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炎が暴いた裏切りの真実 の小説カバー

炎が暴いた裏切りの真実

パティシエの片桐沙耶香は、燃え盛る厨房の中で絶望の淵に立たされた。婚約者の勇斗が救い出したのは、倒れている自分ではなく、煙にむせる義妹の奈々香だったのだ。炎が肌を焼き尽くす痛み以上に、愛する人の背中が遠ざかる光景は沙耶香の心を凍りつかせた。命からがら帰宅した彼女を待ち受けていたのは、沙耶香が心血を注いで開発した新作チョコレートを食い散らかし、睦まじく眠る二人の姿という残酷な裏切りだった。「奈々香はまだ子供なんだ」と繰り返しては義妹を盲目的に庇い続ける勇斗。彼の不実と、か弱さを装う奈々香の偽善を目の当たりにし、沙耶香の中で何かが決壊する。そして迎えた勇斗の新店オープニングパーティー当日、彼女は復讐の仕掛けを施し、一人パリ行きの機上へと向かった。会場のスクリーンに、あの日の真実を暴くビデオメッセージが流れ始めるのを確信しながら。信じていた愛と夢を奪われた女の、静かなる反撃が幕を開ける。
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片桐沙耶香

燃え盛る厨房の中, 婚約者の勇斗は私ではなく, 煙にむせた義妹の奈々香を抱きかかえ走り去った.

私はパティシエとして致命的な火傷を負い, やっとの思いで家に帰ると, そこには私が開発した新作チョコレートを食べ散らかし, 抱き合って眠る二人の姿があった.

「奈々香はまだ子供なんだ! 」彼はそう言って, 常に義妹を庇った.

彼の裏切りと彼女の偽善に, 私の心は凍りついた.

彼の店のオープニングパーティー当日. 私は復讐のため, パリ行きの飛行機に乗った. 会場のスクリーンに, 私のビデオメッセージが流れるまでは.

彼が私ではなく, 煙にむせた義妹を抱きかかえ, 燃え盛る厨房から走り去るのを, 私は床に倒れて見ていた. 熱い炎が私の肌を焼くよりも, 彼の背中が, 私の心を凍えさせた.

第1章

閃光が走った. 耳をつんざくような爆発音. 熱波が私の顔を焼いた. コンクール用の新作を仕上げていた私の視界は, 瞬く間にオレンジ色に染まった. 炎が, 私の夢と, 私の全てを食い尽くそうとしていた. 私は本能的に顔を覆い, しゃがみ込んだ. 煙が喉にへばりつき, 呼吸が苦しい.

「勇斗! 」

私は声の限り叫んだ. 厨房の扉が勢いよく開き, 駆け込んできたのは婚約者の佐藤勇斗だった. 彼の目は私を探しているようだった. 私は希望に満ちた目で彼を見た. しかし, 彼の視線は私の隣, 煙を少し吸って咳き込む奈々香に釘付けになった. 彼は迷いなく奈々香に駆け寄る. 奈々香は勇斗の腕の中で, か細い声で彼の名を呼んだ.

「大丈夫か, 奈々香! しっかりしろ! 」

勇斗の声は焦燥と愛情に満ちていた. 彼は奈々香を抱きかかえ, 厨房から脱出する. 私を, その場に置き去りにして. 私の心臓は, まるで, 見えない手に強く握り潰されるかのように, 息ができなかった. 炎の熱よりも, 彼の裏切りが, 私の意識を遠ざけていった. 彼は私を助けに来たわけではない. 奈々香のためだった. 理解した瞬間, 全身から血の気が引いた.

「沙耶香さん! 沙耶香さん! 」

朦朧とする意識の中, 誰かの声が聞こえた. 店のベテラン職人である田中さんが私に駆け寄ってきた. 彼は私の腕を掴み, 力強く引き起こす. 「しっかりしてください! 外に出ましょう! 」田中さんの声は, 私を現実へと引き戻した. 私は彼の助けを借りて, 燃え盛る厨房から這い出した. 外に出ると, 救急車のサイレンが鳴り響き, 消防車が水を放っていた. 勇斗は, 奈々香を抱きながら, 私の方を一瞥することもなく, 救急隊員に奈々香の状態を必死に説明していた.

病院の白い天井を見上げていた. 全身の痛みよりも, 心の痛みが支配的だった. 右腕の火傷は深かった. 医者は, 「パティシエとしては致命的かもしれない」と冷酷に告げた. その言葉は, 私の心を深く抉った. 私の人生そのものだった. 勇斗との結婚, 勇斗の店の看板パティシエとしての未来. 全てが, あの炎と, 彼の背中と共に燃え尽きた気がした.

「勇斗... 」

私は虚ろな声で呟いた. 彼が一度でも私の方を見てくれたら, 違ったのだろうか. あの絶望的な状況で, 私を置き去りにした彼の行動が, 私の心に深く刻まれた. 私はもう, 彼を信じられない. 私を置き去りにした彼の背中が, 脳裏に焼き付いて離れない.

私は携帯を取り出し, SNSアプリを開いた. 勇斗とのツーショット写真, 彼が私に贈ってくれた指輪の写真, そして, 結婚式の準備の投稿. 全てを削除した. 指先が震える. 痛みよりも, 決意が私を突き動かした. 婚約指輪も, 彼にもらったプレゼントも, 全てゴミ箱に捨てた.

数日後, 私は勇斗にメールを送った. 「婚約は解消します. 結婚式の準備も全て中断してください. 」簡潔な文面だったが, 私の心中は嵐だった. 涙は出なかった. もう, 涙も枯れ果てたようだ. 勇斗からの返信はすぐに来た. 「沙耶香, どうしたんだ? 一体何があったんだ? ゆっくり話そう. 」彼の言葉は, まるで氷水のように, 頭からつま先まで私を凍えさせた.

医者の診断書を手に, 一人で病院の受付に向かった. 退院手続きを済ませる. 誰も迎えには来てくれない. 勇斗は一度も病室に顔を出さなかった. 「奈々香がまだショックを受けていて, 看病で忙しい」と, 彼からのメッセージがあっただけだった. そのメッセージを読んだ時, 私は感情すら湧かなかった. ただ, 虚しく, 彼のスマホのメッセージ画面を見つめるだけだった.

タクシーに乗って, 私と勇斗が暮らしていた家へと向かう. そこは, いずれ新婚の家となり, パティスリー・サトウの新店舗となるはずだった場所だ. タクシーの窓から流れる景色を眺めながら, 私は過去を振り返っていた. 勇斗との出会い. 彼が私に熱烈に求愛してきた日々. 彼の店を, 私のレシピで立て直そうと, 二人で夢を語り合った夜.

「沙耶香の作るお菓子は, 食べた人を幸せにする. 俺の店には, 沙耶香の才能が必要なんだ. 」

そう言ってくれた彼の言葉は, 偽りだったのだろうか. 彼は私に, 一生大切にすると誓ってくれた. 私の才能を, 誰よりも理解し, 応援すると言ってくれた. それなのに, 今の彼は, 私を顧みることすらしない. 私の火傷の心配も, 私の心の痛みも, 全て奈々香という存在の影に隠されてしまった.

全身の火傷がじくじくと痛む. 痛みは, 私の心に深く刻まれた傷と共鳴しているようだった. この痛みが, 私を正気に戻す最後の手段なのかもしれない. 私は, この痛みと共に, 全てを断ち切るのだと心に誓った. タクシーは, 見慣れた, しかし今はもう, 私にとって他人の家のように感じる場所へと到着した. 車を降り, 鍵を取り出す. 私の手は, 微かに震えていた.

ドアを開けた瞬間, 私の息が止まった. リビングは, 以前とは全く違う空間になっていた. 私の趣味で作ったアンティーク調の家具は消え, 代わりに, 奈々香好みのポップでカラフルなインテリアが所狭しと並んでいる. 私の大切なコレクションだった洋菓子作りの本が置かれていた棚には, 奈々香の雑誌が乱雑に積み上げられていた.

「これは, 一体... 」

声が震えた. 胸の奥から, 怒りがじわりと込み上げてくる. 勇斗は, 私に一言の相談もなく, 奈々香の趣味で家を改装したのか. 私のものだったはずの空間が, 奈々香によって侵食されている. 私の心は, まるで, 見えない手に強く握り潰されるかのように, 息ができなかった.

奥のリビングから, 微かに寝息が聞こえる. 私はゆっくりと, 忍び足でリビングへと向かった. 目にした光景は, 地獄だった. 勇斗と奈々香が, リビングのソファで抱き合って眠っていた. 奈々香の服は乱れ, 勇斗のシャツははだけている. 二人の間には, 使い捨てのチョコレートの包み紙が散らばっていた. それは, 私がコンクール用に開発した新作のチョコレートだった.

勇斗は, 私を放っておいて, 奈々香とここで... . 私の全身が, 冷たい氷で覆われたかのように凍りついた. 怒り, 絶望, 屈辱. あらゆる感情が, 私の心を激しく揺さぶる. 私の手は, 震えて, どうしようもない.

奈々香の衣服や化粧品が, テーブルの上に散乱している. 私の私物だったワイングラスの隣には, 奈々香の使いかけのリップグロスが転がっていた. この家は, 私と勇斗の思い出の場所だったはずなのに. もう, そこには私の居場所はなかった. 私の心臓は, まるで, 見えない手に強く握り潰されるかのように, 息ができなかった.

「勇斗... 奈々香... 」

私は震える声で呟いた. なぜ, こんなことに. 私の築き上げた全てが, 一瞬にして崩れ去る. 痛む火傷よりも, 目の前の光景が, 私の心を深く焼いた.

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