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灰燼からの再起 の小説カバー

灰燼からの再起

幼馴染で婚約者の橘尚哉を心から愛していた。二人の結婚は巨大な財閥同士が手を組む完璧な象徴となるはずだった。しかし、前世の最期に見たのは残酷な裏切りだった。燃え盛るアトリエの中、熱風に焼かれながら助けを求める私を、尚哉は義妹の由梨亜と共に冷たく見捨てたのだ。由梨亜の偽りの制止を聞き入れ、憐れみの視線を一度だけ向けた後、彼は炎の中に私を置き去りにして去って行った。かつて守ると誓ってくれたはずの男にとって、私の献身的な愛は、義妹と結ばれるための道具に過ぎなかったのだ。絶望の中で命を落としたはずが、目覚めるとそこは過去の自室だった。運命が巻き戻り、家族の役員会議を控えた一時間前に戻った私は、今度こそ自分の人生を取り戻すことを決意する。会議室に現れた私は、動揺する周囲を余所に真っ直ぐ上座へと向かい、かつての愛の象徴であった尚哉との婚約を破棄すると宣言した。灰の中から再起した令嬢による、復讐と再生の物語が幕を開ける。
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3

尚哉は、ほとんど哀れに思えるほど必死の熱意で、彼女の条件に同意した。

「やるよ、詩織。彼女が海外で勉強できるように手配する。新しい人生、新しいスタートだ。月末までにはいなくなる」

彼は真剣な声で約束した。

それから一週間、彼は完璧で、悔い改めた婚約者を演じた。

ベッドに朝食を運び、海岸沿いを静かにドライブし、彼女がスケッチをする間、アトリエで静かに座っていた。決して急かさず、何も要求しなかった。

外の世界からは、和解したように見えた。

父は安堵し、義母は尚哉の献身を褒めそやした。

「ほらね?」

彼女は得意げな笑みを浮かべて詩織に言った。

「彼はあなたを愛しているのよ。すべて、ただの馬鹿げた誤解だったの」

詩織はそんなことはないと知っていた。

彼女は彼を観察した。心は胸の中で冷たく、静かな石のようだった。

彼の目が数分おきにスマートフォンにちらつくのを見た。

彼が持ってくる贈り物――由梨亜が好きな青色のシルクスカーフ、由梨亜がいつも話題にしていた作家の小説。

彼は詩織を喜ばせようとして、ライバルを喜ばせるものを選んでいた。

なんて愚かな男だろう。

その茶番は、火曜日の午後に終わった。

詩織がアトリエで筆を洗っていると、ドアが激しく開かれた。

尚哉がそこに立っていた。その顔は雷雲のような怒りに満ちている。

彼は荒い息をし、胸を大きく上下させていた。

「何をした?」

彼は唸りながら、彼女に向かって歩み寄った。

詩織は落ち着いて筆をテレピン油の瓶に入れた。

「何のことか、さっぱりわからないわ」

「嘘をつくな!」

彼は広々とした空間に響き渡る声で怒鳴った。

「由梨亜だ!彼女に何を言ったんだ?」

彼は彼女の肩を掴み、その指が肌に食い込んだ。

「彼女は病院にいるんだ、詩織!自殺しようとしたんだ!薬を一本飲んだんだぞ!」

その言葉が二人の間に漂った。

由梨亜が自殺を図った。

いつもの、使い古された、人を操るための手口。

詩織は何も感じなかった。

衝撃も、同情も。

ただ、深く、疲れた虚無感だけがあった。

「彼女は死にかけているんだ、詩織」

尚哉の声はひび割れ、怒りは生々しく、打ちのめされたような響きに変わった。

「そして、それはお前のせいだ。お前とその悪意に満ちた、残酷な要求のせいだ。お前が彼女を追い詰めたんだ」

詩織は彼を見上げた。かつて愛した男の顔が、別の女への悲しみで歪んでいる。

「そうかしら?」

彼の瞳は、こらえきれない涙で、憎しみに燃えていた。

「どうしてそんなに冷酷でいられるんだ?彼女はお前の妹だろう!心がないのか?お前は人間なのか?」

彼は、自分を焼き殺そうとした張本人でありながら、彼女を無情だと非難していた。

その偽善には息を呑む。

「それで、どうするつもり?」

詩織は、どこか他人事のような、冷めた囁き声で尋ねた。

「私を罰するの?」

「罰する?」

彼は、耳障りで醜い音を立てて笑った。

「そんなものじゃ足りない。お前は償うんだ。彼女のところへ行き、跪いて、許しを請うんだ」

彼はまだ終わらなかった。

彼の握る力は強まり、顔が彼女の数センチ先にあった。

「そして、お前は一生、毎日、許しを請い続けるんだ。お前は彼女の召使いになる。彼女が頼むことは何でもする。それが、彼女の痛みに対する代償だ」

鋭く、予期せぬ痛みが詩織の胸を貫いた。

それは幻の痛み、かつて感じた愛の亡霊だった。

なぜ?すべてを知った後で、なぜ彼の言葉はまだ私を傷つける力を持っているの?

私は死んだ。生まれ変わった。この痛みは、焼き尽くされているはずなのに。

めまいがして、視界の端がぼやけていく。

自分を弁護する言葉が見つからない。

何の意味がある?どうせ彼は信じない。

「あなたは、彼女をそこまで信じているの?」

彼女はなんとか囁いた。その言葉は灰のような味がした。

「彼女が言うことすべてを信じるの?」

「ああ」

彼は一瞬の躊躇もなく、絶対的な確信に満ちた声で言った。

「由梨亜は純粋だ。無垢だ。彼女は決して嘘をつかない。お前とは違う」

彼はその時、我に返ったようだった。

一瞬、何か――おそらくは自身の残酷さへの気づき――が彼の目に閃いた。

彼は少しだけ握る力を緩めた。

「詩織、僕は…」

だが、もう遅かった。

苦く、壊れた笑いが詩織の胸から込み上げてきた。

それは震えから始まり、やがて涙に濡れた、本格的な高笑いへと変わっていった。

その音は荒々しく、常軌を逸していた。

それは、心が二度目、そして最後に壊れる音だった。

部屋が回り始めた。

壁にかかった絵画の色が、意味のない渦となってぼやけていく。

最後に彼女が見たのは、怒りが突然の、そして徐々に広がるパニックに変わった尚哉の顔だった。

そして、世界は暗転した。

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