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初恋相手を選んだ夫に、この双子の存在は絶対に教えません の小説カバー

初恋相手を選んだ夫に、この双子の存在は絶対に教えません

望月結衣は大塚英志の妻として、彼の意向を最優先に考え献身的に尽くす日々を送っていた。しかし、いつか彼から別れを切り出される日が来ることを、彼女は覚悟していた。その予想はあまりにも早く現実となる。英志が長年想い続けてきた初恋の女性・坂本真綾が帰国した途端、彼は待っていたと言わんばかりに離婚届を突きつけたのだ。絶望に打ちひしがれた結衣は、静かに彼の前から姿を消した。それから四年後。結衣は愛らしい男女の双子を連れて、かつての街へと戻ってくる。元夫に見つからぬよう細心の注意を払って生活していたが、運命の悪戯か、二人は再び再会を果たしてしまう。血走った瞳で彼女を追い詰めた英志は、必死な様子で「俺のもとへ戻ってほしい。その子供たちは、俺の実子として責任を持って育てるから」と懇願するのだった。そんな彼の言葉を聞いた双子たちは、呆れ果てた視線を送る。なぜなら、自分たちの容姿は鏡を見るまでもなく、目の前にいる父親候補と瓜二つだったからだ。初恋相手を選んだ夫に、双子の真実を隠し通そうとする結衣の物語が幕を開ける。
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汐見市・宵ノ宮会館。VIP個室の中には、整った顔立ちの男たちが五人、座っていた。その中央で、一際目を引く美貌の男が、苦しげに眉をひそめ、深くうつむいている。どうやら酔いつぶれてしまったらしい。

「兄貴、どうしちゃったんスか? あんなに飲んじゃって」 一番左に座っていた男、広瀬翼が口を開いた。五人の末っ子である彼は、普段から能天気な性格で、この場の微妙な空気をまるで読めていない。

「坂本紗也が明日、汐見に着くそうだ」 言葉を引き継いだのは、線の細い、どこか陰のある男、坂本原愁。

「よくもまあ、戻ってこれたもんスね」翼が鼻で笑った。「兄貴、まさか未練たらしくて、より戻そうとか思ってるんじゃないッスよね? それじゃあ、お義姉さんはどうなるんスか?」

翼の言葉が終わると、誰も口を開かず、個室は一瞬で静まり返った。

しばらくの沈黙の後、原愁が再び口を開いた。「実はな、この二年、兄貴はずっと紗也のことを忘れられずにいたんだ。そうじゃなきゃ、結婚したことを一度も公表しないなんて、ありえないだろ? それに……」

彼は一拍置き、続けた。「お義姉さんが二年間妊娠しなかったのは、兄貴が彼女に大塚家の跡取りを産ませる気がなかったからだ」

「ガシャーン――!」

原愁の言葉が終わるか終わらないかのうちに、個室のドアの外から大きな物音が響いた。続いて、ウェイターの謝罪する声が聞こえた。「申し訳ございません、お客様! 大丈夫ですか?お着替えになられますか?お洋服が濡れてしまわれて……」

「あっ、お客様!お客様!」

声は遠ざかっていく。個室内の間接照明が、虚ろに明滅を繰り返した。やがて、翼が仕方なさそうにため息をついた。

「お義姉さん、いい人なんだけどなあ。兄貴も、紗也みたいな女にどうしてそこまでこだわるんスかね」

「まあいい。兄貴のことだ。本人に任せよう。俺たちがとやかく言うことじゃない。俺はもう行く。明日、出張があるんだ」

そう言って立ち上がったのは、三浦和哉だった。

「俺たちも先に出るわ。兄貴はお前に任せた」 坂本原愁と村上勝也が同時にそう言い残すと、あっという間に個室には翼と、酔いつぶれて意識のない男だけが残された。

……

望月結衣は、宵ノ宮会館からほとんど逃げ出すようにして飛び出した。

足元はふらつき、何度もよろめきながら、それでも必死に走った。

十分に距離を取ったところで、ようやく足を止める。乾ききっていない酒の染みも気にせず、道端の階段にへたり込むと、その場で嘔吐した。

「うっ……、うぅ……!」

しばらく空嘔きが続き、胃のむかつきがようやく収まるまで、しばらくかかった。

結衣は妊娠している。今朝、病院で結果を受け取ったばかりだった。

喜び勇んで、子供の父親である大塚英志にこのことを伝えようと彼を訪ね、そして、ついさっきの一部始終を聞いてしまったのだ。

吐き終えると、結衣は階段に座り込んだまま、無意識に自分の腹に手を当てた。この中に、小さな命が宿っている。まだ、それは信じられないような不思議な感覚だった。

最近ずっと食欲がなく、吐き気をもよおしていた。胃を悪くしたのだと思い、病院で検査を受けたところ、まさかの妊娠が判明したのだ。

検査結果の用紙は今もバッグの中にあるが、結衣には英志に見せる勇気がなかった。

なぜなら、英志が自分に子供を産ませたくないことを知っていたからだ。

二年前、祖父の治療のため汐見市を訪れた結衣は、大塚家の大塚明夫に出会った。二人の老人はかつての戦友であることを互いに認め合い、祖父は明夫の命の恩人でもあったため、その場は感動の再会に包まれた。

その頃、祖父の病状はすでに重く、結衣を明夫に託してこの世を去った。

戦友への想いと恩義から、明夫は結衣に英志との結婚を勧めた。結衣は、英志が幼い頃に密かに恋心を抱いていた少年だと気づき、一も二もなくその申し出を受けた。

だが後に、自分の想いとは裏腹に、英志には自分と結婚する意思など全くなかったことを知らされる。

結婚の夜、英志は一枚の契約書を差し出し、こう言った。「じいさんが死ぬ気で迫ってきてな。俺としても、あの老人の心を傷つけるわけにはいかない。大塚の妻の座はくれてやるが、それ以上は望むな。二年後にお前と離婚する」

契約書には、婚姻期間は二年間、子供はもうけないこと、離婚後、住んでいた別荘は結衣のものとし、さらに10億円を支払うことが明記されていた。

その瞬間、結衣は悟った。すべては、自分が一方的に思い込んでいただけなのだと。

結婚後、二人は明夫が用意した別荘で暮らし始めた。英志は他人に干渉されることを嫌ったため、家事はすべて結衣が担った。 彼女は仕事を持たず、ほぼ毎日、別荘で英志の帰りを待つだけの生活を送った。二人はごく普通の夫婦生活を営んだが、その度に、英志は必ず結衣に薬を飲ませた。

この子の存在は、きっと何かを変えてくれると、彼女は信じていた。

さっきまで、こうして個室の外で聞こえてきた会話を耳にするまでは。

(坂本紗也……)

英志が心の奥に秘め続けてきた女が、もうすぐ戻ってくる。そして、自分と彼との契約期間も、間もなく終わる。

(この子は、私だけの子供だ)

「ピロン――」

物思いにふける結衣のスマートフォンが、着信を告げた。

開いてみると、翼からのメッセージだった。

『お義姉さん、兄貴が酔いつぶれちゃったんで、迎えに来てもらえませんか』

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