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発情コーチの、純情な剥き出し。 の小説カバー

発情コーチの、純情な剥き出し。

翻訳家の星野結衣は、人生の転機に帰郷し、お見合いでボクシングコーチの神崎蒼真と出会う。第一印象は軽薄で頼りない男だったが、彼は執拗に結衣へ猛烈なアプローチを仕掛けてくる。単なる女好きかと思いきや、その行動の裏には長年秘めてきた緻密な計画と忍耐が隠されていた。ある日、半裸で迫る彼を突き飛ばした結衣に対し、蒼真は「襲ってくれよ」と余裕の笑みを浮かべる。しかし、立場が逆転し結衣が彼を押し倒した時、遊び慣れているはずの彼の耳は真っ赤に染まっていた。精悍な顔の裏に隠された純情な本性が暴かれる、一途な大人のピュアラブストーリー。
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星野結衣は数秒呆然とし、ようやくそれが神崎蒼真だと気づいた。

彼女は手短に尋ねた。「何の用?」

向こうからは即座に返信が来た。「今日の見合い、メシは食わずに飲み物だけで、合計1000円かかった。縁がなかったってことで、割り勘にしよう」

たった1000円で割り勘って……。

本当に、呆れてものも言えない。

この蒼真という男、軽薄なだけならまだしも、まさかここまでドケチだったとは。

結衣は迷わず彼に500円の送金をした。

もう彼とは関わりたくなかった。

しかし蒼真はそれを受け取らず、またメッセージを返してきた。

「現金で頼む。明日の午前中、いつもの場所で待ってる」

結衣は思わず笑いそうになった。

ーーこの人、頭がおかしいんじゃないの?

勢いよく文字を打ち込んだ後、やはり良くないと思い直し、削除して書き直した。

「午前中は用事があるから、午後にして」

しばらくして、ようやく彼から冷たい一文字が送られてきた。

「ああ」

翌日の朝早く、結衣はまた仲人に連れられて見合いに行った。

午前中だけで、彼女は3人の男と見合いをした。

1人は町の正規雇用の数学教師。

もう1人は隣町の産婦人科医。

そしてもう1人は、事業をしている子持ちのバツイチ男。

どいつもこいつも、脂ぎった小太りのおじさんか、勘違いの自己過剰男ばかりだ。

まるで畑のニラのように、会うたびに質が落ちていくな。

結衣がこれで全部終わったと思った時、仲人は彼女を引っ張り、また次の見合い場所へと急いだ。

最後の見合い相手は、桐谷健太という25歳の年下の青年だった。

会うなりとても口がうまく、彼女の色白さや顔立ちをひたすら褒めちぎった。

だが、彼女は適当な理由をつけてやんわりと断った。

今の彼女は生活するだけでも精一杯で、恋愛にかまけている余裕などないのだ。

手っ取り早く済ませた後、健太はとても寛大で、にこにこしながら彼女に言った。

「お義姉さん、恋人になれなくても、友達になるのはありでしょ!」

結衣もあっさりと応じた。「いいわよ」

「そうだ、俺とダチでこれから隣町に用事があるんだけど、ちょうどお義姉さんの家の近くを通るんだ。車に乗ってきなよ、ついでに送っていくから!」

「それなら、ありがとう」 凍えるような寒さの中、タダで車に乗せてもらえるのは彼女にとってもありがたかった。

健太と一緒に外に出ると、道路脇に黒いSUVが停まっているのが見えた。

長身の男が車にもたれてうつむき加減でタバコを吸っており、全身を冷たい黒でまとったその姿は近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。

立ち上る煙の中で顔立ちが和らぎ、少しばかりの厳しさが薄れ、清らかな端正さが増していた。

足音を聞いて、男はわずかにまぶたを上げ、立ち上る煙越しに鋭い視線を射抜くように向けてきた。

その視線とぶつかった瞬間、結衣はハッとした。

なんと、あのドケチの蒼真だったのだ。

「蒼真さん、こちら星野結衣さん。俺の見合い相手」

健太は蒼真の前に歩み寄り、その肩に腕を回した。「どうせ道草だし、この綺麗なお義姉さんを家まで送ってあげようよ!」

蒼真は答えず、漫然とした視線を結衣に向けた。

今日の彼女も相変わらずすっぴんだったが、肌は透き通るように白く、まるで白磁のように目を引いた。

ベージュのコートを着て、髪をハーフアップにまとめ、額に数本のおくれ毛を垂らした姿は、上品でしとやかだった。

しかし、その美しい瞳の奥には相変わらず透き通った硬い氷が潜んでおり、それが彼女全体の雰囲気に、人の心にまで染み入るような冷たさを与えていた。

「よぉ」 蒼真はゆっくりと煙の輪を吐き出し、眉尻を上げた。「奇遇だな」

「奇遇ね」

「午前中は用事があるって、つまり……」蒼真は語尾を伸ばした。「また見合いに来てたってわけか?」

彼に良い印象を抱いていない結衣は、淡々と答えた。「仕方ないでしょ。いい年だし、親から急かされてるから」

蒼真はタバコをくわえたまま、笑っているのかいないのか分からない表情で、彼女をじっと見つめた。

「蒼真さん、二人は知り合いなの?」健太が好奇心の匂いを嗅ぎつけた。

「ああ」 蒼真はタバコをもみ消し、両手をポケットに突っ込んで、悪びれずに言った。「俺の見合い相手だ。昨日のな」

「早く言ってよ!」健太は野次馬根性丸出しで、ポンと手を打った。「なんだ、義姉さんってわけか!」

ーー類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。

さすがは蒼真の仲間、どいつもこいつも適当すぎる。

結衣はとっくに車に乗せてもらう気をなくしており、蒼真を見て言った。「神崎コーチ、車は遠慮しておくわ。用事があるから、お先に」

続いて、彼女はポケットからしわくちゃの現金を500円分取り出し、見せつけるようにボンネットに押し付けた。「あなたの分の割り勘、現金で返すわ」

数歩歩いたところで結衣はまた引き返し、さらに現金500円を取り出して置くと、冷ややかな笑みを浮かべて蒼真のほうに口角を上げた。

「私のおごりにしてあげる」

蒼真はボンネットの上の1000円を一瞥し、それから遠ざかる結衣の後ろ姿に目をやった。

その冷厳な口元に、気づかないほどの微かな弧が描かれた。

「蒼真さん、何かあるでしょ!」健太は面白がるように彼の腕をつついた。「あんたの性格じゃ、死んでも見合いなんて行かないはずだ!白状しろよ、あの星野結衣って一体何者なんだ?」

蒼真はボンネットの上の1000円をつまみ上げてまじまじと見つめ、その瞳の奥を深く沈ませた。「お前には分からん」

健太には確かに分からなかった。「いや蒼真さん、それにしてもあんた、普段は気前がいいのに!どうしてたった数百円を女に返させたりできるんだ? 一体何を考えてるんだ?」

蒼真は顔を上げ、再び結衣の去った方向へ視線を滑らせた。

「デートだ」

……

見合いに失敗すれば、間違いなく松本京子からの非難を浴びることになる。

だから、結衣は自ら家を出ることを決意した。

彼女がその考えを京子に伝えると、京子の顔はようやく晴れやかになった。

「結衣!引っ越すなら隣町にしなさい、この町の人たちは口うるさいからね!もしあんたが町内に住んだら、近所の人たちが私や叔父さんの陰口を叩くのは目に見えてるわ!」

結衣は彼女と言い争う気になれず、それを承諾した。

翌日、彼女はロングダウンコートを羽織って、隣町へ部屋探しに出発した。

今日は町の朝市の日で、バス停には買い物客でごった返していた。

この有様では、都会の朝の満員電車よりも乗るのが大変そうだ。

村民たちはスーパーの袋に正月用の食材や酒を詰め込み、手ぶらでその間に挟まった結衣はひどく場違いだった。

そこへバスがやって来た。ドアが開くやいなや、静かに並んでいたはずの列が一気に前へ押し寄せる。結衣も反射的に流れに身を任せ、前へ突っ込んだ。

ステップに足を踏み入れた瞬間、「そこ、もう満員よ!無理よ!」と後ろのおばさんに鋭く声をかけられ、結衣はドアから弾き出された。

そのまま足元が空を切り、重心を崩して、仰け反るように後ろへ倒れ込んだ。

咄嗟に声を上げそうになった瞬間、腰に回された腕がその悲鳴を飲み込んだ。

体を受け止められ、背中が硬くたくましい胸板にぴったりと張り付いた。

温かい息が耳元に吹きかかった。「気をつけろよ、星野さん」

結衣はビクッとして、慌てて体勢を立て直して振り返り、蒼真の深遠な瞳と視線がぶつかった。

今日の彼も相変わらず全身黒ずくめで、昨日とまったく同じ服を着ていた。

彼女は一歩後ろへ下がった。「ありがとう」

蒼真は答えた。「どういたしまして」

結衣はそれ以上彼を相手にせず、走り去るバスに目を向け。

しかし、蒼真の視線がすでに血の滲む彼女の指先に落ちていることには気づかなかった。

彼は車にもたれながらタバコを取り出し、長いまつ毛を伏せ、手で風を覆いながらライターで火をつけた。「隣町へ?」

結衣は彼を見ずに答えた。「ええ」

「乗れよ」蒼真は悠然と煙の輪を吐き出し、煙越しに彼女をじっと見つめた。「俺もついでだ」

「結構よ、次のバスを待つから」

蒼真は特に表情を変えることなく、タバコを挟んだ指で灰を振り落とした。「星野さん、それなら失礼させてもらうぞ」

結衣が反応する間もなく、蒼真は大股で彼女に歩み寄り、鮮やかな動作で彼女を横抱きにした。

鼻先にほのかなシャンプーの香りが漂い、彼女の体はすっぽりと蒼真の腕の中に収まった。

結衣はもがきながら、蒼真のくっきりとした顎の線を睨みつけた。「降ろして」

蒼真は答えず、そのまま彼女を助手席に押し込んだ。

車内はとても清潔で、ダッシュボードには可愛らしいドラえもんの飾りが置かれていた。

蒼真のタフなイメージとはひどく不釣り合いだった。

「神崎コーチ」 結衣は少し腹を立て、声を潜めた。「何をするつもり?」

蒼真はドアをロックすると、体を横に向けて彼女を見つめ、気楽で無造作な口調で言った。「見合いはダメだったが、友達になるのはどうだ?」

「ドアを開けて、降ろして」

蒼真は聞こえないふりをして、彼女の手首を握って軽く引っ張った。「手を怪我してるぞ、友達」

結衣は遅れて気づき、自分の右手の人差し指から血が出ているのを発見した。

きっとさっきバスに乗り込もうとした時、老人の籠の竹のトゲで引っかけたのに違いない。

手を引き抜こうとしたが、蒼真の驚くべき腕力が彼女をしっかりと縛り付けていた。

「動くな、薬を塗る」

彼女は仕方なく妥協し、蒼真が車内から消毒液、綿棒、絆創膏を取り出して傷口を手当てしてくれるのを見ていた。

蒼真は身を乗り出してうつむき、手つきはぎこちないが慎重だった。

手を彼にそっと包まれ、二人の手のひらの温度が次第に溶け合い、車内に気まずくも甘い空気が立ち込めた。

結衣は思わず、彼のその整いすぎた顔を見つめた。

果てしなく魅惑的だ。

真面目な時は、案外悪くないように見える。

「じろじろ見るな」蒼真はふいに目を上げ、彼女の視線を絡め取った。「俺はケチだからな、見つめ返すぞ」

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