御曹司は私を「ペット」と呼ぶ。でも、彼は私の救世主。 の小説カバー

御曹司は私を「ペット」と呼ぶ。でも、彼は私の救世主。

8.9 / 10.0
榎本真衣は、横江渉への一途な恋心ゆえに実家から冷遇されても、4年もの歳月を彼に捧げてきた。しかし、渉が実の姉のために真衣を他人のベッドへ送り込むという非情な裏切りを見せたことで、彼女の愛は完全に冷め果てる。決して手に入らない心があると悟った彼女は、過去を捨てて仕事に邁進。国際的なトップモデルへと登り詰め、世界を熱狂させる存在となった。かつての恋人が後悔に震え「戻ってきてくれ」と縋り付くが、今の彼女にとって男は仕事の充実感に及ばない。そんな中、平市屈指の名門を率いる藤井海渡が彼女の前に現れる。表向きは高潔な彼だが、その実体は真衣を「ペット」として支配しようとする執着心に満ちた男だった。狂気を孕んだ愛で彼女を縛り付ける海渡だったが、やがて変化が訪れる。華やかなレッドカーペットの上、傲慢だったはずの男は衆人環視の中で片膝をつき、立場も名分も問わぬ至上の愛を彼女に誓うのだった。絶望の底から這い上がったモデルと、支配欲を愛に変えた御曹司が織りなす、波乱に満ちた現代ロマンス。

御曹司は私を「ペット」と呼ぶ。でも、彼は私の救世主。 第1章

平市はまだ夜の帳が下りていないというのに、暗雲が瞬く間に渦を巻き、白昼を飲み込んでいった。

室内の照明が眩しい。高台の360°パノラマガラス越しに、都市の喧騒とネオンが一望に尽きる。

窓はいつの間にか曇り、雨水が窓ガラスを伝って流れ落ちる。榎本真衣は窓に押し付けられ、濡れた黒髪が額に張り付いていた。肩にかかったシルクのナイトガウンは腰まで滑り落ち、玉のような肌は艶めかしい色を帯びている。

空に轟く雷鳴が、絶妙なタイミングで真衣が頂点に達したときのか小さな喘ぎをかき消した。

男が一歩下がり、背中の熱が消えると、真衣は思わず身震いした。

ようやくすべてが終わったと思った矢先、大きな掌によって体が不意にひっくり返される。引いたはずの熱が再び押し寄せ、彼女はまるで深海の人魚のように、波のうねりに合わせて翻弄される。

真衣はいったい何度気を遠くさせ、そして醒まされたのか、本人にもわからなかった。ただ、何度も頂点を迎え、極上の快感に包まれて意識が薄れるだけを、ぼんやりと覚えている。

雨水が窓辺を濡らし、しっとりと曇っていた。

空が白み始めた頃、真衣は男が自分の背中に覆いかぶさり、白く細い両手首を掴み、目の下にある泣きぼくろを指先でゆっくりと辿るのを感じた気がした。

その声は低く掠れていたが、磁性を帯び、何とも言えない危険を孕んでいた。

「俺が誰だか分かっているのか?

分かっていて俺のベッドに忍び込んだのか。

ん?」

あまりに蠱惑的で恐ろしい声に、真衣の心臓が鋭く跳んだ。強烈な窒息感が襲いかかり、彼女はこの馬鹿げた春の夢の中で溺れそうになった。

真衣は大きく息を吸い込み、何度か荒い呼吸を繰り返して、ようやく夢のせいで窒息死するのを免れた。

まるで命を催促するかのように着信音が鳴り響き、真衣は「渉お兄ちゃん」という文字を見て、無意識に眉をひそめた。

一週間前の、あの男の無情で冷酷な言葉が脳裏に蘇る。

「真衣、藤井家のあの御曹司のことは知ってるだろ。渉お兄ちゃんを助けると思って、あいつと一度寝てくれないか?

知ってるだろ、俺は君の姉さんが好きなんだ。彼女が藤井海渡を諦めてくれさえすれば、俺と一緒になってくれる。

だから、協力してくれるよな?」

真衣は、あの時、横江渉が笑みを浮かべてこの言葉を口にしたのをはっきりと覚えていた。だが、彼の口から吐き出された言葉は、どれも知らない単語のように聞こえた。

あの時、彼女は彼に尋ねた。「藤井海渡のベッドに潜り込みたい女なんていくらでもいるのに、どうして私じゃなきゃいけないの?」

その時の渉の返事はこうだ。

「君が星奈の妹だからさ。彼女が一番嫌ってる妹だ」

真衣は伏し目がちに、口の端に冷笑を浮かべ、着信音が鳴り終わる寸前に電話に出た。

『どうかしたの?渉お兄ちゃん』 声は低く、甘く、従順だった。

渉は一瞬黙り込んでから口を開いた。『今夜、飲み会がある。海渡も来る』

やはりそういうことか。どうりで珍しく自分から電話をかけてきたわけだ。

真衣は納得し、穏やかな声で言った。『わかったわ』

『後で運転手に服を持って迎えに行かせるから、それに着替えてくれ』 渉はゆっくりと指示を出し、続けた。『それから、君が最近手に入れたE.Rの春夏レトロショー、トリの仕事だけど、星奈に譲ってくれ。代わりはまた用意するから』

彼はさも当然というように言ったが、真衣は嗤いをこらえるのに必死だった。

以前、榎本星奈は真衣が家産を奪うことを恐れ、あらゆる手を使って彼女を榎本グループの業務から遠ざけた。

いいだろう。彼女は星奈と争う気はなかった。偶然のきっかけで、モデル業界に入った。

これで星奈や榎本家から遠く離れられると思っていた。だが、こともあろうに星奈が去年、突然思いつきでモデルになると言い出したのだ。

渉の助けと榎本グループの後押しを受け、星奈はあっという間に業界の期待の新人となった。本来なら真衣のものだったはずのチャンスは、すべて星奈に奪われていった。

星奈の気まぐれは、真衣にとって致命的な打撃だった。そして、この件において渉の“功績”は抹消できない。

いつも同じ言葉で彼女を丸め込み、取り繕うような言い訳さえしようとしない。彼女がどれほどの努力をして掴んだチャンスであろうと、渉の一言で、いとも簡単に星奈のものになってしまう。

子供の頃からずっと、星奈が欲しがったものは、たとえ元々真衣のものであっても、すべて譲らなければならなかった。

理由は他にない。

星奈こそが榎本家の正真正銘のお嬢様であり、彼、横江渉が心の底から大切にしている人なのだ。

そして彼女、榎本真衣は、ドブに隠れ、生き延びるために必死にもがくしかない、ちっぽけなネズミに過ぎない。

『うん、渉お兄ちゃんの言う通りにする』真衣は軽い声で、あっさりと妥協した。

渉は満足げに電話を切った。

真衣の眼差しが急に冷たくなった。玉ねぎの根のように白い指先がスクリーンを滑り、「渉お兄ちゃん」の文字を「横江渉」に書き換える。だが、それでも満足できず、最終的に「クソアホ」と登録した。

彼女はゆっくりと息を吐き出し、身支度を整えるために立ち上がった。

30分後、横江家の運転手から電話がかかってきた。

真衣はドアを開け、用意された服を受け取った。心の準備はしていたものの、布面積の少ないシルクの生地を見て、やはり驚きを隠せない。

彼女は唇を動かしたが、何かを言う必要もないと思い直した。

結局、寝室に行ってそれに着替えた。

真衣ははっとするほど美しい容姿をしている。肌は雪のように白く、瞳は星のように輝き、その狐のような目は、人を見つめるときにこの上なく人を惹きつける。

目尻の泣きぼくろが、妖艶な色香を漂わせている。

スタイルも抜群で、多すぎず少なすぎず、まさに天性の尤物だ。

彼女が出てくると、運転手は思わず一瞬見とれてしまったが、すぐにはしたないと気づき、慌てて顔をそむけた。「榎本さん、出発してもよろしいですか?」

真衣は頷いた。

『夜陰』は平市でも有名な、金が湯水のように消えていく場所だ。ここに来られるのは、基本的に名門の富豪たちだけである。

真衣は初めて来たため、好奇心に駆られてきょろきょろと辺りを見回した。

運転手は彼女をVIP通路へ案内し、そのまま最上階へと向かった。

個室内は、タバコの煙が立ち込めていた。

真衣がドアを開けると、案の定むせ返り、目頭が熱くなって、瞬く間に滲んできた涙で視界が覆われた。

彼女は悪態をつきたい衝動をこらえ、紫煙渦巻く中で渉を見つけ出し、微笑みながら声をかけた。「渉お兄ちゃん」

渉はちらりと彼女に視線を向けた。彼女が身に着けている、哀れなほど布地の少ない服を見ると目を細めたが、すぐに普段通りの表情に戻り、彼女を手招きした。「真衣、こっちへ来い」

真衣は「はい」と控えめに答えた。

シルクの布地は丸みを帯びた二つの膨らみをかろうじて覆っているだけで、太腿から下は露わになり、歩くたびに艶めかしく揺れた。

背中も大胆に露出し、動作に合わせて肩甲骨が浮き沈みする。白く玉のような肌が、生き生きと人を誘う。

彼女は四方八方から注がれる、獲物を品定めするような悪意ある視線を無視し、そっと目当ての人物を探した。

真衣の視線が、南西の角に向けられた。

男は足を組み、ゆったりと構えている。逆光のせいでその雰囲気はより一層冷たく険しく見えたが、眼差しはひどく静かだった。

真衣の視線に気づいたのか、彼は顔を上げ、ごく淡々と彼女を一瞥した。

真衣ははっと息を呑み、心臓が知らず知らずのうちに高鳴った。今日の目的を思い出すと、全身の血が逆流し、体全体が興奮し始めた。

続きを読む

御曹司は私を「ペット」と呼ぶ。でも、彼は私の救世主。 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

覚醒ヒロイン、IQはタコ超え の小説カバー
8.2
人気俳優との別離を機にダイビングへ向かった私は、巨大なタコから墨を浴びせられるという奇妙な災難に見舞われた。しかし、その瞬間から私の体質は激変する。タコが持つ九つの脳、八本の触手、そして三つの心臓という驚異的な遺伝子が私を侵食し始めたのだ。かつて私を翻弄し続けてきた「恋愛脳」は霧散し、圧倒的な知性を誇る「仕事脳」へと覚醒を遂げる。覚醒した知能は、周囲の人間の本性も残酷なほど明確に映し出した。私は裏表のあるマネージャーを即座に解雇し、自らの人生を完全に支配下に置く。ネット上の論争でも数百人を一蹴するほどの知略を手に入れたある日、元恋人の俳優から連絡が入る。既読無視を責める彼に対し、私は冷徹に、そして誠実に告げた。「今の私は、あなたという存在では満足できないほどに賢くなりすぎてしまったの」と。感情に溺れていた過去を捨て、人知を超えたIQを手にした一人の女性が、自らの意志で世界を再構築していく。
離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~ の小説カバー
8.4
高橋美咲は三年間、良き妻、そして良き母として家族に献身的に尽くしてきた。しかし、その懸命な努力の末に待っていたのは、夫による無慈悲な裏切りと、愛する息子からの冷淡な嫌悪だった。夫と息子は美咲の献身を「弱者の立場を悪用して這い上がろうとする狡猾な計算」だと決めつけ、彼女を蔑み続けていた。家庭内に居場所はなく、誤解と疎外感に苛まれる日々に絶望した彼女は、ついに自らの人生を取り戻す決断を下す。冷え切った家を去り、過去と決別して歩み始めた美咲は、束縛から解放されたことで本来の輝きを放ち、圧倒的な存在感を示すようになる。一方で、かつて彼女を無価値な存在として切り捨てた夫と息子は、変貌を遂げた美咲の姿に愕然とし、激しい後悔とともに許しを乞う。しかし、地に膝をつき縋り付く二人に対し、美咲は氷のように冷徹な眼差しを向け、突き放すように言い放った。「……もう、手遅れよ」と。自らの運命を切り拓き、孤高に咲き誇る一人の女性の再起を描いた物語。
見捨てられし愛玩、マフィアの女帝 の小説カバー
9.7
8歳の冬、燃え盛る炎の中から私を救い出した黒崎龍司は、絶大な権力を握る裏社会の支配者だった。それから10年、私は彼を唯一無二の守護者として、神のごとく崇めて生きてきた。しかし、二つの組織を統一するという野望のため、彼は他家との婚約を一方的に発表する。家に連れてこられた婚約者は、周囲の目の前で私に安物の金属製首輪をはめ、「ペット」と呼び捨てて嘲笑った。龍司は私が金属アレルギーであることを知りながら、冷徹な視線でそれを受け入れるよう命じる。その夜、壁越しに聞こえてくる二人の情事の気配に、私は幼い日の約束がすべて偽りだったことを悟った。私は家族ではなく、ただの所有物に過ぎなかったのだ。10年に及ぶ献身的な愛は、絶望の中で完全に灰へと帰した。彼の誕生日、新たな門出を祝う宴の裏で、私は黄金の鳥籠を抜け出す決意をする。用意されたプライベートジェットは、私を真の父親のもとへと運んでいく。それは、龍司にとって最大の宿敵である男だった。
間違えて嫁いだら、社長の愛しさが止まらない の小説カバー
8.5
意地悪な妹が仕掛けた罠によって、謎の男性を救うことになった佐藤夏希。しかし翌日、彼女を待っていたのは、妹の身代わりとして「無能」と蔑まれる男のもとへ嫁げという理不尽な強要だった。恐ろしい形相をしていると噂される結婚相手だったが、目の前に現れたのは、類まれなる美貌を持つあの時の男性だった。高貴な身分を隠し持つ彼は、千億もの莫大な資産を譲渡することを条件に、百日後の離婚を夏希に提案する。やがて約束の日が訪れ、夏希が身を引こうとしたその時、夫である翼は初めて彼女を深く愛している自分に気づく。夏希を失いたくない翼は、どこまでも彼女を追い、壁際に追い詰めると「俺の子供を宿していながら、まだ逃げるつもりか」と切実に訴えかける。離婚は容易くとも、一度離れた心を取り戻すのは命がけの試練。愛に飢えた社長が、最愛の妻を再び手に入れるために執念で追いすがる、波乱に満ちた溺愛劇がいま幕を開ける。
娘の針が貫いた、母の亡骸 の小説カバー
8.0
凄惨な最期を遂げた私の傍らで、娘は姑の夕食作りに余念がなかった。そんな彼女が私に投げつけた最後の言葉は、退院の日を祝うはずの場に相応しくない不吉なことを言うな、という冷酷な拒絶だった。しかし翌日、病院に運び込まれたのは、原型を留めぬほど無残に損なわれ、修復を必要とする一体の遺体だった。娘は、自らの手で一針ずつ丁寧に縫い合わせているその肉塊が、誰であるのかを全く分かっていない。憎悪の対象として疎んじ続けてきた実の母親が、変わり果てた姿で目の前に横たわっているという事実に。皮肉な運命に導かれるようにして、彼女は知らぬ間に母の亡骸を繕い続けていく。母娘の絆が断絶した果てに待ち受けていたのは、あまりにも残酷で救いのない結末だった。自分の手で母を弔うことになるとは夢にも思わず、娘はただ黙々と針を動かし続ける。その指先が貫いているのが、かつて自分を慈しんだ母の肌であるとも知らずに。逃れられない因果が、静かに、そして確実に彼女の心を蝕んでいく。
傷跡が翼に変わるまで ― 偽装結婚からパリへ、私の再生 ― の小説カバー
8.2
兄の親友・礼人へ寄せた8年間の恋心は、あまりに無慈悲な裏切りで幕を閉じた。22歳の誕生日、彼が意中の女性・桃花を射止めるために自分との偽装結婚を画策し、厄介払いしようとしている事実を知る。さらに落下事故の際、彼は迷わず桃花を救い、重傷を負った私を冷たく池へ突き落とした。献身的な愛を利用され、心身共に絶望の淵に立たされた私は、彼への未練を断ち切る決意を固める。九死に一生を得た後、思い出の品を全て捨て去り、再生を懸けてパリへの留学を決意した。これは、かつての執着を脱ぎ捨て、自分のために新たな一歩を踏み出す再生の物語。
今すぐ読む
共有