
冷酷な夫と七ヶ月の命
章 2
藤野結菜 POV:
麻里世は順調に回復し, あっという間に退院した. 私の魂は, 翔斗のそばに縛り付けられたまま, 彼の一挙手一投足を見つめるしかなかった. 彼は麻里世のために, 都心の一等地に豪華なマンションを購入した. 私と住んでいた家とは比べ物にならない, きらびやかで広々とした空間だった. 私の心は, 冷たい鉛のように沈んだ.
数日後, 翔斗は麻里世の快気祝いと称して, 都内の一流ホテルで盛大なパーティーを開いた. 会場は, 高級なシャンデリアが輝き, 華やかなドレスをまとった人々でごった返していた. 私と翔斗の結婚式よりも, ずっと豪華で盛大なパーティーだった. 私は, ただその場に立ち尽くし, 冷たい傍観者として, その光景を眺めていた.
麻里世は, パールの輝く白いドレスを身につけ, 翔斗の隣で最高の笑顔を振りまいていた. 彼女は, 翔斗の腕に寄り添い, 二人はまるで絵に描いたような恋人同士だった. 私の胸は, 凍りつくような冷たさに襲われた. 彼らは, 私という存在が, まるで最初からいなかったかのように振る舞っていた.
「ねぇ, 西岡社長と白鳥さん, 本当に絵になるわね」
「結菜さんのことは, もう完全に過去の人って感じね」
「可哀想に, あんなに尽くしていたのに」
周囲の囁きが, 私の耳に届いた. 彼らは, 翔斗と麻里世の関係を公然と噂し, 私の存在を嘲笑うかのように話していた.
麻里世は, 周囲の視線と噂話に気づいたようだった. 彼女は, 翔斗の腕を少し離し, わざとらしく不安そうな表情を浮かべた. 「翔斗さん…結菜さん, まだ見えていないけれど, 大丈夫かしら? 私, 少し心配だわ」彼女の声は, まるで私を気遣っているかのように聞こえたが, その瞳の奥には, 冷たい嘲笑が宿っていた.
翔斗は, 麻里世の言葉に眉をひそめた. 彼は, 苛立ったように言った. 「麻里世, あの女のことは放っておけ. どうせ嫉妬して, どこかに隠れているんだろう. 僕が君をこんなに愛しているのに, まだ理解できない愚かな女だ」彼の言葉は, 私の心を深く切り裂いた. 彼は私を, 嫉妬に狂った愚かな女と決めつけていた.
翔斗は, 会場に響き渡る声で宣言した. 「皆, 聞いてくれ. 今日, この場を借りて, 改めて宣言する. 僕が愛しているのは, 白鳥麻里世, ただ一人だ. 彼女こそ, 僕が一生をかけて守るべき人だ」彼の言葉は, まるで鋭いナイフのように, 私の魂を貫いた. 彼の声は, 私の心臓を凍らせ, 私の存在を完全に否定した.
「もうあの女のことなど, 口にするな! この聖なる夜に, あの女の影を落とす奴は, このパーティーから出て行け! 」翔斗は, 怒りに満ちた声で叫んだ. 彼の言葉は, 私を「あの女」と呼び, 私の存在を徹底的に貶めた. 会場の空気は, 一瞬にして凍りつき, 誰もが沈黙した.
翔斗の瞳の奥には, 深い闇が潜んでいた. それは, 彼が見せることのなかった, 冷酷で残酷な感情の塊だった. 私は, 彼のその瞳を見た瞬間, 彼が私を, 本当に憎んでいたことを理解した. 私は, 彼にとって, ただの道具でしかなかったのだ.
私は, 彼にとっての「本命」ではなかった. 私は麻里世の代わりでしかなかった. 彼の優しい言葉も, 彼との結婚も, 全てが偽りだった. 私は, ただ彼の都合の良い存在として利用されただけだった. その事実に, 私の心の奥底から, 深い悲しみが込み上げてきた.
私は幼い頃から, 翔斗に憧れていた. 孤児院を訪れる彼の姿は, 私にとっての王子様だった. 私は, 彼を一心に愛し, 彼のためなら何でもできると信じていた. 彼の笑顔は, 私の心を温かく照らし, 彼の言葉は, 私の心を希望で満たした.
しかし, 彼が出会った「真実の愛」は麻里世だった. 麻里世が彼の世界に現れた瞬間から, 私の愛は, 一方通行の, 報われないものへと変わっていった. 私は, 彼のそばにいることさえ許されない, ただの傍観者になってしまった.
麻里世が病気で海外へ留学した時, 翔斗はひどく落ち込んだ. その時, たまたま起こった事故で翔斗は怪我を負った. 私は, 彼を必死で看病し, 彼のそばに寄り添った. 彼が少しでも笑顔になってくれるなら, 私はどんなことでもしたかった.
翔斗は, その時, 私に言った. 「結菜, 君は僕にとって, 大切な存在だよ. これからは, ずっと優しくするから」彼の言葉は, 私にとっての希望の光だった. 私は, 彼の言葉を信じた. そして, 彼から結婚を申し込まれた時, 私は夢を見ているかのような気持ちだった.
結婚後, 翔斗は私を大切にしてくれた. 彼は, 世間には模範的な夫として振る舞い, 私たちは理想の夫婦として知られるようになった. 私は, このまま幸せな家庭を築けるかもしれないと, 淡い期待を抱いた.
しかし, 麻里世が帰国したことで, その平穏は打ち破られた. 彼女は, 翔斗に「病気で留学していた」と告げた. その言葉は, まるで私という存在を否定するかのように, 私の心に深く突き刺さった.
翔斗は, 麻里世が帰ってきてから, 家に帰るのが遅くなった. 彼の心は, 完全に麻里世へと向かっていた. 夜遅くに帰ってきても, 彼は私に話しかけることもなく, ただ麻里世のことばかりを話していた. 私は, 彼の心が, 私から完全に離れてしまったことを痛感した.
それでも, 私は彼がいつか, 私のもとに戻ってきてくれると信じていた. 彼の中に, 私への愛が, 少しでも残っていると信じたかった. 私は, 彼の言葉に耳を傾け, 彼の心を繋ぎ止めようと必死だった. しかし, その希望は, 残酷な現実によって, 無慈悲に打ち砕かれてしまった.
そして, 私は手術台の上で, 私の人生を終えた.
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