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不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった! の小説カバー

不治判決の御曹司婚約者のメス、赤い糸に変わっちゃった!

田舎の無名な医師と侮られる竹内汐月には、伝説の外科医「ゴッドハンド」という裏の顔があった。三年前の雨夜、財閥の御曹司・清水晟暉を救った彼女は、彼にとって唯一無二の救済者となる。しかし三年後、悲惨な事故が晟暉を襲い、彼は記憶と両脚の自由を失ってしまう。絶望の淵で性格まで歪んでしまった彼を救うため、汐月は自ら婚姻届にサインし、彼の妻として向き合う決意を固めた。「愛することなどない」と冷淡に拒絶する晟暉に対し、彼女は不敵に微笑みながら、リハビリという名の下で彼を翻弄していく。昼は車椅子を押し、夜はリハビリ台で彼の心拍を激しく揺さぶる日々。彼女の献身的な治療と情熱に、閉ざされていた彼の心は次第に溶かされていく。やがて完治した脚で立ち上がった晟暉は、彼女を力強く抱き寄せた。次は自身の「恋の病」を治してほしいと囁きながら。最高峰の医術を持つ女医と記憶を失った御曹司が織りなす、一途で熱烈なラブストーリー。誤解を恐れぬ二人の最強タッグが、運命の赤い糸を固く結び直していく。
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三月の北央市は、立て続けに報じられたいくつかのニュースに揺れていた。

一つは、市随一の富豪である清水家の長男、清水晟暉が交通事故で下半身不随の身となったこと。

そしてもう一つは、その名門・清水家が、成り上がりの竹内家と縁談を結んだという報せ。

さらに、この縁談の当事者こそが、人々の憶測を掻き立てていた。

一方は、事故で未来を断たれ、下半身不随となった清水晟暉。

もう一方は、竹内家が「田舎に預けていた」という名の、忘れられた長女。

その頃、世間の噂の中心にいる竹内汐月は、まだ静かな田舎町にいた。

居間で静かに座っていると、携帯電話がメッセージの着信を告げた。

画面に目を落とせば、アシスタントからの連絡だった。

「先生、少々特殊な症例の患者様が、半年ほど前から先生の診察を心待ちにしておられます。 もしご都合がつけば、一度診てはいただけませんでしょうか?」

白く細い指が、ためらいなく電源ボタンを長押しし、画面の光を闇に沈めた。 うつむいた拍子に、その透き通るような瞳からふっと光が消え、言いようのない哀しみが影を落とした。

たとえ「鬼医の手」と称され、世界的な名医であろうと、それが何になるというのか。

自分は、たった一人の祖母さえ救えなかった。 メスを握る覚悟を決めた時には、祖母はもう待ってくれなかったのだ。

背後の寝室からは、両親の口論が漏れ聞こえてくる。 田舎の家の壁は、都会のそれよりずっと薄い。

「奈美!いい加減にしろ!母さんが亡くなって、葬式が終わったばかりなんだぞ。 もう帰るだなんて、騒ぐんじゃない!」

「泰輝!会社には仕事が山積みで、優桜の成人式も控えているのよ!死んだ人間より、生きている人間のことの方が大事でしょう! あの子を早く連れ帰って、都会の常識を叩き込まないと。あんな田舎娘が清水家に嫁いだら、竹内家の恥になるわ!」

「奈美、さっきから田舎娘、田舎娘と……あの子だってお前の腹を痛めた娘だろうが!」

「実の娘じゃなきゃ、わざわざこんな所まで迎えに来るもんですか」竹内奈美は鼻で嗤う。

“……”

母親の嘲笑に、汐月もまた唇の端を歪めて自嘲の息を漏らす。

――これが、血の繋がった実の両親。そんな両親との記憶を、汐月は静かにたどる。

もとはごく普通のサラリーマンだった両親は、裸一貫で事業を興し、一歩ずつ成功への階段を上ってきた。

事業の初期段階で子育てに割く時間などあるはずもなく、汐月は生後一ヶ月で祖母の元へ預けられた。

それでも、以前はまだ両親の愛情を感じられた。 多忙な合間を縫っては、気にかけてくれることもあった。

すべてが変わってしまったのは、いつからだったか。

事業が軌道に乗り、会社を設立し、そして汐月が七歳の時に妹が生まれた。

その日を境に、両親の関心は急速に汐月から離れていった。 一方で、竹内家の事業はうなぎ登りに拡大し、やがて名家と呼ばれるまでになった。

たまに母からかかってくる電話は、決まって妹がいかに家の「福の星」であるかの自慢話ばかり。 汐月の学業や健康を気遣う言葉は、一言もなかった。

まるで、幸運をもたらす娘が自分たちにはいるのだと、世間に知らしめるためだけの道具のように。

妹が三歳の時、一度だけ両親が帰省したことがある。

その時、父が祖母と汐月を北央市に引き取ろうと提案したが、母の浮かべる笑顔がひどく強張っていたのを、汐月は見ていた。

母が父に何を吹き込んだのかは知らない。 結局、父が二人を連れて行くことはなかった。

実家に戻った母は再び身ごもり、今度は弟が生まれた。

それ以来、あの夫婦の関心は完全に二人の子供へと注がれた。 仕送りこそ途絶えなかったが、十五年間、一度として顔を見せることはなかった。

祖母が逝かなければ、あの夫婦は自分たちに母親がおり、そしてもう一人娘がいたことすら、記憶の底に沈めたままだったのかもしれない。

*

祖母の葬儀を終えると、汐月は両親と共に北央市へ向かうことになった。

両親はしきりに北央市へ来るよう求め、その言葉はどこまでも懇切で、まるで心の底から娘を案じているかのようだった。

彼らの魂胆など、汐月にはお見通しだった。 北央市のニュースは、ネットで検索すればすぐに出てくるのだから。

北央市の邸宅に到着する直前、後部座席の汐月に奈美が声をかけた。

「汐月、いいこと?誰かに大学を聞かれたら、『景原市医科大の修士課程を修了して、これから研修医になるところです』と答えなさい」

奈美は、娘が碧山町という山間の田舎町で、小さな診療所の手伝いでもしているのだろうと高を括っていた。

大学にも行かずに、そこの医者から見よう見まねで医術を学んだ程度だろう、と。

祖母が何度か「汐月は医学の道に進んだ」と口にするのを聞いて、勝手にそう決めつけていたのだ。

景原市医科大学は、全国屈指の名門。 そう言わせるのも、ひとえに自分の面子のため。

竹内家の娘が田舎の医者見習いなどと知られれば、物笑いの種になる。 その言葉に、汐月は内心で鼻白んだ。

母、竹内奈美は見栄と虚飾の塊だ。 そして、娘のことなど何一つ理解しようとしない。

何を隠そう、その景原市医科大学から、一ヶ月前に学生への講演依頼が届いたばかりだというのに。

母親でありながら、娘の学業に一度も関心を示さず、病気で主要二科目を欠席し合計点が低かったというだけで、大学には到底受からないと決めつけた。

祖母が電話口で名門校合格の吉報を伝えようとしても、「仕事が忙しい」の一言で無下に電話を切った。

彼らが関心を示さないのなら、と祖母も汐月も、いつしか共有することを諦めてしまった。

汐月は母を一瞥し、冷ややかに答えた。 「私は、景原市医科大の学生ではありません」

その融通の利かない返答に、奈美は苛立ちを隠せない。 まるで木偶の坊だ。

もちろん、娘が景原市医科大の学生でないことくらい承知している。 本当にそうなら、嘘をつかせる必要もない。

大した能もないくせに意地っ張りで、口にするのも恥ずかしい。 それに引き換え、優桜は。

容姿こそこの姉には一歩譲るが、出来は比べ物にならない。

奈美が何か言おうと口を開きかけたが、前の席から泰輝の咳払いが聞こえ、ぐっと言葉を飲み込んだ。

仕事の話はさておき、と奈美は掌中の珠である末娘に思いを馳せ、その声に甘い響きが混じる。

「そうそう、優桜は少し甘やかして育てたから、わがままなところがあるの。 あなたが姉さんとして譲ってあげてね。 あの子の機嫌を損ねたら、ご飯も食べなくなるんだから」

汐月は馬鹿馬鹿しいと思った。 もうすぐ十八にもなろうというのに、分別もつかないとは。 確かに、甘やかされすぎている。

言葉が終わるか終わらないかのうちに、車は豪奢な邸宅の門前に滑り込んだ。

汐月が先に車を降りる。

そこへ、制服姿の少女が駆け寄ってきた。 竹内優桜だ。

「パパ、ママ!やっと帰ってきたのね!」

汐月を見るなり、優桜の弾んだ声がふと途切れ、値踏みするような視線が注がれる。

汐月は、シンプルなオフホワイトのパーカーに淡い黄色のカジュアルパンツ、足元は白いスニーカーという出で立ちだった。

ごくありふれた服装だが、彼女の整いすぎた顔立ちと、透き通るような肌の白さが、清らかな気品を醸し出していた。

とても長い間、田舎で暮らしてきた人間には見えない。

この人が、竹内汐月。 自分と同じ父母から生まれながら、一度も共に暮らしたことのない姉。

北央市で常に「お嬢様」として蝶よ花よと育てられてきた優桜の胸に。

汐月の突然の帰宅は、名状しがたい不快感を広げた。

「まあ、優桜!心配したじゃないの。 こんな薄着で飛び出してきて、風邪をひくわよ」

優桜が薄いTシャツ一枚しか着ていないのを見て、奈美は見るなり慌てて自分の上衣を脱ぎ、その肩にかけてやる。

優桜は嬉しそうに母の腕にじゃれついた。 「えへへ、ママ、全然寒くないよ」

母と娘が睦まじく笑いさざめきながら家に入っていく。

その光景に、初めてこの家を訪れた長女の存在など、とうに意識の外だった。

その途中、優桜が一度だけ振り返り、意味ありげな視線を汐月に投げかけた。

泰輝もまた愛娘の姿に顔をほころばせ、つい口を滑らせて汐月に紹介する。

「あれがお前の妹の優桜だ。 とても優秀でな、大学入試の成績も良かった。 もう景原市医科大学の合格通知も受け取っているんだ……」

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