
彼の19歳の妾の代償
章 3
小野寺恵美の視点:
翌朝、私は自分が経営するギャラリーに足を踏み入れた。
この四年間、私の聖域だった場所。
そして、上司のクララに辞表を渡した。
「恵美?これは何?」
彼女は、私の手からパリッとした封筒を受け取りながら、驚きで目を見開いた。
彼女は上司というより、友人だった。
父のこと、移植のことも知っていた。
「辞めます、クララさん」
私は静かだが、きっぱりとした声で言った。
「この街を、離れます」
「でも…お父さんの手術は?大丈夫なの?」
新たな痛みの波が押し寄せたが、私はそれを押し殺した。
「父は、亡くなりました。もう、いません」
彼女の顔が曇った。
「ああ、恵美。なんてこと…本当に、ごめんなさい」
彼女はデスクを回り、私を抱きしめた。
「玲さんは?あなたが辞めること、知ってるの?彼はあなたがこの場所をどれだけ愛しているか、知っているのに」
「私たちは、離婚します」
私はそっと身を離しながら言った。
その言葉は、まるで習い始めたばかりの外国語のように、舌の上で異質な感じがした。
その後の呆然とした沈黙は、聞き耳を立てていた同僚たちの同情的な囁きによって破られた。
彼らは集まってきて、お悔やみの言葉を述べ、信じられないという表情を浮かべた。
「でも、玲さんはあなたを溺愛していたじゃない」
サラという若いインターンの一人が言った。
「いつも花を贈ってくれたり、あの高級車で迎えに来てくれたり…完璧な旦那様よ」
私は彼女を訂正しようとはしなかった。
何の意味がある?
彼女たちが見てきたのは、全て幻想だったのだから。
私は静かに、デスクの上の数少ない私物を小さな箱に詰めた――父と私の写真立て、父がくれたマグカップ、父が好きだった詩集。
帰ろうとした時、正面の窓際の騒ぎが私の注意を引いた。
「わあ、噂をすれば」
サラが囁き、外を指差した。
「彼が来たわ」
私の体は硬直した。
そこには、縁石に停められた、紛れもない神宮寺玲の黒いベントレーの輝きがあった。
私は深呼吸をして、覚悟を決め、最後のギャラリーを出た。
振り返らなかった。
車まで歩き、助手席のドアを開けた。
私を迎えた光景は、あまりにもグロテスクなほど親密で、息が詰まった。
アイリスが助手席で丸くなり、玲の肩に頭を預け、まるで眠っているかのように目を閉じていた。
彼女はまるで、暖かさと保護を求める子猫のようだった。
ドアが開く音で、二人は飛び上がった。
アイリスの目がぱちりと開き、パニックに陥った無邪気な仮面がすぐに彼女の顔を覆った。
「恵美さん!私…私たちは、ただ…」
彼女はどもりながら、慌てて体を起こした。
「どうでもいいわ」
私は感情のない声で言った。
私は後部座席に乗り込んだ。革のシートが冷たく、異質な感じがした。
「その箱は何だ?」
玲が尋ね、私の膝の上の段ボール箱に目をやった。
「大掃除か?」
「辞めたの」
私は簡潔に言った。
彼は眉をひそめた。
「どうして?後で話そう。ロオジエに席を予約したんだ。お父さんの好きな、体にいい料理を全部注文しておいた。彼のために、少し持ち帰ろうと思って」
父の名前が、あまりにもさりげなく、全く無神経に口にされたことは、物理的な打撃だった。
白熱した怒り、それに続く氷のような悲しみの波が、私を襲った。
叫び出さないように、血の味がするまで頬の内側を噛んだ。
私は何も言わず、ただ窓の外を眺めた。街がぼやけて通り過ぎていく。
レストランの、豪華な個室で、玲は間違った客に対して完璧なホストを演じていた。
彼はアイリスの世話を焼き、彼女の膝にナプキンを置き、水のグラスが常に満たされていることを確認し、彼女のために特別なノンアルコールカクテルを注文した。
「体力をつけないとね」
彼は、かつては私だけに向けられていた優しさのこもった声で彼女に言った。
「君はヒーローなんだから、アイリス」
彼女は頬を染め、目を伏せた。
「そんなことないです、玲さん。ただ、お役に立てて嬉しいだけです」
私は彼らの向かいに座っていた。彼らの饗宴における、見えない幽霊。
私は彼らを見ていた。私の心臓は、胸の中で死んだように重い塊だった。
彼の目が彼女の上をさまよう様子、彼が彼女のくだらない冗談に笑う様子、彼が親指で彼女の唇からパンくずを拭う様子を見ていた。
「恵美さん、食べないんですか?」
アイリスが、ねっとりとした甘い声で尋ねた。
彼女は玲を見て、そして私に視線を戻した。その目には、勝利の輝きがちらついていた。
「怒ってます?玲さんが、こんなに優しくしてくれるから?」
私は彼女を見て、静かにフォークを手に取った。
「いいえ」
私は落ち着いた声で言った。
「怒ってないわ。食事を楽しんで」
私は黙って食べた。絶品の料理が、口の中で灰のように感じられた。
食事の途中、玲の携帯が鳴った。
彼が取らなければならない、仕事の電話だった。
「二人で先に車に行っててくれ」
彼は、すでに心ここにあらずといった様子で言った。
「すぐに行くから」
私は立ち上がった。逃げ出せることに感謝した。
アイリスが部屋からついてきた。
私たちは黙ってエレベーターまで歩いた。
磨かれた真鍮のドアが滑るように閉まり、私たちを鏡張りの小さな箱に閉じ込めた瞬間、アイリスの態度は一変した。
内気で、感謝に満ちた少女は消え、その代わりに、にやにやと笑い、目に鋼のような光を宿した女が現れた。
「彼、あなたのこと、退屈だと思ってるのよ」
彼女は、悪意に満ちた声で言った。
「あなたは美しくて完璧な人形みたいだって。でも、人形は所詮、ただのモノ。情熱も、何もない。彼はもう、それに飽き飽きしてるの」
その言葉は私を打ちのめしたが、私は何も見せなかった。
「年を取ってきたって言ってたわ」
彼女は、軽蔑の目で私をなめるように見ながら続けた。
「もう、しおれ始めた花だって」
突然、エレベーターが激しく揺れ、私たちはバランスを崩した。
照明が点滅し、そして消え、私たちは完全な暗闇に突き落とされた。
アイリスは甲高い、恐怖に満ちた悲鳴を上げ、私の腕に掴みかかった。彼女の爪が私の肌に食い込んだ。
「大丈夫よ」
私は、驚くほど落ち着いた声で言いながら、非常ボタンを手探りで探した。
「エレベーターが止まっただけ」
インターホンから、くぐもった、不明瞭な声が聞こえてきた。
彼らは問題を認識している。誰かを送っている、と。
しかしその時、エレベーターが再び、今度は金属がきしむ嫌な音を立てて揺れた。
数フィート落下し、ガツンという衝撃と共に止まった。
アイリスは叫び始めた。純粋な恐怖からくる、生の、原始的な叫び声だった。
「助けて!誰か助けて!死んじゃう!」
また揺れた。
より長い落下。
私自身の心臓も肋骨に打ち付けられていたが、頭は奇妙に冴えていた。
私は壁に身を寄せ、指の関節が白くなるまで手すりを握りしめた。
「玲さん!玲さん、助けて!」
アイリスは泣き叫び、床に崩れ落ちた。
その時、私たちはそれを聞いた。
外からの、慌ただしい足音。叫び声。
そして、混沌を切り裂く、息をのむような声。
「アイリス!恵美!そこにいるのか!」
玲だった。
「玲さん!」
アイリスは、涙でかすれた声で叫んだ。
「助けて!すごく怖いの!」
メンテナンス作業員の、切迫した声が、壊れたドアの隙間から聞こえてきた。
「旦那さん、メインケーブルがほつれてる!いつ切れてもおかしくない!ドアをこじ開けて、一人ずつしか引き出せない!選んでくれ!」
エレベーターの中の空気が、濃く、重く、息苦しくなった。
沈黙。
ドアのすぐ外から、玲の荒い息遣いが聞こえた。
アイリスの絶望的な、しゃくり上げるような泣き声が聞こえた。
私自身の心臓の、私の人生の秒読みをするかのような、狂ったドラムの音が聞こえた。
息詰まる暗闇の中、私は彼の答えを待った。
そして、それは来た。
彼の声は、全ての感情を剥ぎ取られ、冷たく、明瞭で、そして、完全に最終的なものだった。
「アイリスを助けろ」
私の血は、氷に変わった。
ドアが、人が一人やっと通り抜けられるくらいにこじ開けられた。
玲の手が中に伸びてきて、私を完全に無視し、アイリスを暗闇から引きずり出し、彼の腕の中に抱きしめるのが見えた。
彼女はヒステリックに泣きながら、彼にしがみついた。
「大丈夫だ、ベイビー、大丈夫」
彼は彼女の髪を撫でながら囁いた。
「僕がいる」
彼はメンテナンスクルーの方を向いた。
「次は、妻を」
しかし、彼らが私を助けようと動いたその時、金属が引き裂かれる耳をつんざくような音が、空気を満たした。
エレベーターが、落下した。
世界は、吐き気を催すような動きのぼやけた塊になった。
胃が喉までせり上がってきた。
全てが真っ暗になる前に最後に見たのは、玲の顔。その目は、私が名付けられない何かのきらめきで、大きく見開かれていた。
最後に聞いたのは、もう聞き覚えのない声で叫ばれた、私自身の名前だった。
手遅れだった。
いつだって、手遅れだったのだ。
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