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白い狼の身籠った番、再起の刻印 の小説カバー

白い狼の身籠った番、再起の刻印

不妊に苦しんだ二年間を経て、ようやく黒石一族の跡継ぎを授かった私。この命は、アルファの番としての地位を盤石にする希望の光のはずだった。しかし、喜びも束の間、親友から届いた念話が私を絶望の淵へ突き落とす。そこには、運命の番である涼真が別の女と睦み合う姿が映っていた。問い詰める私に、彼は重圧による「ストレス発散」だと吐き捨てたが、真実はさらに残酷だった。涼真の母と愛人・聖奈の密談を盗み聞きした私は、聖奈が既に妊娠六ヶ月であり、彼女の子こそが真の後継者として望まれていることを知る。十五年間の献身も、私が築いたビジネスの功績も、彼らにとっては無価値な「空っぽの器」に過ぎなかったのだ。一族の駒として使い捨てられる運命を悟った私は、満月の祝祭で従順に妊娠を告げる代わりに、決別の道を選ぶ。壇上で涼真に離別の言葉を突きつけ、私はかつて拒んだ男・戒に連絡を入れた。すべてを焼き尽くし、再起するための復讐劇が今、幕を開ける。
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癒し手から、ついに妊娠したと告げられた。

二年にも及ぶ絶望の末、私は黒石一族の跡継ぎをその身に宿したのだ。

この子は、私たちの未来を繋ぐ鍵となるはずだった。

アルファのルナとしての私の地位を、確固たるものにするはずだった。

だが、歓喜に浸る間もなく、親友からの念話が私の世界を粉々に砕いた。

そこには、私の運命の相手である涼真が、他の女を壁に押し付け、その唇を貪るように塞いでいる映像が映し出されていた。

問い詰めると、彼は「ストレス発散だ」と一蹴した。

跡継ぎを求めるプレッシャーのせいだと、そう言った。

だが、本当の致命的な一撃は、彼の母親と愛人、聖奈の会話を盗み聞きしてしまったことだった。

彼女は妊娠六ヶ月で、彼らが言うところの「真の黒石の血を引く者」を宿していると。

運命の相手である私は、ただの「空っぽの器」でしかなかった。

十五年間の愛と忠誠は、すべて無に帰した。

私が一族のために築き上げたビジネス帝国も、ただの道具。

私が慈しんでいた奇跡の子も、彼らにとっては無価値。

私はただ、脆弱な血筋を持つ政略的な駒で、いつでも取り替えられる存在だったのだ。

その夜、満月の祝祭で、私は妊娠を公表し、彼らの許しを請うはずだった。

代わりに、私はステージに上がった。

涼真の目をまっすぐに見つめた。

そして、古の離別の言葉を紡いだ。

それから、私はすべてを焼き尽くすための協力者、ただ一人の男に、プライベートチャンネルを開いた。

「戒」私は念話を送った。「あなたの計画に乗るわ」

第1章

凛 POV:

癒し手の部屋は、乾燥した薬草と消毒液の匂いに満ちていた。

いつもなら心を落ち着かせてくれるその香りが、今日に限っては、狂ったように鳴り響く私の心臓の鼓動を少しも和らげてはくれなかった。

「月の女神がお前を祝福された、凛よ」

老いた志乃は、乾いた木の葉が擦れるような優しい声で言った。

彼女は古びた羊皮紙の巻物を巻き上げると、その皺だらけの指は驚くほど安定していた。

「だが…これは尋常ではない。お前の血筋は…古く、そして強力だ。今は眠っているがな。この子が、お前の内なる何かを深く揺り動かした」

彼女は言葉を切り、その瞳が曇った。

「気をつけなさい。大いなる力は、大いなる災いを引き寄せる」

そして、彼女の表情が和らいだ。

「おめでとう。子を宿している」

その言葉は、物理的な衝撃となって私を襲った。

純粋で、混じり気のない歓喜の波が、私の膝を震わせた。

子供。私たちの子供。涼真と、私の。

一族の長老たちからの囁きや、私自身の静かな恐怖に二年もの間苛まれてきたけれど、ついに、その時が来たのだ。

お腹の奥から温かいものが広がり、内に宿る新しい命との原始的な繋がりを感じた。

これで全てがうまくいく。

これで私たちの絆は固まり、疑いの声を黙らせ、黒石一族のアルファとルナとしての未来が確固たるものになる。

私は診断書の巻物を胸に抱きしめ、心はすでに間近に迫った満月の祝祭へと飛んでいた。

あそこで、一族全員の前で発表するのだ。

そうなれば、もう誰も私たちの結びつきを疑うことはできない。

突然、こめかみに鋭い痛みが走った。

私自身の痛みではない。

それは、狂おしく、望まない念話だった。

念話は、一族のメンバー全員が共有する繋がりであり、思考や感情を静かに伝え合う手段だ。

それは本来、団結の源であり、私たち全員を繋ぐ網のはずだった。

だが時として、それは呪いとなる。

『凛、大丈夫?』

親友の千佳だった。

彼女の精神的な声には、パニックが滲んでいた。

私が返事をする前に、映像が心になだれ込んできた。

望んでもいない、残酷な映像が。

それは薄暗いバーの光景だった。

私たち一族が商談でよく使う店だ。

そしてそこに、私の運命の相手であり、一族のベータである涼真がいた。

彼は女を壁に押し付け、その黒髪に手を絡ませ、唇を貪るように塞いでいた。

その女は…私を安っぽく、派手にしたような見た目だった。

息が詰まった。

さっきまでの喜びが、冷たく重い石となって胃の中に沈んでいく。

『千佳、どこでそれを見てるの?』

私は、短く鋭い思考で返した。

『ここにいるの。「ハウリング・ハウンド」よ。凛、これを見るべきよ。彼は…』

『それ、私よ』

私は嘘をついた。

その言葉は、心の中で灰のような味がした。

嘘は自動的に口をついて出た。

涼真の評判を守り、一族の安定を自分の感情よりも優先させることで、長年磨き上げられた反射神経だった。

『ただのゲームよ、千佳。心配しないで』

彼女が返事をする前に、私はリンクを切った。

頭の中の静寂が、突然耳をつんざくようだった。

ゲーム。

なんて哀れな言い訳だろう。

私の心は過去へと遡り、痛みを伴う記憶のコラージュが浮かび上がった。

十代の頃の涼真と私。

筋肉が悲鳴を上げ、足が泥だらけになるまで一緒に訓練した。

人間社会の服を着て、役員会議室で、黒石一族のビジネス帝国を拡大するために死に物狂いで戦った。

十五年間の共有された歴史。

汗と血と、月の下で囁き合った夢。

すべては、このためだったというのか?

私は車で家に帰った。

助手席に置かれた巻物が、私を嘲笑っているように感じた。

私が家に着くと、彼はすでにリビングを歩き回っていた。

白檀と私のラベンダーの香りが混じる我が家の匂いは、私が知らない安っぽく甘ったるい香水で汚されていた。

「どこにいたんだ?」

彼は張り詰めた声で尋ねた。

「あなたこそ、どこにいたの、涼真?」

彼は髪をかき上げた。

「バーにいた。白川一族の連中が、うちのクライアントを引き抜こうとしてたんだ。それで、少し熱くなってな」

「熱くなった?」

私は、危険なほど静かな声で尋ねた。

彼は気まずそうに目を逸らした。

「なあ、長老たちが何ヶ月も俺の背中を突ついてるんだ。俺たちのこと、跡継ぎがいないことについて。そのプレッシャーで…アルファの本能が時々暴走することがあるんだ。ただのストレス発散だった」

アルファの本能。

彼はまだアルファですらなく、ただのベータだ。

未来の地位を、現在の不貞の言い訳に使っている。

痛みは物理的なもので、胸を押し潰す重圧だった。

しかし、その時、子宮にかすかな、羽ばたくような温かさを感じた。

この子のために。

この子のために、強くならなければ。

私は深呼吸をして、彼とあの女の映像を心から追い出した。

「プレッシャーは理解してるわ、涼真」

彼の顔に安堵の色が浮かんだ。

彼は自分が許されたと思ったのだ。

「来週は満月の祝祭よ」

私は落ち着いた声で言った。

「発表したいことがあるの。全ての問題を解決する、大切なことを」

彼は微笑んだ。

かつて私の胸をときめかせた、輝かしく魅力的な笑顔。

今、それは私を冷たくさせるだけだった。

その夜、窓辺に立って月が昇るのを見ていると、一羽の黒いカラスが窓枠に止まった。

その静けさは不自然で、瞳は黒曜石のかけらのようだった。

足には、小さく丸められた羊皮紙が結びつけられていた。

私は震える手でそれを解いた。

紙には、我々の最大のライバルである紅月一族の紋章が刻印されていた。

その下には、優雅で嘲るような筆跡で、一行だけ書かれていた。

「お前の未来の伴侶は、俺の女と寝ている。出てこい。話がある」

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