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春はあけぼの の小説カバー

春はあけぼの

在位二年目を迎えた領主・宗明は、窮地に立たされていた。弟に恋心を抱く妻の佳枝が、宗明は酒色と女色に溺れていると実父である国主に虚偽の進言をしたのだ。これを受けた国主により退位を命じられた宗明は、無用な争いを避けるため、世間の噂を逆手に取って隠居生活を送る決意をする。彼は身分を問わず美しい女を屋敷に集めるよう通達を出した。一方、貧困に喘ぐ春吉の家族は、類まれなる美貌を持つ姉の園を宗明の元へ送り出そうとする。しかし、見分に訪れた宗明が心を奪われたのは、姉ではなく弟の春吉であった。宗明は春吉の家族全員を召し抱える代わりに、春吉に姉の身代わりとなって寝所へ上がるよう命じる。女装して園として振る舞いながらも、宗明と過ごす時間に戸惑いを隠せない春吉。偽りの関係から始まった二人だったが、共に過ごすうちに春吉もまた、宗明という人物に強く惹かれていく自分を自覚し始める。運命に翻弄される二人の、密やかで危うい恋の行方を描いた物語。
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「はっ、いや、それは」

「なんだ。女も酒も、嫌いではないだろう」

返答しかねるように目をさまよわせる隆敏を眺めながら、自らの発言に「それも良い案だ」と宗明は胸中で頷いた。

「よし、では領内に通達をせよ」

「何を、で御座いますか」

「見目麗しき娘なら、身分を問わずに買い上げる、と。隠居屋敷に仕える者を雇わねば。下男など、信用の置ける者も集めねばならんな。この屋敷で働いている者はそっくり、成明に引き継がれるのだから」

はっとした隆敏が、平頭する。

「承知、致しました」

頷き、目を窓の外に向ける。ぽかりと浮かんだ月は、欠け始めていた。

――佳枝。

自分の妻であり、国主の末娘であり、成明に想いを寄せる娘の名を、姿を、宗明は月に浮かべた。

***

通達があってからほどなくして、宗明の隠居屋敷は完成した。監視下に置くためということか、領主屋敷より馬で半日、という立地に移動した宗明は隆敏と共に移り住んだ。華美ではなく、かといって質素でもないそこには、見目麗しき娘を中心とした下女がそろい、下男もそれに見合うようなものが揃えられていた。

「なるほど。これなら色に溺れたとの噂も、立ちそうなものだな」

立ち働く者たちの姿を眺めながら、裏庭の山水に床几を置き、茶を飲む宗明の安穏とした口調に隆敏が目を細める。

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