
彼の19歳の妾の代償
章 2
小野寺恵美の視点:
夢。これは夢に違いない。
私は霞のかかった記憶の中を漂っていた。全てが始まった、あの日に。
五年前のことだ。
記憶は鮮明で、残酷なほど色鮮やかに、もう私の人生ではない人生を再生していた。
私は十九歳だった。
そのディテールはいつも、私の過去の風景の中で、点滅するネオンサインのように際立っていた。
十九歳。神宮寺玲が、いつも好んでいた、まさにその年齢。
彼は東京の王様で、銀座の王子様だった。
そして私は、彼が出席していた高級ケータリングのイベントで、月々の家賃よりも高価なシャンパングラスのトレイを必死にバランスを取りながら運ぶ、ただのウェイトレスだった。
混雑したボールルームの向こうで、私たちの視線が交わった。
ありきたりな、三文恋愛小説のような展開だけど、それは実際に起こった。
彼の視線、驚くほど強烈な青い瞳が、騒音と煌めきを突き抜け、めまいがするような一瞬、私は部屋の中でたった一人の人間になったような気がした。
彼は神宮寺玲。
私は彼が誰なのか知っていた。誰もが知っていた。
悪名高いプレイボーイ、私と同じ年頃の女の子に目がない、恋多き男。
純粋で、混じり気のないパニックが、私を貫いた。
彼は一緒にいたセレブの輪から離れ、捕食者のような優雅さで私に向かってきた。
彼は私の目の前で立ち止まり、その長身が私に影を落とした。
「君、これ運んでいい年齢なの?」
彼は低い、面白がるような声で尋ねると、私の震えるトレイからグラスを一つ摘み上げた。
残りは、言うまでもなく、歴史になった。
それはまるで、金と星屑で紡がれたファンタジーのような、目まぐるしい歴史だった。
彼は執拗で、一途な集中力で私を追いかけた。それは恐ろしく、そして完全に魅惑的だった。
彼は私の専門学校の授業に、ヴィンテージのロールスロイスを迎えに寄越し、クラスメートたちを困惑させた。
彼は私の小さなアパートを、ジャングルのように見えるほどたくさんの花で埋め尽くした。
私が一度、映画で見たパリの街並みが好きだと言っただけで、三回目のデートに私をパリへ連れて行った。
彼は私のどんな気まぐれにも応え、何気ない一言も全て覚えていた。
私がパクチーが嫌いなこと、古い白黒映画が好きなこと、ピアノを習っておけばよかったと密かに願っていること。
翌日、スタインウェイのグランドピアノが、市内で最も人気の講師と共に私のアパートに届けられた。
世界は、プレイボーイがついに落ち着いたと見た。
私は、失われたピースを見つけたかのような男を見た。
彼の母親、神宮寺綾子、冷徹で現実的な神宮寺家の女帝は、反対した。
彼女は私を庶民、金目当ての女、一時的な気晴らしと見なした。
しかし、玲は断固として譲らなかった。
彼女が私たちの結婚を祝福しなければ、相続権を放棄し、帝国から去ると脅した。
私たちの結婚式で、千本の白いバラのアーチの下、彼は私の目を見つめ、壮大な大聖堂に響き渡る誓いを立てた。
「みんな、僕には愛なんてないと決めつけていた」
彼は囁き、親指で私の頬をなぞった。
「彼らは正しかった。君に会うまでは。君はただの女の子じゃない。君は唯一の、そして最後の女性だ。今日この日から、僕の世界は君で始まり、君で終わる」
私は彼を信じた。
ああ、なんて信じきっていたんだろう。
私たちの結婚生活の五年間は、その約束の証だった。
彼は完璧な夫だった。
記念日や誕生日を一度も忘れたことはなかった。
私が寂しがっていると、夕食を共にするためだけに世界中を飛び回った。
彼はプロポーズした渋谷の交差点のGPS座標を内側に刻んだ指輪を特注した。
「帰り道を忘れないようにね」と彼は言った。
私の人生は、おとぎ話だった。
そして、父が病気になった。
玲は私の支えだった。
完璧な適合者である結城アイリスを見つけてくれたのも彼だった。
彼は彼女のスポンサーになり、学費、住居、考えられる全ての必要経費を支払った。
「ドナーを幸せで健康に保たないとね、恵美」
彼は私を腕に抱きながら説明した。
「彼女は僕たちの天使だ。僕たちは彼女に全てを捧げなければならない」
私は疑問に思わなかった。
父のことで頭がいっぱいで、微妙な変化に気づかなかった。
玲がアイリスの様子を伺う電話が、私の様子を伺う電話よりも頻繁になったこと。
彼が彼女にプレゼントを買い始めたこと――「勉強のため」の新しいノートパソコン、「慶應で浮かないように」のデザイナーズブランドの服、「安全に病院に通えるように」の新車。
彼は彼女と過ごす時間が増え、ディナーに、美術館に、オペラに連れて行くようになった。
「彼女の気分を上げておかないと」と彼は言った。「幸せなドナーは、健康なドナーだからね」
かつて私が風邪をひいただけで、数億円の取引を放り出して帰ってきた夫が、今ではアイリスが頭痛がするという理由で、私たちのディナーデートをキャンセルするようになった。
かつて私たちのペントハウスを埋め尽くしていた花は、今では彼女の寮の部屋に届けられていた。
私たちが古い映画を見て過ごした静かな夜は、アイリスがドナーになることで「不安を感じている」からと、彼が慌てて駆けつける時間に取って代わられた。
変化はあまりにも緩やかで、父への配慮というマントの下に巧妙に隠されていたため、私はほとんど気づかなかった。ほとんど。
冷たい恐怖が、私の胃の中でとぐろを巻き始めた。
おとぎ話が、檻のように感じられ始めた。
ある夜、私はついに彼に問い詰めた。
「玲、これって…ちょっとやりすぎじゃない?あなたの時間の全てを、彼女と過ごしているわ」
彼は私を見た。その表情は、優しく諭すようなものだった。
「恵美、恩知らずなことを言わないでくれ。彼女は君のお父さんの命を救ってくれるんだ。今、彼女の幸せが一番大事なことじゃないか?」
彼は正しかった、そうでしょう?
なんて自分はわがままなんだろう。私は恥ずかしくなった。
私は謝罪し、疑念を心の奥に埋めた。
彼を信じることを選んだ。
その信頼が、私の破滅を招いた。
あの夜の記憶、彼女との電話での彼の声は、嘘だった。
彼はただ彼女を慰めていただけではなかった。
私はその時、震える声で尋ねた。
「あなたの約束は、どうなったの?私は違うって、言ったじゃない」
彼はため息をついた。純粋な苛立ちの音だった。
「君は違ったよ、恵美。君は十九歳だった。純粋で、穢れを知らなかった。でも、君はもう十九歳じゃない。アイリスはそうだ。違いがわかるかい?」
「じゃあ、私自身じゃなかったの?」
私は囁いた。言葉が喉に突き刺さるガラスの破片のようだった。
「ただ、私の年齢だけだったの?」
「大げさに言うな」
彼は吐き捨てた。
「僕はアイリスの面倒を見なければならない。彼女には借りがある。僕たち二人ともだ」
嘘は完璧で、完全だった。
彼は父の命を、自らの裏切りの盾にしていたのだ。
鍵が錠に差し込まれる音で、私は夢から、過去から、現実に引き戻された。
目を開けると、病院の無機質な白い天井が広がっていた。
一時間前、葬儀社から電話があった。
父の葬儀の手配は済んだ。
彼は逝ってしまった。
胸にぽっかりと開いた穴は、物理的な痛みであり、かつて心臓があった場所の空虚だった。
玲は、ここにいなかった。
私が倒れてから、一度も。
彼はアイリスと一緒にいた。
それは、彼女のインスタグラムのフィードを無感動にスクロールして知った。
たった三十分前の、新しい投稿。
玲のベントレーのハンドルに置かれた彼女の手の写真。
手首には、新しいダイヤモンドのブレスレットが輝いていた。
そして背景には、ピントが合っていないが、運転する玲の横顔が、優しい笑みを浮かべて写っていた。
キャプションにはこう書かれていた。
「気分転換に、サプライズ旅行に連れて行ってくれる人がいるの。本当に恵まれてる。#感謝 #最高の一日」
私はその投稿に「いいね」を押した。
指が勝手に動いた。機械の中の幽霊のように。
携帯がメッセージの着信で震えた。玲からだった。
「アイリスがまだ病院の一件で少し動揺している。気分転換に、数日間軽井沢に連れて行って、再手術の前にリラックスさせてくる。心配するな、全部僕がやるから」
私はメッセージを睨みつけた。
苦々しい、ヒステリックな笑いが喉の奥から込み上げてきた。
彼は知らない。
彼は新しいおもちゃを慰めるのに忙しくて、確認さえしていなかった。
再手術などないことを、彼は知らない。
父が死んだことを、彼は知らない。
彼の怠慢が、彼の全くの自己中心的で自己陶酔的な裏切りが、私が知る限り最も優しい男を殺したことを、彼は知らない。
彼はこれを、ただの障害だと思っている。
彼のお金で解決できる、また一つの問題だと。
彼は間違っていた。
これが、終わりだ。
私を恐怖させるほどの冷静さで、私は携帯を開き、五年間一度もかけなかった番号に電話をかけた。
「神宮寺綾子様のオフィスでございます」
「恵美です」
私は平坦で、生気のない声で言った。
「離婚したいと、お伝えください。どんな書類にもサインします。一円もいりません。ただ、解放されたいんです」
「奥様」
秘書はショックを受けたようだった。
「よろしいのですか?」
「これほど確信したことは、人生で一度もありません」
私は言った。
「彼には、彼の十九歳たちをくれてやると伝えてください。全員、彼のものでいいわ」
私は電話を切り、綾子の弁護士が一時間以内にメールで送ってきた離婚届を見つめた。
その効率の良さは冷酷だったが、私はそれに感謝した。
がらんとした病院のビジネスセンターの隅で、プリンターが唸り、私の人生を彼の人生から切り離す書類を吐き出した。
一枚一枚が、墓石のように感じられた。
私はペンを手に取った。
手は、震えていなかった。
これは、ただの終わりではない。
これは、私の戦争の始まりだった。
おすすめの作品





