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花嫁はひとりきり、愛は戻らない の小説カバー

花嫁はひとりきり、愛は戻らない

桐原千景は、いつか夫に振り向いてもらえる日が来ると信じ、理想の妻として振る舞い続けてきた。しかし、夫である望月颯斗の心には常に別の女性の影があり、千景がどれほど尽くしてもその想いが報われることはなかった。華やかな結婚式の日も、心細い入院生活の間も、彼女は常に孤独の中に置かれ、それでも颯斗への愛だけを唯一の心の支えにして生きてきたのだ。そんなある日、過酷な運命が千景を襲う。医師から余命宣告を受けた彼女は、残された僅かな時間で、彼への執着を捨てて自由になることを決意する。だが、千景の心が自分から離れたことを悟った瞬間、それまで冷徹だった颯斗は豹変し、異常なまでの執念を見せ始める。「今さら遅すぎるの。私はもう、あなたを愛さない」と告げる千景。かつては一途だった純愛が、皮肉にも残酷なすれ違いへと変貌していく。終わりへと向かう二人の関係が辿り着く、衝撃の結末とは。孤独な愛の果てに待つ、切なくも狂おしい現代ラブストーリー。
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望月颯斗は小さくうなずいた。「君の話を聞かせて」

「…二年。 二年後になっても、まだ私たちの関係を世間に公表する気がないなら……その時は、きれいに別れたい。お願い、私に自由をちょうだい」 胸が張り裂けそうになるのを堪えて、桐原千景は一語一語、噛みしめるように言葉を紡いだ。

「……わかった、約束するよ」

だけどなぜだろう、その言葉が彼の心を落ち着かせるどころか、妙な不安をかき立ててくる。

「…ありがとう」

桐原千景は手のひらを強く握り締めた。爪が食い込む痛みが、胸の奥にまでじわじわと染み込んでいくようだった。

二年。それが、彼女が自分に与えた最後の猶予だった。

十五のときから、今年で八年。彼を想い続けてきた。

あと二年経てば、ちょうど十年になる。

十年――それはあまりにも長い年月だ。氷でさえ溶け、石でさえぬくもりを宿す。

もしそのときになっても、颯斗が彼女を愛してくれなかったなら……

彼女は身を引いて、彼を自由にしてあげたいと思っている。

――でも、本当は。そんな日なんて、永遠に来なければいいのに。ずっと彼の妻でいたい。望月夫人として、彼のそばにいられたら、それだけで幸せなのに。

望月颯斗が出勤したばかりの頃、桐原千景のもとに、望月伸子――颯斗のおばあさんから電話がかかってきた。

「千景、今日はお休みなんでしょう?早く帰ってらっしゃい。あなたの好きなご飯を用意させたのよ。今さっき空輸されたばかりで、とっても新鮮なの!」

「はい、すぐ帰ります」

身支度を整えた千景は、急いで望月家へと向かった。

邸宅に着いて車を降りたそのとき、不意に頭がふらついた。

すかさずそばにいた運転手が彼女を支える。「奥さま、お気をつけて。お身体の具合が優れませんか?」

千景はゆっくりと深呼吸をし、意識を整える。「ちょっと急に立ち上がったせいかもしれないわ。昔から少し低血糖気味なの。たぶん大丈夫よ」

最近、どうにも身体の調子が優れない。

思えば、少し前に夜更かしが続いて体を酷使しすぎたのだろう。

結婚を控えた今、しばらくは無理せず養生するべきかもしれない。

リビングに入ると、桐原千景の目にまず映ったのは望月蘭の姿だった。

「お母様」 彼女は丁寧に挨拶する。

だが望月蘭は彼女を快く思っておらず、当然ながら笑顔ひとつ見せない。

一目見るなり、冷ややかな口調で言い放つ。「おばあさまが昼食にって呼んでたのよ。今、何時だと思ってるのよ?」

「ちっとも時間を気にしないなんて!」

桐原千景はうつむいたまま、返す言葉が見つからなかった。

そのとき、不意に手のひらがあたたかくなった。

望月伸子が杖を突きながら、もう一方の手で千景の手をそっと包み込み、望月蘭をやさしく見つめながら言った。「千景はもともと素直な子ですから、きっと何か事情があったのでしょう。気にすることはありませんよ」

「それに、お昼ご飯まではまだ時間がありますし、遅刻にもなりませんわ」

その言葉を聞いた瞬間、千景の目元がじわりと熱くなった。

彼女が生まれたとき、母親はすでに亡くなっていた。手術台の上で命を落としたのだ。

だから、千景は一度も母親のぬくもりを知らずに育った。

あの冷たい父親のことなんて、もうどうでもいい。

桐原千景にとって、本当のぬくもりは、祖父母だけがくれたものだった。

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