘れてしまった。

恋心がいつ芽生えたのかは分からない。ただ、気づいた時には、どうしようもなく深く惹かれていた。

「お兄ちゃん」夏語棠は深く息を吸い、平静を装って言った。「言いたいことは分かってる」

「叔父さんが俺たち兄妹にしてくれた御恩は、一生忘れない」 夏知曜の声が重くなる。「だが、感情は別だ。恩返しのために無理をする必要はない。 彼は君を姪として、保護すべき子供として見ている。君は……」

「無理なんかじゃない!」 夏語棠は狼狽し、思わず声を荒げた。だが、すぐに自分の失態に気づき、慌てて声を潜める。「……分かってる、お兄ちゃん」

「ここを出ていくことは、私から直接、叔父さんに話す」

窓の外で舞い落ちるプラタナスの葉を眺めていると、不意に目の奥が熱くなった。彼女は鼻をすすり、スマートフォンの画面に向かって笑顔を作る。「お兄ちゃん、約束する。来月、必ずそっちへ行く。 その時は……ニューヨークで一番美味しいステーキ、ご馳走してくれなきゃ嫌だからね」

「ああ、もちろんだ」夏知曜もようやく笑みを返した。「君が食べたいだけ、いくらでも注文してやる」

ビデオ通話を終えると、部屋は静寂に包まれた。

夏語棠はゆっくりとうずくまり、膝の間に顔を埋めた。こらえていた涙が、堰を切ったように溢れ出す。

兄が自分のために言ってくれていることも、江逾白への想いが、恩義を愛情と錯覚しているだけかもしれないことも分かっている。それでも、恋心は蔓草のように狂おしく育ち続け、

気づけば彼女を窒息させようとしていた。

彼女はそっと自分の唇に触れる。つい昨夜、彼女はまるで他人の幸福を盗み出す泥棒のように、

禁断のときめきを味わってしまったばかりだった。

一ヶ月後にここを去ること。それが本当に最善の選択なのだろうか。

夏語棠には分からなかった。

ただ、叔父さんのそばから離れることを想像するだけで、心臓の一部をえぐり取られたかのように、激しく痛むことだけは確かだった。

階下で玄関のドアが開く音がした。夏語棠は慌てて涙を拭い、傍らに用意してあったコーヒーを手に取ると、階段を駆け下りた。

そして、その光景を目にした瞬間、夏語棠は雷に打たれたかのように、その場に凍りついた。

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