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発情コーチの、純情な剥き出し。 の小説カバー

発情コーチの、純情な剥き出し。

翻訳家の星野結衣は、人生の転機に帰郷し、お見合いでボクシングコーチの神崎蒼真と出会う。第一印象は軽薄で頼りない男だったが、彼は執拗に結衣へ猛烈なアプローチを仕掛けてくる。単なる女好きかと思いきや、その行動の裏には長年秘めてきた緻密な計画と忍耐が隠されていた。ある日、半裸で迫る彼を突き飛ばした結衣に対し、蒼真は「襲ってくれよ」と余裕の笑みを浮かべる。しかし、立場が逆転し結衣が彼を押し倒した時、遊び慣れているはずの彼の耳は真っ赤に染まっていた。精悍な顔の裏に隠された純情な本性が暴かれる、一途な大人のピュアラブストーリー。
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3

星野結衣は気まずそうに瞬きをし、すっと視線を逸らした。

ーーもういい。

骨の髄まで染み込んだその軽薄さ、悪くないなんて思う方がどうかしている。

薬を塗り終えると、車が走り出した。

「町で用事か?」神崎蒼真がハンドルを握りながら尋ねた。

「ええ」

「何用だ?」

「部屋探し」

蒼真の瞳に一瞬だけ驚きがよぎり、その後、落ち着いた様子で探りを入れてきた。

「これからは龍平町に腰を落ち着けるつもりか?」

結衣は適当に返した。「まあね」

手元にお金はないし、体調も万全ではない。今はとりあえず実家に身を寄せるしかない。

年が明けたら町で仕事を見つけ、少しお金を貯めてから先のことを考えるつもりだ。

二、三言葉を交わした後、車内はまた静かになった。

結衣は少し疲れていたので、目を閉じて休んだ。

目を覚ますと、すでに目的地に到着しており、体には黒いジャケットが掛けられていた。

あのケチな男にしては、なかなか気が利く。

運転席はもぬけの殻だった。結衣が辺りを見回すと、フロントガラス越しに蒼真の姿を捉えた。

彼は車の外で電話をしており、その長身で均整の取れた体格は、黒のセーター越しにも筋肉の陰影がうっすらと浮かび上がり、言葉にしがたい男らしい魅力を漂わせていた。

その時、蒼真がちょうど顔を向け、彼女と目が合った。

本来冷ややかだった彼の目元は、彼女の視線に気づいた瞬間、その鋭さが消え、少しばかり人を食ったような不良っぽさを帯びた。 彼は眉をひょいと上げ、唇を動かした。「起きたか?」

ガラス越しでも、結衣にはその口の動きが読み取れた。

結衣は車を降り、ジャケットを彼に差し出した。「ありがとう」

「友達」 蒼真はジャケットを腕にかけ、わざとらしく強調した。「また他人行儀だな」

結衣はこめかみを押さえ、話題を変えた。「私、どれくらい寝てた?」

最近、薬を長く飲み続けているせいか、やたらと眠気に襲われる。

「40分ほどだ」

「今日は迷惑をかけたわね」結衣はふと何かを思い出し、少し間を置いて尋ねた。「神崎コーチ、ガソリン代は割り勘にする?損はさせられないから」

「俺の狙いはそこじゃない」 「割り勘なんて口実だ。本当は星野さんと『友達』になりたいだけさ」 蒼真は一歩前に出て、少し身をかがめて彼女を見つめ、にやりと笑った。

「それに、損して得取れって言うだろ。俺は損するのが嫌いじゃないんだ」

至近距離で見つめ合うと、蒼真の熱を帯びた魔力のような視線に、結衣はなぜか侵略的で危険な匂いを感じ取った。

正直なところ、この男は本当に女の扱いを分かっている。

何度も恋愛を重ねていなければ、こんなに手慣れたアプローチは絶対にできないはずだ。

結衣は彼に冷ややかな笑みを返し、くるりと背を向けて用事を済ませに向かった。

午前中がいっぱいに過ぎ、何軒か物件を見て回ったが、どれもしっくりこない上に予算オーバーだった。

町で1LDKを借りるなら、家賃は安くても三万五千円台からだ。敷金・礼金を含めた初期費用は、すぐに十数万飛んでいく。

一文無しの彼女は、もともとクレジットカードに頼って生活している状態だ。

2万ぐらいの安アパートを月払いで探しているだけなのに、仲介は冷たく突き放した。「そんなうまい話はありません。この町でワンルーム一つ借りるだけでも、安くて四万はしますよ」

午後、結衣がそろそろ実家に帰ろうとした時、仲介業者から電話がかかってきた。

『センチュリー広場の近くで、家具付きの1LDKが急遽空いたんです。大家さんが明日にでも海外へ渡航するため、今日中に契約したいらしくて……家賃は2万、しかも月払いでいいそうです』

完全に彼女の予算に収まっている。

まさに棚からぼた餅だ。

一足遅れて他の人に取られてはたまらないと、彼女はすぐに契約を交わしに行った。

部屋の件が片付いた途端、またスマホが鳴った。電話に出ると、ある翻訳会社からの面接の誘いだった。

昨晩、求人サイトから履歴書を送ったばかりなのに、もう今日連絡が来たのだ。ちょうど面接場所もセンチュリー広場のすぐ近くにあった。

面接は非常にスムーズに進んだ。社長はこの地元の女性で、真っ赤なリップに巻き髪が似合う、情熱的でさっぱりとした、成熟した美しい人だった。

彼女が東都外国語大学の出身で、有名な大手翻訳会社での勤務経験があると聞くと、二つ返事で採用を決めてくれ、年明けから出社するようにと言った。

ただ、町の給料は東都に比べて半分以下だった。

面接を終え、結衣がエレベーターで一階に降りた途端、背後から興奮した甲高い声が響いた。

「義姉さん!」

結衣は条件反射で振り返った。「健太くん?」

「義姉さん、町に何しに来たの?」 桐谷健太は慌てて駆け寄ってくると、へらへらと笑いながら尋ねた。「蒼真さんに会いに来たんだろ?」

口を開けばこれだ。

このお調子者には本当に呆れる。

「変な呼び方しないで。私と彼は何の関係もないんだから」

「わかった、わかったって」 健太は右から左へ聞き流した。「せっかく来たんだから、義姉さん、中に入って休んでいきなよ!」

結衣はここで初めて、英語教室の隣がボクシングジムであることに気づいた。

入り口には目を引く立派な看板が掲げられている。

――疾風ボクシングジム。

神崎蒼真の縄張りじゃないか!

気味が悪いほど、おかしな偶然だ。

不思議に思っているうちに、健太は彼女の腕を引き、無理やりジムの中へと連れ込んだ。

一階では多くの生徒がレッスンを受けており、保護者たちが休憩スペースに座って待っていた。

健太と彼女が揉み合っているのを見て、皆が野次馬根性丸出しの視線を向けてくる。

「義姉さん、みんな見てるよ!」健太は小声で彼女に囁いた。「自分で歩く?それとも俺がこのまま引っ張ってこっか?」

「……」結衣は露骨に嫌そうな顔をしたが、なぜか魔が差したように、健太の後について二階へ上がってしまった。

まあいい。

蒼真に会ったら、この口の減らない健太が勝手に「義姉さん」と呼ぶ件について、きっちり文句を言ってやろう。

二階は大人向けのクラスだった。結衣が軽く見回してみたが、蒼真の姿はどこにもなかった。

「義姉さん」 健太が彼女のそばに寄ってきた。「蒼真さんは全体クラスは持たないんだ。マンツーマンの個人レッスンだけさ」

結衣は冷たく言った。「興味ないわ」

健太は彼女が聞きたがっているかどうかなどお構いなしに、勝手にまくしたてた。

「義姉さん、蒼真さんはマジでスゲェんだぜ!ボクシングや格闘技、柔道にサンボまで極めてる上に、元特殊部隊上がりだからな。腕っぷしはハンパねぇ!あの人についていけば、この町で義姉さんに手を出そうなんて奴は誰もいなくなるよ!」

元特殊部隊?

軍隊上がりでも、あんなに軽薄な男がいるのか。

結衣は興味がなく、相槌を打つ気にもなれず、健太について二階の左奥の部屋まで来た。

健太はノックもせず、ドアノブをひねって中に入った。

「蒼真さん、義姉さんが来たよ!」

健太は血が騒いでいるのか、目にもとまらぬ速さで彼女を部屋の中に押し込んだ。

そして、ドアを閉めるなり脱兎のごとく逃げ出した。

空気がピタリと止まった。

結衣は思わず息を呑み、目を少し見開いて呆然と立ち尽くした。

目の前にいる蒼真は全身から熱気を発しており、白いタオルを手にして汗を拭いている。どうやら激しいトレーニングを終えたばかりのようだ。

彼は黒いボクシングパンツを穿いているが、上半身は一糸まとわぬ姿だった。汗の雫が、彫りの深い顔立ちから滴り落ち、喉仏を伝って隆起した筋肉の曲線へと流れ、最後はズボンの腰回りへと消えていく。そのむき出しの男らしさに、彼女の鼓動がトクンと跳ねた。

思わず呼吸を忘れてしまうほどの、圧倒的な肉体美だ。

「友達」 蒼真は彼女を見て少し驚いたようだったが、すぐに首を傾げ、リラックスした様子で彼女を見下ろした。「半日会わなかっただけで、もう俺に会いたくなったのか?」

結衣は早鐘を打つ胸を落ち着かせ、彼の腹筋から視線を逸らした。「あなた、自己愛性パーソナリティ障害じゃないの?」

「じゃあ、ここへ何しに来たんだ?」

「あなたの弟分の健太のおかげよ」

「へえ?」 蒼真はタオルを置き、一歩、また一歩と彼女に近づいてきた。その瞳にはねっとりとした光が宿っている。「チッ、まさか俺をストーキングしてるんじゃないだろうな?」

結衣は彼にじりじりとドアまで追い詰められ、二人の距離が一瞬にして縮まった。

重厚な男の吐息が上から降り注ぐ。すぐ目の前にある蒼真の顔には、抑えきれないほどの奔放さが浮かんでいた。

むせ返るようなフェロモンに包まれ、結衣は荒くなる呼吸を必死に抑えながら、無意識に彼を突き飛ばそうと胸に手を伸ばした。「どいて」

その肌に触れた瞬間、彼女は彼が服を着ていないことをはっきりと自覚した。

手のひらに伝わるその生々しい感触と熱い鼓動に、彼女は気まずさと同時に強烈な羞恥心を覚えた。

すかさず、蒼真はさらに身を乗り出して顔を近づけてきた。その表情は妖しげだったが、声色ははっきりとしていた。

「友達、俺の胸に触るのか?」

ーーやっぱり、頭がおかしい。

結衣は体を強張らせ、身動きが取れなかった。少しでも顔を上げれば、自分の唇が彼の顎に触れてしまいそうだった。胸の奥で心臓が激しく打ち鳴らされている。「バカじゃないの。私は痴漢じゃないわよ」

次の瞬間、蒼真は彼女の手を掴み、自分の胸板へと強引に押し当てた。

「痴漢したっていいじゃないか。 ほら、俺を襲ってみろよ」

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