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春はあけぼの の小説カバー

春はあけぼの

在位二年目を迎えた領主・宗明は、窮地に立たされていた。弟に恋心を抱く妻の佳枝が、宗明は酒色と女色に溺れていると実父である国主に虚偽の進言をしたのだ。これを受けた国主により退位を命じられた宗明は、無用な争いを避けるため、世間の噂を逆手に取って隠居生活を送る決意をする。彼は身分を問わず美しい女を屋敷に集めるよう通達を出した。一方、貧困に喘ぐ春吉の家族は、類まれなる美貌を持つ姉の園を宗明の元へ送り出そうとする。しかし、見分に訪れた宗明が心を奪われたのは、姉ではなく弟の春吉であった。宗明は春吉の家族全員を召し抱える代わりに、春吉に姉の身代わりとなって寝所へ上がるよう命じる。女装して園として振る舞いながらも、宗明と過ごす時間に戸惑いを隠せない春吉。偽りの関係から始まった二人だったが、共に過ごすうちに春吉もまた、宗明という人物に強く惹かれていく自分を自覚し始める。運命に翻弄される二人の、密やかで危うい恋の行方を描いた物語。
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「どうだ、隆敏。好みの女が居るなら、手をつけてもかまわぬぞ」

「はっ。……え、あ、いや」

「どうした。居るのか」

「そ、そのような事は――」

ふふ、と口角を上げる宗明と、酒をくらったような顔の隆敏の側に、おとないを告げる声が届いた。

「兄思いの弟が、隠居祝いに来てくれたようだな」

「何かの罠やもしれません」

「はは。心配性だな隆敏は。人払いをして、奥の間へ通してくれ」

迎える部屋に足を向けた宗明に、隆敏は心配そうな顔で頭を下げた。

***

従者を別の部屋に待たせ、成明は一人、宗明と隆敏の待つ部屋へ入ってきた。襖を閉めたとたんに肩の力を抜いた成明は、肩に手を置きほぐすような仕草をしながら胡坐をかいた。

「まったく、何故このようなことになったのか」

「もともと、領主にはおまえのほうが向いていると思っていた。私はかまわんよ」

「堅苦しいのは、苦手なんだって」

二人の様子に、隆敏が苦い顔をする。

「すまんな、隆敏。こんなことになって」

「いえ」

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