
殺すはずだったあなたに、また恋をした
章 2
私は任務遂行者として、様々な小世界を渡り歩き、そこに巣食う最大の悪役を排除して平和を守ってきた。
そして、この世界での任務対象が、北燕侯・顧景之である。
数多の世界を渡り歩いてきたが、私の心を動かし、この地に留まりたいと思わせたのは顧景之、ただ一人だった。
だが、なんという滑稽さか。私の真心は、無残にも踏みにじられたのだ。
ゆっくりと痛みが薄れていく中、私は完全に息絶えた。
最後に脳内に響いたのは、システムの無機質な声だけだった。
「やり直しの機会を与える。今度こそ、過ちを繰り返すな」
その言葉の意味を理解する間もなく、耳元で誰かが私を呼ぶ声が聞こえ始める。「お嬢様、お嬢様……」 やかましい声に、頭がずきりと痛んだ。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天蓋が視界に入る。
ここは、私がまだ嫁ぐ前に使っていた閨房ではないか。 まさか、戻ってきたというのか。
システムが、私を過去に?
今度こそ、この手で必ず顧景之を殺してやる。
「泠、やっと目が覚めたのね!」
母が嵐のように部屋へ飛び込んできた。
私は丞相府の嫡女として、幼い頃から蝶よ花よと育てられた。対する母は、生粋の女将軍だ。
父のような優男が、一体どうやって母を射止めたのか、今でも不思議でならない。
「今日は灯籠祭りよ。まさか北燕侯から逃げるために、仮病を使っているんじゃないでしょうね」
私は母を見つめ、ひとつ瞬きをした。
灯籠祭り……。 それは、前世の悲劇が始まった、まさに運命の転換点。 システムは私をこの時に戻したのか。
母がそう勘ぐるのも無理はない。本来の私は、そういう奔放な娘だったのだから。
顧景之に三年間虐げられるうちに、その牙をすっかり抜かれてしまったに過ぎない。
「そんなわけないじゃない。もちろん行くわ!」
私は勢いよく寝台から起き上がると、鏡台の前に座った。銅鏡に映る自分の顔を見て、しばし呆然とする。
瑞々しい肌に、鮮やかな紅色の唇。
視線を落とせば、そこにはまだ白く細い指先があった。私は苦々しい笑みを浮かべる。
誰が想像できただろう。前世、父と母が相次いで亡くなった後、後ろ盾を失った私が、後宮で日々虐げられることになるとは。侯爵夫人という身分は名ばかりで、その暮らしは侍女以下だった。
ましてや、世界を渡り歩く任務遂行者であるこの私が、そこまで落ちぶれるとは。
(システム?)
目が覚めてから、以前のあのやかましいシステムの音が聞こえない。不思議に思い、心の中で呼びかけてみた。
しかし、何度問いかけても応答はない。
おそらく休眠状態にでも入ったのだろう。
「この衣装も素敵だし、こっちもいいわね……」
我に返ると、母が独り言ちながら衣装を選んでいた。しかし、どぎつい赤や紫、あるいは深緑と、目に痛いものばかりだ。
私は慌てて駆け寄り、唯一まともに見えた一着を指差した。「あれがいいわ」
淡い黄色の衣装は、私の肌の色によく映える。
そして何より重要なのは、顧景之がこの色を嫌っていたことだ。
前世、あれほど長く夜を共にしたというのに、その理由を知ることはついになかった。
だが今の私にとっては、彼が嫌悪するものすべてが好ましい。
母が何か言う前に、私はさっさと衣装を手に取り、隣の部屋で着替え始めた。小言を聞かずに済むように。
皮肉なものだ。前世では、その小言さえ聞きたくても聞けなくなってしまったというのに。
今度こそ、決して情けなどかけない。
豪華絢爛な馬車に揺られながら、道端の物売りの声に耳を傾ける。私は袖に隠した短剣を握りしめ、心の奥底に渦巻く憎しみを押し殺した。少なくとも、他人に悟られてはならない。
「泠」
聞き慣れた声がして、馬車がゆっくりと停止した。
細く長い指が御簾を上げると、比類なき美貌が私の目の前に現れる。
決して忘れられぬ顔。前世の私は、この顔に惑わされ、一歩また一歩と破滅へと堕ちていったのだ。
私は静かに目を伏せ、眼差しに宿る憎悪を隠すと、彼の手のひらに自分の手を重ね、馬車から軽やかに降り立った。
「今夜は君のために、特別なものを用意したんだ」
北燕侯は私の異変に気づいていないのか、相変わらず優しい声で囁く。
だが、この羊の皮を被った狼こそが、私の両親の一族を乗っ取り、私を裏切った張本人なのだ。
前世、後宮に閉じ込められていた私は、ずっと理解できなかった。結婚前、顧景之との仲はあれほど睦まじかったのに、なぜ彼はあんなにも変わってしまったのか。
来る日も来る日も私を虐げ、かつての面影は微塵もなかった。
死ぬ間際になって、ようやく悟ったのだ。最初から、彼の狙いは私の後ろ盾――一族が持つ権力だったのだと。
「ええ、とても楽しみだわ」
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