
病に堕ちたアルファの哀願
章 3
期待に胸を膨らませて顔を上げた先にいたのは、障がいを持つ私の妹だった。
アンディに親しげに頭を撫でられながら、妹は虚ろな表情で私を指差す。
「お姉ちゃんは悪魔憑きなんかじゃないよ。ただ男の人が好きなだけ。何人かのアルファに慰めてもらえば、きっとよくなる」
その言葉に、場の空気は再び凍りついた。
「なんだと?」 ニックが妹の腕を乱暴に掴む。
妹はきょとんとした顔で彼を見上げた。
「ニックがアルファを用意してあげれば、お姉ちゃんはどこにも行かないよ」
妹がこんなふうに私を貶めたのは、これが初めてではない。
妹はニックのことが好きだった。かつて自ら服を脱ぎ捨て、ならず者の狼に抱きつきながら、
助けを求めるときにはこう叫んだのだ。「お姉ちゃん、もうニックとは話さないから!許して!」と。
ニックの気を引くためのその行為は、彼が私を責めるようになってから、さらにエスカレートしていった。
ニックとの初夜でさえ、事が終わる前に裸で彼の腕の中に滑り込んできたこともあった。
私が怒ると、妹はすぐにひざまずいて罰しないでと懇願する。
そんな彼女の姿を見て、ニックは私が妹を虐待しているのだと思い込み、何度も私と口論になった。
妹のために、私を罰することさえあった。
妹にはとっくに失望しきっていたが、
それでも彼女の言葉は、私の心を鋭く抉った。
私は歯を食いしばり、妹に問いかける。
「……誰にそんなことを教わったの?」
しかし、妹が口を開くより先に、ニックの父親であるダグが私の頬を激しく張り飛ばした。
「この娘の知能は六歳児程度だぞ!嘘がつけるわけなかろうが!」
アンディも横から口を挟む。
「どうりで部族の薬が減るわけだ。お前がずっと、心の繋がりを阻害する薬を盗んでいたんだな!」
その言葉を聞いたニックは、全身から力が抜けたように秘書に支えられ、かろうじて立っているのがやっとだった。
彼が何かを言う前に、周りの者たちが一斉に私を非難し始める。
「こんな卑しいオメガに、ルナの資格はない!」
「ならず者を連れ込んで首領を裏切った売女だ!相応の罰を与えろ!」
一族の罵声を浴びる中、ニックはゆっくりと私の前にひざまずくと、赤く充血した目で私の喉を締め上げた。
「ティリー、俺がお前に触れることさえためらっていたというのに……お前は外で好き勝手に男と寝ていたのか?」
私は冷え切った目で彼を見つめ、嘲りを込めて言い放つ。
「ニック、あなたを見くびっていたわ。本当に頭の悪い、愚かな人ね!」
ニックは私を睨みつけ、氷のような声で言った。
「ああ、確かに愚か者だ。お前のような女に騙されていたのだからな」
「裏切りが好きだというのなら、その望みを叶えてやろう!」
そう言うと、彼は秘書に兵士を数人連れてくるよう命じた。
信じられない思いで、私は彼を見つめる。
「気でも狂ったの!? この者たちに私を触れさせるつもり?そんなことをしたら、絶対に許さないから!」
ニックの目は血走り、明らかに理性を失っていた。
彼は憎悪に満ちた目で私を値踏みするように見下す。
「お前がそれほど安っぽい女なら、相手がアルファだろうがベータだろうが、何も変わりはないだろう」
言うが早いか、彼は背後の兵士たちに命じた。
「やれ」
誰も彼を止めようとはしない。誰もが、ルナに裏切られた哀れなアルファだと同情しているのだ。
命令を聞いた数人の狼男が、獣のように私に飛びかかり、服を破り始めた。
必死に抵抗し、一人の男の手に噛みついて血を流させたが、それがかえって彼らを興奮させるだけだった。
私がもがいている間、妹とアンディが何やら言葉を交わしていた。
やがて妹が近づいてきて、私に跨るベータに指示を出す。
「違うよ。お姉ちゃんは、立ったまま真ん中に挟まれるのが好きなんだよ」
その言葉に、ニックの呼吸が荒くなる。
彼は私の耳元に拳を叩きつけ、殺さんばかりの視線で私を射抜いた。
「……妹の前で、そんな真似までしていたのか?」
折られた指の激痛に、意識が遠のきそうになる。
周囲の好奇と侮蔑に満ちた視線が、屈辱となって突き刺さる。
肌が空気に晒されるのを感じ、私は喉の奥から叫び声を上げた。
「私はライカンを統べる王の娘よ!私に指一本でも触れたら、ライカンがお前たちを皆殺しにするわ!」
私の上にいたベータが、その言葉を遮るように何度も平手打ちを食らわせる。
頭が割れるように痛む中、アンディの嘲笑が聞こえた。
「賭博狂いの父親がライカンだとでも?それとも、あの卑しい母親がか?」
ニックの友人たちも、腹を抱えて笑い出した。
「馬鹿馬鹿しい! ライカンに会ったことのある狼などいやしないのに、自分がその王の娘だと?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、再び強烈な平手打ちが二度、私の頬を襲った。
今度は、ニックの手だった。
彼は冷酷な瞳で私を見下ろし、何かを決意したように告げる。
「契約は破棄しない。お前にも、俺と同じ苦しみを永遠に味わわせてやる」
そして、再び秘書に命じた。
「メディアを呼べ。明日のニュースを、こいつの写真で埋め尽くしてやれ」
無数のフラッシュが焚かれる中、私はすべての抵抗をやめ、絶望に身を委ねた。
最後の布切れが引き裂かれる、その瞬間――。何者かが、私に群がる狼たちを蹴り飛ばした。
「こいつに指一本でも触れてみろ!!」
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