
最強奥様、裏も表も顔を持つ
章 3
森田雫怜が誘拐された場所に駆けつけた安藤優真と森田家の三兄弟は、まずは雫怜を宥めるように言葉をかけた。ところがその直後、目の前に現れたのは――両手を縛られた状態で、なんとテロ組織の一団を制圧した森田柊音の姿だった。
……これは、冗談か?
そんな馬鹿な話があるか!
そもそも両手を縛られていようが、いまが全盛期だろうが、森田柊音は森田柊音でしかない。荷物ひとつ持てず、腕力も皆無で、格闘術の師範さえも「この役立たずが!」と怒鳴るほどのポンコツだったのだ。そんな彼女が――
銃弾をかいくぐって生き延びてきた、歴戦の誘拐犯たちと互角に渡り合っただって?
そんなの、夢の中の出来事じゃないと説明がつかない!
だからこそ、たったひとつの可能性が浮かび上がる。
――あの連中は本物の誘拐犯なんかじゃない。すべては森田柊音が金を積んで集めた、茶番劇の共演者どもに違いない! この女、またしても昔のように、自分の気を引くためだけに――こんな馬鹿げた芝居を打ったのだ!
だが、よりにもよって雫怜まで巻き込むなんて――なんて無茶を……!
そう思った瞬間、安藤優真の眉間に浮かぶ青筋がぴくりと跳ねた。
怒りという名の感情が、全身を一気に支配していく。
そして、ほとんど噛み殺すような声音で、森田柊音の名を叫んだ。
「いいだろう……いいだろう!全部お前の仕業だったんだな、森田柊音!この一連の誘拐事件も、すべてお前が仕組んだってわけだ!――柊音、俺はてっきり、お前がやっと過ちに気づいて悔い改めたと思ってた。もう少し罰を与えてから助け出すつもりだったが……まさか、まだそんなふざけた真似を繰り返してるとはな! そんなに俺のことが好きなのか? 好きすぎて……雫怜にまで手を出さずにはいられなかったってわけか!?」
雫怜は優真の胸に身を預け、小鳥のように身をすくめながら、信じられないという顔で声を震わせた。「そんな……お姉ちゃん、もう私のことそんなに憎んでたんだ……?でも、私、本当にお姉ちゃんと争いたくなんてなかったのに……もし、もしもそんなに私のことが嫌いなら、私、出ていくよ…… お姉ちゃんの邪魔をしてるのが私だって思うなら、私がこれまでやってきた研究成果、全部……お姉ちゃんに譲ってもいいから……」
「森田柊音!!」力のない囁きのような雫怜の言葉だったが、その一つ一つが鋭く、三人の兄たちの胸を突き刺した。
次に彼らが柊音を見たとき、その目には怒りと失望が燃えていた。まるで彼女を八つ裂きにでもしそうな勢いで。
「俺たち、どれだけ前世の業を積んだら、こんな邪悪な妹を持つ羽目になるんだよ……雫怜が本当の妹だったら、どれだけよかったか。お前なんて、森田家の最大の恥だ!」
立て続けに投げかけられる数々の言葉が、柊音の胸に、この二年間味わってきた屈辱のすべてを呼び覚ました。
おすすめの作品





