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発情コーチの、純情な剥き出し。 の小説カバー

発情コーチの、純情な剥き出し。

翻訳家の星野結衣は、人生の転機に帰郷し、お見合いでボクシングコーチの神崎蒼真と出会う。第一印象は軽薄で頼りない男だったが、彼は執拗に結衣へ猛烈なアプローチを仕掛けてくる。単なる女好きかと思いきや、その行動の裏には長年秘めてきた緻密な計画と忍耐が隠されていた。ある日、半裸で迫る彼を突き飛ばした結衣に対し、蒼真は「襲ってくれよ」と余裕の笑みを浮かべる。しかし、立場が逆転し結衣が彼を押し倒した時、遊び慣れているはずの彼の耳は真っ赤に染まっていた。精悍な顔の裏に隠された純情な本性が暴かれる、一途な大人のピュアラブストーリー。
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「神崎蒼真」男の低く響く声がした。「31歳、ボクシングのコーチをしている」

28歳の星野結衣は、まさか自分が落ちぶれて田舎町に戻り、お見合いをする日が来るとは思いもしなかった。

仲人によれば、相手はよそ者だが条件が良く、両親は他界しており、元気な祖母が一人いるという。

町には3階建ての持ち家があり、隣町でもローンなしでマンションを購入済みで、400万円以上の車も持っているそうだ。

さらに隣町でボクシングジムを経営しており、かなりの収入があるらしい。

周りからは神崎コーチと呼ばれている。

今、その条件の良い神崎コーチが、彼女の目の前に大柄な体をドカッと下ろして座っている。

黒の上下に身を包み、少しワイルドで不良っぽい雰囲気を漂わせている。顔立ちはシャープで、清潔感のある坊主頭にしており、年配の人が好むような端正な顔立ちをしていた。

だが、能面のような無表情を崩さず、隠しきれないほどの冷たく重苦しいオーラを放っている。

無骨でクール、イケメンだが粗野な印象だ。

どう見ても、近寄り難い。

結衣は礼儀として言葉を返した。「星野結衣、28歳です。 翻訳の仕事をしています」

神崎蒼真は目の前にいる透き通るような白い肌の女を見つめた。彼女の目元は微笑んでいるものの、その瞳の奥には冷淡さとよそよそしさが隠されている。

清楚でいて、どこか冷ややかな雰囲気を纏っていた。

見つめるうち、彼女の目尻にある小さなほくろに視線が留まり、彼の瞳が微かに揺らいだ……

自己紹介の後、会話が途切れた。

初めてのお見合いで、結衣はこうした場に慣れていなかった。おまけに蒼真が氷のように冷たい態度をとるため、自分から話題を振る気にもなれなかった。

そのため、彼女はグラスを両手で包み込み、気まずさを紛らわすように水を飲んだ。

グラスの水を飲み干しても、蒼真は椅子に寄りかかったまま一言も発さず、ナマケモノのように無表情で彼女を見つめ続けている。

結衣はいたたまれなくなり、冷静を装って口を開いた。

「神崎さん、とても条件が良いと伺っていますが、どうしてお見合いなど?」

「選り好みだ」

結衣はからかうように言った。「てっきり、ご家族に無理やりやらされているのかと」

「ああ」 蒼真は低い声で答えた。「ばあちゃんに、お見合いに行かないなら死んでも死にきれんと言われたんだ」

結衣が、随分と包み隠さず話す人だと思っていると、彼の気のない口調が再び耳に届いた。

「お見合いなんて、本気になるな。 運が良ければ本物の愛が手に入るし、運が悪くても楽しめりゃいい。ダメなら経験値になるだけだ」

ーーめちゃくちゃな理屈だ。

結衣は唇を引きつらせた。「随分とお見合いに慣れていらっしゃるんですね!」

「まあな」 蒼真は肩をすくめた。「百人ほど会っただけだ」

ーーこの男、あまりにも軽薄で、信用できない。

「神崎さん、私たちは性格が合わないと思います。 私はもっと真面目で落ち着いた人が好きなので」

同じ町に住んでいれば今後顔を合わせることもあるだろうと考え、結衣はできるだけ彼の面子を保つようにした。

「実を言うと、私は仕事を失ったうえに詐欺に遭い、借金まで抱えて親のすねをかじるために町へ戻ってきたんです。 私はあなたには到底釣り合いません。早く素敵なお相手が見つかることを祈っています」

蒼真は伏し目がちにしながら、その瞳の奥に深い何かを宿していた。

しばらくして、彼は短く答えた。「わかった」

結衣は彼が上着を手に取り、大股で立ち去るのを見ていたが、無意識にその後ろ姿を目で追い、ふと息を呑んだ。

背が高く、肩幅が広くて腰回りは引き締まっており、筋肉のラインが綺麗で、いかにも力が強そうだ。

田舎町はおろか、大都会にいてもこれほどのスタイルと顔立ちの男はそういないだろう。

惜しいことに、性格に難がある。

結局、彼女は「軽薄な男は好きじゃない」という一言で仲人を適当にあしらい、このお見合いを終わらせた。

一月の風は骨身に染みるほど冷たく、町の通りの両側にある木々にはイルミネーションが飾られていた。

お正月の雰囲気が漂ってきて、どこか懐かしくもあり、同時に見知らぬ感覚も覚えた。

よく考えてみれば、大学へ進学し、働き始めてから、彼女はもう8年も実家に帰っていなかった。

今年は本当に厄年だった。

上半期はコネ入社の社員に確実視されていた副部長の席を奪われ、下半期には同僚の罠にはまって仕事でミスをし、クビになった。

そして年末には、一本の電話がきっかけで詐欺に遭い、手元の貯金をすべて失ってしまったのだ。

都会で何年も必死に働いてきたというのに、結局すべて水の泡になった。

最終的に、彼女は実家に戻ることを決めた。

一つは家賃を払うお金がないこと。もう一つは、長年片思いをしていた男が先週婚約したからだ。

町に戻った2日目、彼女は叔母の松本京子に無理やりお見合いをさせられた。

それが先ほどの気まずいお見合いというわけだ。

家に着くなり、廊下から叔父の松本健一と京子の言い争う声が聞こえてきた。

声はそれほど大きくなかったが、防音設備などない古いアパートではやけにはっきりと響いた。

「結衣が帰ってきたばかりだっていうのに、お見合いに行かせるなんて!あの神崎は確かに条件はいいが、三十過ぎて身を固めてないなんて、絶対どこかおかしいに決まってる!」

「あんたの可愛い姪っ子が、突然仕事を辞めて帰ってきたってどういうことよ? しばらくここを出ていくつもりはないって!うちでタダ飯を食うつもり?私はニートを養う気なんてないからね」

「結衣は大学に入ってから、うちに一円も頼ってないじゃないか! 今回だって、都会から服や手土産を買ってきてくれただろう。叔母なんだから、もう少し寛大になれないのか?」

「健一、あの子を施設から引き取るのを許してあげた私が、寛大じゃないって言うの? 小さい頃からうちでタダで生活してたんだから、私たちに恩返しするのは当然でしょ! だいたい、もうすぐ30歳にもなる売れ残りが、何一つ成し遂げてないうえに結婚もしてないのに、よくいけしゃあしゃあと帰ってこられたわね? ご近所さんに後ろ指を指されるとは思わないわけ?こっちが恥ずかしくてたまらないわ」

「それに、うちは部屋が二つしかないのよ。 今年の正月は美月夫婦が帰ってくるのを忘れないで。結衣が自分で部屋を借りるか、お見合いを成功させて相手の家に転がり込むかしかないわ。ここにあの子の居場所なんてないんだからね……」

ドアの外で、結衣はとっくに何も感じなくなっていた。

何年経っても、彼女は歓迎されないよそ者のままだった。

気持ちを整理して家に入ると、京子は相変わらず不機嫌な顔をしており、高圧的な口調で彼女に説教を始めた。

「仲人さんの話だと、神崎さんを気に入らなかったらしいじゃない? 自分の立場が分かってるの?

「えり好みしてる場合じゃないでしょ!女は28過ぎたら誰にも見向きされないんだからね!」「都会に数年住んだからって、いい女にでもなったつもり? まだ若くて綺麗なうちに、さっさと結婚しなさい。叔母さんだってあんたのためを思って言ってるのよ。 こうしましょ、仲人さんにもう何人か探してもらうから、明日も引き続きお見合いに行きなさい!」

「京子、いい加減にしろ!うちの結衣はこんなに優秀なんだぞ……」

「叔父さん」 自分を原因としたこの言い争いを収めるため、結衣は心にもない笑みを浮かべて言葉を遮った。「お見合いが嫌なわけじゃないの。いい縁があれば、それも悪くないと思ってるし」

部屋に戻ってドアを閉めると、引きつった作り笑いが消え、徐々に眉間が険しくなっていった。

動悸がゆっくりと全身を襲い、額にじっとりと冷や汗がにじむ。

彼女はベッドのそばに行き、枕の下に隠していた薬を取り出して飲み込むと、疲れ果てたようにベッドへ倒れ込んだ。

だいぶ落ち着きを取り戻してから、スマホを取り出してLINEを開くと、友達追加のリクエストが来ていることに気づいた。

アイコンはひと筋の黒い煙で、不気味でどこかゾッとさせた。

結衣はリクエストを承認し、すぐにメッセージを送った。

「どなたですか?」

30秒後、相手から返信が来た。

「軽薄な神崎コーチだ」

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