
灰燼からの再起
章 3
尚哉は、ほとんど哀れに思えるほど必死の熱意で、彼女の条件に同意した。
「やるよ、詩織。彼女が海外で勉強できるように手配する。新しい人生、新しいスタートだ。月末までにはいなくなる」
彼は真剣な声で約束した。
それから一週間、彼は完璧で、悔い改めた婚約者を演じた。
ベッドに朝食を運び、海岸沿いを静かにドライブし、彼女がスケッチをする間、アトリエで静かに座っていた。決して急かさず、何も要求しなかった。
外の世界からは、和解したように見えた。
父は安堵し、義母は尚哉の献身を褒めそやした。
「ほらね?」
彼女は得意げな笑みを浮かべて詩織に言った。
「彼はあなたを愛しているのよ。すべて、ただの馬鹿げた誤解だったの」
詩織はそんなことはないと知っていた。
彼女は彼を観察した。心は胸の中で冷たく、静かな石のようだった。
彼の目が数分おきにスマートフォンにちらつくのを見た。
彼が持ってくる贈り物――由梨亜が好きな青色のシルクスカーフ、由梨亜がいつも話題にしていた作家の小説。
彼は詩織を喜ばせようとして、ライバルを喜ばせるものを選んでいた。
なんて愚かな男だろう。
その茶番は、火曜日の午後に終わった。
詩織がアトリエで筆を洗っていると、ドアが激しく開かれた。
尚哉がそこに立っていた。その顔は雷雲のような怒りに満ちている。
彼は荒い息をし、胸を大きく上下させていた。
「何をした?」
彼は唸りながら、彼女に向かって歩み寄った。
詩織は落ち着いて筆をテレピン油の瓶に入れた。
「何のことか、さっぱりわからないわ」
「嘘をつくな!」
彼は広々とした空間に響き渡る声で怒鳴った。
「由梨亜だ!彼女に何を言ったんだ?」
彼は彼女の肩を掴み、その指が肌に食い込んだ。
「彼女は病院にいるんだ、詩織!自殺しようとしたんだ!薬を一本飲んだんだぞ!」
その言葉が二人の間に漂った。
由梨亜が自殺を図った。
いつもの、使い古された、人を操るための手口。
詩織は何も感じなかった。
衝撃も、同情も。
ただ、深く、疲れた虚無感だけがあった。
「彼女は死にかけているんだ、詩織」
尚哉の声はひび割れ、怒りは生々しく、打ちのめされたような響きに変わった。
「そして、それはお前のせいだ。お前とその悪意に満ちた、残酷な要求のせいだ。お前が彼女を追い詰めたんだ」
詩織は彼を見上げた。かつて愛した男の顔が、別の女への悲しみで歪んでいる。
「そうかしら?」
彼の瞳は、こらえきれない涙で、憎しみに燃えていた。
「どうしてそんなに冷酷でいられるんだ?彼女はお前の妹だろう!心がないのか?お前は人間なのか?」
彼は、自分を焼き殺そうとした張本人でありながら、彼女を無情だと非難していた。
その偽善には息を呑む。
「それで、どうするつもり?」
詩織は、どこか他人事のような、冷めた囁き声で尋ねた。
「私を罰するの?」
「罰する?」
彼は、耳障りで醜い音を立てて笑った。
「そんなものじゃ足りない。お前は償うんだ。彼女のところへ行き、跪いて、許しを請うんだ」
彼はまだ終わらなかった。
彼の握る力は強まり、顔が彼女の数センチ先にあった。
「そして、お前は一生、毎日、許しを請い続けるんだ。お前は彼女の召使いになる。彼女が頼むことは何でもする。それが、彼女の痛みに対する代償だ」
鋭く、予期せぬ痛みが詩織の胸を貫いた。
それは幻の痛み、かつて感じた愛の亡霊だった。
なぜ?すべてを知った後で、なぜ彼の言葉はまだ私を傷つける力を持っているの?
私は死んだ。生まれ変わった。この痛みは、焼き尽くされているはずなのに。
めまいがして、視界の端がぼやけていく。
自分を弁護する言葉が見つからない。
何の意味がある?どうせ彼は信じない。
「あなたは、彼女をそこまで信じているの?」
彼女はなんとか囁いた。その言葉は灰のような味がした。
「彼女が言うことすべてを信じるの?」
「ああ」
彼は一瞬の躊躇もなく、絶対的な確信に満ちた声で言った。
「由梨亜は純粋だ。無垢だ。彼女は決して嘘をつかない。お前とは違う」
彼はその時、我に返ったようだった。
一瞬、何か――おそらくは自身の残酷さへの気づき――が彼の目に閃いた。
彼は少しだけ握る力を緩めた。
「詩織、僕は…」
だが、もう遅かった。
苦く、壊れた笑いが詩織の胸から込み上げてきた。
それは震えから始まり、やがて涙に濡れた、本格的な高笑いへと変わっていった。
その音は荒々しく、常軌を逸していた。
それは、心が二度目、そして最後に壊れる音だった。
部屋が回り始めた。
壁にかかった絵画の色が、意味のない渦となってぼやけていく。
最後に彼女が見たのは、怒りが突然の、そして徐々に広がるパニックに変わった尚哉の顔だった。
そして、世界は暗転した。
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