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六十六回キャンセルされた花嫁 の小説カバー

六十六回キャンセルされた花嫁

今日、私の結婚式は通算六十六回目のキャンセルという最悪の節目を迎えた。原因はいつも同じ。誓いのキスの直前、幼馴染の千結が嘘のアレルギー発作で倒れると、婚約者の直哉は私を祭壇に置き去りにして彼女のもとへ駆けつけたのだ。直哉は私との約束のために克服したはずの高所恐怖症を、実は裏で千結と観覧車に乗って克服しており、私に肌身離さず着けるよう強いたペアネックレスさえ彼女に与えていた。私は外科医になる夢を諦め、胃に穴が開くほど彼に尽くしてきたが、彼の心に私の居場所など最初からなかったのだ。裏切りを知った私は、震える手で六十七回目の式の予約を自ら取り消した。「さようなら、直哉。今度は私があなたを捨てる番よ」私は未練の象徴であるウェディングドレスをゴミ箱に叩きつけ、かつて志した医療の道へ戻ることを決意する。愛に溺れた過去を断ち切り、戦火が渦巻く国際医療援助の最前線へと私は旅立った。
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西村佳代 視点:

直哉の背中が遠ざかっていく. 私の手は, 反射的に彼の腕を掴んでいた.

「直哉, 待って…今回は, 行かないで…」

私の声は, か細く震えていた. 必死だった. 今度こそ, 彼は残ってくれるかもしれない. 一縷の望みをかけて, 私は彼の腕を握りしめた. 直哉は立ち止まり, 私と千結の間で視線を揺らした. その目は, 一瞬だけ迷いの色を浮かべたが, すぐに決意に変わる.

「佳代, すまない. 千結の方が深刻だ. 意識が朦朧としている. 式は中止だ」

直哉の言葉は, まるで冷たいナイフのように私の胸に突き刺さった. 私の手は, 彼の腕から滑り落ちる.

「あいつは東京に身寄りがなく, 頼れるのは俺しかいない. 俺がついていってやらなければ, 誰が助けてやるんだ」

直哉は言い募った. その言葉は, まるで私に言い訳をしているようにも聞こえたが, 彼の決意は固そうだった.

私の両親は, 怒りを押し殺した顔で直哉を睨みつけていた. 友人の千鶴が, 直哉に向けて怒鳴った.

「直哉さん! またですか! 佳代ちゃんの気持ちも考えてください! 」

他の友人たちも, ざわめきながら直哉の無責任な行動を非難する声が聞こえる.

「かわいそうに, 佳代ちゃん…」

ある参列者の声が, はっきりと私の耳に届いた.

「もうこれで何度目だっけ? 彼が式をキャンセルするの」

「いつも佳代ちゃんが後始末してるのよね」

「毎回, こんなに素敵な飾りつけをして…本当に直哉さんのこと, 愛してるのね」

そんな声が, 私の心をさらに締め付けた. 直哉は, 私の手から逃れるように腕を引いた. その顔には, 苛立ちが浮かんでいる.

「佳代, 分かってくれ. アレルギーは命に関わるんだ! 」

彼は半ば怒鳴るように言った. そして, 私を一瞥することなく, 最後にこう付け加えた.

「次の式は, 必ず. 今度こそ, 絶対に」

その言葉は, もう何百回も聞いた空約束だ. 私は心の中で嘲笑した. 今まで, 泣き喚いたり, 懇願したり, 怒鳴りつけたりもした. けれど, 直哉は一度も私の方を向いてくれなかった. もう, 慣れた. 彼は, 決して私を選ばない.

私は, そっと直哉の手を放した. そして, 無理に口角を上げて微笑んだ. 胃の激痛が, 全身を這い上がってくる.

「分かったわ, 直哉. 早く千結ちゃんを連れて行ってあげて」

直哉は, 私の意外な反応に一瞬だけ戸惑ったように見えた. 彼は, 私のあまりに冷静な態度に居心地が悪そうだった.

「佳代, 本当に, すまない. すぐに戻るから」

直哉のその言葉に, 私はただ「うん」と頷くだけだった. 彼は, 私を振り返ることなく, 千結を抱えて教会を去っていった. 私は, 彼の後ろ姿を見つめる. 彼は, もう二度と戻ってこない. そう確信していた.

私の意識は, そこで途切れた. 激しい胃の痛みに耐えきれず, 私はウェディングドレスのまま, その場に倒れ込んだ.

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