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十年間の忍従、復讐の調香師 の小説カバー

十年間の忍従、復讐の調香師

病弱な弟の治療費を工面するため、私は婚約者の三浦翔風から受ける凄惨な虐待に十年間も耐え忍んできた。しかし、節目の婚約十周年パーティーで彼は、私への唯一の贈り物を奪い取り、平然と愛人の首に飾ってみせた。絶望に打ちひしがれる中、追い打ちをかけるように病院から弟の容態急変の知らせが届く。必死に駆けつけようとする私を、彼は「金欲しさの狂言だ」と冷酷に突き放し、部屋に監禁した。ようやく解放されたときには、最愛の弟はすでに帰らぬ人となっていた。たった一人の家族を、彼の非情な仕打ちによって見殺しにされたのだ。長年の忍従は無残に踏みにじられ、心は深い憎悪に塗りつぶされた。全てを失った私の手元に残されたのは、一族に伝わる秘匿された調香レシピと、消えることのない復讐心のみ。数年後、私は正体を隠し、かつての婚約者の前に再び姿を現す。かつて奪われた全てを、今度は彼の人生ごと根こそぎ奪い去るために。香りに秘められた罠が、傲慢な男を破滅の淵へと誘い出す。
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病気の弟のため, 私は10年間, 婚約者・三浦翔風のサンドバッグであり続けた.

婚約10周年のパーティーで, 彼は私の目の前で唯一の贈り物を奪い, 愛人の首にかけようとした.

その夜, 弟の容態が急変したと病院から連絡が入る. しかし彼は「金目当ての芝居だ」と私を部屋に閉じ込めた.

私が解放されたとき, 弟はもう冷たくなっていた.

10年間の忍従は, 彼の非情さによって踏みにじられた. 私のたった一人の家族は, 彼に見殺しにされたのだ.

全てを失った私に残されたのは, 秘密の調香レシピと, 燃え盛る復讐心だけ.

数年後, 私は彼の前に立つ.

「あなたの人生を, 根こそぎ奪ってあげる」

第1章

細川瑞樹 POV:

私は彼の隣に立っていた. ホテルのボールルームはシャンデリアの輝きに満ち, 祝賀ムードに包まれていた. 今日のパーティーは, 私たちの婚約10周年を記念するはずだった.

しかし, 私の心は氷のように冷え切っていた.

「瑞樹, お前は本当に私の顔に泥を塗るのが好きだな」

三浦翔風の声が, 私の耳元で冷たく響いた. 彼の隣には, 小田桐美月というコンパニオンが, まるで彼が所有する絵画のように寄り添っていた. 彼女は, 翔風の初恋の人, 上條苺に瓜二つだった. その存在自体が, 私の今日の役割, 彼のそばに立つ「婚約者」としての私の存在を侵犯していた.

私は顔色一つ変えずに, 彼を見上げた.

「翔風さん, そろそろ終わりにしませんか」

私の声は, 訓練された召使いのように滑らかだった. しかし, その裏には, 10年間抑え込んできた, もうこれ以上は耐えられないという決意が宿っていた.

翔風は目を細め, 鼻で笑った.

「終わり? 何の終わりだ, 瑞樹. また金目当ての芝居か? 」

彼の言葉は, まるで鋭いナイフのように私の胸を突き刺した. 会場に響く楽団の軽やかな音楽が, その痛みを嘲笑っているようだった.

「そうだな, お前はいつもそうだ. 俺にすがりついて, 金をむしり取ることしか考えていない」

翔風の視線が, 私から美月へと移った. 彼は美月の肩を抱き寄せ, 耳元で何か囁いた. 美月は甘えるように微笑み, 私にちらりと挑発的な視線を送った. 会場のざわめきが, まるで私の耳の中で渦巻く嘲笑の声のように聞こえた.

翔風は私を再び睨みつけた.

「お前はあの女と同じだ. 俺の人生を台無しにした. お前が俺の初恋を奪い, イチゴの声を奪ったんだ! 」

彼の指が私の腕を掴んだ. その力は, 骨が軋むほどの強さだった. まるで私が, 彼が信じる「罪」の象徴であるかのように. 痛みが走ったが, 私は表情を変えなかった.

「お前の弟が, 今も生きているのは誰のおかげだと思ってる? 俺だ. 俺の金がなければ, あの疫病神はとっくに死んでる」

彼は私の痛みを確かめるように, さらに指に力を込めた. 私の弟, 結子の顔が脳裏をよぎる. 弟の治療費. それだけが, この10年間, 私がここに留まる唯一の理由だった.

私は沈黙した. 言葉を発すれば, それがさらなる侮辱の燃料になることを知っていたからだ. 私の沈黙は, 彼の怒りをさらに煽った.

「黙りやがって. 図星か? 悔しいか? それが, お前が俺にしたことの報いだ」

彼は, 私の沈黙を罪の自白と解釈した. 彼の心の中では, 私は常に悪女であり, 彼はその被害者だった.

美月が, ふいに私の腕に触れた.

「瑞樹さん, 大丈夫ですか? 翔風様も, いつも瑞樹さんのことを心配していらっしゃるんですから... 」

彼女の声は, 蜜のように甘く, しかしその裏には隠しきれない優越感が滲み出ていた. まるで, 私が翔風の愛を失った哀れな女であると, 公衆の面前で晒し上げるかのように.

翔風は, 私の首元に光るサファイアのネックレスに気づいた. それは, 私が数年前に, 彼が私に買ってくれた唯一のプレゼントだった. 普段は身につけないが, 今日は彼のパーティーだからと, あえて選んだものだ.

「おい, 瑞樹. そのネックレス, 美月によく似合うんじゃないか? 」

彼は美月を見ながら言った. 美月は嬉しそうに目を輝かせた.

「え, 私にですか? そんな, 恐れ多いです... 」

美月は遠慮がちに言ったが, その視線はすでに私の首元のネックレスに釘付けだった.

翔風は私の腕を掴んだまま, 強引にネックレスに手を伸ばした.

「いいから, 外せ. お前には過ぎたものだ」

私の意識は, 一瞬にして凍りついた. ネックレスは, 私にとって唯一の, 彼からの「贈り物」だった. それが, 今, 目の前で, 別の女に与えられようとしている.

私は抵抗しなかった. ただ, 目の前の男の, 底知れぬ残忍さに, 私の心はさらに深く沈んでいくのを感じた. 私は彼の指がネックレスの留め具に触れるのを, まるで他人事のように見つめていた.

「瑞樹さん, 早く. 翔風様がおっしゃっているんだから」

美月が急かすように言った. 彼女の顔には, 勝利の笑みが浮かんでいた.

私はゆっくりと, 自分の手でネックレスの留め具を外した. 冷たいサファイアが, 私の指先から離れていく. 私の手から外されたネックレスは, 翔風の手の中に収まった.

彼はそれを, 美月の首にかけようとした.

その瞬間, 私の頭の中で何かが弾けた.

私は, 自分の身につけていたドレスの裾を掴んだ. それは, 私がこのパーティーのために, 自分を奮い立たせて選んだ, 唯一の「私」を象徴するドレスだった.

そして, 私は, そのドレスを, 一気に引き裂いた.

メリメリと音を立てて, シルクの生地が破れる. 私の肌が, 会場の明かりの下に晒された. 胸元から太ももまで, 大胆に開いたドレスは, もはや見る影もなかった.

会場は, 一瞬にして静まり返った. 楽団の演奏も止まった.

誰もが, 私の突然の行動に息をのんでいた. 驚愕, 困惑, そして, 隠しきれない嘲笑の視線が, 私に突き刺さる.

翔風は怒りに顔を歪めた.

「何を, しているんだ, 瑞樹! 」

彼は私の手首を掴み, 私を強く突き飛ばした. 私はバランスを崩し, テーブルの角に背中を打ち付けた. 鋭い痛みが走り, 呼吸が止まる. ワイングラスが倒れ, 赤ワインが私の破れたドレスの上に, 血のように広がった.

背中の痛みよりも, 私の心はもっと冷え切っていた.

ああ, これでいい. もう, 何も感じない.

私はゆっくりと立ち上がった. 破れたドレスのまま, 私は会場の中央に立っていた. 膝から血が滲み出ているのを感じたが, それすらも, 私にとってはどうでもよかった.

周囲から, 囁くような声が聞こえてくる.

「何アレ…」

「細川さん, ついに壊れたのかしら」

「可哀想に, でも自業自得よ」

嘲笑と, わずかな憐憫が混じり合った視線が, 私に向けられていた. しかし, 私はもう, 何も気にしなかった. 彼らの言葉も, 視線も, 私の心には届かなかった.

10年.

この10年間, 私はただ, 弟のために耐え忍んできた. 彼の命が, 翔風の手に握られている限り, 私は彼の意のままに操られる人形だった.

しかし, もうすぐ. もうすぐ, その鎖は断ち切られる.

私の貯めた資金と, 誰にも明かしていない, 私の唯一の才能.

調香師としての処方箋.

それだけがあれば, 私はもう, 誰にも縛られない. 私は, 翔風を見据えた. 彼の瞳には, 怒りと困惑が入り混じっていた. 彼はまだ, 私の心の奥底で, 完璧な計画が進行していることなど, 知る由もなかった.

私の心は, 完全に壊れた. しかし, その破片の一つ一つが, 新たな決意の刃となる.

今夜, 私はこの地獄から, 完全に姿を消すだろう.

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