フォローする
共有
初恋相手を選んだ夫に、この双子の存在は絶対に教えません の小説カバー

初恋相手を選んだ夫に、この双子の存在は絶対に教えません

望月結衣は大塚英志の妻として、彼の意向を最優先に考え献身的に尽くす日々を送っていた。しかし、いつか彼から別れを切り出される日が来ることを、彼女は覚悟していた。その予想はあまりにも早く現実となる。英志が長年想い続けてきた初恋の女性・坂本真綾が帰国した途端、彼は待っていたと言わんばかりに離婚届を突きつけたのだ。絶望に打ちひしがれた結衣は、静かに彼の前から姿を消した。それから四年後。結衣は愛らしい男女の双子を連れて、かつての街へと戻ってくる。元夫に見つからぬよう細心の注意を払って生活していたが、運命の悪戯か、二人は再び再会を果たしてしまう。血走った瞳で彼女を追い詰めた英志は、必死な様子で「俺のもとへ戻ってほしい。その子供たちは、俺の実子として責任を持って育てるから」と懇願するのだった。そんな彼の言葉を聞いた双子たちは、呆れ果てた視線を送る。なぜなら、自分たちの容姿は鏡を見るまでもなく、目の前にいる父親候補と瓜二つだったからだ。初恋相手を選んだ夫に、双子の真実を隠し通そうとする結衣の物語が幕を開ける。
共有

2

結衣が個室に戻ると、そこには広瀬翼が一人、大塚英志のそばに付き添っていた。

他の三人の姿は、すでになかった。

「翼、遅くなってごめんね」

ドアを押し開けて入ってきた結衣の顔から、涙の痕は完全に消えていた。

「義姉さん、遅くないっすよ!あの三人はもう帰りましたし。俺、今夜ちょっと約束があるんで、悪いんですけど兄貴を家まで連れて帰ってもらえませんか?」

翼はにこやかに結衣を見つめたが、その視線はどこか泳いでいた。

先ほどの個室での会話がまだ頭の中をぐるぐる回っていて、義姉さんに何か言うべきかどうか迷っているのがわかった。

だが結局、彼は口を閉ざした。

和哉言う通りだ。これは兄貴と義姉さんの問題で、自分が余計なことを言うべきじゃない。

「どうしてこんなに飲んだの? このままじゃ、また胃が荒れるわよ」

結衣は英志の前まで歩み寄り、その整った彫りの深い寝顔を見下ろした。心配の言葉が、抑えきれずに漏れた。

「あー……たぶん、俺たち五人、久々に集まったからつい。義姉さん、次は絶対に兄貴を見張ってますから、酒なんて飲ませませんんで!」

翼は頭をかきながら、その場しのぎの言い訳をでっち上げた。

結衣は黙ったまま、眠る英志の横顔をじっと見つめ続けた。長い、長い沈黙だった。

「あの……義姉さん、車は? 兄貴の車、運転できます?」

翼はそう言うと、手に持っていた車のキーを結衣に差し出した。

結衣はうつむいたまま、小さな声で言った。「車じゃ来てないの」

宵ノ宮会館まではタクシーで飛んできた。少しでも早く、あの嬉しい知らせを英志に伝えたくて。でも今思えば、それが何て滑稽だったか。

結衣がキーを受け取るのを見て、翼は素早く言った。「じゃあ俺、兄貴を車まで運びます!」

「ええ、ありがとう」

英志は背が高く体格もいい。翼の助けがなければ、結衣一人で車に乗せるのは難しかっただろう。

「義姉さん、そんじぁ!」

結衣は運転席に座り、翼に軽く会釈をすると、車を走らせた。

結衣が運転免許を取ったのは、英志と結婚してからだ。取ってからもほとんど運転したことはなく、ましてや英志のこんな大きな車は初めてだった。だから、一路、彼女は神経を尖らせてハンドルを握っていた。後部座席の男が目を開けていることには、まったく気づかなかった。

実は、結衣が個室に入ってきた時には、彼はもう目を覚ましていた。ただ、何も言わず、翼と結衣に車まで運ばれるままになっていたのだ。

今夜は確かに、少し感情的になりすぎた。

昼間、坂本紗也から電話があったからだ。

『英志、明日飛行機が着くの。迎えに来てくれない?』

懐かしい声が電話の向こうから聞こえてきた瞬間、英志の呼吸は一瞬止まった。そして、低い声で断った。

『俺はもう結婚した』

そう言って電話を切ったが、気持ちの整理はつかず、夜になって翼たちとつい飲みすぎてしまった。

二年前、彼は意気揚々と、恋人だった紗也のために、街中を巻き込むようなプロポーズを準備した。だが彼女は現れなかった。電話一本で、ダンスの夢を追いかけると告げただけだった。

あの日、彼は一面の花畑に一人立ち尽くし、汐見市中で一番の笑い者になった。

そして次の日、祖父に押し切られる形で、望月結衣と結婚した。

あの時は感情が高ぶったまま、衝動的に婚姻届を出した。二年経って、坂本紗也のことは忘れたと思っていた。なのに、なぜ彼女からの電話一本で、こんなにも心が乱れるのだろうか。

家に着いて、結衣はようやく英志が起きていることに気づいた。

彼女は彼を見て言った。「起きてたの?降りて歩ける?」

「ああ」

英志は短く答えたが、アルコールのせいか、まだ少しふらついているようだった。

結衣は体をかがめて彼を支え、車から降ろした。

英志はそのまま結衣に寄りかかってきた。彼女から香る、いつものミントの爽やかな香りが、一瞬だけ酔いを覚まさせる。

二人で屋敷に入ると、結衣は慎重に彼をソファに座らせ、自分は台所へ向かい、酔い覚ましの茶を入れに行った。

英志はソファに背を預け、結衣の後ろ姿をぼんやりと見つめていた。

間もなく、結衣が酔い覚ましのお茶を持って戻ってきた。ちょうど、眉間に深い皺を寄せた英志が目に入った

「これ、飲んで」

結衣は茶を差し出した。

英志はそれを受け取ると、一気に飲み干し、顔を上げて結衣を見た。彼女はその場に立ちすくみ、微動だにしなかった。

「何か用か?」

突然の問いかけに、結衣の表情がわずかに揺らいだ。

(何を考えてたんだろう……今、子供のことを話せば、もしかしたらって……?) ばかばかしい。二人の契約は、もうすぐ切れるのに。余計な波風なんて、立てるべきじゃない。

無意識に、結衣は嘘をついた。

「ええと……今日、おじい様から電話があって、時間があるときに顔を見せてほしいって」

「わかった。明日、一緒に本家へ行こう」

「……うん」

おすすめの作品

離婚したら財閥令嬢に戻りました の小説カバー
8.5
名門財閥の正当な後継者である彼女は、一途な情熱を捧げた七年間の結婚生活に終止符を打つ決断を下した。かつて彼女は、父親の猛反対を押し切り、家族との縁を断絶してまで養子の兄との愛を貫いたはずだった。しかし、現実は残酷だった。翌日、彼女は意を決して父に電話を入れ、自らの過ちを認める。「お父様の言った通り、許されない恋に幸福は訪れなかった。離婚して家業を継ぐために戻ります」。突然の告白に絶句する父に対し、彼女は冷徹な笑みを浮かべながらも、心の奥底で疼く痛みを感じていた。夫にとって自分は愛の対象ではなく、彼女が彼の最も大切なものを壊してしまったことで、すべては幻想だったと悟ったのだ。これまでの歳月は、自分だけが盲信していた一方的な片思いに過ぎなかった。離婚の手続きに伴う冷却期間が過ぎれば、彼女はかつての令嬢としての身分を取り戻し、一族のもとへ帰還する。愛に破れたヒロインが、財閥の令嬢として再起を図る波乱の物語が幕を開ける。
さようなら、価値を見抜けなかった妻へ の小説カバー
9.0
献身的に尽くした二年間、妻である柳瀬真理亜の冷淡な態度は変わることはなかった。「あなたには百万ドルの価値すらない」という非情な言葉と共に突きつけられた離婚届。しかし、神代無双はその絶望的な宣告を、静かな微笑みと共に受け入れた。彼にとってその瞬間は、平穏な日常を装うために封印していた真の姿を解き放つ合図に過ぎなかったのだ。音楽界に革命をもたらす異才、医学の常識を覆す天才、そして武術界に名を刻む伝説の体現者。隠し持っていた圧倒的な才能を次々と開花させていく無双の姿は、瞬く間に世界中を驚愕の渦へと巻き込んでいく。かつて彼を無能だと見下し、蔑んでいた人々は、そのあまりの変貌ぶりに激しい後悔と動揺を隠せない。変わり果てた元夫の輝きを目の当たりにし、真理亜は「そんな人だとは知らなかった」と涙ながらに縋り付くが、彼の視線が再び彼女へと向けられることはない。偽りの愛を捨て去り、己の力で新たな頂点へと駆け上がる男の、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
彼が選んだのは元カノ、私は復讐 の小説カバー
8.1
黒澤蓮司との結婚式当日、私は最悪の裏切りに遭った。彼は元恋人・詩織が事故で記憶喪失になったことを理由に式を中止し、あろうことか公衆の面前で私を「兄の女」だと偽り、辱めたのだ。詩織の献身的な恋人を演じる蓮司は、私を「客」として屋敷に留め置き、彼女を溺愛する姿を見せつけながら、回復後の結婚を約束し続ける。しかし、私は彼の残酷な本性を知る。蓮司は彼女の記憶を取り戻す薬を隠し持ち、最愛の人との二度目の恋を愉しんでいたに過ぎなかった。私が逃げないと高を括り、部下には二人とも手に入れると豪語する彼に対し、私の心は復讐の炎に包まれる。彼が私を兄の女だと偽ったのなら、その嘘を現実に変えてやる。私は一族の真の支配者であり、組長である黒澤龍征の執務室の扉を叩いた。弟に蔑まれた女としてではなく、彼を破滅させるための最良の手段として、龍征に自分との結婚を申し出る。愛を捨て、復讐を選んだ私の逆襲がここから始まる。
彼の結婚式、秘められた彼女の墓 の小説カバー
9.8
黒崎蓮が所有する豪華なペントハウスは、私にとって金色の鳥籠であり、逃げ場のない牢獄だった。母の無念を晴らすという目的を胸に秘め、私は静かに復讐の機会をうかがっていた。しかし、蓮が腹心の橘沙良を連れ帰り、私を嘲笑うかのように「奉仕料」として現金を投げつける屈辱の日々に、心は削られていく。彼は私を金に目がくらんで自分を捨てた女だと誤解していた。私が全財産を投じて彼の窮地を救い、匿名で骨髄を提供して命を繋ぎ、雪山で遭難した彼を命懸けで助けた真実など露ほども知らない。沙良の巧妙な嘘によって、私の献身はすべて彼を断罪するための武器へと変えられてしまったのだ。憎しみに盲目となった蓮の残酷な仕打ちに耐え続けてきたのは、目に見えぬ敵から彼を守るためだった。だが、限界を迎えた私は、彼を真の自由へと導く最後の手段として自らの死を偽装し、美咲という存在を消し去る決断を下す。偽りの死がもたらす自由にはあまりにも残酷な代償が伴い、嘘に操られた蓮の前には、かつてないほど険しく危険な道が待ち受けていた。
間違えて嫁いだら、社長の愛しさが止まらない の小説カバー
8.5
意地悪な妹が仕掛けた罠によって、謎の男性を救うことになった佐藤夏希。しかし翌日、彼女を待っていたのは、妹の身代わりとして「無能」と蔑まれる男のもとへ嫁げという理不尽な強要だった。恐ろしい形相をしていると噂される結婚相手だったが、目の前に現れたのは、類まれなる美貌を持つあの時の男性だった。高貴な身分を隠し持つ彼は、千億もの莫大な資産を譲渡することを条件に、百日後の離婚を夏希に提案する。やがて約束の日が訪れ、夏希が身を引こうとしたその時、夫である翼は初めて彼女を深く愛している自分に気づく。夏希を失いたくない翼は、どこまでも彼女を追い、壁際に追い詰めると「俺の子供を宿していながら、まだ逃げるつもりか」と切実に訴えかける。離婚は容易くとも、一度離れた心を取り戻すのは命がけの試練。愛に飢えた社長が、最愛の妻を再び手に入れるために執念で追いすがる、波乱に満ちた溺愛劇がいま幕を開ける。
嘘で捨てた愛、消える記憶 の小説カバー
9.1
彼の輝かしい成功は、かつて私が彼を突き放した絶望から始まった。貧しさを理由に別れを告げたのは、彼を守るための嘘だった。しかし、若年性アルツハイマーに侵された私は、記憶を失う前にお腹の子と母の形見を託そうと、再び彼の前に現れる。再会した彼は冷徹な権力者へと変貌しており、私を金目当ての裏切り者と蔑んだ。彼の婚約者である美穂からも執拗な虐待を受け、大切な形見を壊されただけでなく、彼女の残酷な嘘と暴力によって私はかけがえのない我が子まで失ってしまう。私が彼のために借金を背負い、身を削って働いた代償がこの病だとも知らず、彼は憎しみの眼差しを向け続けた。やがて、私の記憶が完全に消え去る運命の日が訪れる。真実を知り、罪悪感に打ちひしがれて泣き崩れる彼を前に、私は何もわからぬ無垢な瞳で「あなたはどなたですか?」と問いかけた。すべての愛憎を忘却の彼方へと流し、私は静かな海辺の療養所へと旅立っていく。皮肉にも、記憶を失うことでようやく私は彼という呪縛から解き放たれたのだった。