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灰燼からの再起 の小説カバー

灰燼からの再起

幼馴染で婚約者の橘尚哉を心から愛していた。二人の結婚は巨大な財閥同士が手を組む完璧な象徴となるはずだった。しかし、前世の最期に見たのは残酷な裏切りだった。燃え盛るアトリエの中、熱風に焼かれながら助けを求める私を、尚哉は義妹の由梨亜と共に冷たく見捨てたのだ。由梨亜の偽りの制止を聞き入れ、憐れみの視線を一度だけ向けた後、彼は炎の中に私を置き去りにして去って行った。かつて守ると誓ってくれたはずの男にとって、私の献身的な愛は、義妹と結ばれるための道具に過ぎなかったのだ。絶望の中で命を落としたはずが、目覚めるとそこは過去の自室だった。運命が巻き戻り、家族の役員会議を控えた一時間前に戻った私は、今度こそ自分の人生を取り戻すことを決意する。会議室に現れた私は、動揺する周囲を余所に真っ直ぐ上座へと向かい、かつての愛の象徴であった尚哉との婚約を破棄すると宣言した。灰の中から再起した令嬢による、復讐と再生の物語が幕を開ける。
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2

「冷却期間」は、その名とは程遠いものだった。

それは、包囲戦だった。

詩織は自室に閉じこもったが、尚哉は執拗だった。

彼は何時間もドアの外に陣取り、低い声で懇願し続けた。

「詩織、お願いだ。話をしてくれ」

彼は贈り物を送り続けた。

詩織が一番好きな花、百合の花束。

もう食べる気にもなれない高級チョコレートの箱。

彼女が愛読していた詩集の初版本。

どの贈り物も、慎重に選ばれた思い出であり、彼女の決意を鈍らせるために設計された武器だった。

三日目、彼はドアの下からメモを滑り込ませた。

『君が怒っているのはわかっている。怒る権利は君にある。でも由梨亜は…彼女は脆いんだ。幼い頃に母親を亡くして、君のお父さんはいつも忙しかった。僕が面倒を見てあげなきゃって、ただそう思っただけなんだ。妹みたいなものだよ。それだけだ。誓って』

詩織はそのメモを読み、胃の中に冷たい嫌悪感の塊ができた。

脆い由梨亜。

詩織のアトリEが燃えるのを見て微笑んでいた、あの少女。

『十歳の時を覚えているかい?』

別のメモにはこう書かれていた。

『君が裏庭の大きな樫の木から落ちて腕を骨折した時、僕が家までずっと君を運んだ。あの時、僕は君に言ったよね。いつだって君を守るって』

ええ、覚えている。

それは美しい思い出で、彼女が大切にしてきたものだった。

彼の小さく、しかし決意に満ちた腕が自分を包み込む感覚。

何があっても君を傷つけさせないと約束してくれた時の、泥と涙で汚れた彼の顔。

その記憶は本物だった。

その約束をした少年も、本物だった。

でも、彼はもういない。

彼は、自分が死ぬのを見ているだけだった男に取って代わられた。

自分の命よりも、不倫相手を選んだ男に。

過去は美しく、毒された井戸だ。

今それを飲めば、再び死ぬだけだ。

彼女は、彼が知らないことを知っていた。

前の人生で、火事からわずか数週間後、由梨亜は妊娠を発表した。

子供の父親は、尚哉だった。

あの「脆い」義妹は、尚哉がまだ詩織と婚約している間に、彼の跡継ぎを身ごもっていたのだ。

そのことを考えると、彼女は拳を握りしめた。

その時間軸は、彼女の脳に焼き付いている。

由梨亜は、今、妊娠している。

「詩織、愛している」

ドア越しに、感情のこもった彼の声が聞こえた。

「誓って言う、僕にはずっと君だけだった。これからもずっと君だけだ。これからの人生をかけて、君に償うよ」

彼の言葉は、空虚な響きだった。

彼女はついにドアを勢いよく開けた。

尚哉がそこに立っていた。

そのハンサムな顔には、疲労と希望が刻まれている。

彼は一本の、完璧な白い薔薇を手にしていた。

純潔の象徴。その皮肉に息が詰まる。

彼女は薔薇を受け取らなかった。

代わりに、彼の襟元に目をやった。

「彼女と一緒にいたのね」

彼女は平坦な声で言った。

彼は戸惑った顔をした。

「え?いや、ずっとここにいたよ」

「彼女の匂いがする」

詩織は一歩近づきながら言った。

その必要もなかった。由梨亜のジャスミンの香水が、むせ返るように彼から香っていた。

「それに、襟に口紅がついているわ。彼女の色。『ローズペタルピンク』」

尚哉の手が首元に飛んだ。

彼は淡いピンクの染みをこすり、罪悪感とパニックで顔を赤らめた。

「これは…彼女が動揺していたから、なだめていただけだ…」

詩織はただ彼を見つめていた。

その沈黙は、どんな非難よりも雄弁だった。

その後数日間、贈り物はさらに豪華になった。

ダイヤモンドのブレスレット。新車。パリ行きのチケット。

詩織はそれらすべてに手をつけず、部屋の外の廊下に放置した。

彼の必死で不器用な買収工作の、記念碑のように。

ついに、彼女は彼を部屋に入れた。

彼は安堵したように見え、希望に満ちた笑みが唇に浮かんだ。

彼女はベッドの端に腰掛け、膝の上で手を組んだ。

「残りの人生をかけて償うと言ったわね」

「ああ」

彼は熱心に言い、彼女に一歩近づいた。

「何でもするよ、詩織。何でも」

「何でも?」

彼女は繰り返した。その声は柔らかいが、鋼のような強さを秘めていた。

「誓うよ」

彼女は彼の目をまっすぐに見つめた。

「いいわ。婚約を続けることを考えてあげる。一つだけ、条件がある」

彼は安堵で力が抜けそうになった。

「言ってくれ。何でも君のものだ」

「由梨亜を追い出してほしいの」

彼女は言った。

彼の笑みが消えた。

「何だって?」

「彼女を追い出して」

詩織の声は硬くなった。

「別の国へ。彼女に消えてほしいの。二度と彼女の顔を見たくないし、名前も聞きたくない。彼女との連絡を一切断って。電話番号もブロックして。あなたの人生から、完全に消し去って」

尚哉は彼女を見つめ、その表情は苦悩に変わった。

「詩織、そんなことはできない。彼女は…彼女には誰もいないんだ。とても繊細なんだ。どこへ行けっていうんだ?」

詩織は立ち上がった。

「そう。あなたの『何でも』には、限界があるのね」

彼女はドアに向かって歩いた。

「なら、もう話すことはないわ」

「待って!」

彼はパニックに駆られて彼女の腕を掴んだ。

「わかった!わかったよ、そうする」

彼は彼女の瞳を覗き込んだ。その目は大きく、真剣だった。

「彼女を遠くへやる。約束する。詩織、命にかけて誓うよ。彼女を追い出す。君のために」

彼は彼女を腕に引き寄せたが、彼女は硬く、冷たいままだった。

彼女は彼を信じていなかった。一瞬たりとも。

だが、必要な約束は手に入れた。

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