フォローする
共有
インターン枠を奪われて、母は修羅と化す の小説カバー

インターン枠を奪われて、母は修羅と化す

国家機密に関わる極秘任務を完遂した直後、私の元に娘から歓喜の報告が届いた。一年間の努力が実り、念願だった国連事務局のインターンに合格したというのだ。準備に勤しむ娘の姿を誇らしく思っていた矢先、事態は急転する。娘のGPSが校内で途絶えたことに胸騒ぎを覚え駆けつけると、そこには屈辱的な光景が広がっていた。娘は壁際に繋がれ、一人の少女から「身の程知らず」と嘲笑されていたのだ。傍らの教員も、少女の親が国内屈指の富豪と国家級の専門家であることを理由に、娘のポストを奪うことを当然のように肯定していた。しかし、その少女が誇示する両親の肩書きを聞いた瞬間、私は激しい違和感に襲われる。全国一の富豪と国家級の専門家——それは他ならぬ、私と私の婿養子の夫のことではないか。娘の未来を無残に踏みにじった者が、まさか身内の隠し子だというのか。私は怒りを抑え、真実を確かめるべく夫へと電話をかけた。愛する娘の尊厳と、必死に掴み取った夢を取り戻すため、修羅と化した母の反撃が今ここから始まる。
共有

1

国家機密レベルの任務を終えた直後、一本の電話がかかってきた。

「お母さん!一年間準備してきた世界連盟事務局のインターン、ついに受かったの!」

娘の声は、弾むような歓喜に震えていた。

そのままビザの準備に取りかかり、「何を持っていけばいい?」と立て続けに3つも音声メッセージが届く。

だが――一週間後。娘のGPS腕時計の座標は、学校の管理棟3階から一向に動かない。

嫌な胸騒ぎがして、秘密裏に帰国して学校を訪ねたとき、目に飛び込んできたのは――壁の隅に、まるで犬のように繋がれた娘の姿だった。

その傍らで、嘲りに口元を歪めた少女が言い放つ。

「貧乏人のくせに、うちのパパからもらった世界連盟の職を騙るなんて―― 死にたいの?」

それに追従するように、担当の教員までが卑屈にうなずいた。

「蘇原いおりさんのお父様はこの国で一番の資産家で、お母様は国家級の専門家。このポジションは彼女以外あり得ませんよ」

眉間に、ぴくりと皺が寄る。

世界連盟の事務局職――

それは、娘が全身全霊をかけて勝ち取ったものではなかったか?

“この国で一番の資産家”と“国家級の専門家”。

それは、どう考えても私と、あの「ヒモ夫」のことだろう。

私は迷いなく、ある番号に電話をかけた。

「……外に“娘”がいるって聞いたんだけど?」

...............

「仕事でちょっと疲れてるんじゃない?」

「君と歓を大事にするだけで精一杯だよ。ほかの誰かを気にかける余裕なんて、あるわけないだろ」

雪村思遠のいつもと変わらぬ優しい声に、胸の奥の小さな疑念は、あっという間に霧のように消えていった。

雪村思遠は、業界でも評判の“理想の夫”。この十年間、私と娘への愛情は一度も揺らいだことがない。

女友達との集まりでは、決まって誰かが茶化すように聞いてくる。「どうやって夫をそんなに手懐けてるの?」と。

けれど、秘訣なんてない。

私たちは、いわゆる学生結婚組。大学に入ってすぐに出会い、恋に落ちた。

あの頃、私は資産家の娘であることを隠していた。彼は、バイトでどうにか食いつなぐ苦学生だった。

それでも彼は、毎朝欠かさず、街で一番高い胃にやさしい朝ごはんを買ってきてくれた。

真冬の凍える朝には、周りの目も気にせず、頑なに教室の一番暖かい席を取ってくれていた。

結婚後、私は会社の経営をすべて彼に任せたが、彼は私と娘に対して少しも手を抜くことなく、むしろいっそう丁寧に接してくれた。

電話口の彼は、相変わらず体調を気遣う言葉をかけ続けていた。

けれど、私は慌ただしく通話を切った。

傍らで蘇原いおりが皮肉たっぷりにあざ笑っていたが、そんな言葉に構っている暇などない。

娘の首に巻かれた荒い麻縄が、肌を裂き、血が滲んでいたのを見たからだ。

「歓!」

正気を失ったように飛びかかり、必死で縄を剥がそうと指をかけた。

だが、あまりにきつく縛られていて、爪が食い込んでも血の皮一枚を剥がすのがやっとだった。

麻縄の繊維で爪が折れ、赤い血が指先からぽたぽたとこぼれ落ち、蒼白な歓の顔に滴った。彼女はほとんど息も絶え絶えな声で「ママ……」と呼んだ。

胸の奥がえぐられるように痛んだ。

私は咄嗟に口を開け、その縄を噛み切ろうとした。

「ははは、早く撮って!」蘇原いおりが甲高く笑った。「見て見て!このおばさん、犬みたいに縄を噛んでるわ!」

彼女は私の背後に目配せした。

すると、順番待ちをしていた生徒や保護者たちが一斉にスマホを構え、撮影や配信を始めた。

「この人、全国一の富豪と書記長の娘なんだってさ!空気読んでさっさと譲りなよ!」

「蘇原さんは天下の千金様よ?」担当の教員までスマホを構えながら近づいてきた。「貧乏人のくせに、秘書課の枠を横取りしようなんて図々しいにもほどがあるわ」

蘇原いおりはまた大げさに笑い出した。「見た目はまともぶってても、やっぱり中身はあの娘と同じ下品な犬!親子そろって縄かじりだなんて! これ、ネットに上げたら絶対バズるわ!」

私は聞く耳を持たなかった。

歯を強く食いしばって麻縄に噛みつく。

縄の棘が歯茎に刺さるのも構わず噛み続け、口中が鉄錆の味で満たされた頃、ようやく縄が切れた。

だが、娘を抱き上げる前に――

腐った鶏の骨が娘の顔を直撃した。

「犬って骨が大好きでしょ?」蘇原いおりが腹を抱えて笑い転げる。

もう限界だった。私は反射的に手を振り上げ、彼女の頬を思いきり叩いた。

「パシッ!」

鼻梁が折れる音がして、噴き出した血がスマホのレンズに飛び散った。

「な、何すんのよっ!?」蘇原いおりは信じられないといった顔で腫れた頬を押さえた。

その直後、甲高い悲鳴が上がり、教員も慌てて動いた。

ティッシュを引っ掴み、蘇原いおりの鼻血を拭きながら怒鳴りつける。

「江島歓の母親、あんた正気!? 自分が何したかわかってんの!?」

私は娘をしっかりと抱きしめながら、片手で上層部に電話をかけた。

「張嶋先生、娘が怪我をしました。季村博士に、チームを率いて来てもらえますか」

受話器の向こうでは重い声が返ってきた。

「了解した。すぐに彼を向かわせる」

おすすめの作品

離婚届と黒いグローブ の小説カバー
9.3
結婚七周年を迎えた記念すべき日、子作りに対する価値観の相違から陸原湊と激しい口論になり、二人の仲に亀裂が入った。その直後、彼の幼なじみがSNSに投稿した写真には、サーキットで親密に微笑み合う湊と彼女の姿があった。周囲も二人を公認のカップルのように扱う。この七年間、危険だからという理由で一度もレース場に招かれなかった自分とは対照的に、彼の傍らには常に彼女がいたのだ。かつては優しかった湊の言葉も、今では義務的な拒絶にしか聞こえない。彼が本当に大切に想っていたのは私ではなく彼女だったのだと悟り、私は結婚指輪を外して湊に離婚を突きつけた。悲しみに暮れる暇はない。私は長年封印していたガラスケースの中の黒いグローブを再び手に取る。時速三百キロの世界を危険だと決めつけ、私を遠ざけた彼への答えは、ハンドルを握るこの手で証明する。愛を捨て去った元妻が、かつての情熱を取り戻して再起する物語。
偽りの寵妾、真の目的は命 の小説カバー
7.9
幼い頃から実の姉妹のように育ったお嬢様と私。名家のお嬢様には科挙を首席で突破した状元の婚約者が決まり、誰もがその幸福を信じて疑わなかった。しかし、婚礼前夜に一族を襲った突然の悲劇がすべてを奪い去る。滅門の危機を逃れ、婚約者を頼りに雨の中を彷徨う二人だったが、お嬢様は何者かに拉致され、最後は誰にも看取られることなく枯れ井戸に身を投げるという無念の最期を遂げた。生き残った私は、かつてお嬢様の夫になるはずだった男の「寵妾」として迎え入れられる。やがて彼の唯一の血を引く子を身ごもり、皇族の姫からは激しい嫉妬の矛先を向けられ、男からは掌中の珠のように深く愛される日々。しかし、その甘美な生活の裏側にある真実を、まだ誰も知らない。私の正体は、慈しみ育ててくれた家族と、尊厳を奪われたお嬢様の無念を晴らすために現れた復讐の鬼なのだ。愛に溺れる男の命を奪い、一族を滅ぼした者たちへ報復を果たすため、私は偽りの寵愛を受け入れながら、静かに刃を研ぎ澄ませていく。
神様曰く、運命なので の小説カバー
9.6
最愛の婚約者から非情な婚約破棄を言い渡された公爵令嬢レイチェル。絶望の淵で「ヒロインになりたい」と叫んだ彼女に対し、可憐なヒロイン・ステラは嘲笑と共に残酷な真実を告げる。「この世界はゲームに過ぎない」のだと。その後、無実の罪を着せられ投獄されたレイチェルは、突如発生した大地震によって命を落としたはずだった。しかし、次に目が覚めた時、彼女の視界に飛び込んできたのは一年前に見覚えのある懐かしい光景だった。死の淵から過去へと回帰したレイチェルは、自身を待ち受ける過酷な運命の正体とステラの真の目的を突き止めるため、再び彼女のもとへと向かう。自らに課せられた「悪役令嬢」という役割を打ち破り、望んだ幸せを掴み取ることはできるのか。これは、定められた運命に抗い、大切な存在や自らの居場所を守り抜くために戦う二人の少女の物語。華やかな貴族社会の裏側で、己の存在意義を懸けた激しいバトルが幕を開ける。少女たちの執念が交錯するローファンタジー、ここに開幕。
彼女の復讐、彼の破滅 の小説カバー
8.6
息子の死は薬物過剰摂取による自殺と断定された。だが鑑識官である私は、自ら検分した遺体が発する「殺人の証拠」を見逃さなかった。真実を求めて七度の再審を請求したが、検事正の榊宗一郎はそのすべてを棄却。二十年尽くした組織は、権力で殺人を隠蔽したのだ。司法に裏切られた私は、法を捨て復讐者となる道を選んだ。榊の娘・麗を拉致し、凄惨な拷問の様子を世界へ配信。かつての恩師や息子の恋人・亜希が説得に現れ、息子の鬱病や遺書を盾に私の正気を疑わせようとする。一時は自責の念に駆られたが、私は遺書に隠された秘密の暗号に気づく。それは幼い頃に愛読した絵本を用いた、息子からの必死の救助信号だった。彼が最後まで抗っていたことを知り、私の迷いは氷解する。神奈川県警の特殊部隊が包囲し、突入の瞬間が迫る中、私は偽りの遺書を拒絶した。息子の叫びを握りつぶした者たちへの怒りを胸に、私は再び麗の肌に鑑識道具を突き立てる。この残酷な儀式は、正義が死んだ世界への、母親としての最期の宣戦布告だった。
玉座についたヒーロー の小説カバー
8.5
遺伝子研究の分野で比類なき才能を発揮し、若くして業界の頂点に君臨していたバイ・ロッキー。しかし、学会へ向かう途中の航空機事故が彼の運命を暗転させる。死の淵を越えた彼が目覚めたのは、未知なる異世界だった。第二の生を得たロッキーは、窮地に陥っていた一頭のドラゴンを救い出し、神龍帝国を舞台に過酷な修行の日々に身を投じていく。驚くべきことに、彼が絆を結んだドラゴンには、あらゆる病を癒やし、死者にさえ命を吹き込むという伝説的な力が秘められていた。かつての科学者は、この地で無力な人間であることをやめ、野心に満ちた武術の達人、そして精霊を操るスピリット・マニピュレーターとしての道を歩み始める。比類なき相棒となったドラゴンと共に、ロッキーは新たな世界の理を切り拓き、壮大な冒険の旅へと踏み出す。己の野望を胸に、かつての知識と新たな力を融合させた彼が、異世界の歴史にその名を刻んでいく物語がいま幕を開ける。彼らが辿る波乱に満ちた軌跡と、その先に待ち受ける真実をその目で見届けよ。
妻の激怒、王朝は灰燼と化す の小説カバー
9.1
最愛の息子の命日、鎮魂のために訪れた神聖な山荘で私が目にしたのは、身重の愛人を慈しむ夫の姿だった。裏切りに打ち震える私に、夫は冷酷にも彼らの結婚披露宴への招待状を突きつける。さらに、送られてきた音声データには信じがたい事実が記録されていた。彼は、息子の死という悲劇に見舞われた私を「穢れた存在」と蔑み、自分の血筋に「純粋な」跡継ぎを迎え入れるため、私に無断で不妊手術を施していたのだ。愛した男の目的は、私を犠牲にして新たな一族の王朝を築くことだった。あまりにも身勝手で残虐な仕打ちに、私の心に宿っていた愛情は激しい復讐の炎へと変わる。すべてを奪われ、踏みにじられた妻としての尊厳を取り戻すため、私は決意を固める。彼らが幸福の絶頂に酔いしれる結婚式の当日、私はその場に乗り込み、彼が築き上げようとしている野望のすべてを灰燼に帰すことを。愛と憎しみが交錯する中、絶望の淵から立ち上がった一人の女性による、命懸けの報復劇がいま幕を開ける。